令和の「三酔人経綸問答」
「三酔人経綸問答」は1887(明治20)年、自由民権運動家の中江兆民によって書かれた。「経綸」は国を治めるという意味。日清戦争の7年前、日本のあり方について、平和を追求する理想家の「洋学紳士君」、軍備増強や対外侵略を主張する「豪傑君」、現実主義の「南海先生」の3人が、談論風発する形でまとめている。わかりやすく言えば、ハト派、タカ派、現実派の3人だ。防衛費が拡大に向かう今、「令和の経綸問答」を尽くし、一人一人が自分の意見を持つ必要がある。
豪傑君「北朝鮮や中国の動きは大きな脅威だ。防衛費を2倍にしても足りない」
紳士君「2倍にすれば、脅威は減るのか。外交や民間交流なども含めた総合安保こそ必要だ」
豪傑君「甘い。日本と米国が抑止力を強化し、中国による台湾の武力併合を阻止すべきだ」
紳士君「中国を敵視する米国の言いなりではダメだ。日本は中国の本音に迫って独自に動くべきだ」
南海先生「ロシアによるウクライナ侵攻をどう考えたらいいだろうか」
豪傑君「世界は力による支配に向かっている。自国を守る意思のない弱い国は攻撃される」
紳士君「極端だ。ウクライナ侵攻は、長期政権のプーチンの資質、NATOの東方拡大の問題だ」
南海先生「日本に軍事費を2倍にする余裕はあるのだろうか」
紳士君「社会保障や子育て・教育支援を考えれば、余力は乏しい。軍備増強するなら増税は不可避だ」
豪傑君「国防あってこその社会保障で、今は国防最優先だ。増税は厳しい。国債でも賄うべきだ」
南海先生「論点の多さに比べて、まだ議論は少ないようだ。国民の意見も成熟していない」
豪傑君「取り巻く情勢は厳しい。のんびりしてはいられない。平和ボケは日本の悪い癖だ」
紳士君「核や無人機など兵器の殺傷能力の向上を考えれば、今や理想論こそ現実的だ」
南海先生「もっと深い経綸問答が必要なようだ。突っ込んだ現状分析と歴史への洞察が欲しいなあ」
異論封じる「戦争文化」に警戒を
「備えあれば憂いなし」という点で、軍事と防災は似ている。しかし、決定的に違うのは、防災は自然が相手だが、軍事は人間が相手という点だ。仮想敵国との関係次第で、戦争にもなれば、平和にもなる。
戦争は国内の異論を封じることで可能になる。異論にレッテルを貼り、排除し、あおれば、国民は窒息する。しっかりした議論があれば、国は大きく過たない。どんな意見を持つにせよ、経綸問答、多事争論、談論風発の気風こそ、守るべき日本の生命線に違いない。