1月30~2月3日(教養講座:ドナルド・キーンの日本文学史)

2023.02.04メルマガ

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年1月30日号(転送禁止)~~~

*** きょうの時事解説

今日の1本 「連続強盗はマニラの『ルフィ』が指示か」 

関東圏や中国地方で連続発生している強盗事件で、フィリッピンのマニラを拠点とする旧特殊詐欺グループが浮上した。主犯は「ルフィ」と呼ばれ、警視庁は4人の逮捕状を取った。4人は現地の詐欺容疑で入管施設に収容され、主犯は警察に「ビッグボス」と呼ばれていた。施設内の係官と通じて携帯電話を入手し、日本に指示を出していた模様だ。警視庁は身柄引き渡しを求め、全容解明を目指す。特殊詐欺では2019年までの2年間に1700件、15億円以上の被害を及ぼした。

この広域強盗事件は昨年から少なくとも14都府県で20件発生しており、東京都狛江市では女性が殺害された。主犯グループは実行役を高額の日当を提示してSNSの闇バイトで集め、家族や自宅の情報も出させて逃げないようにしていた。警察当局はすでに昨年秋から一部実行犯を逮捕しており、背後に大型グループが存在すると確認していたと思われるが、捜査を優先してこれまで詳しく公表していなかった。極めて現代的な大型犯罪で、「もっと早く注意喚起して被害の拡大を防ぐべきではなかったか」という議論が起きる可能性もある。

◎注目1行ニュース

・「中国、日本人へのビザ再開」 在日中国大使館が29日発表した。10日から発給を停止し、日本側が批判していた。日中関係や経済への悪影響を考慮したとみられる。

・「原発建て替えは敷地内限定」 政府は原発新設を敷地内に限る方針を決めた。昨年末、新設の方針を発表したが、新規立地は非現実的で、慎重な公明党にも配慮したと見られる。

*** きょうの教養(キーンの日本文学史①無頼派)

今週は米国出身の文学者ドナルド・キーンの日本文学史を取り上げる。第二次世界大戦で、日本語専門の情報士官を務め、戦後は日本文化研究の第一人者。今回取り上げるのは、昭和前期の作家で、米国人による評価と表現は興味深いものがある。最初に当該作家の評価や作品を書き、最後に作家名を明かすクイズ形式で表記する。

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無頼派でもっとよく知られた作家。人気は衰えず、毎年6月19日、誕生日であると同時に用水から遺体が発見された日、信奉者たちは特異な魅力を放つ人物を偲ぶ。

大地主の出身で、家族に対して相反する感情を抱いていた。家族との絆を強調しているが、常軌を逸した行動、飲酒癖、度重なる自殺癖、共産主義への関心は、ただ家族を困らせようという気持ちからではないかとみられている。

故郷を訪ねて風土記風に書いた「①」という作品がある。もっとも感動的な場面は、幼少期に世話になった年寄りの女性に会うくだりだ。子どもの運動会に出ている女性の横に静かに座っている時、「平和とはこんな気持ちのことをいうのであろうか。私の生みの母は気高く立派だが、不思議な安ど感を与えてくれなかった」と書く。この作品を彼の最高峰と評価する者や、母への探求に無頼生活を解くカギがあるとする者もいる。

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作家は太宰治。①の作品は「津軽」。

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*** きょうの時事解説

今日の1本 「トランプ氏が大統領選に始動」

2024年11月の米大統領選に向けて、トランプ前大統領が始動した。28日、東部ニューハンプシャー州と南部サウスカロライナ州で開かれた集会に出席し、「大統領候補として歩み始める。国を破壊しようとする勢力に立ち向かう指導者が必要だ」と訴えた。政治家としての最盛期は過ぎたという見方が多いが、共和党で立候補を表明した人はおらず、各種調査でも共和党では最も支持を集めている。米国は覇権の衰退に直面しており、大統領によって国の命運が左右される状態にある。

民主党はバイデン大統領が再選を目指しているが、正式な出馬宣言はしていない。自宅から副大統領時代の機密文書が見つかった影響も無視できない。トランプ氏が機密文書を持ち出した疑惑を帳消しにする形にもなっている。大統領選は来年早々に両党の予備選が始まり、夏に各党の候補者が指名される。トランプ氏が再び大統領になった場合、米中対立やウクライナ問題への対応で世界は今以上に混迷すると予想される。

◎注目1行ニュース

・「日産とルノー、株を対等保有へ」 日産と仏ルノーは30日、相互に株を15%保有することで合意した。現在はルノーが日産株を43%保有しており、引き下げ交渉をしてきた。

・「トヨタが3年連続世界一」 トヨタグループの昨年の世界販売台数は、前年比0.1%減の1048万3024台で、3年連続世界一だった。2位は独フォルクスワーゲンの826万台。

・「NHK党ガーシー議員に74年ぶりの招請状」 尾辻参院議長は30日、昨年7月の当選後に国会を欠席し、ドバイに滞在するガーシー参院議員に国会法に基づく招請状を出した。

*** きょうの教養 (キーンの日本文学史②第1回芥川賞)

従軍特派員として最も早い時期に戦地に派遣された。ブラジル移民集団を描いた中編「①」で第1回芥川賞を受賞した。この作品でのすぐれた群衆描写、一人一人を描き分けた筆力が、従軍記録の筆者として最適任と判断させたに違いない。

戦後、こう振り返っている。「戦争報道は嘘だ。大本営発表は嘘八百だ。戦争はおめでたいものではない。痛烈な、悲惨な、無茶苦茶なものだ」。これは戦中、戦地に赴くにあたっての態度表明でもあった。

陥落直後の南京で、軍の首脳部ではなく下士官や兵士たちに会い、「②」を書いたが、4分の1は削除された。登場する兵士は神兵とは遠い。極悪非道でもない。戦場が一群の普通の人間を変え、普段なら表に出てこない原始の力をむき出しにする。戦場は戦闘員を同じ性格にする不思議な強力な作用を持つ、と書いた。

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作家は石川達三。「①」は「蒼茫」。「②」は「生きている兵隊」。

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*** きょうの時事解説

今日の1本 「令和臨調が政府・日銀共同声明の作り直しを提言」 

経済界や学界有志でつくる「令和国民会議(令和臨調)」が30日、政府と日銀が2013年に発表した共同声明の作り直しを提言した。異次元の金融緩和が過度の財政支出や規制改革の遅れを招いたと指摘し、2%の物価上昇を長期的な目標とするよう求めている。安倍元首相の死去や4月の日銀総裁交代をにらんで、アベノミクスの副作用の検証や過度の金融緩和の是正を求める意見が強まっている。

令和臨調は1980年代に影響力を持った土光氏をトップとする行革臨調にならってつくられた。行革臨調は法的根拠があったが、その後は経済界や学会で共通の危機感を持った時、任意に結成され、過去に小選挙制導入を提言したことがある。声明締結当時の白川日銀総裁は「気合だけの問題でない」「金融政策には限界がある」として、黒田総裁が実施した異次元緩和に批判的な立場とされ、「日本経済の根本問題を正しく認識することが大切だ。特に人口減少がどこかで止まるかが重要だ」と話している。

◎注目1行ニュース

・「IMFが世界経済見通しを上方修正」 今年の成長率予測を2.9%と発表。前回見通し(昨年10月)から0.2ポイント引き上げた。低迷が予想されたが、中国中心に各国引き上げた。

・「関電社長が謝罪」 子会社顧客情報の不正閲覧で、森社長は「公正な競争を揺るがす」と謝罪した。不正は1013人、4万806件。6電力で発覚し、業界の企業倫理が問われている。

*** きょうの教養(キーンの日本文学史③鋭敏な私小説)

私小説作家とされているが、同列に扱うにはあまりに特異で、場違いな感じがする。確かに自分自身についてしか書かなかったが、自虐的な自己顕示ではなく、きわめて精緻で鋭敏な精神に対する洞察があった。作品に出てくる事物は、作者が眼をとめるまでこの世に存在していなかったかのようである。細かなものにまで行き届いた光をあてる感受性は、光が消え入ろうとする暗闇との一体感によって、さらに完璧なものになった。

処女作「①」は、倦怠にとりつかれて京都の市街を彷徨する貧乏な学生の手記の形をとっている。その倦怠は第一行から決定的である。「えたいの知れない不吉な塊が私の心を終始おさえつけていた」。視覚の新しさ、幻想に対する精神の柔軟さが特質である。自己の体験を伝える意味では私小説だが、読者は、日本語で書かれた散文としての抗しがたい美しさに惹かれ、目を奪われた。

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作家は梶井基次郎。「①」は「檸檬」(レモン)。

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*** きょうの時事解説

今日の1本 「宮台教授襲撃犯が自殺」

東京・八王子の東京都立大で昨年11月末、社会学者の宮台真司教授(63)が襲撃された事件で、警視庁は1日、容疑者とみられる相模原市の無職男性(41)の死亡を確認したと明らかにした。事件から2週間余り後、自宅近くで首つり自殺したと推定される。遺書が見つかったが、事件への言及はなかった。宮台さんとの面識はなかったとみられる。警視庁は自転車を特定し、購入履歴から男が浮上した。動機解明が当面の焦点になる。

宮台さんは男について「知らない人物だ」とし、過去に脅迫や殺害予告を受けた経験があるため、「不思議なことが起きたとは理解していない」と話していた。死亡の知らせを受けて「動機が分かるのか、よく分からない。不確かになってしまう可能性がある。釈然としないまま先に進んだとしたら残念だ」と述べた。宮台教授はオウム真理教、安倍元首相銃撃と旧統一教会、性の問題など多方面で活発な言論活動を展開していた。動機が恨みなど個人的な事情ではなく、言論活動に対してならば、表現の自由に関わり、社会の萎縮を招く危険性もある。

◎注目1行ニュース

・「値上げラッシュの2月」 帝国データバンクによると、主要食品メーカー195社が2月に約5500品目の食品の値上げを予定。原料高が主因で、身近な食品が軒並み上がる。

・「スシローが警察に被害届」 岐阜市の「スシロー」で客の迷惑行為動画が拡散した問題で、スシローは警察に被害届を出した。当事者と保護者が謝罪したが、「厳正に対処する」という。

・「ミャンマー政変から2年」  国軍クーデターから2年の1日、軍は非常事態宣言を延長、抗議の沈黙のデモもあった。8月に総選挙があるが、絶望して国を去る若者が後を絶たない。

*** きょうの教養(キーンの日本文学史④大衆小説家)

日中戦争当時、最も人気のある作家の一人だった。1933年から新聞に長期連載された「①」は、絶賛を博した。川端康成は激賞し、文壇で論争となっていた純文学と通俗文学、リアリズムとロマンチシズムといった問題を超えて、時代の混乱に光を投げかける名作と評した。

それまでの私小説作家の自己陶酔的な回想や、左翼からの転向作家の執拗な自己分析に辟易としていた読者は、それらとは対照的な率直で男らしい文体に、わが意を得た思いだった。作家は労働者の生活を改善する行動を起こすより、彼らの苦しみを描くことに関心があった。反知性主義の代表格とも言われたが、一般読者を惹きつけ、日本人、青春、知性とは何かという問題を扱っていた。

しかし戦後、国策団体での役割が非難され、厳しい追及を受けた。際立って好戦的ではなかったが、人気が格好の標的となった。

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作家は尾崎士郎。「①」は「人生劇場」。

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*** きょうの時事解説

今日の1本 「五輪談合、拡大へ」

東京五輪テスト大会の談合事件で、大会組織委員会元次長が談合を一転して認める意向であることがわかった。東京地検特捜部は、元次長と電通側が受注調整を主導したとみて独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで捜査。電通が談合を認める方針に転換したことが影響した模様だ。総額400億円の本大会業務での談合も浮上しており、拡大の様相だ。

テスト大会は2018年で、各競技の進行を確認するテスト大会の実施計画を立案する業務を発注した。26件の競争入札を行い、電通など9社と1共同企業体が落札。契約額は計約5億4千万円。元次長は当初、「全会場で穴が開かないようにと思った」と違法性を否定していたが、電通側の方針転換で「談合があったと言われればそう思う」と認める意向だという。汚職事件ではAOKI会長に懲役2年6月の求刑がされ、4月に判決が出る。これら事件は立件を困難視する見方もあったが、地検の完勝ペースで進んでいる。

◎注目1行ニュー

・「キラキラネームを法規制」 法制審議会は、名前の読み方について「一般に認められているもの」という規定を戸籍法に設ける案をまとめた。個別に判断する見通し。

・「ソニー社長に十時副社長」 ソニーグループは十時裕樹氏(58)が4月1日付で社長に昇格。吉田憲一郎社長兼会長氏(63)は会長に。2人は再建のため子会社から復帰し、二人三脚で再建を推進してきた。ツートップ経営になる見込み。

*** きょうの教養(キーンの日本文学史⑤虚無的無頼派)

最後に登場するのは、月曜日と同じ無頼派の中核作家。作品が虚無的態度を表し、作家の人生が既成道徳や時代の知的通念に対する反逆行為とみられた。1945年の終戦に続く数年間、非常な人気を博した。55年に48歳で亡くなったが、人気は衰えていた。

日本文化に対する反逆心は純粋で本物で、有名なエッセイ「①」の基本を成す。意外なことの魅力、既成の価値観をひっくり返す作品は作家を英雄に仕立て上げた。日本の歴史上、儒教で悪とされたもの、神国日本の指導者によって嫌われたものについて、その福音を技巧と機知に富んだ表現で説いた。人は堕落することによって自分自身を発見し、日本も同じ道をたどる必要があるという。

睡眠剤と覚せい剤などで健康を害し、48歳で亡くなった。70年代、学生運動期に再発見されて復活し、批評家の注目を浴びた。こうした戦後作家は一握りだ。

作家は坂口安吾。「①」は「堕落論」。