【コメント】 冬の3ヶ月研修を終わって

2024.02.15 研修報告

東証スタンダード上場企業2社の冬の研修が終わりました。「思考力文章講座」の3ヶ月コースですが、3点のコメントをしたいと思いました。作文は単に文を書くことではなく、頭と手を使うことで思考力が向上し、同時に文章力もつく作業です。受講者の感想文やアンケートから、①作文と思考力の関係②研修の波及効果③課題としての継続--について、考察・分析してみました。

①作文と思考力の関係は「確信」

長谷川キャリア文章塾は「書くことは考えること」を基本にしていますが、ほぼ全員が「多くのことを考えるようになった」と答えています。課題は「こんな人生を送りたい」「一番うれしかったこと」という個人、「私が社長ならこうする」「会社と従業員の関係」といった会社・仕事、「日本経済の問題点」「政治とカネ」など時事問題の3分野から出します。長い社会人生活を送っていると、日々の仕事に追われて、自分のことはあまり考えなくなります。せいぜい、退職間近に「これからどうしようか」という程度です。仕事は半径5メートルの思考で根源的に考えず、時事問題も受け身になっています。

3ヶ月研修は「ちょっと待って!もう少し考えましょう」という効果があります。書いていると、脳内で化学変化が起き始めるように感じます。最初は自分の頭に浮かんだことをただ並べている人もいます。講評で「文が冗長なので、書く前にメッセージや構成を考えましょう」と返送すると、次からは工夫の跡が見えます。少し荒っぽい文章には「基本ルールを守って、もう少していねいに」とコメントすると、ほぼ改善します。場合によっては「1文60字まで、接続詞は使わない」とお願いすると、文は見違えるようになります。得意・不得意はどうしても残りますが、作文が思考力のレベルアップにつながっていると実感します。

②作文の波及効果を「確認」

波及効果の最大は、①で書いた思考力の向上ですが、他にもあります。「部下との接し方を再認識した」という感想文がありました。部下の議事録がわかりにくい時には、研修で学んだ「一文を短く」「結論を先に」といったアドバイスをするようになったそうです。その際、書き手と読み手の関係のように適切なコミュニケーションを心がけ、信頼関係を築きたいとしています。

文章への感度が上がったことで、ビジネスパーソンが日常的に使うメールへの関心が高まっています。読み手としての意識が芽生え、部下や他社からのメールを自然と吟味するようになったそうです。以上は、考え方が整理された結果ではないかと考えます。何となく書いていた文章を、考えながら書くことで、自分の思考や視線が明晰になるといえないでしょうか。文章だけでなく、自分に対する眼差しが深まり、他人との関係もていねいに考えるようになったといえます。

時事問題や歴史に対する関心も高まっています。平日毎朝のメルマガによる直接的な効果です。前日のニュースについて、多少角度をつけて一言コメントを書いています。自説を広めようという方針ではなく、あくまで考えるきっかけの提供です。議論をしたり、思考したりするには、起点が必要です。「その通りだ」「いや、違う」といった自問自答が増えていると確信します。その日ゆかりの偉人らの名言は、それぞれ含蓄があります。読んだだけで豊かな気分になる日もあるようです。

③継続こそが課題は「検討」

企業研修は昔からいろいろありますが、人的資本経営やリスキリングが叫ばれる最近は、重みを増しています。座学があり、一定のワークショップがあるのが一般的でしょう。自分の経験も含めて考えると、座学は特定の知識をつける場合には有効でした。ワークショップは普段会えない社員との交流が印象に残っています。しかし、汎用的な力をつけるのには物足りなさが否めません。

今回の研修は3ヶ月続けることに意味があります。受講者が仕事をしながら毎週作文を出すことは、楽ではありません。苦手意識を持っている人はなおさらです。一方、一定の負荷のない研修は、あまり効果がないことも事実です。息抜きにはいいかもしれませんが、頭や体を使ってこそ意味があります。高校の部活動で身につけたスキルは一生ものです。苦しい練習をしたからこそ、身につくのです。最初は大変だと感じても途中から「楽しくなった」という感想も多くなっています。快感といっていいでしょう。

研修の課題は、3ヶ月の効果をどう持続するかにあります。毎朝メルマガは、その後も配信することが可能なので、その気になれば、時事や教養に関する情報をフォローすることもできます。意識すれば、研修で培った感覚を一定程度、維持することもできるでしょう。しかし、高まった意識、プロ意識をキープするには本人の努力や心がけも必要になります。フォローアップ研修などの開発も必要になるでしょう。今後、具体化を検討したいと思います。