2026年7月27~31日(教養講座:半藤一利の『昭和史』読み解き)

~~~ 長谷川塾メルマガ 2026年7月27日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウォッチ(24~26日/コメントも参考にしながら自分の考えをまとめましょう)
◎「副首都」構想関連法が成立 自民・維新・みらいなど賛成 | NHKニュース 食料品の消費税減税 高市首相が判断するとの見方強まる | NHKニュース →副首都法案が24日深夜に可決され、国会は閉会した。高市首相は、国民に関心の高い物価高対策より、国旗や皇室典範、維新法案を重視し、政治的資産をかなり食いつぶした。次は「悲願」の消費税減税が焦点で、首相判断の可能性が強まっている。減税は2年後の増税でもあり、賢明かどうか。日経新聞の支持率も10ポイント下落している→ 高市内閣支持10ポイント下落58%、無党派で不支持51% 日経世論調査 – 日本経済新聞
◎自治体、「副首都」へ動き加速 大阪、愛知、福岡、北海道―中身あいまい、戸惑いも:時事ドットコム →副首都法案が可決され、大阪だけでなく、愛知、福岡、北海道も関心を示している。「大阪ありき」は明白なので、「大阪抜き」はありえないはず。どこを選ぶかは政府の判断になるが、その過程で再び構想への非難が高まりそうだ。吉村府知事は来春の知事選不出馬の可能性に言及した。どうなるのだろうか→大阪府の吉村知事、不出馬に言及 都構想の途上、維新で異論噴出:時事ドットコム
◎曲げぬ持論、弁護士に「反省」も 植松死刑囚「死刑には値しない」―相模原市の障害者施設殺傷:時事ドットコム →45人が殺傷された津久井やまゆり園事件から10年。犯人の植松死刑囚は弁護士を通じて手紙を公開。重度障害者を「生きている自覚が全くない存在」と主張し、誰もが事故や病気で障害を負う可能性があるという指摘に対しても「どうして重症患者になってまで生き延びようとするのか」としている。何とも不可解。
◎「飛鳥・藤原の宮都」世界文化遺産に登録決定 国内で27件に | NHKニュース →飛鳥時代の遺跡群が国内27件目の世界遺産に選ばれた。奈良県明日香村を中心に広がるひなびた里山で、石舞台古墳の迫力は圧巻。古い日本が東アジアとの交流を通じて中央集権体制を形成していく時代を感じたい。
◎大相撲名古屋場所 安青錦が優勝 ことし初場所以来3回目 | NHKニュース | 大相撲、愛知県 →安青錦が優勝決定の巴戦を制し、3回目の優勝を飾った。来場所は大関に復帰する。8日目に左足の親指を痛めたが、執念と根性が光った。静岡県出身で初の優勝を目指す熱海富士は、本割で安青錦を破ったが、決定戦で敗れた。これで決定戦は3戦全敗で、「決定戦男」になりつつある。
◎野球日本代表新監督に井口資仁氏 「世界の頂点を」と会見で意気込み | NHKニュース →野球のサムライ・ジャパン監督に井口氏が就任した。2000本安打を達成し、大リーグでも活躍した名選手だが、2018年から5年間のロッテ監督で優勝はなかった。手腕はどうか。
*** 「今日の名言」(気に入った言葉を探してみましょう)
◎利根川 進(ノーベル賞受賞の生物学者。2026年7月11日死去、86歳)
「1人前になるには50年はかかる。根を深く張れ」 「科学者の一生の研究時間なんて、ごく限られている。研究テーマなんて、ごまんとある」 「エネルギーを集中させられない原因は、夢が明確になっていないからです」 「自分を本当に納得させることができれば、人を納得させることは簡単である」 「小さいうちから多言語の刺激を入れてあげたほうが、習得は早い」 「日本はムラ社会だから、この人が何をしたかという実績よりも、どこにいるのかで人が評価される。そうすると東大の教授になることがゴールになっちゃう」 「自分がやりたいことが、アメリカに来ないとできなかった。日本で研究をしたくても、分子生物学っていう分野はアメリカでしかやってなかった」 「科学者として、私たちは研究成果がどう応用されるかについて敏感になり、倫理の一線を越えないようにしなければなりません」 「新しい技術の発展には、それが誤用される危険性もついて回ります」
*** 今週の教養講座(半藤一利の『昭和史』読み解き①)
昭和史は今を生きる人の「基本的な教養」と言えます。今週は『昭和史 1926―1945』を書いた半藤一利氏の歴史観を考えます。この本が多くの読者を引きつけるのは、日本がなぜ勝つ見込みの薄い戦争へ進み、なぜ途中で引き返せず、壊滅的な敗北を迎えたのかを、人間と組織の問題として描いているからです。一方、国際情勢や経済状況の記述が少ない限界もあります。『昭和史』を読み解きます。
第1回 組織と人間と目的の弱さ
半藤は自らを「歴史探偵」と呼んだ。史料を読み、当事者に話を聞き、人物の性格や判断を探ることを重視した。文藝春秋の編集者時代から長年取材し、『日本のいちばん長い日』や『ノモンハンの夏』などを書いた。その集大成の1つが、授業のような語り口で昭和をたどる『昭和史』である。
半藤の歴史観の第1の特徴は、戦争への道を1人の独裁者や1つの陰謀によって説明しない点にある。昭和前期の日本には、ナチス・ドイツのヒトラーのように、国家のすべてを1人で動かした人物はいなかった。天皇、首相、閣僚、陸軍、海軍、官僚、政党、財界、新聞、国民が、それぞれ異なる思惑を持って動いていた。ところが、誰も全体を統御できなかった。責任主体の曖昧な組織が、互いに責任を押しつけながら戦争へ流されていったのである。
ここに、半藤史観の重要な逆説がある。日本は、強い指導者がいたから戦争を始めたのではく、政治的な指導力が弱かったために戦争を止められなかったのである。大事件の前には必ず小事件があり、それを適切に処理できなかったことが破局につながると見る。
その典型が、1931(昭和6)年の満州事変である。現地の関東軍が軍事行動を起こし、既成事実を積み重ねていった。政府は不拡大方針を掲げながら、軍の行動を止められなかった。問題は、軍が命令を無視したことだけではなく、独断行動を取った軍人が厳しく処罰されず、結果として領土や権益が拡大したため、行動そのものが成功として扱われたことである。
この前例が、軍内部に危険な学習をもたらした。中央の命令よりも現場の判断を優先し、先に行動して政府を後から追認させる方式が定着したのである。組織は、誤った成功からも壊れていく。満州事変は軍事的には成功したように見えたが、その成功によって、国家の統制を無視する体質が強化された。長い目で見れば、日本にとって大きな失敗の始まりだった。
第2の特徴は、「何のための戦争か」という目的の不明確さを厳しく問う点である。戦争には、政治的な目的が必要である。どのような条件を実現すれば戦争を終えるのか、どこまで進めば勝利とみなすのかを決めなければならない。ところが、日中戦争では、この出口が定められていなかった。
当初、日本の指導部は中国との戦争が短期間で終わると考えていた。しかし中国側は降伏せず、戦線は拡大した。日本軍は主要都市を占領しても戦争を終わらせることができず、さらに奥地へ進んだ。戦場で勝つことと、戦争に勝つことは違う。都市を占領し、敵兵を退却させても、相手の政治的意思を変えられなければ戦争は終わらない。日本は個々の戦闘では勝利しながら、戦争全体の出口を失ったのである。
撤退すれば、これまでの犠牲が無駄になる。さらに兵を送り、新たな犠牲が出ると、その犠牲を正当化するためにまた撤退できなくなる。こうして過去の損失が、将来の損失を拡大させた。すでに費やした資金や時間を惜しむあまり、見込みのない戦いから撤退できなくなる心理である。他の分野でも共通する教訓で、今でも国家も企業も個人も、「ここまでやったのだから」という感情によって判断を誤ることを教えている。
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~~~ 長谷川塾メルマガ 2026年7月28日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウォッチ(27日/コメントも参考にしながら自分の考えをまとめましょう)
◎“消費税減税 速やかに法案提出”高市首相会見 公約実現を強調 | NHKニュース →高市首相は27日に記者会見し、注目の消費減税について、「速やかに法案を出す」と述べた。超党派の国民会議ではまとまらず、両論併記の方向だが、首相は公約を重視して減税する構えだ。2月の総選挙では、野党が減税を主張し、自民党は争点隠しの狙いもあって同調したが、今は与野党の主張が逆転したかたち。朝日新聞は「30日にも1%指示へ」と報じている。財源はどうするのだろう→ 食料品の消費税1%、政府・与党方針固める 30日にも高市首相指示 :朝日新聞
◎作家 東野圭吾さん 68歳で死去 大腸がんのため 「容疑者Xの献身」「白夜行」「ガリレオ」シリーズなど | NHKニュース →ミステリーでベストセラーを連発した東野圭吾さんが亡くなった。68歳でまだ若い。大阪府立大工学部からデンソー勤務を経て独立。1985年に江戸川乱歩賞、2006年に直木賞、2023年に菊池寛賞を受賞した。重厚な人間ドラマと鮮やかな謎解きが魅力で、作品は41か国・地域でも翻訳されている。
◎プルデンシャル生命、営業社員「完全歩合」を撤廃 再建策の全容判明 – 日本経済新聞 →営業社員の金銭詐取が表面化しているプルデンシャル生命が、完全歩合制を撤廃する。生活に困窮した社員が不正に走ったことを反省し、月30万円程度の報酬を保証するという。これでまっとうな会社になれるかどうか。収益を得られなければ、存続問題になるだろう。
◎欧州山火事 仏ボルドー市街地から約15キロの所まで火が迫る | NHKニュース →フランスの山火事が6日目になっても収まらず、ワイン産地ボルドーの15キロまで迫っている。すでに22万人が避難している。スペインでも山火事が起き、7.5万人が避難している。世界的に山火事が頻発している。
*** 「今日の名言」(気に入った言葉を探してみましょう)
◎谷崎潤一郎(小説家。1965年7月30日死去、79歳)
「名文とは長く記憶に留まるような深い印象を与えるもの。何度も繰り返して読めば読むほど滋味のでるもの」 「文章のコツ、すなわち人にわからせるように書く秘訣は、文字や言葉で表現できることとできないことの限界を知り、その限界内にとどまることが第一」 「世間はただ、私の作品をさえ見てくれればよいのであります。それが立派なものなら、私という個人に用はないわけであります」 「意地の悪い人間は、その意地悪さを発揮する相手がいないと寂しいに違いない」 「我という 人の心はただひとり 我より外に 知る人はなし」 「美は考えるものではない。一見して直に感ずることのできる極めて簡単な手続きだ」 「恋愛は芸術である。血と肉とをもって作られる最高の芸術である」 「議論を吹っかける場合には、わざと隙間を与えておくほうがいい。そうしないと敵が乗って来ない」「筋の面白さは、言い換えれば、物の組み立て方、構造の面白さ、建築的の美しさである」
*** 今週の教養講座(半藤一利の『昭和史』読み解き②)
第2回 失敗から学ばない組織と国民的熱狂
半藤史観の第3の特徴は、日本の指導者たちが失敗を十分に検証せず、教訓を次の判断に生かさなかったことへの批判である。その象徴がノモンハン事件だ。日本軍はソ連軍との戦闘を通じ、火力、戦車、補給、通信など近代戦の実力差を突きつけられた。本来ならば、その経験を徹底的に分析し、日本軍の装備や作戦思想を改める必要があった。
しかし、組織の責任を明らかにすれば、上層部にも責任が及ぶ。検証は不十分になり、失敗の原因は現場の勇気や精神力の不足へとすり替えられた。技術力や補給力の問題を、精神論によって補おうとしたのである。失敗の原因を正確に認めなければ、同じ失敗を繰り返す。組織が大きくなるほど、責任を取るべき人ほど責任を免れやすい。現場の兵士は命を失うが、誤った作戦を立てた上層部は別の地位に移り、再び意思決定に関わる。
半藤の描く日本軍の問題は、能力の低い人物ばかりがいたことではない。個々には優秀な軍人や官僚が多数いた。それにもかかわらず、組織全体として合理的な決定ができなかった点にある。優秀な人材を集めても、反対意見が言えず、失敗を検証せず、責任を曖昧にする組織では、優秀さは生かされない。組織の方針を巧みに説明し、上司の期待に合わせる能力だけが評価されるようになる。
第4の特徴は、軍部や政治家だけでなく、新聞や国民にも戦争への責任があったと見る点である。昭和史を語る際、国民を軍国主義の被害者としてだけ描くことはできない。満州事変後、軍の行動は多くの国民から支持された。不況に苦しむ社会にとって、満州進出は日本の将来を開く希望のように見えた。新聞も軍の活躍を大きく報じ、国民の熱狂を強めた。
政府が弱腰に見えると、世論は強硬策を求めた。政治家が妥協しようとすれば、「売国的だ」と非難される。新聞も読者の期待に応えようと勇ましい論調を強める。その記事を読んだ国民が、さらに強い政策を要求する。こうして、政府、軍部、新聞、国民の間に、強硬論を拡大する循環が生まれた。
半藤が警戒するのは、社会全体が一つの方向へ走り出し、異論を許さなくなることである。政策への反対が、国家への裏切りとみなされる。慎重な意見が、臆病や弱腰と非難される。複雑な問題が、敵か味方か、愛国か売国かという二者択一に変えられる。国民的熱狂は、指導者から冷静な判断力を奪う。戦争を始める決断よりも、戦争を避ける妥協の方が政治的に難しくなる。
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~~~ 長谷川塾メルマガ 2026年7月29日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウォッチ(28日/コメントも参考にしながら自分の考えをまとめましょう)
◎熊本で震度7 地震活動活発 同程度の地震に1週間ほど注意を | NHKニュース →熊本地方を震源とする震度7の地震があった。「令和8年熊本地震」と名づけられ、関係機関が被害の把握に努めているが、全容はつかめていない。10年前に大きな地震のあった地域と重なっている。道路損壊や火事、山肌の崩落、新幹線など交通網の不通などの情報がある。余震も続いている。
◎イオンモール熊本 爆発 2人死亡 1人心肺停止 熊本県 | NHKニュース →嘉島町のイオンモールで爆発が起きた。多数が閉じ込められ、2人の死亡が確認された。なお捜索中。2階部分が崩落しており、かなり強い爆発があったようだ。日本製紙八代工場で煙突が倒れ、少なくとも2人が心肺停止。高速道路の橋がずれて分断、神社の建物の崩落、貨物列車の脱線転覆、熊本城の石垣崩落などのニュースが流れている。
◎国民 玉木代表“首相「反省点は特にない」は認識にギャップ” | NHKニュース →「今回で反省点はない」という高市首相の会見での発言が波紋を広げている。野党からは強引な運営に批判が出ていたが、国民民主の玉木代表は「予算の遅れや国会延長など客観的には課題がある。コミュニケーションの改善を」と苦言を呈し、公明党の竹谷代表は「違和感がある」と指摘した。謝ったり、反省したりしないのが高市流。今後も続きそうだ。
◎東京株急落、一時3000円超安 終値6万2364円、AI・半導体に売り:時事ドットコム →東京株価が急落した。一時前日比3000円超も下げ、終値は2566円安の6万2364円。最高値をつけた6月25日に比べ、約1万円下落した。AI・半導体株が大幅に下げた。中国が国産半導体装置の生産を開始したというニュースで急落した。
◎板東英二さん死去 86歳 元プロ野球投手 タレントとしても活躍 | NHKニュース →板東英二さんは多彩な才能を発揮した元プロ野球選手。徳島商業時代は、夏の甲子園大会で準優勝を飾り、83奪三振は今も破られていない。中日で77勝をあげ、引退後はタレントに転身。実業家としても多くの事業を手がけた。元満州出身で、命からがら帰国した体験を持つ。明るいキャラクターで親しまれた。
◎BYDの軽EV「ラッコ」実質199万円 装備充実、補助金は日本車優位 – 日本経済新聞 →世界一のEVメーカーである中国BYD社が、日本で軽EVを売り出した。価格は補助金込みで199万円。日本では日産、ホンダ、スズキがライバルだが、BYDはニーズがある地方に照準を合わせている。日本でも本格的なEV競争時代になるかどうか。
*** 「今日の名言」(気に入った言葉を探してみましょう)
◎李登輝(中華民国総統。2020年7月30日死去、97歳)
「新渡戸稲造と後藤新平。この2人の日本人が『強い信念と信仰心をもちなさい』と教えてくれた。2人は台湾近代化の恩人であると同時に、私の先生でもある」 「生涯をかけて台湾の民主化を大きく進展させることができたのは、私にとって最大の誇りだと思っている」 「哲学、歴史、倫理学、生物学、科学。ありとあらゆる分野の本を読んだ。高校を卒業するまでに岩波文庫だけで700冊以上は持っていた」 「西田幾多郎の『善の研究』、和辻哲郎の『風土』、ゲーテの『ファウスト』『若きウェルテルの悩み』、ドストエフスキーの『白痴』、トルストイの『戦争と平和』など、私の人生観に影響を与えた本は多い」 「指導者は理想や考えを示すだけではだめで、実践して初めて意味を成す」 「後藤新平が台湾で民政長官を務め、東京市長や満鉄総裁を歴任したように、私も台北市長、台湾省主席の時代に都市経営や農村建設を全力でやってきた。後藤が築いた基礎をもとに、私は新しい台湾を模索し、民主化を促進した」
*** 今週の教養講座(半藤一利の『昭和史』読み解き③)
第3回 「自虐」ではなく「自省の史観」
半藤の昭和史は、日本の失敗を多く取り上げるため、日本を否定的に描く歴史観だと受け取られることもある。しかし、半藤が目指したのは、日本人を断罪することではなく、過去の判断を振り返り、なぜ誤ったのかを考えることである。それは自国をおとしめる「自虐」ではなく、自らを省みる「自省」の歴史観と呼ぶべきだろう。
半藤自身、東京大空襲を経験し、戦争によって死の危険にさらされた。戦後、多くの関係者の証言を集めたが、日本人を特別に邪悪な民族ととらえたわけではない。普通の人間が置かれた状況や組織の力によって、誤った方向へ動いてしまうことを描いた。日本だけの特殊な物語ではなく、どの国でも、どの組織でも起こり得る普遍的な物語である。
『昭和史』から読み取れる最大の教訓は、戦争への道が、ある日突然始まるのではないということである。1度の大きな決断で国家が破滅するのではない。小さな規則違反を見逃す。都合の悪い報告を無視する。失敗の責任を曖昧にする。反対意見を弱腰と決めつける。過去の犠牲を無駄にできないという理由で、さらに犠牲を重ねる。そうした1つひとつの判断が積み重なり、後戻りできない地点へ達する。
日本は、軍部の独走、政治の弱体化、官僚組織の縦割り、新聞の迎合、国民の熱狂、責任の曖昧さが重なった。多くの人が戦争の危険を感じながら、「今さら引き返せない」と考えた。しかし、引き返す機会は何度もあった。満州事変を厳しく処理することも、日中戦争を拡大させないことも、三国同盟を結ばないことも、日米交渉で妥協することも可能だった。ただし、引き返すには、それまでの政策が間違っていたと認め、責任を取り、国民に説明しなければならない。日本の指導者に欠けていたのは、前進する勇気ではなく、誤りを認めて撤退する勇気だった。
昭和史を学ぶ意味は、過去の軍人や政治家を安全な場所から批判することではない。私たち自身も同じ状況に置かれれば、空気を読み、責任を避け、多数派に従うかもしれないと自覚することにある。半藤の歴史は、戦争の物語であると同時に、組織の物語であり、人間の弱さの物語である。そして、その弱さを自覚し、異論を守り、失敗を検証し、引き返す制度をつくることこそが、昭和史から受け取るべき最も重要な教訓といえるだろう。
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~~~ 長谷川塾メルマガ 2026年7月30日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウォッチ(29日/コメントも参考にしながら自分の考えをまとめましょう)
◎熊本 地震 12人死亡 6人心肺停止 少なくとも4人安否不明【熊本県まとめ】 | NHKニュース イオン吉田昭夫社長など会見「3人死亡 1人心肺停止」 | NHKニュース→熊本地震の死者・心肺停止・不明者は20人以上にのぼっている。避難は8800人、停電は3.5万戸、断水8万戸超。イオンの吉田社長が会見し、イオンモールの従業員3人が死亡し、1人が心肺停止と明らかにした。ガス爆発の見方が強まっている。爆発場所に飲食店はないが、ガス管があった。
◎続く断水、給水車に列 停電も、厳しい避難生活―熊本地震被災地:時事ドットコム 冷房のある教室を避難所に 文科省が自治体に通知、活用促す―熊本震度7:時事ドットコム →酷暑に起きた大地震で、救出・復旧作業、避難生活の困難が極まっている。建物が損壊していればゆっくり眠れる場所がない。停電でエアコンが使えず、断水で水を使えない地域も少なくない。熱中症が心配され、時間がたつにつれて体力の消耗も激しくなる。「一刻も早い復旧を」以外の言葉が見つからない。
◎食品の消費税「1%」方針、8月初旬にも閣議決定へ…野党5党が反対で高市首相「問題意識は各党共通」 : 読売新聞 →社会保障国民会議は2年間の食品消費税1%を含んだ中間報告をまとめた。野党5党は反対しているが、選挙で公約した高市首相は減税を閣議決定する。明確な財源は決まっておらず、円安・債券安が見込まれるが、市場がどう反応するか。自民党内にも慎重意見があり、背局にも微妙な影響を与えそうだ。
◎取り調べた女性と不適切関係 元東京地検特捜部検事を懲戒免職 | NHKニュース →不祥事が相次いでいる検察庁。取り調べた女性との不適切な関係は許すわけにはいかず、元東京地検特捜部検事を懲戒免職とした。自民党の裏金事件のキャップでおごりがあったようにも思えるが、最近の不祥事は組織全体で発生しており、構造的な病理があるはずだ。検察から納得のいく反省の弁や行動はない。
◎日本人、1億2000万人割れ 過去最大91万人減―外国人400万人超・総務省:時事ドットコム →日本人の1億2000万人割れは、1984年以来42年ぶり。前年比では東京都以外の道府県すべてで減少している。外国人403万人を加えると、1億2376万人になり、東京都、大阪府、千葉県で増加した。「日本のかたち」が年々変わっている。
*** 「今日の名言」(気に入った言葉を探してみましょう)
◎東野圭吾(小説家。2026年7月23日死去、68歳)
「人は時に、健気に生きているだけで誰かを救っていることがある」 「負け戦なら負け戦でいい。自分の足跡ってものを残してこい」 「どんなに短い人生でも、たとえほんの一瞬であっても、生きているという実感さえあれば未来はある。明日だけが未来じゃない。それは心の中にある。それさえあれば人は幸せになれる」 「ここで辞めたら、これからの人生、いやなことがある度に逃げちゃうような気がして、続けてきた」 「科学には限界はない。だけどそれを理解する人間の能力に限界がある」 「読むよりも書くほうが好きだった」 「書くことは誰にでもできるけれど、評価されるのはその出来映え」 「基本的に物への欲、物欲がない」 「名刺のない時に自分はどんなことができるか、名刺のない自分は何なのか、それを見極めていくことが大事」 「生き抜こうとしない者には奇跡なんか起きないと思え」 「苦労はしたけど結構楽しかった。世界観を作っていく作業がいい」
*** 今週の教養講座(半藤一利の『昭和史』読み解き④)
第4回 半藤史観の限界
半藤史観には限界もある。半藤は人物の証言や組織内部の動きを生き生きと描くことに優れている。そのため、軍人や政治家の性格、会議での発言、派閥関係などが、歴史を動かした要因として強く示される。しかし、日本の戦争を理解するには、個人や組織だけでなく、国際秩序、植民地支配、資源問題、世界恐慌、帝国主義、欧米諸国、アジアとの関係も見る必要がある。日本が国際環境の変化に直面していたことは事実であり、すべてを指導者の判断ミスだけで説明することはできない。4点に整理できる。
第1に、国際政治や構造的要因への視点が比較的弱いことである。昭和前期は世界恐慌によって自由貿易体制が崩れ、各国が保護主義と経済ブロック化を進めた時代でもあった。欧米列強は広大な植民地市場と資源を持ち、日本は資源に乏しい工業国として、その国際秩序の中で不利な立場に置かれていた。日本の選択を理解するには、国内政治だけでなく、当時の国際環境という「構造」の分析も欠かせない。
第2に、経済史的な分析が限定的である。半藤は人物や会議、政治判断を描くことに優れている一方で、産業構造や財政、エネルギー、貿易といった経済的制約については深く立ち入らない。例えば、日本がなぜ石油や鉄鉱石の確保を国家目標と考えるようになったのか、軍需産業と国家財政がどのように結び付いていたのかという問題は、経済史や国際経済学の視点を加えることで、より立体的に理解できる。
第3に、被害と加害をめぐる視点は限定的である。東京大空襲や沖縄戦、原爆投下など、日本国民の被害を丁寧に描いている。一方で、中国や朝鮮半島、東南アジアの人々が日本の侵略によって受けた被害については、本書の主題上、詳しい記述は多くない。昭和史全体を理解するには、中国近現代史やアジア太平洋戦争研究など、他の研究成果をあわせて読む必要がある。
第4に、昭和史を「失敗の歴史」として描くことの限界である。戦争への道を「失敗の連鎖」として描くが、「なぜ当時の多くの知識人や官僚、軍人がその選択を合理的と考えたのか」という問いは、必ずしも十分には掘り下げられていない。歴史を後から見ると、「あの判断は誤りだった」と言うことは容易である。しかし、当時の政策担当者は、不完全な情報の中で決断していた。彼らは誤った判断をしたが、その多くは狂信者ではなく、国家を守ろうと真剣に考えていた人々でもあった。この点を理解しなければ、歴史は単なる「反省録」に終わり、「なぜ誤ったのか」という本質的な問いには届かない。
それでもなお、半藤史観の価値は大きい。国家が破局へ向かう過程を、「制度」ではなく「人間」の側から描いた方法は特筆されていい。歴史は英雄だけが動かすものではなく、会議で沈黙した官僚、空気に流された新聞、責任を回避した政治家、そして熱狂した世論が積み重なって動くことを示したのである。
半藤史観は、昭和という時代を説明するだけでなく、現代の企業経営や行政、民主主義そのものを考える上でも示唆に富んでいる。一方、その視点だけでは歴史の全体像は描き切れないのも事実だ。半藤は「昭和史を終わった過去として読むな」と繰り返し語った。その言葉をさらに発展させるならば、「半藤史観そのものもまた、批判的に読み継ぐべき歴史の一つ」であると言えるだろう。
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~~~ 長谷川塾メルマガ 2026年7月31日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウォッチ(30日/コメントも参考にしながら自分の考えをまとめましょう)
◎高市総理大臣 食料品の消費税率 来年4月から2年間1%に 自民党の臨時役員会で表明 | NHKニュース →高市首相が自民党の役員会で、食品消費税について「来年4月から2年間、1%にする」と表明した。2年後に引き上げるが、それまでの財源は特定していない。日経新聞社説は「責任放棄」、朝日新聞では「無責任」と手厳しく論評している。今後、自民党内の合意、国会での法案成立がハードルになる。円が157円台に急騰した。円安観測に先手を打って市場介入した模様→ NY市場 1ドル=157円台後半まで値上がり 市場介入の観測も | NHKニュース | 株価・為替
◎小渕優子氏が自民税調「インナー」を正式辞任 消費減税に反対(毎日新聞) 河野太郎氏、消費減税に反対 給付による対応主張(共同通信) →自民党内からさっそく減税反対の動きが出ている。きょう意見を聞く場を設けるが、どこまでこうした動きが広がるか。党内実力者の麻生氏と鈴木幹事長は財務相経験者で、本音は慎重とみられる。麻生氏は念願の皇室典範改正が実現し、「アンチ高市」で動く可能性もある。一方、高市首相は選挙公約という大義名分がある。真夏から秋に向けた焦点だ。
◎熊本地震 関連調査中含め34人死亡 県災害対策本部が発表 | NHKニュース →熊本地震の死者が34人になった。直接の被害はさらに増えると思われるが、酷暑による災害関連死が心配される。寝場所、電気・エアコン、水、トイレ、風呂・・・。全国から支援の輪が広がっているが、被災地が平穏な日常生活に戻るのはかなり先になりそうだ。余震も気になる。
◎子どもSNS利用 一律の年齢制限必要か議論継続へ 国の作業部会 | NHKニュース →世界で広がる子どもに対するSNS規制。総務省は「年齢による一律制限は望ましくない」という有識者会議の結論を出したが、今度は子ども家庭庁が作業部会を開いた。総務省は業界の監督官庁だが、ここは子ども家庭庁の意見が尊重されるべきだろう。どこまで踏み込むか。
◎プロ野球 広島カープ 矢野選手と前川選手の自宅など警察が捜索 | NHKニュース →広島カープの薬物疑惑が広がっている。指定薬物を含む「ゾンビたばこ」を使ったとして今年5月、元選手が有罪判決を受けたが、「他にもいる」と証言していた。今回は2選手の自宅が県警の捜索を受けた。五月雨式に疑惑が出ていては、落ち着いて試合もできない。思い切ってうみを出し切った方がいい。
*** 「今日の名言」(気に入った言葉を探してみましょう)
◎杉原千畝(外交官。戦時中、ユダヤ難民にビザを発給。1986年7月31日死去、86歳)
「(独自の判断で6千人以上のユダヤ人難民を救ったことについて)私がしたことは、外交官としては間違ったことだったかもしれない。しかし、私には頼ってきた何千人もの人を見殺しにすることはできなかった。当然のことをしたまでです」 「ユダヤ民族から永遠に恨みをかってまで、旅行書類の不備だとか、公安上の支障云々を口実にビザを拒否しても構わないというのか? それが果たして国益に叶うことだというのか?」 「人間として当たり前のことをしよう。戦争には関係ない女性とか子どもたちだ。人として当たり前のことをしよう」 「外務省から罷免されるのは避けられないと予期していたが、1940年8月31日に列車がカウナスを出発するまでビザを書き続けた」 「世界は大きな車輪のようなものです。対立したり争ったりせずに、みんなで手をつなぎあって回っていかなければなりません」
*** 今週の教養講座(半藤一利の『昭和史』読み解き⑤)
第5回 半藤史観を補完する湛山史観
半藤の「昭和史」が、国内の政治や社会の分析に重きを置き、国際関係や経済の視点に乏しいのは、事実だろう。本の狙いを考えれば、やむを得ないといえる。半藤史観を補完する考え方として、石橋湛山の小日本主義がある。20世紀初頭、帝国主義の風潮で海外領土を拡張する動きが目立つ中、湛山は「海外領土を捨て、貿易で生きろ」と訴えた。
満州事変の15年前の1921年、「一切を棄つるの覚悟」という東洋経済新報の社説で、朝鮮、台湾、満州、樺太、シベリアなどへの権益や、過大な軍備への執着を捨てろと訴えた。領土や権益を広げても、それを守るために軍備が必要になり、軍備を増やせば税負担が増え、国民生活が苦しくなると考えた。国家の名誉や威信を追い求めるあまり、国民の暮らしが犠牲になるのは本末転倒だというのである。特徴は、経済合理性のプラグマティズムに基づいている点にある。軍事的膨張をやめて、財政負担を軽くし、産業や教育に力を注ぐ方が、国民を豊かにする道だと考えた。
同じ年の「大日本主義の幻想」では、次のように書いている。「一体どの国が日本を侵略する恐れがあるのであろうか。以前はロシアだと言った。今は米国にしているらしい。米国にせよ、他の国にせよ、もしわが国を侵略するとすれば、どこを取ろうとするのか。誰も日本の本土を奪いに来るとは答えないだろう。日本の本土は、ただでやると言っても、誰ももらい手はないだろう。そうであるならば、もし米国なり、その他の国なりが、わが国を侵略する恐れがあるとすれば、わが海外領土に対してであろう」。この指摘は現代でも重い意味を持つ。
高市自民党政権は「東アジアの安全保障環境の変化」を理由に、大幅な軍事費増強を掲げる。財源は税金しか考えられないが、国民的合意はまだない。安保環境の変化は事実だが、それがすぐに戦争の危険性に結びつくわけではないだろう。日本の出方によって環境は変わる。対決姿勢を示せば、相手も対決的になる。日本では中国脅威論が強まっているが、中国の本質をどう考えればいいのだろうか。
歴史を考えてみたい。日本と中国の戦争は、過去4回ある。①白村江の戦い(663)②元寇(1274、81)③日清戦争(1894)④日中戦争(1937~45)だ。いくつかの教訓があるが、第1は日中対決というより、ほとんどが第三国に関係した戦争ということだ。①は新羅(朝鮮)、②は南宋、③は朝鮮利権が関係していた。④だけは日本単独の侵略行為だった。現在なら台湾が関係しそうだが、台湾有事は米国抜きには語れない。米国が参戦するのか、日本はどうするのか。台湾のために日米は血を流す合理性や覚悟はあるのだろうか。
第2は圧倒的多数を占める漢民族との対立は少ないということだ。①と④は漢民族だが、②はモンゴル、③は満州族である。漢民族は北方民族の侵入をたびたび受けているが、領土的な拡張志向は歴史的に強くない。漢民族が今後、「武」で戦うか、「文」を使うか、見極めが必要だ。日本の出方も大きく影響する。戦前は中国を侮蔑する風潮が強く、満州から華北へと侵略し、泥沼の日中戦争に至った。いたずらに中国脅威論を叫んでいれば済むわけではない。日中関係は単純な2国間問題ではなく、歴史的にも地理的にも複雑な様相を持っているという認識が不可欠だ。
半藤の「昭和史」は、後世の私たちに歴史の教訓を踏まえて、深く考えるように求めている。通念や常識、思い込みを批判的に検討し、現実をよく見て考えるように警鐘を鳴らしている。社会人、とりわけ世界経済と関係する企業人は、目先の仕事だけに没頭していればいいわけではない。経済安保の風潮も高まっている。アジア太平洋戦争の教訓は、今と将来に生きる社会人の基本的教養である。酷暑の夏に過去と未来を静かに考えてみたい。
