財政を考える(2023年1月23~27日)

2023.01.27教養講座

*** きょうの教養(財政①全体のフレーム)

今週は「財政」について考えたい。日本は高齢化で社会保障政策の重要性が増しているが、新年度からは防衛費も増える。「政府はこうすべきだ」と主張するのは主権者として当然だが、国の台所事情を知らないと、空理空論になる。「負担と給付」や「防衛」のあり方について、国民一人一人が自分の意見を持つ必要がある。

2023年度の政府予算の総額は、114.3兆円。歳入の内訳は、税金が69.4兆円、公債金(借金)が35.6兆円だ。自前の収入である税金で賄っているのは60%しかない。バブル絶頂期の1990年度には税金が86%もあった。日本経済の低迷で税収が伸びず、借金で各種の政策を実行したためだ。

一方、歳出をみると、最も大きな額は社会保障費で36.8兆円。防衛関係費は安全保障環境の変化を理由に10.1兆円で、前年度比89.4%増の突出的な伸びを見せた。 借金返済にあてる国債は25.2兆円にのぼっている。バブル崩壊後、リーマンショックや新型コロナウイルスなどへの対策で借金を増やす一方、既存の支出を十分削らなかったからだ。国債費は今後さらに増え、金利が上がればもっと増える。

日本の借金残高は、先進国で飛びぬけて多い。国民総生産(GDP)比でみると、1997年度は最悪のイタリアをわずかに下回っていたが、今ではイタリアの2倍になっている。すべての政策を考える場合、この現実を知る必要がある。財政や社会保障に関するデータは、財務省や厚生労働省のHPに多く載っている。

*** きょうの教養(財政②歳入)

財政の2回目は、「歳入」について考える。財政には聞きなれない言葉も多く、戸惑うかもしれない。しかし、財政の知識がないと、政策議論が不正確になるので、最低限知っておきたい。

歳入の大きな柱は、税金と借金(公債金)だ。今年度の税収総額は69.4兆円だが、内訳は3つの税金が大半を占めている。何か買った時に払う「消費税」が23.3兆円、個人の給料などにかかる「所得税」が21.0兆円、企業のもうけにかかる「法人税」が14.6兆円だ。消費税は1989年に導入された新しい税金だ。税率は当初3%だったが、今は10%になった。欧米では税率がもっと高く、日本でも常に引き上げの議論がある。

借金は政府が国債を発行し、日銀や金融機関などから借り入れる。法律上は、橋や道路など国の資産のために借り入れる「建設国債」しか認められていないが、石油危機の1975年度から不足分を穴埋めする「赤字国債」を特例で認めた。赤字国債はバブル期には発行されなかったが、その後の不況でどんどん増え、2020年度にはコロナ対策で86兆円も発行した。新年度は35.6兆円だが、借金依存は変わらない。

*** きょうの教養(財政③歳出)

財政の3回目は「歳出」をみていく。歳出全体は114.3兆円で、最大の項目は「社会保障費」の36.8兆円だ。福祉国家の建設、高齢化でどんどん膨らんでいるが、詳しくは4~5回で考える。

次に大きいのは、借金の返済に充てる国債費の25.2兆円。歳出の2割強を占め、重い負担となっている。最近の金融緩和で利払い費が抑えられているが、金利が上昇すればすぐに跳ね上がる時限爆弾のような存在だ。

3番目は地方自治体を支援する「地方交付税交付金」で16.3兆円。人口減や地方経済の低迷で地方財政も苦しくなっている。2022年度までは「公共事業費」の6兆円が続いたが、2023年度は防衛関係費が前年度比9割近く伸びて10.1兆円に跳ね上がり、公共事業費を抜いた。防衛費の急増は、中国の台湾侵攻、ミサイル実験を繰り返す北朝鮮、ウクライナに侵攻したロシアの動きなどを念頭に、米国との同盟を強化し、中期的に共同抑止力を高める狙いだ。国債か増税かといった財源論議は決着していない。

公共事業費は道路や橋を作るための費用だが、今後はインフラの老朽化が大きな問題となり、補修や維持管理に多く使われる見通しだ。文教科学振興費は5.4兆円。人への投資で教育予算の拡大を求める声は多いが、防衛費増額の影響も受けて横ばいだ。 

*** きょうの教養(財政④社会保障費)

財政の4回目は社会保障費を見ていく。総額36.8兆円で、内訳は「年金」13.0兆円、「医療」12.2兆円、生活保護や少子化対策など「福祉」が7.8兆円、「介護」は3.6兆円となっている。このうち年金と医療、介護は、当該者の払う保険料を加えて事業を実施しており、今回の金額は国が支出する国費のみだ。

保険も含めて社会保障に給付する総額(2022年度)は、131.1兆円。内訳は年金58.9兆円、医療40.8兆円、介護13.1兆円など。いずれも巨額だ。

日本の平均寿命は世界最高水準にある一方、高度成長期に2以上だった出生率が、1.3程度まで下がり、世界でも例を見ないスピードで少子高齢化が進んでいる。制度を将来も持続できるようにするため、毎年のように手直しをしているが、追いついていない。特に年金に対する国民の不安は根強い。少数の若者が高齢者を支える不安定な構造になっている。支給開始年齢の引き上げや高齢者の就業促進などの手を打ってきたが、不安は消えていない。

医療費への支出は高齢化で毎年1兆円近く増え、地域で大きな差がある。1人当たりの入院治療費をみると、最も多いのは鹿児島県の37.5万円、少ないのは静岡県の22.1万円。病床数の多い県ほど医療費が高くなる。静岡県は効率的な医療を提供していると言えるが、患者にとっての功罪はわからない。

*** きょうの教養(財政⑤防衛費)

財政の最後は「防衛費」を詳しく見てみたい。 突出した伸び率を示した防衛関係費は10.1兆円で、前年度当初比89.4%増だ。米巡航ミサイル「トマホーク」の購入、専守防衛に抵触すると歴代政権が説明してきた敵基地攻撃能力の長距離ミサイルを「反撃能力」と言い換えて配備する。取得数は明らかにしていない。長距離ミサイル保有は米政権が期待し、水面下で日本に保有を働きかけてきたと言われる。  

安全保障環境の変化でこれらは本当に日本に必要か、それとも専守防衛の枠を踏み越えて中国との軍備拡大競争にはまり込む可能性があるのか。議論が必要だ。防衛費の突出について、元自衛隊現場トップは「身の丈を超えていると思えてならない」と発言している。日本は高齢化で年金や医療費などの増加は避けられない。少子化や子育て対策、教育への投資も迫られており、現状は身の丈を超える財政状態になっている。          

日本は最近のコロナ対策など膨らむ財政需要を増税ではなく主に国債増発でまかなってきた。多くは日銀が引き受け、昨年12月の発表では国債残高の半分を日銀が保有する異例の事態になっている。第二次世界大戦で戦費調達を日銀に依存し、戦後混乱した反省から、日銀の国債引き受けに厳しい制約を課してきた。社会保障や防衛費のあり方は、どんな政策を選択するにせよ、厳しい財政事情に対する国民的な合意が必要だ。