2023年1月2~6日(教養講座:世界の名演説)

2023.01.07メルマガ

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年1月2日号~~~

あけましておめでとうございます。最初のメルマガです。「人の一生は、重き荷を負うて遠き路を行くがごとし。急ぐべからず」と言ったのは、今年の大河ドラマの主人公・徳川家康です。悲観的な人生観ではなく、苦しみを乗り越えてこそ人生の喜びがある、という肯定的な人生観と言われます。あせらず、地力をつけるべく、前向きにともに頑張りましょう。

*** きょうの時事解説(2023年の国際情勢)

2023年の国際情勢を展望したい。日本は成熟社会になっているので、国内より国際情勢の影響の方が大きい。昨年はロシアのウクライナ侵攻という大きな出来事があった。エネルギーや小麦の価格が上昇し、生活を直撃した。グローバル化した今、海外の激動はすぐ世界各国に波及する。ウクライナ侵攻が今年も最大の関心事となる。 

英国の研究所は昨年11月、「ロシアは10日間で作戦を終え、8月までにウクライナ全土を併合する計画だった」と公表した。ロシアの誤算は、ウクライナ軍の士気と能力が高く、ゼレンスキー大統領が首都にとどまり、西側諸国の支援が予想外に強力だった、といわれる。戦況は膠着し、核兵器の使用も取りざたされ、出口は見えない。今年のどこかで休戦できるのか、泥沼が続くのか、第3次世界大戦に向かうのか。世界経済への影響も極めて大きく、第2次世界大戦後で最大の危機は続く。

米中対立も注目だ。バイデン大統領の民主党は昨年の中間選挙で健闘したが、2024年に控える大統領選の行方も絡んで、政権基盤は安定していない。昨年の共産党大会で異例の3期目に入った習近平党総書記は、一強体制を築いている。ただ、ゼロコロナ政策が揺らいでおり、経済成長が鈍っているため、国内の不満が高まる可能性がある。米中対立は覇権とメンツがかかっており、指導者の意向で大きく左右される。米中の危機管理の知恵も問われている。 

アジアでは北朝鮮の挑発が続く。日本と韓国が協調体制を築き、東アジアの安定を実現できるかが焦点だ。欧州は環境や人権での主導権を引き続き目指すとみられるが、ウクライナ情勢の影響を直接受ける。5月には広島でG7サミット、9月にはインドでG20サミットがある。「人類の英知が問われる年」と言っても過言ではない。

*** きょうの教養(世界の名演説①チャーチル)

今週は、過去の世界の名演説から5編選んで紹介したい。参考文献は「後世に伝える言葉」(井上一馬著)など。

ウィンストン・チャーチルの英国首相就任演説=「私にいま提供できるのは、血と労苦と涙と汗だけであります。我々の政策は、地上でも海上でも空中でも戦争を行うことです。目的は勝利です。我々の大義が人間社会において敗れるはずがないと確信しています」

チャーチル(1874~1965)は1940年、首相に就任し、破竹の勢いで進撃するヒトラーのドイツに立ち向かった。フランスが降伏し、米国は参戦しておらず、戦況は孤立無援だった。悲壮な決意で「イギリス人よ立て」と鼓舞し、米国を巻き込んで連合国勝利の立役者となった。自由主義の道徳性を強調。チャーチルがいなければ、戦後秩序は変わっていただろう。 

名家出身で貴族趣味的だったが、順風ではなかった。軍を経て海軍大臣や大蔵大臣になったが失敗。しかし、戦時の首相に起用されると、断固とした指導力を発揮した。ドイツに勝利すると首相の座を追われた。英国人は戦時指導者としてのみチャーチルを選んだともいえる。

文筆家としても著名で、戦後執筆した「第二次世界大戦」で1953年にノーベル文学賞を受賞した。東西冷戦を「鉄のカーテン」と命名する才もあった。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年1月3日号~~~ 

*** きょうの時事解説(2023年の国内情勢)

きょうは国内情勢を展望する。岸田政権は3年目に入る。昨年7月の参院選までは支持率が安定していたが、安倍首相銃撃とその後の国葬、旧統一協会問題で揺らぎ、閣僚4人の辞任と続いた。これまでなら自民党の次の首相候補を軸に政変もありうるが、安倍派の後継が決まらず、党内でポスト岸田がいない。原発再稼働や防衛費増強など議論先送りの独断で決め、野党から批判の声が上がる。一方、「議論をしても決まらないテーマ。決めてから議論し、必要なら修正すればいい」と岸田流を評価する見方もある。4月の統一地方選が当面の焦点だが、低位安定が続きそうだ。

経済の焦点は賃上げに尽きる。30年前は世界のトップランナーだったが、1人当たりGDPや労働生産性、競争力ランキングなど多くの経済指標で各国に抜かれ続けている。ジェンダー平等や環境の取り組み、デジタル化や人への投資でも立ち遅れているが、国民に危機感が乏しい。今の経営者はデフレ時代のリストラしか知らず、リスクを取らない人たちとも指摘されている。

昨年来の物価高騰で、国民の生活は苦しくなっている。賃金が伸びないのが最大の要因だ。経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国の賃金は、この10年で10%伸びているが、日本はわずか3%。米国は17%も伸びている。非正規雇用によって人件費を下げ、イノベーションは起きず、自助努力と言えない円安で利益をため込んでいるだけの企業も多い。政治的決断で金融緩和を強力に推進した黒田日銀総裁が4月に交代する。利上げの方向は間違いない。「日本はもはや中進国」という危機感を共有し、反転攻勢できるかが問われている。

*** きょうの教養(世界の名演説②ガンジー)

ガンジーの非暴力宣言=「私の信条は非暴力に始まり、非暴力に終わります。悪に対する非協力は、善に協力するのと同程度に重要な義務です。かつて悪に対する非協力は暴力で示されてきましたが、暴力は悪を増殖させるだけです。悪は暴力によってしか維持されないので、悪に対する支援を拒否するには暴力を回避することが求められます」

ガンジー(1869~1948)の書いた記事が動乱扇動罪に問われ、その裁判の最後で宣言した。弁護士だったガンジーは、南アフリカで差別と戦い、インド帰国後は英国による植民地支配からの独立運動に身を投じた。非暴力・不服従を掲げる人権活動家として、世界的な人物になった。

1930年の「塩の行進」が有名だ。インド人が塩を作ることを禁じられていたが、抗議のため300キロ以上離れた海までの行進を始め、大きな運動となった。

戦後の1947年、英国から独立した。しかし、パキスタンを分離され、ヒンドゥー教とイスラム教の対立が激しくなった。ガンジーは宗教的な寛容を説いたが、狂信的なヒンドゥー教徒に暗殺された。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年1月4日号~~~

*** きょうの時事解説(2023年のスポーツ)

スポーツを展望してみたい。2022年は冬季五輪やサッカーワールドカップがあったが、今年は3月8日からの野球ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)と9月8日からのラグビーワールドカップが関心を集めそうだ。今、明るい話題はスポーツくらいしかないという声もある。世界で通用する若い人材が輩出しており、傑出した才能を生み出し、育てていくノウハウも注目されている。

WBCは2006年に始まり、ほぼ4年ごとに開催されている。これまで4回で、日本は1、2回大会に優勝、3、4回大会はベスト4だった。栗山元日本ハム監督が指揮する「栗山ジャパン」の活躍に期待が集まっている。大リーグエンジェルスの大谷翔平は、日本ハム時代の栗山監督に二刀流として育てられており、大会への参加を表明している。毎回、予想以上の盛り上がりを見せており、日本が加わる組の予選リーグは東京ドームで試合を行う。

大リーグでは、昨年15勝、34本塁打、打率.273の記録を残した大谷が、どこまで進化するか楽しみだ。日本のプロ野球では、実力伯仲のパ・リーグは今年も混戦模様。セ・リーグは地力をつけるヤクルトに伝統の巨人や阪神がどう迫るか。若き三冠王となったヤクルト村上の打撃、日本ハムの新球場も話題だ。

ラグビーワールドカップは1987年に始まり、4年ごとに開かれている。最多優勝は南アフリカとニュージーランドの各3回。日本で開催された前回、日本は強豪のアイルランドやスコットランドを破り、初めてベスト8に進出。準々決勝で、優勝した南アフリカに敗れたが、ラグビー人気が盛り上がった。日本の今大会の目標は「ベスト4」。日本は現在、世界ランキング10位。予選は「グループD」で、5位で前回準優勝のイングランド、8位のアルゼンチン、11位のサモア、22位のチリと戦い、上位2位が準々決勝に進む。日本の社会人ラグビーは昨年、「リーグワン」の新リーグを誕生させた。どこまで底上げにつながっているかも問われることになる。

*** きょうの教養(世界の名演説③マンデラ)

1994年、ネルソン・マンデラの南アフリカ大統領就任演説=「黒人も白人も、人間の尊厳に対する絶対的な権利に確信を抱いて歩ける社会を築き上げる誓いを立てます。自由な道が平たんではないことはわかっています。二度とこの美しい国が、人を抑圧するのを目撃しないようにしようではありませんか。自由を行き渡らせようではありませんか」

黒人を差別・弾圧するアパルトヘイトを国策としていた南アフリカは、1989年の冷戦崩壊後、旧宗主国の西側諸国からも厳しく非難された。白人のデ・クラーク大統領は、政府によって27年間も投獄されたマンデラ(1918~2013)らを解放。史上初めて全人種で行われた選挙で、マンデラは大統領に選ばれた。

マンデラは黒人の優位を唱えるのではなく、人間の尊厳を尊重した融和社会の確立を切々と訴えた。ガンジーの非暴力の教えにも影響を受け、自らの長い苦悩の経験から言葉を選んで呼びかけた。アフリカの黒人独裁政権の惨状にも通じていた。マンデラとデ・クラークはノーベル平和賞を共同で受賞した。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年1月5日号~~~

*** きょうの時事解説(2023年の世界10大リスク)

米国のシンクタンク「ユーラシア・グループ」が3日、今年の世界10大リスクを発表した。メディアにもしばしば登場する国際政治学者のイアン・ブレマー氏が率いる機関で、毎年発表しており、的中することも多い。「今年は景気交代の真っただ中にあり、リスクはグループ設立以来の25年間でもっと危険」と警告している。5日正午に同グループHPで日本語でも公開する。

1位に「ならず者国家ロシア」をあげた。ロシアは昨年2月以降のウクライナ侵攻で孤立し、軍事的な有効な反撃手段が残されておらず、停戦の選択肢も持っていないことから、核兵器やサイバー攻撃で欧米諸国への威嚇を強めるとみている。昨年は5番目にロシアをあげ、「米国とロシアの関係はぎりぎりの不安定の状態にある。西側諸国からNATOの東方拡大で譲歩を得られなければ、軍事作戦の可能性がある」と予測していた。

2位は「強大化する中国の習近平政権」。異例の国家主席3期目に入り、国内では異論をはさめない状態になっており、間違いを犯すリスクが高まっていると予測。ゼロコロナ政策の緩和で混乱が広がっていると分析している。昨年のリスク1位は、「中国のゼロコロナ政策の失敗」をあげており、的中した。習政権は、共産党への政治的批判ではなく、市民生活の混乱や不満によって影響を受ける構造にある。

3位は「テクノロジーによる社会混乱」で、人工知能やソーシャルメディアの普及でフェイクニュースが拡散され、今年はスペインやパキスタンの総選挙で影響が出るとみている。以下、4位は物価高騰、5位は追いつめられるイランを予測している。続いて、6位エネルギー危機、7位途上国への成長打撃、8位米国の分断、9位デジタルネイティブ世代の台頭、10位水不足となっている。経済面の不安要素も多い。

*** きょうの教養(世界の名演説④ルーズベルト)

ルーズベルト米国大統領の対日宣戦布告=「1941年12月7日、この日は長く汚名を着ることになるであろう。合衆国は日本と平和的関係にあり、平和の維持を目指して交渉中だった。オアフ島への爆撃開始1時間後に駐米日本大使から回答を受け取ったが、戦争に関する示唆は含まれていなかった。日本からハワイへの距離を考えるなら、何日もいや何週間も前から計画されたことは明らかと歴史に記録されるだろう。アメリカ国民は正義の力で全面的な勝利に至るまで勝ち抜く」

日本は真珠湾を攻撃し、対米戦争に突入した。日本人としては名演説とすることに複雑な思いは残るが、ルーズベルト(1882~1945)の「リメンバー・パールハーバー」は米国人を奮い立たせた歴史的演説となった。米国の参戦を英国のチャーチル首相が最も喜んだとされる。

2人は同年8月、戦後の英米の目標を大西洋憲章として宣言した。領土不拡大や民族自決、国際協調などを8か条でまとめ、連合国が勝利した戦後の重要な指針となった。日本との先見性の差は大きなものがある。敗戦から何を学ぶかは、永遠の日本の課題でもある。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年1月6日号~~~

 *** きょうの時事解説(ソニーとホンダがEV車を発表)

ソニーグループとホンダが4日、共同開発した電気自動車(EV)のコンセプトカーを発表した。ブランド名は「AFEELA(アフィーラ)」。車内にはディスプレーが並び、映画や音楽、ゲームを楽しむことができ、「車の中で遊ぶ時代」を先取りした車になっている。両社は戦後創業した日本を代表するベンチャー企業で、創業者の井深大と本田宗一郎は親友だった。一昨年発表された両社の提携は話題を呼び、日本発のイノベーションが注目される。

両社は共同出資する「ソニー・ホンダモビリティ」を設立しており、米ラスベガスで開かれる世界最大の技術見本市「CES」を前にした記者会見で発表した。2026年に米国で販売する予定で、半導体部品では米大手クアルコム、ゲームでは同エピックゲームズと協業する。日本では同年末に販売する方針。ブランド名について「センサーと人工知能の技術を用いて人と社会を感じ取ることを表した」としている。

日本の製造業は1980年代、米国と激しい経済摩擦を起こすほど強力だった。しかし、バブル崩壊後、ソニーが属する電機業界を中心に新興国に追い越され、今はかろうじて自動車産業が競争力を保っている状態だ。しかし、地球温暖化問題をきっかけに多くの国や企業がEVにシフトし、勢力図の激変期を迎えている。ハイブリッド車に強いトヨタ自動車は完全なEVシフトに反発し、なだらかな移行を模索しているが、ホンダはEVシフトを鮮明にしている。

*** きょうの教養(世界の名演説⑤ハヴェル)

ハヴェルのチェコスロバキア大統領就任演説「我々は全体主義に慣れてしまい、その体制が続くのに手を貸してきたのです。全員がその加害者でもあるのです。私は自由で民主的な共和国を夢見ている。経済的に繫栄し、社会的正義が貫かれている。個人に奉仕し、個人もまた国に奉仕したいと望み、人道にかなっている。幅広く豊かな才能のある人々からなら共和国だ。そうした人がいなければ、人間の問題であれ、経済、環境、社会、政治の問題であれ、解決することはできないのです」

ハヴェル(1936~2011)は劇作家で、反体制作家として共産党政権に3度投獄された。1989年、ビロード革命と呼ばれた無血革命の中心となり、大統領に就任。1990年1月に就任演説をした。文化人らしい格調と深みのある表現が特徴的だ。

当時、「あり余る自由を前に何をなすべきか定かではありません。韻文の世界が終わり、散文の世界が始まるのです。祝祭が終わり、日常が始まるのです」と述べていた。チェコとスロバキアの分離に直面し、最終的にチェコ大統領となった。文化や多様性、人間らしさを重視し、精神的堕落こそ国家の最大の危機だと説いた。偉業を偲んで国葬が営まれ、国際空港の名前にもなっている。