2026年4月20~24日(教養講座:『羅生門』を味わう)

~~~ 長谷川塾メルマガ 2026年4月20日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウォッチ(17~19日/コメントも参考にしながら自分の考えをまとめましょう)
◎中国 人型ロボットのハーフマラソン大会 技術力をアピール | NHKニュース →中国のロボット能力はすごい。人間のハーフマラソンの記録(57分20秒)を大幅に上回る50分26秒を記録した。去年は2時間40分だったというから、日進月歩だ。日本と比べてAIやEVでも圧倒的な力で、日中は対立している場合ではないだろう。政治・経済には大局的な判断が必要だ。
◎トランプ大統領「私の代表団がパキスタンへ向かっている」 | NHKニュース →アメリカとイランの再交渉が近くあるのか。核開発・濃縮ウランの取り扱いで対立し、ホルムズ海峡の開放もはっきりしない。トランプ大統領はこん棒外交を展開しているが、イランのメンツを立てる振る舞いも必要ではないか。見通しのない協議がだらだら続くのは世界経済にとって最悪だ。「負けるが勝ち」ともいう。
◎長野県北部で震度5強 地震活動続く 1週間程度は注意 | NHKニュース | 長野県、地震 →18日午後、長野県北部で地震があり、大町市で震度5強、長野市で震度5弱を記録した。この地域では過去に同程度の地震が続発したことがあり、1週間は注意が必要だという。熊本地震から10年で多くのニュースが流れた時期だった。改めて地震列島だと感じる。
◎石油販売会社5社を起訴 軽油カルテル、独禁法違反罪―個人は立件見送り・東京地検:時事ドットコム →公正取引委員会が告発していた石油販売5社の軽油カルテルで、東京地検が起訴した。担当者が24年10~12月、都内の飲食店で販売価格を合意していた。長年続いていたとみているが、今はなくなったのだろうか。イラン情勢を受けた石油製品目詰まりの一因ではないのだろうか。
◎両陛下、「りくりゅう」ねぎらう 木原選手「新たに二人で挑戦」―春の園遊会:時事ドットコム →フィギュアの「りくりゅうペア」が、園遊会出席にあわせて引退を公表した。ねぎらいの言葉をかけられて木原選手は「三浦さんが奮い立たせてくれて、フリーで立ち直ることができました」と振り返り、三浦選手は「私が今度は支える番になろうと決心しました」と述べた。「金」の威力は大きい。
◎40度以上は「酷暑日」 気象庁決定、一般調査でトップ―気象協会が22年から使用:時事ドットコム →気象庁は40度以上を「酷暑日」と呼ぶことを決めた。アンケート調査で1位だった。2位は「超猛暑日」、3位は「極暑日」、4位は「炎暑日」、5位は「烈暑日」だった。「サウナ日」もあったという。気象協会は2022年から使っている。今年の酷暑日は何日あるのだろうか。
*** 「今日の名言」(気に入った言葉を探してみましょう)
◎アルベルト・アインシュタイン(ドイツ生まれの理論物理学者。1955年4月18日死去、76歳)
「失敗したことのない人間は、挑戦をしたことのない人間である」 「成功者になろうとしてはいけない。価値のある男になるべきだ」 「私は賢いのではない。問題と長く付き合っているだけだ」 「常識とは、18歳までに積み重なった、偏見の累積でしかない」 「学校で学んだことを一切忘れてしまった時になお残っているもの、それこそ教育だ」 「自分自身の目で見、自分自身の心で感じる人は、とても少ない」 「一見して馬鹿げていないアイデアは、見込みがない」 「天才とは努力する凡才である」 「何かを学ぶのに、自分自身で経験する以上に良い方法はない」 「6歳の子供に説明できなければ、理解したとは言えない」 「国家が要求しても良心に反することをしてはいけない」 「人の価値は、その人が得たものではなく、その人が与えたもので測られる」 「優れた科学者を生み出すのは知性ではなく、人格である」 「シンプルで控えめな生き方が、体にも、心にも、最善であると信じています」
*** 今週の教養講座(羅生門①)
先々週、筑摩書房の高校国語教科書(精選国語総合 現代文編)から評論文5編を紹介しました。今週は小説を掲載します。芥川龍之介の名作として有名な「羅生門」です。黒澤明の映画にもなっています。読んだり見たりした人は多いと思いますが、忘れている向きも多いでしょう。5日間で全文を掲載します。極限状態に置かれた人間のエゴと強さを描いています。
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ある日の暮れ方の事である。一人の下人(げにん=身分の低い者)が、羅生門の下で雨やみを待っていた。
広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗(にぬり=赤や朱色で塗ること)の剥げた、大きな円柱(まるばしら)に、蟋蟀(きりぎりす)が一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路(すざくおおじ)にある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠(いちめがさ=中央が高いすげ笠)や揉烏帽子(もみえぼし=柔らかく作ったえぼし)が、もう二、三人はありそうなものである。それが、この男のほかには誰もいない。
何故かと云うと、この二、三年、京都には、地震とか辻風(つじかぜ=つむじ風)とか火事とか饑饉(ききん)とか云う災(わざわい)がつづいて起った。そこで洛中(らくちゅう=京都の町中)のさびれ方は一通りではない。旧記によると、仏像や仏具を打砕いて、その丹(に)がついたり、金銀の箔(はく)がついたりした木を、道ばたにつみ重ねて、薪(たきぎ)の料(しろ)に売っていたという事である。洛中がその始末であるから、羅生門の修理などは、もとより誰も捨てて顧みる者がなかった。するとその荒れ果てたのをよい事にして、狐狸(こり=キツネやタヌキ)が棲(す)む。盗人(ぬすびと)が棲む。とうとうしまいには、引取り手のない死人を、この門へ持って来て、棄てて行くという習慣さえ出来た。そこで、日の目が見えなくなると、誰でも気味を悪がって、この門の近所へは足ぶみをしないことになってしまったのである。
その代りまた鴉(からす)がどこからか、たくさん集って来た。昼間見ると、その鴉が何羽となく輪を描いて、高い鴟尾(しび=屋根の巨大な飾り)のまわりを啼(な)きながら、飛びまわっている。ことに門の上の空が、夕焼けであかくなる時には、それが胡麻(ごま)をまいたようにはっきり見えた。鴉は、もちろん、門の上にある死人の肉を、啄(ついば)みに来るのである。――もっとも今日は、刻限(こくげん=決まった時間)が遅いせいか、一羽も見えない。ただ、所々、崩れかかった、そうしてその崩れ目に長い草のはえた石段の上に、鴉の糞(ふん)が、点々と白くこびりついているのが見える。下人は七段ある石段の一番上の段に、洗いざらした紺の襖(あお=公家の平服で、庶民も着るようになった)の尻を据えて、右の頬に出来た、大きな面皰(にきび)を気にしながら、ぼんやり、雨のふるのを眺めていた。
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~~~ 長谷川塾メルマガ 2026年4月21日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウォッチ(20日/コメントも参考にしながら自分の考えをまとめましょう)
◎【地震情報】青森県階上町で震度5強 青森 岩手 宮城で震度5弱 | NHKニュース →20日午後4時52分ごろ、東北・北海道で強い地震があり、津波も到達した。震度は青森県で震度5強、津波は岩手・久慈港で80センチを記録し、津波警報が出た。新幹線など交通網も混乱した。今後1週間は注意が必要という。テレビは夕方から一斉に地震報道に切り替わり、NHKは夜まで続いた。
◎米、貨物船拿捕で圧力 イランは再協議を否定―停戦合意、期限切れ迫る:時事ドットコム →再協議の観測の一方で、米国とイランの関係が悪化している。米国がアラビア海北部でイランの貨物船をだ捕し、イランが反発。停戦の再協議を否定した。21日に再協議の情報も出ている。まとめたいのか、まとめたくないのか。ディールのやりすぎは泥沼化への道だ。イランの思惑通りにならないか。
◎米、北朝鮮情報の提供縮小か 韓国統一相発言を問題視:時事ドットコム →米国の横やりだろうか。「韓国の統一相が北朝鮮第3のウラン濃縮施設の場所を明らかにした」として、情報提供の縮小を表明した。統一相は、米国情報ではなく、「公開情報に基づいている」と反論している。どう考えるべきか。もう少し推移をみたいところ。
◎節電節約呼びかけの必要性“代替調達などの効果注視”官房長官 | NHKニュース →節電の是非とナフサなど石油関連製品の不足が、高市政権の焦点になりつつある。首相は強い経済を強調したいらしく、「節電の必要はない。石油は十分ある。目詰まりしているだけ」という立場だが、節電を求める世論が多く、民間は不足を訴えている。いつもは政府こそ心配性だが、今回は逆の構図だ。
◎19日投開票の主な市長選の結果 自民推薦の現職が敗れた選挙も:朝日新聞 →19日投開票の地方市長選挙で、自民系現職らが軒並み敗れた。埼玉県久喜市、千葉県東金市、滋賀県近江八幡市、福岡県朝倉市、嘉麻市などだ。これまでも東京都清瀬市、練馬区などで同様の傾向がある。地域特有の事情はそれぞれあるが、中央の高市人気と地方の空気は、微妙に違うようだ。
*** 「今日の名言」(気に入った言葉を探してみましょう)
◎フジコ・ヘミング(ピアニスト。2024年4月21日死去、92歳)
「間違えたっていいじゃない。機械じゃないんだから」 「私はミスタッチが多い。直そうとは思わない。批判する方が愚かしい」 「一つ一つの音に色をつけるように弾いている」 「人生は諦めたら終わり。私は苦しみながらも希望を捨てませんでした」 「辛いことがあっても私は負けなかった。いつかはこの状況から抜け出せる日が来ると信じていたから」 「死に物狂いになったら、なんでもできる」 「何も怖いものなどなかった。正直にやっていれば、必ず大丈夫だと思っていた」 「人生が予定通り順調に上手くいくことなんて、絶対にないの。ありえないことよ。そうならないように、頑張るでしょ。だから人生がおもしろくなるんじゃない」 「私は無我夢中でリストのラ・カンパネラや愛の夢を弾いた。すると、聴き終わったバーンスタインが私を抱き寄せ、キスしてくれたのよ。神様が微笑んだ」 「人間は場所を得て、初めて本当の姿を現す生き物なの」
*** 今週の教養講座(羅生門②)
作者はさっき、「下人が雨やみを待っていた」と書いた。しかし、下人は雨がやんでも、格別どうしようという当てはない。ふだんなら、もちろん、主人の家へ帰るべきはずである。ところがその主人からは、四、五日前に暇を出された。前にも書いたように、当時京都の町は一通りならず衰微していた。今この下人が、永年、使われていた主人から、暇を出されたのも、実はこの衰微の小さな余波にほかならない。だから「下人が雨やみを待っていた」というよりも「雨にふりこめられた下人が、行き所がなくて、途方にくれていた」という方が、適当である。その上、今日の空模様も少なからず、この平安朝の下人の Sentimentalisme (サンチマンタリスム=感傷的な気分)に影響した。申(さる)の刻下さがりからふり出した雨は、いまだに上るけしきがない。そこで、下人は、何をおいても差当り明日の暮しをどうにかしようとして――いわばどうにもならないことを、どうにかしようとして、とりとめもない考えをたどりながら、さっきから朱雀大路にふる雨の音を、聞くともなく聞いていたのである。
雨は、羅生門をつつんで、遠くから、ざあっという音をあつめて来る。夕闇は次第に空を低くして、見上げると、門の屋根が、斜につき出した甍(いらか)の先に、重たくうす暗い雲を支えている。
どうにもならないことを、どうにかするためには、手段を選んでいるいとまはない。選んでいれば、築土(ついじ=土塀)の下か、道ばたの土の上で、飢え死にをするばかりである。そうして、この門の上へ持って来て、犬のように棄てられてしまうばかりである。選ばないとすれば――下人の考えは、何度も同じ道を低徊(ていかい=歩き回る)したあげくに、やっとこの局所へ逢着(ほうちゃく)した。しかしこの「すれば」は、いつまでたっても、結局「すれば」であった。下人は、手段を選ばないという事を肯定しながらも、この「すれば」のかたをつけるために、当然、その後に来るべき「盗人になるよりほかに仕方がない」という事を、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのである。
下人は、大きなくさめ(=くしゃみ)をして、それから、大儀たいぎそうに立上った。夕冷えのする京都は、もう火桶(ひおけ)が欲しいほどの寒さである。風は門の柱と柱との間を、夕闇と共に遠慮なく、吹きぬける。丹塗(にぬり)の柱にとまっていた蟋蟀(きりぎりす)も、もうどこかへ行ってしまった。
下人は、首をちぢめながら、山吹(やまぶき)の汗袗(かざみ=下着)に重ねた、紺の襖(あお)の肩を高くして門のまわりを見まわした。雨風の憂えのない、人目にかかるおそれのない、一晩楽にねられそうな所があれば、そこでともかくも、夜を明かそうと思ったからである。すると、幸い門の上の楼へ上る、幅の広い、これも丹を塗った梯子(はしご)が眼についた。上なら、人がいたにしても、どうせ死人ばかりである。下人はそこで、腰にさげた聖柄(ひじりづか)の太刀(皮などをつけない木地のままの柄の刀)が鞘走(さやばし=刀がさやかから抜けない)らないように気をつけながら、わら草履をはいた足を、その梯子の一番下の段へふみかけた。
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~~~ 長谷川塾メルマガ 2026年4月22日号(転送禁止)~~~
速報→ トランプ大統領 停戦延長と投稿 イランとの協議が結論至るまで | NHKニュース →だらだら停戦・戦闘への移行か、泥沼化か。即時全面撤退がアメリカにとってもベストシナリオだろう。
***デイ・ウォッチ(21日/コメントも参考にしながら自分の考えをまとめましょう)
◎「防衛装備品移転三原則」5類型撤廃 武器移転原則可能に 安全保障政策の転換 | NHKニュース →日本が殺傷能力のある武器を輸出できるようになる。安保政策の大きな転換だ。安保環境の悪化に対応し、防衛産業を育成する狙いだ。法改正は必要なく、野党勢力も弱いので、国会で大きな議論にならず、国会の歯止めもなく決まった。世論の半分は反対している。将来の功罪は、誰にもわからない。
◎ノジマ、日立の家電事業買収 1101億円で、商品開発力強化:時事ドットコム →小売業が製造業を買収する時代になるのだろうか。ノジマは昨年1月、ソニーのパソコン事業だったバイオを買収している。今回は家電の名門・日立だ。消費者視点や販売網を生かした製品開発で付加価値を出せれば、おもしろい。
◎高市首相 靖国神社の春の例大祭にあわせて「真榊」奉納 | NHKニュース →高市首相は靖国神社の春の例大祭にあわせて、首相名で真榊を奉納した。というより、参拝を見送ったと言った方がいいかもしれない。岸田、石破首相のやり方を踏襲したという。中国と韓国は反発したが、そうした動きに想像力を働かせることも重要だ→ 高市首相の真榊奉納に「失望と遺憾」 韓国:時事ドットコム
◎「射撃訓練中に戦車内で暴発」通報、隊員3人死亡・1人負傷…陸上自衛隊の大分・日出生台演習場 : 読売新聞 →大分県の自衛隊演習場で、訓練中の戦車内で暴発が起き、3人が死亡、1人が負傷した。細かな状況はわかっていないが、2017年と24年にも訓練中に死亡事故が起きている。
◎警察官、クマに襲われ重傷 付近に女性遺体―岩手:時事ドットコム →岩手県で行方不明の女性を探していた警察官がクマに襲われた。近くには女性の遺体があり、クマに襲われたとみられる。冬眠の季節が終わり、山間部でクマが出没し始めた。ニッポンの大問題だ。
*** 「今日の名言」(気に入った言葉を探してみましょう)
◎千利休(戦国時代の茶人。1591年4月21日死去、68歳?)
「一期一会」 「小さな出会いを大切に育てていくことで、人生の中での大きな出会いになることもある」 「稽古とは一より習い、十を知り、十より返る、もとのその一」 「頭を下げて守れるものもあれば、頭を下げる故に守れないものもある(金の茶室など派手好みな豊臣秀吉に対し、素朴な侘び寂びを重んじる千利休がどうしても屈服できずに発した言葉)」 「(大名の間に名器集めや高価なものをほめ合う風潮があることに)釜一つあれば、茶の湯はなるものを、数の道具を持つは愚なり」 「茶の湯とは ただ湯をわかし 茶をたてて のむばかりなる ことと知るべし」 「(弟子が庭の落ち葉を掃き掃除をきれいにした後、再び枯葉をパラバラ撒いて)秋の庭には少しくらい葉っぱが落ちている方が自然でよい」 「割れた茶碗も風流なもの」 「(切腹を命じに来た使者に)お茶の支度ができています」
*** 今週の教養講座(羅生門③)
それから、何分かの後である。羅生門の楼の上へ出る、幅の広い梯子の中段に、一人の男が、猫のように身をちぢめて、息を殺しながら、上の様子をうかがっていた。楼の上からさす火の光が、かすかに、その男の右の頬をぬらしている。短いひげの中に、赤くうみを持ったにきびのある頬である。下人は、始めから、この上にいる者は、死人ばかりだと高をくくっていた。それが、梯子を二、三段上って見ると、上では誰か火をとぼして、しかもその火をそこここと動かしているらしい。これは、その濁った、黄いろい光が、隅々に蜘蛛(くも)の巣をかけた天井裏に、揺れながら映ったので、すぐにそれと知れたのである。この雨の夜に、この羅生門の上で、火をともしているからは、どうせただの者ではない。
下人は、やもりのように足音をぬすんで、やっと急な梯子を、一番上の段まで這(は)うようにして上りつめた。そうして体を出来るだけ、平らにしながら、首をできるだけ、前へ出して、恐る恐る、楼の内をのぞいてみた。
見ると、楼の内には、噂に聞いた通り、幾つかの死骸(しがい)が、無造作に棄ててあるが、火の光の及ぶ範囲が、思ったより狭いので、数は幾つともわからない。ただ、おぼろげながら、知れるのは、その中に裸の死骸と、着物を着た死骸とがあるということである。もちろん、中には女も男もまじっているらしい。そうして、その死骸は皆、それが、かつて、生きていた人間だという事実さえ疑われるほど、土をこねて造った人形のように、口を開(あ)いたり手を伸ばしたりして、ごろごろ床の上にころがっていた。しかも、肩とか胸とかの高くなっている部分に、ぼんやりした火の光をうけて、低くなっている部分の影をいっそう暗くしながら、永久におしのごとく黙っていた。
下人は、それらの死骸の腐爛した臭気に思わず、鼻をおおった。しかし、その手は、次の瞬間には、もう鼻をおおうことを忘れていた。ある強い感情が、ほとんどことごとくこの男の嗅覚を奪ってしまったからである。
下人の目は、その時、はじめてその死骸の中にうずくまっている人間を見た。檜皮色(ひわだいろ)の着物を着た、背の低い、痩せた、白髪頭の、猿のような老婆である。その老婆は、右の手に火をともした松の木片(きぎれ)を持って、その死骸の一つの顔をのぞきこむように眺めていた。髪の毛の長いところを見ると、たぶん女の死骸であろう。
下人は、六分の恐怖と四分の好奇心とに動かされて、暫時(ざんじ)は呼吸(いき)をするのさえ忘れていた。旧記の記者の語を借りれば、「頭身の毛も太る」ように感じたのである。すると老婆は、松の木片を、床板の間に挿して、それから、今まで眺めていた死骸の首に両手をかけると、ちょうど、猿の親が猿の子のしらみをとるように、その長い髪の毛を一本ずつ抜きはじめた。髪は手に従って抜けるらしい。
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***デイ・ウォッチ(22日/コメントも参考にしながら自分の考えをまとめましょう)
◎岩手 大槌町で山林火災 県が自衛隊に消火活動で災害派遣要請 | NHKニュース →岩手県大槌町で山林火災が発生し、住宅付近にも拡大している。自衛隊に災害派遣を要請した。共同のテレビ塔に延焼しそうで、住民に災害情報が届かなくなる可能性がある。しばらくは雨が降らない天気予報だ。昨年2月には大船渡市で1か月以上続く大規模な火災があった。
◎原油市場でトランプ発言直前に巨額取引 通常の9倍、インサイダー疑惑 – 日本経済新聞 株価 終値の最高値を更新 イラン情勢の警戒感和らぐ | NHKニュース →トランプ大統領がまた「TACO」った。原油市場ではインサイダー疑惑が浮上している。米国はホルムズ海峡の封鎖を誇っているが、日本やアジアには大迷惑だ。一方、日経平均は最高値を更新した。「世界はジャングル化し、従来のルールや常識が通じない」とある評論家は言う。
◎「国家情報会議」法案成立へ 23日に衆院通過:時事ドットコム →国論を二分するテーマに含まれる 「国家情報会議」の設置法案。衆院内閣委員会で可決され、成立の見通しになった。政府は「情報収集に当たっては、個人情報やプライバシーが無用に侵害されないよう十分な配慮を行う」というが、できてしまえばわからない。警察も似たことはしている。情報公開や歯止めは十分か。
◎プルデンシャル生命、営業自粛180日間延長 ジブラルタでも不正疑い:時事ドットコム ソニー生命でも金銭詐取疑い、金融庁は報告徴求命令検討 – 日本経済新聞 →富裕層相手の生命保険営業は、ズブズブのようだ。プルデンシャルは自粛延期、傘下のジブラルタルのほか、ソニー生命でも発覚した。各社を渡り歩く営業員もズブズブなのだろう。被害の拡大防止のため金融庁は早く動くべきだ。
◎AI「ミュトス」に無許可アクセスか 米アンソロピックが開発・限定公開―報道:時事ドットコム →生成AIのアンソロピックが開発した「ミュトス」。性能が高すぎて信用できる相手にしか公開していないが、無許可アクセスがあったと米メディアが報じた。生成AIは人類の存在を脅かすともいわれる。核もそうだが、新技術はどんなに規制しても、したたかに生き延びる。
*** 「今日の名言」(気に入った言葉を探してみましょう)
◎ウィリアム・シェークスピア(英国の劇作家。1616年4月23日死去、51歳)
「賢明に、そしてゆっくりと。速く走るやつは転ぶ」 「喜怒哀楽の激しさは、その感情とともに実力までも滅ぼす」 「期待はあらゆる苦悩のもと」 「失敗の言い訳をすれば、失敗がどんどん目立っていくだけ」 「嫉妬をする人はわけがあるから疑うんじゃない。疑い深いから疑うんです」 「天は自ら行動しない者に救いの手をさしのべない」 「避けることができないものは、抱擁してしまわなければならない」 「あなたがたとえ氷のように潔癖で雪のように潔白であろうとも、世の悪口はまぬがれまい」 「愛は万人に、信頼は少数に」 「今後のことなんかは、ぐっすりと眠り忘れてしまうことだ」 「人の傷を笑うのは、傷の痛みを感じたことのないやつだ」 「豊かさと平和は、臆病者をつくる。苦難こそ強さの母だ」 「神は、我々を人間にするために、何らかの欠点を与える」 「のんき者は長生きする」 「ほどほどに愛しなさい。長続きする恋はそういう恋だよ」 「真の恋の道は、茨の道である」
*** 今週の教養講座(羅生門④)
その髪の毛が、一本ずつ抜けるのに従って、下人の心からは、恐怖が少しずつ消えて行った。そうして、それと同時に、この老婆に対するはげしい憎悪が、少しずつ動いて来た。――いや、この老婆に対するといっては、語弊があるかも知れない。むしろ、あらゆる悪に対する反感が、一分毎に強さを増して来たのである。この時、誰かがこの下人に、さっき門の下でこの男が考えていた、飢え死にをするか盗人になるかという問題を、改めて持ち出したら、恐らく下人は、何の未練もなく、飢え死を選んだことであろう。それほど、この男の悪を憎む心は、老婆の床に挿した松の木片のように、勢いよく燃え上り出していたのである。
下人には、もちろん、なぜ老婆が死人の髪の毛を抜くかわからなかった。従って、合理的には、それを善悪のいずれに片づけてよいか知らなかった。しかし下人にとっては、この雨の夜に、この羅生門の上で、死人の髪の毛を抜くということが、それだけですでに許すべからざる悪であった。もちろん、下人は、さっきまで自分が、盗人になる気でいたことなぞは、とうに忘れていたのである。
そこで、下人は、両足に力を入れて、いきなり、梯子から上へ飛び上った。そうして聖柄の太刀に手をかけながら、大股に老婆の前へ歩みよった。老婆が驚いたのはいうまでもない。
老婆は、一目下人を見ると、まるで弩(いしゆみ=石をはじき飛ばす飛び道具)にでもはじかれたように、飛び上った。
「おのれ、どこへ行く。」
下人は、老婆が死骸につまずきながら、慌てふためいて逃げようとする行く手を塞いで、こう罵った。老婆は、それでも下人をつきのけて行こうとする。下人はまた、それを行かすまいとして、押しもどす。二人は死骸の中で、しばらく、無言のまま、つかみ合った。しかし勝敗は、はじめからわかっている。下人はとうとう、老婆の腕をつかんで、無理にそこへねじ倒した。ちょうど、鶏(とり)の脚のような、骨と皮ばかりの腕である。
「何をしていた。言え。言わぬと、これだぞよ。」
下人は、老婆をつき放すと、いきなり、太刀の鞘さやを払って、白い鋼の色をその目の前へつきつけた。けれども、老婆は黙っている。両手をわなわなふるわせて、肩で息を切りながら、目を、眼球がまぶたの外へ出そうになるほど、見開いて、おしのように執拗(しゅうね=しぶとく)く黙っている。これを見ると、下人は初めて明白にこの老婆の生死が、全然、自分の意志に支配されているという事を意識した。そうしてこの意識は、今までけわしく燃えていた憎悪の心を、いつの間にか冷ましてしまった。後に残ったのは、ただ、ある仕事をして、それが円満に成就した時の、安らかな得意と満足とがあるばかりである。そこで、下人は、老婆を見下しながら、少し声をやわらげてこう言った。
「おれは検非違使の庁(=京都の警察・裁判権を持った役所)の役人などではない。今し方この門の下を通りかかった旅の者だ。だからお前に縄をかけて、どうしようというようなことはない。ただ、今時分この門の上で、何をしていたのだか、それをおれに話しさえすればいいのだ。」
すると、老婆は、見開いていた目を、いっそう大きくして、じっとその下人の顔を見守った。まぶたの赤くなった、肉食鳥のような、鋭い目で見たのである。それから、しわで、ほとんど、鼻と一つになった唇を、何か物でも噛(か)んでいるように動かした。細い喉で、とがった喉仏の動いているのが見える。その時、その喉から、鴉の啼くような声が、あえぎぎ、下人の耳へ伝わって来た。
「この髪を抜いてな、この髪を抜いてな、かつらにしようと思うたのじゃ。」
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◎政府 牧野フライスTOBに中止勧告 “国の安全損なうおそれ” | NHKニュース 牧野フライスに日系ファンドNSSKが買収提案へ MBKへの中止勧告で – 日本経済新聞 →工作機械の牧野フライスにアジア系の投資ファンドが予定していたTOBに対して、政府が「待った」をかけた。外為法が根拠。軍事転用が可能な工作機械を製造していることが理由だが、工作機械は軍民製品何でもできる。殺傷武器は輸出できるようにしたのに工作機械はダメか。最近は経済安保や地政学がはやりで、経済に対する政府の介入が目立つ。日系ファンドが名乗りを上げている。
◎米「中国の威嚇キャンペーン」と非難 台湾総統の外国訪問中止 | NHKニュース →米中が台湾総統のアフリカ訪問をめぐって対立している。頼総統は、22日からアフリカで唯一外交関係のあるエスワティニを訪問する予定だったが、専用機が通過する島国セーシェルとモーリシャス、マダガスカルが飛行許可を取り消し、訪問を中止した。背景に中国の圧力があると批判している。
◎高市首相「もっと眠りたい」 甘利元幹事長にぼやき:時事ドットコム →肉声や本音がなかなか出てこない高市首相。面会した甘利元自民党幹事長に「睡眠はもうちょっと取りたい」「首相公邸での食事が大変」とこぼした。甘利氏は2月、「党内根回しの必要があれば、お手伝いします」と申し出たところ、「党には迷惑をかけてばかりですから、兄貴が助けてくださると心強いです」と返信があったという。鉄の意志ばかりではないようだ。
◎米海軍長官が辞任 国防総省が明らかに 事実上の更迭か | NHKニュース →アメリカの海軍長官が辞任した。米メディアは理由について、艦艇の建造をめぐる長官の手腕やトランプ大統領と直接連絡を取っていたことにヘグセス国防長官が不満を抱いていたなどと伝えている。4月上旬には陸軍の制服組トップが交代している。イラン攻撃という重大事態にも関わらず、軍はふらついている。
◎医学部の大胆な定員削減を 人口減で医師余り「確定的」に―財政審:時事ドットコム →人口減少に伴い2029~32年ごろに医師の需給が均衡し、それ以降は医師過剰時代に来る。医学部定員がこのままなら医師が余ってしまうと財務省の別働隊である財政制度等審議会が提言した。一方で、偏在で過疎地などの医師不足は続きそうだ。目詰まり解消は必要だ。
*** 「今日の名言」(気に入った言葉を探してみましょう)
◎石橋湛山(言論人、首相。1973年4月25日死去、88歳)
「小日本主義こそ、真の大日本主義である。拡張主義ではなく、日本は領土を縮小してでも経済と自由を重んじた国にすべきだ」 「国の経済も、家庭のやりくりと同じである。経済は複雑な理論ではなく、自立と節度、合理性によって成り立っている」 「本を読んだら、そこに書いてあることを絶えず実際の問題に当てはめ、自己の思考力を訓練し、学問を実際に応用する術を体得しなければならない」 「医者は医書を読んだだけでは、病人を治せない。本を読むとともに、実習を要する。経済学も同様である」 「病原菌が病気ではない。その繁殖を許す身体が病気だと知るべきだ」 「政治家にはいろいろなタイプがいるが、最もつまらぬタイプは、自分の考えを持たない政治家だ」 「社会を明朗にする第一条件は、言論の絶対自由だ。国家の進歩は、自由なる言論によって生まれる」 「私は自由主義者ではあるが、国家に対する反逆者ではない」
*** 今週の教養講座(羅生門⑤)
下人は、老婆の答えが存外、平凡なのに失望した。そうして失望すると同時に、また前の憎悪が、冷やかな侮蔑といっしょに、心の中へはいってきた。すると、その気色が、先方へも通じたのであろう。老婆は、片手に、まだ死骸の頭から奪った長い抜け毛を持ったなり、蟇(ひき=ヒキガエル)のつぶやくような声で、口ごもりながら、こんなことを言った。
「成程な、死人(しびと)の髪の毛を抜くということは、なんぼう悪いことかも知れぬ。じゃが、ここにいる死人どもは、皆、そのくらいなことを、されてもいい人間ばかりだぞよ。現に、わしが今、髪を抜いた女などはな、蛇を四寸ばかりずつに切って干したのを、干し魚だと言うて、太刀帯(たてわき=皇太子の警護にあたった役人)の陣(=詰め所)へ売りに往(い)んだわ。疫病(えやみ)にかかって死ななんだら、今でも売りに往んでいたことであろ。それもよ、この女の売る干魚は、味がよいと言うて、太刀帯どもが、欠かさず菜料(さいりよう=おかず)に買っていたそうな。わしは、この女のしたことが悪いとは思うていぬ。せねば、饑死をするのじゃて、仕方がなくしたことであろ。されば、今また、わしのしていたことも悪いこととは思わぬぞよ。これとてもやはりせねば、飢え死をするじゃて、仕方がなくすることじゃわいの。じゃて、その仕方がないことを、よく知っていたこの女は、おおかたわしのすることも大目に見てくれるであろ。」
老婆は、大体こんな意味のことを言った。
下人は、太刀を鞘さやにおさめて、その太刀の柄(つか)を左の手でおさえながら、冷然として、この話を聞いていた。もちろん、右の手では、赤く頬にうみを持った大きなにきびを気にしながら、聞いているのである。しかし、これを聞いているうちに、下人の心には、ある勇気が生まれてきた。それは、さっき門の下で、この男には欠けていた勇気である。そうして、またさっきこの門の上へ上って、この老婆を捕えた時の勇気とは、全然、反対な方向に動こうとする勇気である。下人は、飢え死をするか盗人になるかに、迷わなかったばかりではない。その時のこの男の心もちから言えば、飢え死などということは、ほとんど、考えることさえできないほど、意識の外に追い出されていた。
「きっと、そうか。」
老婆の話が終わると、下人は嘲るような声で念を押した。そうして、一足前へ出ると、不意に右の手をにきびから離して、老婆の襟上(えりがみ=襟元)をつかみながら、噛みつくようにこう言った。
「では、おれが引剥(ひはぎ=追い剥ぎ)をしようと恨むまいな。己もそうしなければ、飢え死をする体なのだ。」
下人は、すばやく、老婆の着物を剥ぎとった。それから、足にしがみつこうとする老婆を、手荒く死骸の上へ蹴倒した。梯子の口までは、僅に五歩を数えるばかりである。下人は、剥ぎとった檜皮色の着物をわきにかかえて、またたく間に急な梯子を夜の底へかけ下りた。
しばらく、死んだように倒れていた老婆が、死骸の中から、その裸の体を起したのは、それから間もなくのことである。老婆はつぶやくような、うめくような声を立てながら、まだ燃えている火の光をたよりに、梯子の口まで、這って行った。そうして、そこから、短い白髪をさかさまにして、門の下をのぞきこんだ。外には、ただ、黒洞々(こくとうとう=暗黒)たる夜があるばかりである。
下人の行方は、誰も知らない。
【注】芥川龍之介の「羅生門」は、今昔物語集の説話をもとにしています。結びは当初、「下人は、既に、雨を冒して、京都の町へ強盗を働きに急ぎつつあった」でした。後に「下人の行方は、誰も知らない」に書き改めました。効果的な余韻を残しています。
