3.11と若松英輔
東日本大震災から10年の2021年3月、NHK教育テレビ「100分de名著」は、若松英輔さんの解説で災害を考える4冊の本を取り上げた。若松さんは震災の1年前、妻を病気で亡くしている。いのちを脅かす理不尽にどう立ち向かうか。3月13日からの教養講座で若松さんの著書を紹介するのを前に、若松さんが番組のために選んだ本とその言葉に触れてみたい。
まず、物理学者・寺田寅彦「天災と日本人」から始めた。「戦争はぜひとも避けようと思えば人間の力で避けられなくはないであろうが、天災ばかりは科学の力でもその襲来を中止させるわけにはいかない」。若松さんは震災について「科学を盲信し自然の声を聴かなくなったことの帰結ではないか」という。
続いて民俗学者・柳田国男の「先祖の話」から。「日本人の死後の観念、すなわち霊は永久にこの国土のうちに留まって、そう遠方へは行ってしまわないという信仰が、恐らくは世の初めから、少なくとも今日まで、かなり根強くまだ持ち続けられているということである」。若松さんは「日本には生者と亡くなった人たちとの間に豊かなつながりがあった」と思う。
古代ローマの哲学者セネカの「生の短さについて」から。「生は三つの時期に分けられる。過去、現在、未来である。我々が過ごしている現在は短く、未来は不確定であり、過去は確定している。賢者はあらゆる時を一つに融合することによって、自らの生を悠久のものとする」。若松さんは「私たちは時のつながりを取り戻さなければならない」と考える。
最後は哲学者・池田晶子の「14歳の哲学」から。「生きていることが素晴らしかったりつまらなかったりするのは、自分がそれを素晴らしいと思ったり、つまらないと思ったりしているからなんだ。だって、自分がそう思うのでなければ、いったい他の誰が、自分の代わりにそう思うことができるのだろうか」。若松さんは「自分とは、生涯を賭して探求するに値する大きな謎であり、そこに向かう問いこそが、私たちの人生を静かに、しかし、確かに照らし出す」と結んでいる。