1月23~27日(教養講座:財政を考える)

2023.01.28メルマガ

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年1月23日号(転送禁止)~~~

今週から時事解説は、「きょうの1本」と「注目1行ニュース」を掲載します。「きょうの1本」はその日伝えたい主要ニュース、「注目1行ニュース」は押さえておきたい事実や今後注目の動きを紹介します。本数は日に応じて違います。時事解説を充実する狙いです。

*** きょうの時事解説

今日の1本 「転換期迎えた米IT大手」

世界のIT業界をリードする「GAFAM」(ガーファム)と呼ばれる大手で、大規模な人員削減が広がっている。無料検索サービスで個人データを集めて事業化するなど日本人の発想を超えたビジネスでここ20年世界を引っ張ってきたが、急成長は終わりつつある。コロナの一服も響いている。産業革新の次の大波に注目が集まる。

マイクロソフト、アマゾン、メタ(フェイスブックなど)、グーグルがそれぞれ1万人を超す人員削減を決めた。ツイッターもテスラのイーロン・マスク氏が経営者に就任し、従業員を半減させ混乱している。巨大な影響力を警戒する欧州当局などの規制強化もあり、拡大路線は踊り場を迎えている。ただ、優秀な技術者を多く抱えており、企業規模はなお大きい。反転攻勢に出るか、成熟企業になるかの分かれ目に来ている。

◎注目1行ニュース

・「ドイツ製戦車供与が焦点」 ウクライナ反攻のための「レオパルト2」供与について、ドイツが慎重な姿勢を示し、西側各国の足並みが乱れている。西側の一致に注目。

・「関東連続強盗事件に恐怖」 東京都狛江市など関東一円で凶暴な事件が起きている。SNSを利用した複数犯による犯行で、警察力が試されている。

*** きょうの教養(財政①全体のフレーム)

今週は「財政」について考えたい。日本は高齢化で社会保障政策の重要性が増しているが、新年度からは防衛費も増える。「政府はこうすべきだ」と主張するのは主権者として当然だが、国の台所事情を知らないと、空理空論になる。「負担と給付」や「防衛」のあり方について、国民一人一人が自分の意見を持つ必要がある。

2023年度の政府予算の総額は、114.3兆円。歳入の内訳は、税金が69.4兆円、公債金(借金)が35.6兆円だ。自前の収入である税金で賄っているのは60%しかない。バブル絶頂期の1990年度には税金が86%もあった。日本経済の低迷で税収が伸びず、借金で各種の政策を実行したためだ。

一方、歳出をみると、最も大きな額は社会保障費で36.8兆円。防衛関係費は安全保障環境の変化を理由に10.1兆円で、前年度比89.4%増の突出的な伸びを見せた。 借金返済にあてる国債は25.2兆円にのぼっている。バブル崩壊後、リーマンショックや新型コロナウイルスなどへの対策で借金を増やす一方、既存の支出を十分削らなかったからだ。国債費は今後さらに増え、金利が上がればもっと増える。

日本の借金残高は、先進国で飛びぬけて多い。国民総生産(GDP)比でみると、1997年度は最悪のイタリアをわずかに下回っていたが、今ではイタリアの2倍になっている。すべての政策を考える場合、この現実を知る必要がある。財政や社会保障に関するデータは、財務省や厚生労働省のHPに多く載っている。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年1月24日号(転送禁止)~~~

 今週から時事解説は、「きょうの1本」と「注目1行ニュース」を掲載します。「きょうの1本」はその日伝えたい主要ニュース、「注目1行ニュース」は押さえておきたい事実や今後注目の動きを紹介します。本数は日に応じて違います。時事解説を充実する狙いです。

*** きょうの時事解説

今日の1本 「通常国会始まる」 

第211通常国会が23日召集され、岸田首相が施政方針演説をした。憲法で年1回の開会が定められ、国会法により会期は150日。開会中は野党が与党を政策や不祥事で追及する場面が多く、内閣支持率が落ちる傾向にある。防衛力増強の是非と財源、原発活用の是非、子ども・子育て政策の内容や財源をめぐって、6月21日まで論戦が展開される。

岸田首相は週末、ほとんど公邸にこもっており、演説の準備をした模様だ。防衛費増では「将来世代への責任として対応する」と言明。原発活用では、放射性廃棄物に関し「国が前面に立って最終処分事業を進める」と明らかにした。子ども・子育て政策では「次元の異なる対策を実現する。財源は社会保険、国と地方の役割、高等教育の支援のあり方など様々な工夫をする」と語った。3年ぶりにマスクなしで、着物姿の議員も目立った。

小さなエピソードとして、「外遊の際、『なぜ日本では議会のことを、parliamentではなく、dietと呼ぶのか』と問われた。調べてみたところ、dietの語源は『集まる日』という意味を持つラテン語だった。まさに議論がスタートする」と述べた。全文はこちら→岸田文雄首相の施政方針演説全文: 日本経済新聞 (nikkei.com) 

◎注目1行ニュース

・「東京電力が29%値上げ申請」 東京電力は23日、家庭向け料金の平均29%の値上げを申請。6月実施を目指す。昨年11月以降、電力大手5社が3〜4割前後の値上げを申請ずみ。

・「関東広域強盗、中国地方でも犯行か」  関東一円で発生している凶暴事件に関わったメンバーが、山口、広島の事件にも関係しているとみて警察が捜査していることがわかった。

*** きょうの教養(財政②歳入)

財政の2回目は、「歳入」について考える。財政には聞きなれない言葉も多く、戸惑うかもしれない。しかし、財政の知識がないと、政策議論が不正確になるので、最低限知っておきたい。

歳入の大きな柱は、税金と借金(公債金)だ。今年度の税収総額は69.4兆円だが、内訳は3つの税金が大半を占めている。何か買った時に払う「消費税」が23.3兆円、個人の給料などにかかる「所得税」が21.0兆円、企業のもうけにかかる「法人税」が14.6兆円だ。消費税は1989年に導入された新しい税金だ。税率は当初3%だったが、今は10%になった。欧米では税率がもっと高く、日本でも常に引き上げの議論がある。

借金は政府が国債を発行し、日銀や金融機関などから借り入れる。法律上は、橋や道路など国の資産のために借り入れる「建設国債」しか認められていないが、石油危機の1975年度から不足分を穴埋めする「赤字国債」を特例で認めた。赤字国債はバブル期には発行されなかったが、その後の不況でどんどん増え、2020年度にはコロナ対策で86兆円も発行した。新年度は35.6兆円だが、借金依存は変わらない。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年1月25日号(転送禁止)~~~

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*** きょうの時事解説

今日の1本 「賃上げ春闘スタート」

経団連と連合の会長が23日トップ会談し、春闘がスタートした。日本の賃金の伸びは他国に比べて低く、政府も歴史的な物価高を受け、経済再生の突破口と位置付けて大幅賃上げを求めている。連合は賃上げ目標を5%程度と28年ぶりの水準に上げたが、2・85%にとどまるという民間予測もある。回答は3月で、賃上げ水準がかつてなく注目されている。

吉野連合会長は「日本の未来を変えるターニングポイントに」と訴え、十倉経団連会長も「積極的な対応を呼びかけている」と応じた。物価は前年比4%程度上がっており、これを上回らないと実質賃金は低下する。ユニクロやサントリー、日本生命などが若手や専門人材の獲得もにらんで5%を超える賃上げを前倒しで表明している。一方、中小企業を中心に大幅賃上げは厳しいという声も多い。今の企業トップは大胆な投資より、リストラの経験が多いケチケチ社長世代だ。「人への投資」から「経済再生」へと道筋をつける決断が問われている。

◎注目1行ニュース

・「強烈寒波襲来」 西日本、日本海側、北海道を中心に雪と低温で交通機関などに影響が出た。121年前の24日、陸軍訓練で199人が犠牲になった「八甲田山死の彷徨」があった。

・「細田衆院議長が懇談形式で説明」 統一教会との関係について冒頭のみ公開の議院運営委員会で、「安倍氏と近い団体と知っていた」「票の差配はしてない」と説明した。

・「関東連続強盗事件」 昨年12月に東京都中野区で起きた強盗事件で22歳と26歳の男を逮捕。狛江市の強盗殺人事件との関連が浮上中。詐欺グループからの転向との見方も。

*** きょうの教養(財政③歳出)

財政の3回目は「歳出」をみていく。歳出全体は114.3兆円で、最大の項目は「社会保障費」の36.8兆円だ。福祉国家の建設、高齢化でどんどん膨らんでいるが、詳しくは4~5回で考える。

次に大きいのは、借金の返済に充てる国債費の25.2兆円。歳出の2割強を占め、重い負担となっている。最近の金融緩和で利払い費が抑えられているが、金利が上昇すればすぐに跳ね上がる時限爆弾のような存在だ。

3番目は地方自治体を支援する「地方交付税交付金」で16.3兆円。人口減や地方経済の低迷で地方財政も苦しくなっている。2022年度までは「公共事業費」の6兆円が続いたが、2023年度は防衛関係費が前年度比9割近く伸びて10.1兆円に跳ね上がり、公共事業費を抜いた。防衛費の急増は、中国の台湾侵攻、ミサイル実験を繰り返す北朝鮮、ウクライナに侵攻したロシアの動きなどを念頭に、米国との同盟を強化し、中期的に共同抑止力を高める狙いだ。国債か増税かといった財源論議は決着していない。

公共事業費は道路や橋を作るための費用だが、今後はインフラの老朽化が大きな問題となり、補修や維持管理に多く使われる見通しだ。文教科学振興費は5.4兆円。人への投資で教育予算の拡大を求める声は多いが、防衛費増額の影響も受けて横ばいだ。 

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年1月26日号(転送禁止)~~~

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*** きょうの時事解説

今日の1本 「大型寒波で列島が大混乱」

10年に一度という寒波が24~25日に襲来し、雪や低温で交通網を中心に大きく混乱した。車の立ち往生や渋滞が各地で発生し、三重県から奈良県の新名神高速では半日以上も立ち往生中。京都府などではJRの列車が乗客を乗せたまま止まり、最大5時間も閉じ込められた。立ち往生は最近頻発しており、事前と事後の対策が急務だ。西日本から日本海側、北海道にかけての広範囲で、交通機関の運休や遅れ、休校、工場の操業停止、水道管トラブルなどが多発した。全国で最低気温0度以上は千葉・館山だけだった。

地球温暖化で気候変動が激しくなり、日本では夏の高温や台風の発生が問題になっている。冬は暖冬傾向だったが、最近では寒波が目立っている。現在は産業革命後の二酸化炭素増加で温暖化が進んでいるが、歴史的にみると地球は2世紀半ばから寒冷化し、遊牧民の南下で漢やローマ帝国が衰退した。11~12世紀の200年は温暖化が進み、ユーラシア全域の人口が増加した。太陽の黒点が増えると地球が温暖化するとされているが、地球環境に対する関心がさらに高まりそうだ。 

◎注目1行ニュース

・「電力監視委が初の立入検査」 監視委は経産省の組織。関西電力子会社の顧客情報を関電小売部門が不正に閲覧していた。電力自由化のルール違反で、他電力でも発覚している

・「ドイツ製戦車を供与へ」 ウクライナ反攻のための「レオパルト2」について、慎重だったドイツが供与を決めた。米国が自国戦車を供与するためで、対ロシアで西側の足並みがそろった。

・「米司法省がグーグル提訴」 ネット広告事業が反トラスト法(独占禁止法)に違反していると一部分離を求めた。バイデン政権では初の提訴。IT大手は曲がり角を迎えている。

*** きょうの教養(財政④社会保障費)

財政の4回目は社会保障費を見ていく。総額36.8兆円で、内訳は「年金」13.0兆円、「医療」12.2兆円、生活保護や少子化対策など「福祉」が7.8兆円、「介護」は3.6兆円となっている。このうち年金と医療、介護は、当該者の払う保険料を加えて事業を実施しており、今回の金額は国が支出する国費のみだ。

保険も含めて社会保障に給付する総額(2022年度)は、131.1兆円。内訳は年金58.9兆円、医療40.8兆円、介護13.1兆円など。いずれも巨額だ。

日本の平均寿命は世界最高水準にある一方、高度成長期に2以上だった出生率が、1.3程度まで下がり、世界でも例を見ないスピードで少子高齢化が進んでいる。制度を将来も持続できるようにするため、毎年のように手直しをしているが、追いついていない。特に年金に対する国民の不安は根強い。少数の若者が高齢者を支える不安定な構造になっている。支給開始年齢の引き上げや高齢者の就業促進などの手を打ってきたが、不安は消えていない。

医療費への支出は高齢化で毎年1兆円近く増え、地域で大きな差がある。1人当たりの入院治療費をみると、最も多いのは鹿児島県の37.5万円、少ないのは静岡県の22.1万円。病床数の多い県ほど医療費が高くなる。静岡県は効率的な医療を提供していると言えるが、患者にとっての功罪はわからない。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年1月27日号(転送禁止)~~~

今週から時事解説は、「きょうの1本」と「注目1行ニュース」を掲載します。「きょうの1本」はその日伝えたい主要ニュース、「注目1行ニュース」は押さえておきたい事実や今後注目の動きを紹介します。本数は日に応じて違います。時事解説を充実する狙いです。

*** きょうの時事解説

今日の1本 「NHK会長に稲葉氏就任」

NHKの新会長に元日銀理事の稲葉延雄氏(72)が25日付で就任した。会長は国会の同意を得て首相が任命する12人の経営委員会が選ぶ建前になっているが、稲葉氏は岸田首相が指名したと報道されている。NHKが問われるのは、良質なコンテンツ(番組)とガバナンス(経営)。稲葉氏は若いころに日銀総裁候補と言われたプリンスで、議論好きだがソフトな人柄。公共放送として自律性を確保し、時の政権ではなく国民に信頼される気骨が何より重要になる。

NHKは特殊法人に分類されるが、まさに特異な存在だ。政治が法的に関与できる余地はあるが、税金は投入されていない。政権が権力行使に抑制的なら自律的に運営できる。やり手のプロパー会長になると、民放や新聞社が「民業圧迫」と批判。安倍元首相は「政府が右というのに我々が左という訳にはいかない」と発言した籾井勝人氏を会長に起用し、菅前首相も総務相経験者で改革に熱心だった。前田前会長は、受信料1割値下げや衛星波削減、人事制度改革を打ち出したが、内部では相当な不満がたまっている。契約者の監視が必要だ。

◎注目1行ニュース

・「トヨタ社長交代」 豊田社長が会長、佐藤恒治執行役員(53)が社長に。14年ぶり交代。11人の歴代社長は旧制中1人以外は国立大か慶大卒だが、佐藤氏は初の早大(理工学部)卒。

・「コロナ5類は5月8日から」 岸田首相らが26日に協議して確認。感染者や濃厚接触者らの待機期間は撤廃され、医療は段階的に通常体制へ。マスクも原則不要に。

・「WBC日本代表30人発表」 決まっていた大谷翔平ら12人に加え、吉田正尚(オリックス)、山川穂高(西武)、山田哲人(ヤクルト)、初の日系人選手ヌートバーら。3月9日開幕。

*** きょうの教養(財政⑤防衛費)

財政の最後は「防衛費」を詳しく見てみたい。 突出した伸び率を示した防衛関係費は10.1兆円で、前年度当初比89.4%増だ。米巡航ミサイル「トマホーク」の購入、専守防衛に抵触すると歴代政権が説明してきた敵基地攻撃能力の長距離ミサイルを「反撃能力」と言い換えて配備する。取得数は明らかにしていない。長距離ミサイル保有は米政権が期待し、水面下で日本に保有を働きかけてきたと言われる。  

安全保障環境の変化でこれらは本当に日本に必要か、それとも専守防衛の枠を踏み越えて中国との軍備拡大競争にはまり込む可能性があるのか。議論が必要だ。防衛費の突出について、元自衛隊現場トップは「身の丈を超えていると思えてならない」と発言している。日本は高齢化で年金や医療費などの増加は避けられない。少子化や子育て対策、教育への投資も迫られており、現状は身の丈を超える財政状態になっている。          

日本は最近のコロナ対策など膨らむ財政需要を増税ではなく主に国債増発でまかなってきた。多くは日銀が引き受け、昨年12月の発表では国債残高の半分を日銀が保有する異例の事態になっている。第二次世界大戦で戦費調達を日銀に依存し、戦後混乱した反省から、日銀の国債引き受けに厳しい制約を課してきた。社会保障や防衛費のあり方は、どんな政策を選択するにせよ、厳しい財政事情に対する国民的な合意が必要だ。