三島由紀夫が激賞した鴎外の文章

2023.02.18コラム

2月20日からの毎朝メルマガ教養講座は、「森鷗外の知恵袋」を取り上げる。講談社学術文庫から出版されているが、この本と出会ったのは、古本屋で自分の本を大量に売った後だった。たくさん売ってもタダ同然というのは、経験上知っていた。500円ほどもらって帰ろうとした時、棚にあった古本が目に入った。460円。「鴎外はこんな本も書いているんだ」と買った。

処世訓のような内容だが、書いた経緯がややこしい。書いたのは1898~1901年で、「時事新報」や「二六新報」に載った。後者には「千八」という匿名で書いた。鴎外の生前に出版されず、1937年の全集に収録された。

こうなった背景には、文章は鴎外の創作ではなく、クニッゲというドイツ人が1788年に書いた「交際法」という著書を訳した事情があるようだ。この本はドイツのどの家庭にもあるが、ほとんど読まれていない、バイブルのような存在という。

加えて、鴎外の書いた時期は、日清戦争と日露戦争の間。陸軍軍医ながら、文学もたしなむ鴎外への風当たりが強かったから、肩の力を抜いて目立たないように執筆したらしい。日本の話も含まれているから、鴎外著作の感もある。原文は我々には難解なので、小堀桂一郎氏の現代語訳で読む。

鴎外の文章は簡潔で、漢文調ともいわれる。三島由紀夫は1959年に出版した「文章読本」で、鴎外の文章を高く評価している。「寒山拾得」の一文に「閭(ろ=人名)は小女を呼んで、汲み立ての水を鉢に入れて来いと命じた。水が来た」がある。この「水が来た」を激賞している。

「現実を冷静なほど裁断して、よけいなものをぜんぶ剥ぎ取り、しかもいかにも効果的に見せないで、効果を強く出す文章は、鴎外独特のものであります」と書いている。天才たちの交わりは興味深いものがある。

三島は「文章の最高の目標は、気品と格調」という。三島の思想や行動には違和感があるが、この文章論には賛同したい。当塾は「簡潔で、わかりやすい文章」を目指しているが、その先に「気品と格調」があると考えている。小手先ではなく、人格からにじみ出る。まさに「文は人なり」の境地だ。