キャリコン試験苦闘記

2023.02.25コラム

2月27日からの毎朝メルマガ教養講座は「キャリア理論」を取り上げる。この理論に出会ったのは、2022年7月にキャリアコンサルタントの国家試験を受けるためだった。国家資格になって日が浅いので、まだあまり知られていないが、ほぼ1年がかりの難物試験である。

定年まで2年を切った2021年春、「会社を辞めたら何をしようかな」と本やネットを読み、キャリアコンサルタントという資格を知った。経済記者をやっていたので、企業社会には土地勘がある。「VUCAと呼ばれる激動の時代に若い人を支援するのはやりがいがありそうだ」と考えた。

国家試験を受ける前になぜか民間講習を受けなければならない。2021年夏に民間会社の説明会を受け、12月から4か月間、ほぼ毎週日曜日の朝から晩まで、オンライン講習を受けた。受講料は36万円。試験に一発で合格すれば、国の交付金で7割返って来る。

試験は学科と実技。学科は過去の問題集を解けば、自分の力はわかる。それでも60歳を超えての暗記は楽ではない。トイレにも紙を貼ってあれこれ覚えた。困ったのは実技。相談者との面談だが、いいのか悪いのか、自分でもわからない。しかも民間講習のテスト対策は不十分。「自分たちの信じる概念を教え込むのに熱心で、受講者不在だな」と感じた。

試験は年3回しかなく、昨年7月に2日間、学科と実技の試験を受けた。大学受験以来、40数年ぶりの緊張感だった。実技は女性相手が得意だったが、本番でも女性にあたり、「ラッキー」と喜んだ。翌月に合格通知をもらった時は、素直にうれしかった。

学んだことは大きく2点ある。第一が米国仕込みのキャリア理論を知ったことだ。職業を軸とした生き方理論で、「漠然とした空気を学問にし、資格ビジネスにつなげるアメリカはすごい」と感心した。米国の力は衰えているとはいえ、教育のソフトパワーは今後もダントツだろう。

もう一つは、「傾聴」の意義に触れたことだ。相談者と対面すると、素人は自分にたいした経験はないのに課題解決に向けた提案に走りやすい。これはまずいのだ。相談者の声をしっかり受け止めて聞いていくと、相談者は内省を始め、自分なりの納得感を得ることがある。「答えは相談者の心にある」というわけだ。

国はキャリアコンサルタントを増やそうと動いている。しかし、資格を取っても十分なビジネスにつながらないのが、つらいところだ。ITやAIの発達で、働く人の環境は厳しくなると予想され、社会的ニーズはある。苦闘が実る日を夢見ている合格者は多いはずだ。