2月27~3月3日(教養講座:キャリア理論)
~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年2月27日号(転送禁止)~~~
今週から「社会人キーワード」を試行します。企業経営に関わる言葉をランダムに紹介します。
*** 「デイ・ウオッチ」 (24~26日)
◎ウクライナ和平の焦点は中国 中国、「直接対話の再開」促す ウクライナ侵攻1年で文書:時事ドットコム (jiji.com) ベラルーシ大統領が28日訪中 ロシア友好国が連携誇示:時事ドットコム (jiji.com) 仏大統領、4月訪中へ ウクライナ和平へ協力呼び掛け:時事ドットコム (jiji.com) →侵攻1周年をきっかけに中国が和平仲介に動いている。ベラルーシ、フランスの首脳が会談予定。米中間ではロシアへの武器供与をめぐって緊張が高まっているように見えるが、和平に向けた裏交渉をしている可能性もある。中国の動きに要注目。
◎衆参5補選「政局に影響も」 岸田首相、必勝訴え:時事ドットコム (jiji.com) →国内はこれから選挙モードに入る。衆参補選が中心だが、統一地方選で衝撃の結果が出るかもしれない。安倍首相銃撃後、初の本格選挙になる。旧統一協会、安保3文書、防衛増税、子育て支援策、LGBT法案、原発再稼働、ウクライナ情勢など争点は目白押しだ。
◎植田氏「金融緩和を継続」 共同声明、見直しを否定―日銀総裁候補が所信・衆院:時事ドットコム (jiji.com) →学者総裁とはいえ、したたかそうだ。直近の方針変更を表明すれば、市場や世間が動揺するので、慎重な言い回しに終始。将来については、金融緩和の副作用を指摘するが、明確にしない。早めにアベノミクスから脱却するとみていいだろう。
◎電通G社長 談合の法人責任認める – Yahoo!ニュース →逮捕者を出した3社のほか、「博報堂」「ADK」「東急エージェンシー」「セイムトゥー」の4社を加えた7社が談合に関与したと認定。7社のうち、ADKは課徴金減免(リーニエンシー)制度で公取委に違反を自主申告しているので、起訴は免れそうだという。「悪事は最初に謝った者勝ち」の世の中になった。
*** 「社会人キーワード」
『心理的安全性』 心理学用語で、英語では「サイコロジカル・セーフティ」という。提唱したのは、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授で、「チーム内で自分の意見が的外れでも、臆することなく発信できる状態」。注目を浴びるきっかけとなったのが、グーグル社が生産性の高いチームの条件を見つけるための「プロジェクトアリストテレス」。2012年から約4年間、数百万ドルをかけて、180チームを検討。心理的安全性、信頼性、構造と明晰さ、仕事の意味、インパクトが「チームを成功へと導く5つの鍵」と発表した。直接的な影響は「建設的なコミュニケーションの活性化」で、波及効果として、チームワークの向上、不祥事の事前回避、生産性の向上、モチベーションの向上、離職率の減少、イノベーションなどが立証された。「意識改革」と「仕組みの整備」の両面が必要とされる。
** きょうの教養(キャリア理論①スーパー)
今週は「キャリア理論」を特集する。米国で発達した学問で、「職業を軸とした生き方理論」と言える。退役軍人の処遇、月へ人間を送るアポロ計画を遂行するため能力開発など、時代の要請を受けて進化してきた。米国らしい功利的な理論だ。
最初に取り上げるのは、ドナルド・スーパー(1910~94)。戦後の大家とされる。父がYMCA勤務で、その相談業務を通じて失業に立ち向かう人たちに関心を持った。現実重視の立場から、「自己概念」を軸に理論を考えた。自己概念は「自分は何者か」という自己イメージで、職業的自己概念について考察した。
著名な理論が、職業発達を5段階とした「ライフ・ステージ」だ。成長(0~14歳)、探索(15~24歳)、確立(25~44歳)、維持(45~64歳)、解放(65歳以降)に分け、年齢に応じて役割の変化があり、継続的な訓練や準備が必要とした。今でいう「リスキリング」とも通じる。年代に応じてキャリア形成を考えるという見方は当時、新しかった。
人が生涯に応じて果たす役割は6種類あるとした「ライフ・ロール」も著名だ。6種類とは、子ども、学習する人、余暇人、市民、労働者、家庭人。これに配偶者、親、年金生活者を加えて9種類とする場合もある。ライフ・ステージとライフ・ロールを組み合わせて、「ライフ・キャリア・レインボー」という図式も作った。今では当然と受け止められている「人生には多様な場面や役割がある」という考え方を確立した功績は大きい。
~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年2月28日号(転送禁止)~~~
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*** 「デイ・ウオッチ」(27日)
◎トマホーク購入「400発を予定」 岸田首相明言、単価は伏せる―衆院予算委:時事ドットコム (jiji.com) →具体的な数字を初めて明らかにした。巡航距離は1600キロ。東京と北京は2100キロ。防衛力を増強した場合、中国や北朝鮮がどう動くとみているかといった防衛経綸、具体的な防衛装備に関する議論を国民は期待している。
◎日野町事件、高裁も再審認める 84年の女性強殺―服役中死亡の元無期囚・大阪:時事ドットコム (jiji.com) →服役中に病死した元受刑者の再審を大阪高裁が認めた。静岡県旧清水市で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田さんの再審について、東京地裁が3月13日に決定する。2014年に静岡地裁が再審を認めたが、今まで引き延ばしているのはもはや人権問題だ。
◎ヤフコメ、悪質投稿者が半減 携帯番号必須化で―ヤフー:時事ドットコム (jiji.com) →SNSの管理と実名化がじんわり進むだろう。情報発信には一定の責任が必要という流れだ。
*** 「社会人キーワード」
「KISSの原則」 英語の「Keep It Simple,Stupid」の頭文字。日本語では「単純にしろ、間抜け」となる。1960年代の米国海軍で言われ始めた略語。設計の単純性は成功への鍵で、不必要な複雑性は避けるべきだ、という考え方。ロッキード系会社の技術者ケリー・ジョンソンが造語した。ジョンソンが設計チームに一握りの工具を手渡し、「平凡な整備員が戦闘状況で、この工具だけを使って修理ができるようなジェット戦闘機を開発しろ」と課題を出した。最近では、プレゼンテーションやセールストークに情報を詰め込み過ぎないなどの意味で使われる。相手の立場に立ち、必要十分な情報をしっかり伝えることを目指す。人間の脳は大量の情報に追いついていけないからで、英語には「Less is More」=「少ないほど多くなる」という言葉もある。
*** きょうの教養(キャリア理論②サビカス)
マーク・サビカス(1947~)は、スーパーの理論を引き継ぎ、21世紀のキャリア理論と言われる「キャリア構築理論」を唱えた。働く人を取り巻く環境が、流動的で不安定になっているという考えから、働く人の立場に立って、客観的なキャリアより個人の主観的な「意味あるストーリー」を重視すべきだと主張。相談者の弱さや限界ではなく、希望や強さに焦点をあてた。励ますコンサルティングにつながっている。背景には、父親が定職につけず、不安定な仕事を掛け持ちした経験があった。
サビカスの手法は「ナラティブ・アプローチ」と呼ばれ、個人の物語を大切にする。相談者とのインタビューでは、お手本、お気に入りの雑誌・テレビ番組・本、モットー、幼少期の記憶を聞き、自分をデザインし、自分という感覚を持ってもらう。一見ばらばらに見える経験を統合し、その人のアイデンティティを確立してもらう。相談者は自己肯定的で前向きな気持ちになっていく。
サビカス理論の主要概念は、①職業パーソナリティ(キャリアに関する能力、欲求、価値観、興味)、②キャリア・アダプタビリティ(未来に備える関心、自己責任を自覚する統制、職業探索の好奇心、成功するという自信)、③ライフテーマ(個人にとって重要なこと)がある。
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*** 「デイ・ウオッチ」(2月28日)
◎出生数、初の80万人割れ コロナ影響、減少加速―22年人口動態統計速報・厚労省:時事ドットコム (jiji.com) →日本の少子化は、児童手当を出せば解消するような段階はすぎている。明治以来の家父長制、男女の役割分担や賃金格差などでのジェンダー平等の実現がポイントだ。若い人が子どもを持ちたくなるための環境整備で、政策に加え、子どもを持つ楽しさを伝える必要もあるだろう。
◎原発「60年超」を閣議決定 福島事故後のルール緩和、活用へかじ―GX脱炭素電源法案:時事ドットコム (jiji.com) → 防衛と原発は、広く国民的な議論が必要なテーマだ。しかし、岸田首相は独断先行的にまず決定し、国会での議論は真正面から答えず、数で押し切る構え。賛成派にはこうした手法を評価する声が高いが、国民的な合意がないと、やがて大きな問題を引き起こす。
◎宇宙飛行士候補に男女2人 46歳世銀職員と28歳医師―日本人初、月着陸の可能性・JAXA:時事ドットコム (jiji.com) →宇宙飛行士候補の決定は14年ぶり、女性は3人目。宇宙への関心が久しぶりに高まり、いろいろ話題を呼びそうだ。
*** 「社会人キーワード」
◎「CHRO」 「Chief Human Resource Officer」の略で、日本語では「最高人事責任者」。企業の競争力の原点が人的資本に移っているという認識から、持続的に企業価値を向上させるためには、「経営戦略と人事戦略が一致している必要がある」と設けられたポスト。これまで採用や人材育成は人事部門が主に仕切ってきたが、今後は最高経営責任者(CEO)はもとより、経営戦略、財務、技術などの責任者とも連携しながら進める必要があると考えられるようになった。また、人材戦略を定めて従業員や株主にも発信し、経営と人事戦略の連動、現実の人材と理想の人材とのギャップの把握、組織や行動の変容が企業文化になっているか、という観点からチェックすべきだとされている。2020年と22年に経産省がまとめた「伊藤(邦雄・一橋大名誉教授)リポート」で強く推奨されている。
** きょうの教養(キャリア理論③シャイン)
エドガー・シャイン(1928~2023)は「組織心理学」という言葉の生みの親。陸軍病院で捕虜から復員した兵士の洗脳や教化の状況を調べ、組織と個人の関係を研究した。
著名な考え方は、キャリアを「外的キャリア」と「内的キャリア」に分けたことだ。前者は会社名や肩書、役職など履歴書に書くようなキャリア。後者は、職業生活や役割について自分なりに意味付けしたものだ。これによって組織と個人の関係を整理し、両者の相互作用、組織内での個人の発達という視点を獲得できる。
「キャリア・アンカー」という概念が特徴だ。個人が選択を迫られた時、その人が最も放棄したがらない自己概念で、欲求、価値観、能力などに基づく。「船の錨(アンカー)という意味だ。8つのカテゴリーがあり、①専門・職種的コンピテンス(特定の業界や職種へのこだわり)②全般管理コンピテンス(管理的職位を目指す)③自律・独立(規則に縛られず自律を重視)④保障・安定(生活の安定第一)⑤起業家的創造性(起業や創業を好む)⑥奉仕・社会貢献(人の役に立つ)⑦純粋な挑戦(常に挑戦を求める)⑧生活様式(仕事と生活の調和優先)に分類した。
キャリア・アンカーで個人の希望を明確にしながら組織のニーズを分析し、職務や役割を戦略的に開発するよう提唱している。
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*** 「デイ・ウオッチ」(1日)
◎中学校に侵入、教員切り付ける 殺人未遂容疑で17歳少年逮捕―猫虐待事件にも関与か・埼玉:時事ドットコム (jiji.com) →期末試験や卒業式シーズンにショッキングな事件。猫虐待との関連も浮上している。17歳少年の動機や環境に関心が集まる。
◎「信じられない決定」 林外相G20欠席に批判的―インド主要紙:時事ドットコム (jiji.com) →林外相のG20欠席に対して、開催地インドで怒りが沸騰している。国会審議で閣僚の海外出張が厳しく制約されることについて、批判はかねてあった。今年の日本はG7議長国、相手は大国インド。失ったものは小さくない。
◎就活解禁「売り手市場」続く – Yahoo!ニュース 企業の採用広報解禁、対面選考が拡大 AGCは最終面接で – 日本経済新聞 (nikkei.com)→就活がいよいよスタート。企業の人手不足感は強い。初任給引き上げの動きもあって、超売り手市場が続く。しかし、個人にとっては内定獲得まで安心できない。頑張れ、就活生!!
*** 「社会人キーワード」
◎VUCA Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を並べた。日本語で「ブーカ」という。1990年代後半に米国で軍事用語として生まれた。当時、テロ行為を頻発したアルカイダとの戦争のスタイルを「VUCA」と呼んだ。それまでの国家同士との戦争とは異なる新しい戦い方が必要になった意味を込めている。2010年代になってビジネスの現場でも、テクノロジーの進歩は急速で予測困難、世界の市場は不確実性や不透明性を増し、ビジネスが不安定な状況になっているとして、VUCAが用いられるようになった。事態が未知か既知か、行動の効果が予測可能か不能か、その条件に応じて事態を分析し、対応する必要がある。その戦略を「VUCAフレームワーク」という。複数の未来を予測し経営計画を立てるシナリオ・プランニング、新規ノウハウを得る手段としてのオープンイノベーションも注目されている。
** きょうの教養(キャリア理論④シュロスバーグ)
ナンシー・シュロスバーグ女史(1929~)は、人生の転機(トランジション)を考察した理論家として知られる。夫の転勤に伴って引っ越しを重ねた経験が基盤になっている。結婚、離婚、転職、出産、失業などの対処法を構築した。それまでの理論は、年齢や思春期、中年の危機など発達段階を基本にしていたが、個人の人生上の出来事を転機ととらえた点が新しかった。
転機を3つに分類している。①予測していた転機②予測していなかった転機③期待していなかったものが起こらなかった転機、だ。転機は途方にくれたり、心的外傷を受けたりする一方、成長のための変化を促す機会も提供する。マイナスの影響を抑えて、論理的に対処する方法を追求した。
転機に対処するには「4S」が重要だと主張した。①状況(シチュエーション)②自己(セルフ)③支援(サポート)④戦略(ストラテジー)だ。
①では転機の引き金、自分でコントロールできる範囲、期間、ストレスの程度、どう受け止めているかなどを吟味する。②では自分の社会的地位、年齢、健康、ものの見方や勇気など心理的資源を検討する。③では配偶者や家族、同僚や友人らの援助、それらがどこまで有効かを見極める。④では、状況を修正することができるか、問題の意味を変えるか、ストレスを管理するかなど具体策を考える。この過程を通じて転機に単にうろたえるのではなく、理論的に対処する道筋を示した。
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*** 「デイ・ウオッチ」(2日)
◎Google日本法人で初の労組結成 「私たちは解雇におびえている」(毎日新聞) – Yahoo!ニュース →米IT大手の人員削減が、日本でも波紋を呼んでいる。日本は米国に比べて解雇しにくいが、どんな影響が出るか。従業員の一人は「利益を出しているのに大量解雇の理由がない。必要のない解雇で、残念だ」と話している。
◎大川隆法氏死去 「幸福の科学」総裁、66歳:時事ドットコム (jiji.com) →メディアにほとんど登場せず、団体の実態もあまり知られていない。にもかかわらず、幸福実現党で政治への進出を図った。死んだ状況や団体の今後もよくわからない。
◎先端技術で「中国が米国をリード」 豪研究所、民主主義国の結束促す:時事ドットコム (jiji.com) →44項目の先端技術のうち、中国が37項目でトップとなった。内容は、極超音速技術、次世代通信規格「6G」を含む通信技術、バイオ燃料、水素、電池といった環境技術など多岐にわたっている。米国に留学した中国人の貢献も大きい。米中対立で逆転する段階ではないようだ。
*** 「社会人キーワード」
◎「リーンスタートアップ」 コストと時間をかけずに最小限の機能を持たせた試作品を開発し、顧客の反応を見ながら改善を繰り返して製品を成長させていくマネジメント手法。2008年にアメリカの企業家エリック・リース氏が提唱した。リスクや無駄を避けながら製品を完成させることを狙う。新規事業の成功につながることが多く、多数のスタートアップ企業に採用されている。試作品は、MVP(Minimum Viable Product)と呼ばれ、日本語では「実用可能な最小限の製品」という意味。完成品を目指すのではなく、最小限の機能を持たせてリリースし、マーケットに受け入れられるかどうかを判断する。ユーザーのフィードバックを受けて、必要に応じて見直す。VUCA時代に加速化する市場や社会の変化に柔軟かつ迅速に対応するために生まれた考え方だ。
** きょうの教養(キャリア理論⑤ハンセン)
最後はサニー・ハンセン女史(1929~)を取り上げる。バランスの取れた人生を実現し、その選択や設計を通して社会に積極的な変化をもたらすことを提唱している。「統合的人生設計」(インテグレイテッド・ライフ・プランニング=ILP)と呼ばれている。人生を仕事だけでなく、家庭や社会も含めて考え、人の役に立つことを強調している点が新しく、SDGs時代にふさわしいとも言える。
人生には「4L」と呼ばれる4つの役割があると主張した。4Lは、①愛(ラブ)②労働(レイバー)③学習(ラーニング)④余暇(レジャー)。人生はこれらが組み合わさることによって、布を縫い合わせて大きな布にする「キルト(パッチワーク)」だと例えた。背景には、社会が複雑化しており、人生を細切れに考えるのではなく、全体を包括的に考えるべきだという世界観がある。
考慮すべきテーマとして、次の6点を挙げた。①グローバルな視点から仕事を探す②人生を意味のある全体に織り込む③家族と仕事を結ぶ④多様性と包括性を大事にする⑤精神性、人生の目的、意味を探求する⑥個人の転機と組織の変革にともに対処する、だ。生き方や価値観がますます多様化している現代にふさわしい理論と言える。
今週はキャリア理論を見てきた。実に多様な米国発の理論だ。各人が自分にしっくりする理論を見つけ、より充実した人生につなげることもできそうだ。