1月9~13日(教養講座:ジェンダー平等)

2023.01.14メルマガ

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年1月9日号(転送禁止)~~~

*** きょうの時事解説(エーザイがアルツハイマー治療薬発表)

国内製薬大手のエーザイが、米バイオジェン社と共同開発したアルツハイマー病治療薬について、米当局が条件付きで使用許可の迅速承認をした。米国では年内の正式承認を目指す一方、日本や欧州、中国でも申請する方針。認知症は世界で5000万人の患者がおり、アルツハイマー病が6割を占める。介護など関連医療費は高額に上っており、本格的な治療薬として期待が高まっている。

新薬は「レカネマブ」で、軽度の早期患者向け。原因物質の一つとされるたんぱく質「アミロイドベータ」を脳内から除く効果が評価された。症状の悪化スピードを27%緩やかにするという。両社は2021年に同様の新薬を開発したが、治験データが不十分で価格も高かった。「レカネマブ」の薬価は、1日1万円弱で、保険適用になれば同1400円程度と見られている。

エーザイは内藤家が創業した同族企業で、アルツハイマー治療薬で先行し、抗がん剤では米メルク社と大型提携している。「ヒューマン・ヘルス・ケア」(hhc)をスローガンに全社員に就業時間の1%を患者と過ごすことなどを推奨する「hhc活動」を展開している。今回の新薬では、この薬を使えるかどうかの患者向けの検査が高額で、まれに重い脳出血などのリスクも指摘されており、正式承認に向けた課題となる。投資家には休み明けの株価が注目。

*** きょうの教養(ジェンダー平等①ジェンダーとは)

今週はSDGs(持続可能な開発計画)で5番目の目標になっている「ジェンダー平等を実現しよう」を考える。男性主導社会が長く続いてきたことから、ジェンダー平等に対する意識の差は、世代や個人、国によって非常に大きい。

ジェンダーは、「社会的・文化的性差」で、社会や文化によって決まる男女の違いを指す。服装や髪形、家庭や職場での役割や責任の違いなどがある。長男が実権を握る家父長制や、「男は外で働き、女は家庭を守る」という性別の役割分担は、工業化した近代特有の現象と言われ、多くの人の行動や意識を規定してきた。「ジェンダー平等」は、こうした性差に基づく差別や偏見をなくすことだ。

ジェンダー平等が必要な理由の第1は、あらゆる人間は平等という普遍的理念に由来する。第2は、どんな国でも社会をよくするために女性の力が求められている背景がある。女性差別をなくすことで、大勢の人が働いて持続可能な社会となり、経済成長も期待される。女性が生きやすい社会は、男性にとっても暮らしやすい社会といえる。戦争や過度な経済競争、環境破壊は、「強さ」を重視する男性主導社会の負の遺産と言われる。長く社会に根差した観念を変えることなので、息の長い取り組みが必要になる。

男女格差を示す主な数値は二つある。「ジェンダーギャップギャップ指数」(GGI)は、世界経済フォーラム(スイス)が発表している。2019年の調査で格差の少ない上位は北欧で、日本は121位と大きく遅れている。「ジェンダー不平等指数」(GII)は国連開発計画(UNDP)が発表している。2018年調査では、欧州各国が上位で、日本は23位。前者が低いのは国会議員数など政治面での項目が入っており、後者は健康や教育で指数が良好になっているためといわれる。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年1月10日号(転送禁止)~~

*** きょうの時事解説(中国がゼロコロナ政策を転換)

中国政府は8日、中国本土に入る際に義務付けていた隔離措置を撤廃した。新型コロナウイルスの感染防止のため、直近では8日間の隔離が必要だった。習近平政権が中国の優越性を示すと自賛してきた「ゼロコロナ政策」の事実上の終了だ。感染拡大を世界に広げる心配を生みそうで、引き続きコロナ政策が中国を見るリトマス試験紙になる。

2020年以降、入国者には最長3週間の隔離措置を求め、中国への出入国は極めて限られていた。今後、出入国者が激増するのは確実だ。22日から人の移動が活発になる旧正月の春節となるが、海外にいる中国人の帰国が増えそうだ。中国国内では12月上旬から規制が緩和され、その結果として国内での感染が拡大している。「今冬には感染者が10万人を超える」という観測もある。感染爆発の懸念が世界に広がり、日本など先進各国は中国からの渡航者に陰性証明を求めるなど警戒を強めている。

コロナ対策は、国家主席3期目に入った習近平政権の将来を占うとされてきた。中国内で厳しい規制に対する不満が高まり、市民が白紙を掲げて政策変更を迫った時、面子にかけて強権的に抑え込む見方もあったが、規制の緩和に動く柔軟さを見せた。一方、中国国内の感染拡大について、感染者数や死者数、変異株の出現可能性などの情報公開は限られる。感染爆発も予想されることから、先進各国の不満も高まっている。コロナ政策は中国の大きな焦点だ。

*** きょうの教養(ジェンダー平等②世界の実情は)

「ジェンダー平等を実現しよう」の2回目は、世界の実情を考えたい。SDGsは、国連が進めており、常に世界全体の状況を考えているが、途上国を中心に深刻な現状があることがわかる。

「女性の役割は家事や出産、子育て」「女性の仕事は畑仕事など家の周りでやれることだけ」といった考え方は世界各地に根強く残っている。SDGsのジェンダー平等のターゲット(具体的目標)には、人身売買や性的搾取、女子に対する暴力の禁止が盛られている。未成年者の結婚、強制結婚、女性器切除など有害な慣行の撤廃もある。女性器の一部を切り取る行為は「FGM」を呼ばれ、一部アフリカ諸国では文化的慣習としてまだ続いている。

背景にある大きな要因が貧困だ。水道がなければ、池や川から水を運ぶ役割は女性や子どもの役割とされる。電気やガスのない地域ではより深刻で、食事のしたくが大きな負担になっている。子どもが水くみなどで学校に行けず、教育がしっかりできなければ、差別や偏見が残りやすい。学校にトイレがなく、女子が登校しない地域もある。

開発途上国では女性がたくさんの子どもを産む例が多い。水くみや家事を手伝う労働力として期待しているためだが、1歳未満で亡くなってしまう確率が高い事情もある。歴史的に見れば、日本も似たような道をたどってきた。根強い男尊女卑の風潮は薄らいでいるとはいえ、まだ各国でかなり残っている。ジェンダー平等は各地の文化や歴史も含めて考える必要がある。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年1月11日号(転送禁止)~~~

*** きょうの時事解説(ブラジルで議会など襲撃)

ブラジルの首都ブラジリアで8日、昨年10月の大統領選で落選したボルソナロ前大統領支持者が、議会と大統領府、最高裁判所を襲撃した。2021年1月には米国でもトランプ前大統領支持者が連邦議会を占拠した。ボ前大統領は「ブラジルのトランプ」と呼ばれているが、世界各国で極端な主張を掲げる勢力が台頭し、政治的な分断が目立っている。中間層の復活による穏健勢力の伸長が問われている。

昨年の大統領選では、50.9%の得票率を獲得したルラ氏が当選し、大統領に今月就任した。ボ前大統領支持者は、「大統領選の電子投票に不正があった」と訴え、暴徒化した。約4000人が加わり、建物を一時占拠したが、数時間で鎮圧された。1500人が逮捕される見通し。ルラ大統領は「狂信者たちが行ったことは前代未聞。厳しく罰する」と会見で述べた。ボ前大統領も「平和的な行動は民主主義の枠内だが、公共施設の破壊的行為は例外だ」と非難した。ボ前大統領は訪問先の米フロリダ州で、腹部に異常があるとして入院した。

ボ前大統領は元軍人の右派で、銃規制の緩和など保守派向けの政策を実行し、左派との対立をあおる言動を繰り返してきた。米欧では経済のグローバル化に伴う産業再編で中間層の没落が進み、民主主義を支える基盤が弱くなっている。極端な政策を掲げる極右が台頭し、リベラル勢力や左派との分断が深まっている。ドイツでも陰謀論を信じた極右勢力が政府転覆を図ったとして昨年12月に首謀者が逮捕された。

*** きょうの教養(ジェンダー平等③先進国の現状は)

「ジェンダー平等」の3回目は、先進国の現状をみたい。

2019年のジェンダーギャップ指数(GII)によると、男女差別が少ない1位はアイスランド、2位ノルウェー、3位フィンランド、4位スウェーデンと続く。すべて北欧だ。経済、教育、政治、健康の4側面から判断しているが、日本は153か国の中で121位にとどまっている。

「働く女性インデックス」(PwC社、2017年)によると、経済協力開発機構(OECD)加盟29か国で、女性に力を与えているエンパワー指数の1位はアイスランドだ。さらにスウェーデン、ニュージーランドと続き、日本は下から3番目の27位と低い。どの調査でも北欧が高く、続いてその他の欧州各国や米国が続き、日本はじめアジア各国は低い傾向がある。

アイスランドでは国会議員の約半数は女性で、赤ちゃんに授乳しながら質問することもある。50人以上の企業では女性管理職を4割以上にすることが義務づけられている。差別解消には法的措置が重要という考えだ。ヨハネンソン大統領は2022年12月、新聞のインタビューで「半世紀前はアイスランドも男性中心の社会だった。でもジェンダー平等の利点と公正さに気づくと変化は早く進んだ。国際社会の中で競争力を持ちたいのなら一部の人を排除することはできない。ジェンダー平等は公平さ公正さに加え、経済発展や幸せな生き方に関わり、進める意義がある」と語っている。

かつて各種の経済指標で世界のトップクラスだった日本はここ30年間、多くの国に追い越されている。その背景の一つとして、ジェンダー平等が進まず、生産性が落ちていることが大きな要因という指摘がある。「女性活躍」や「一億総活躍」のキャッチフレーズで各種の政策が打ち上げられたが、まだ実を結んでいない。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年1月12日号(転送禁止)~~~  

*** きょうの時事解説(ユニクロが賃上げ宣言)

ユニクロのファーストリテイリング社は11日、3月から国内の人件費を15%増やすと発表した。このニュースは、同日朝の日本経済新聞が特報として1面トップで詳細な内容を伝えた。同社サイドとして、関心が高まっている賃上げを社会に強くアピールしてブランド力の向上を図り、社会貢献を重視する柳井正社長の存在感を示す狙いもあると見られている。

約8400人を対象に年収を数%から最大40%引き上げる。月25.5万円の新入社員の初任給は30万円に引き上げる。2000年ころに導入した今の賃金制度では初めての全面的引き上げとなる。同社は世界3位のアパレル企業で、人材を確保するため、欧米の従業員の賃金は国内に比べて高くなっている。今回の引き上げは、グローバル水準にする狙いもある。

ロシアのウクライナ侵攻後、電気料金や小麦価格などが上がり、円安による輸入物価の上昇も手伝って、日本の実質賃金の低さが大きな問題となっている。日本企業は内部留保を優先させて人への投資を怠り、その結果として労働生産性が伸びず、各国との競争に敗れているという見方が高まっている。岸田政権も賃金引き上げを強力に求め、連合も5%程度の賃上げ実現を目指している。ユニクロの大幅賃上げがどこまで他企業に波及するか注目される。

追加:静岡新聞が3月末で夕刊を廃止すると発表した。地方紙の中で紙面的な評価は高くないが、合理的な経営で知られ、土曜夕刊をいち早く廃止している。経営難に苦しむ新聞業界としては大きなニュースで、追随する新聞社も出そうだ。

*** きょうの教養(ジェンダー平等④日本の男女格差は)

「ジェンダー平等」の4回目は、日本の男女格差を考える。先進国の中で日本は、「女性が一生働きにくく、男女差別が最も残る」と指摘されている。日本はここ30年、1人当たりGDPや労働生産性、賃金などの経済指標で多くの国に抜かれている。ジェンダー平等への取り組みの鈍さが一因だ。

2018年のジェンダー不平等指数(GII)で、日本は162か国中23位と悪くない。算出の基準が、妊産婦死亡率、国会議員の進学率、女性の就労率で、日本に有利な分野になっているからだ。しかし、ジェンダーギャップ指数(GGI)は、2019年で153か国中121位と低い。国会議員や企業での女性の進出度が低いことが大きな要因で、「諸外国が男女平等を進めている時、日本は何もしなかった」と言われる。西欧各国では女性の議員や会社役員を増やすために割当制を義務づけた例もある。「ポジティブ・アクション」と呼ばれる一時的な支援はかなり有効な制度だ。

男女平等は普遍的な人権の課題と考えるべき時代になっている。日本は国際比較の順位がどうなろうが、平等に向けて努力することが求められている。内閣府の男女共同参画に関する調査では、「女性は家庭を守るべき」という意見に賛成の割合は、2014年の45%が2019年には35%に下がっている。「考え方が変わりつつある」といえるが、「まだ不十分」ともいえる。

意識の面では明治期にできた家父長制の影響も根強く、多くの企業は依然として強さが重視される男社会だ。男女の賃金格差、女性の非正規労働の多さ、子育て支援の貧弱さは、日本の大きな問題だ。「働く夫と専業主婦」を前提とした税制、年金、社会保障、雇用など制度の壁もある。男女対立にならず、対話をしながら男女ともに暮らしやすい社会をつくる姿勢が必要だろう。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年1月13日号(転送禁止)~~~

*** きょうの時事解説(日米防衛協議で共同対処を確認)

日米両政府は、ワシントンで外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開き、相手のミサイル拠点を攻撃する「反撃能力」(敵基地攻撃能力)について、日米が共同で対処すると確認した。岸田首相が昨年来打ち出してきた反撃能力や防衛費増の方針は、米国時間13日に開かれる日米首脳会談を照準にしてきた。日本国内では議論不足を指摘する声が少なくないが、着々と既成事実化していく。

外務・防衛大臣が参加する同協議は、オンラインによる2022年1月以来。オースティン国防長官は反撃能力の保有を「強く支持する。自由で開かれた地域秩序を維持するために不可欠だ」と明言。共同文書で軍事活動を含む中国の動向を「最大の戦略的挑戦」と位置付けた。宇宙空間を米国の対日防衛義務の対象とする方針でも一致。サイバー分野で日本は、サイバー攻撃の兆候段階でも相手を監視、侵入などで対処する「能動的サイバー防御」の導入を決めたが、米は歓迎しサイバー防衛の協調をうたった。

歴代の自民党政権にとって、米国との協調は政権維持のための最優先事項だ。覇権が揺らぐ米国は近年、日本に対して防衛能力の肩代わりを強く求め、自民党政権も一貫して応じている。ロシアのウクライナ侵攻で世界秩序が揺らいでいる中、西側陣営の日本が米国と協調するのは現実的選択だが、ロシア制裁をめぐって世界は、西側諸国、ロシアに近い中国やイラン諸国、様子見をする諸国にほぼ3分されている。米国との距離感の差が反映されており、日本は多様な世界の現実を踏まえた上での米国との協調が問われている。

*** きょうの教養(ジェンダー平等⑤何をすべきか)

「ジェンダー平等」の最終回は、男女差別をなくすために何が求められ、個人がどうすればいいか、を考える。

ジェンダー平等は国連が主導してきた。SDGsの前身である「MDGs」では、8つの目標のうち、ジェンダー平等の推進、幼児死亡率の引き下げ、妊産婦の健康状態の改善と3つも盛られたが、十分に改善しなかった。2015年にSDGsに引き継がれたが、2030年までの達成は危ぶまれている。

世界的に重要とされているのが、識字率の向上だ。男性に対する女性の識字率の割合で、中国は90%台、インドは80%前後、アフリカには75%以下の国も多い。教育の充実で識字率を上げることが格差解消の大きな対策と言われている。

日本国民としては、世界と日本の現状をまず知ることが大切だ。貧困、教育、健康、人権、災害をキーワードに国内外の男女格差を考えたい。日本では高度成長期に女性の社会進出が始まり、1986年に男女雇用機会均等法、1999年に男女共同参画社会基本法が制定された。しかし、平等には遠い。男女の賃金格差、女性の非正規雇用の割合の高さをまず改善する必要がある。

知識を深め、周囲の人と対話することも意義がある。ジェンダー平等を目的に活動し、寄付を募っている団体もある。若い人はボランティアをして肌で感じ、将来を考えることも有益だろう。男女対立にならず、ジェンダー平等が男性にも女性にも住みやすい社会を作り、経済成長によって豊かな社会につながるというコンセンサスも必要だ。