3月6~10日(教養講座:日中関係史)

2023.03.11メルマガ

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「社会人キーワード」を試行中です。企業経営に関わる言葉をランダムに紹介します。

*** 「デイ・ウオッチ」(3~5日)

日韓財界で基金創設案 元徴用工、6日解決策―「反省とおわび」継承へ:時事ドットコム (jiji.com) 徴用工 日韓財界が基金共同設立か – Yahoo!ニュース →日韓間の懸案が一つ解決しそうだ。韓国で親日的な政権が誕生したことが大きいが、韓国の一部世論は常に厳しく、最終決着まですんなりいくかどうか。政治指導者にとっても、国民にとっても、過去を忘れず、未来につなげる意思が重要だ。

成長目標は5%前後 国防予算、7.2%増の30兆円超―「台湾独立反対」・中国全人代が開幕:時事ドットコム (jiji.com) →中国共産党のアキレス腱は、コロナ対応と経済だ。国民の不満が渦巻けば、習近平主席も楽観できない。成長率が下がれば、まず弱い部分に響く。14億の民を満足させるのは容易ではない。

総務省働き掛け認める 「放送法文書」一部裏付け―礒崎元首相補佐官:時事ドットコム (jiji.com) →表現の自由をめぐる放送法の問題。当時の高市総務相は「捏造だ。本物なら議員をやめる」と断言。もう一方の当事者の磯崎氏が認めているので、まったくの捏造とはいえないようだ。週明け政局の焦点に浮上している。

「相鉄・東急直通線」で記念式典 18日開業、都心と新横浜結ぶ:時事ドットコム (jiji.com) →新幹線以外では「孤島」のようだった新横浜駅が都心と直結する。品川駅を利用していた東京都大田区や世田谷区、川崎市などの人たちの多くが、新横浜駅を利用することになりそうだ。新幹線の人の流れに変化が出る。

*** 「社会人キーワード」

◎シンギュラリティ   人工知能の発達で、機械が人間に代わって文明の主役になること。日本語では「技術的特異点」という。未来学者のレイ・カーツワイルが「2045年ごろに人工知能の性能が人間を上回り、人類と機械の知性が融合するポスト・ヒューマン(新しい人類)に進化すると予測した。この段階になると、人工知能が人工知能を設計し、人間は考える必要がなくなり、機械に任せた方がいい判断ができるという見方がある。一方、機械には価値判断や課題設定はできない、人間の感情は理解できないという反論がある。確かに限界はあるだろうが、人間の役割は今と違ってくることについては、おおよそのコンセンサスはある。

*** きょうの教養(日中関係史①飛鳥から平安時代)

今週は日本と中国の歴史的な関係を取り上げる。「台湾有事」さえ叫ばれる今、日本人は中国をもっと知る必要があるだろう。「日本にとって中国とは何か」(講談社学術文庫)を基本的な参考文献とした。

◎「憧憬と模範の国」(飛鳥から平安時代)=歴史の教科書で学んだ「遣隋使」と「遣唐使」の時代である。前者が憧憬、後者が模範の時代という。

5世紀から約100年、「倭(当時の日本の名称)の五王」が当時の宋に貢ぎ、官位を与えられた。「冊封(さくほう)」と呼ばれ、完全な上下関係にあった。

推古天皇(位592~628)と摂政の聖徳太子(位574~622)は遣隋使の時代。600年に使者を派遣し、607年に小野妹子が遣隋使となった。「日出づる処の天子」で始まる国書を持参し、不興をかったが、対等関係を目指した。聖徳太子が憧れたのは仏教による統治で、妹子が隋の特使を連れ帰った時、大歓迎して迎賓館のような建物まで作った。

遣唐使は630~838年の間、約20回派遣された。唐では太宗による「貞観の治」、玄宗による「開元の治」など善政が行われ、法典や文化を輸入した。冊封関係にはなかったが、日本が貢物をする関係で、対等とはいえなかった。土地や税、行政の制度を整備した645年からの大化の改新、漢字や儒教、仏教の共有につながった。日本という国名が定着し、天皇の称号も中国をまねた。

隋唐では道教が盛んだったが、遣唐使は道教の布教を拒み、体系だってもたらされていない。しかし、神仙思想、医術や養生など日常生活と結びついた実用的な面での影響は根強い。

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*** 「デイ・ウオッチ」(6日)

韓国政府、解決策を発表 尹大統領「未来志向の決断」―日本政府、談話継承表明・元徴用工問題:時事ドットコム (jiji.com)  来週後半にも日韓首脳会談で調整 – Yahoo!ニュース →韓国の徴用工問題は、事前の日韓米の調整も進んでいたようで、日米首脳とも評価した。焦点は韓国の世論。強硬反対派は残るが、中間派の理解を得られるかどうかに注目。

総務相 放送法巡る文書精査を陳謝 – Yahoo!ニュース →放送法をめぐる「総務省文書」について、松本総務相は「今回のような事態になって遺憾」と事実上認めた。「文書は捏造。事実なら議員辞職」とまで発言した当時の高市総務相の動向に関心が集まる。野党側は文書に登場する安倍元首相側近の礒崎元総理補佐官らの証人喚問を要求した。

大谷翔平が大活躍 侍ジャパン快勝 – Yahoo!ニュース  →WBC日本チームに米大リーグ勢が合流。大谷は圧巻の2本塁打を放った。1本目は泳ぐようなスイングで片膝をつく打撃。センターフライと思われたが、バックスクリーンを直撃した。桁違いのパワーに球場は大いに沸いた。

*** 「社会人キーワード」

◎SCP理論  ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が、代表的な著書「競争の戦略」で確立した理論。Sは構造(ストラクチャー)、Cは遂行(コンダクト)、Pは業績(パフォーマンス)を指す。業界の構造が、企業の遂行に影響し、それが業績につながる流れになる。具体的に言えば、「完全競争から離れている業界ほど(=完全独占に近い業界ほど)、安定して収益性が高く、構造的に儲かる業界」となる。企業は、自社の競争環境をなるべく完全競争から完全独占へとシフトさせ、超過利潤を生むことが重要になる。そのためには、差別化戦略を重視し、他社と差別化して完全独占に向かうことが求められる。ただこの理論は、業界が安定している状態で通用する理論で、情報技術(IT)化で動きが激しくなった現在では有効性は落ちているという指摘も有力だ。

** きょうの教養(日中関係史②鎌倉から江戸時代)

◎「先進と親愛の国」(鎌倉から江戸時代)=宗教、貿易、学問を中心に交流した。例外が、13世紀後半の元寇だった。

遣唐使が廃止されてから、僧は国が派遣する留学生から、私的目的の巡礼僧に変わった。延暦寺で学んだ法然や栄西、日蓮ら5人が、鎌倉仏教を創始。国家のための仏教が個人の救済手段に変質した。遣唐使廃止後、日本人の海外渡航は禁止されたが、南宋の商船で交流が続いた。鎌倉の建長寺を開山した蘭渓道隆らが日本に来た。

元寇は、663年に「白村江の戦い」に敗れて以来、600年ぶりの中国への恐怖心となった。元が朝貢を求めたが、鎌倉幕府は拒否した。日本は南宋との関係が深く、それが南宋と対立する元の怒り一因でもあった。1274年と1281年の2度来襲したが、暴風雨が起きて日本は救われ、神国思想が広まった。元寇の影響は、軍事より思想の方が大きく、明治以降に神国思想が復活した。

室町時代は、閉鎖的な明が相手。明は貿易を基本的に禁止したので、許可を与えて認める勘合貿易と、海賊による密貿易の倭寇が併存した。勘合貿易は、日本の将軍が明から「日本国王」という称号を与えられて行われた。「冊封(さくほう)」と呼ばれる上下関係だ。

江戸時代は、少数派の満州族が支配した清が相手。江戸幕府は鎖国政策をとったが、オランダと清との貿易だけは長崎などで認めた。中国からは東南アジア一帯の情報を得た。江戸幕府は儒学を奨励し、朱子学や陽明学が盛んになった。歴史に対する関心も高まり、水戸藩では「大日本史」の編修を進めた。しかし、仏教では黄檗宗が伝えられた程度で、影響は小さかった。

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*** 「デイ・ウオッチ」(7日)

政府、放送法内部文書を公表 立民・小西氏の資料と同一:時事ドットコム (jiji.com)  高市氏が辞職否定 放送法文書巡り – Yahoo!ニュース →TBSの「サンデーモーニング」などが槍玉にあがっているが、特定番組で政治的公平性を問えるか、が本質。安倍元首相は特定番組で問いたかった、圧力をかけたかった。当時の高市総務相は「内容は不正確。(野党が)本物と立証すべきだ」と逃げ切りを図る構え。岸田政権は「一番組だけでは問えない」と幕引きを図るが、厳しい意見が強まっている。問題はまだ続く。

H3ロケット、打ち上げ失敗 2段エンジン着火確認できず―新主力機、日本の宇宙開発に痛手・JAXA:時事ドットコム (jiji.com) →「失敗は成功のもと」というが、大きすぎる失敗ではないだろうか。日本の科学のあり方に関する論争が活発になる。

太陽光投資会社代表を逮捕 4億円余横領容疑―東京地検:時事ドットコム (jiji.com) →三浦容疑者は、国際政治学者・三浦瑠璃さんの夫。父は教育学者で、東大教養学部から外務省を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーに転職。その後、太陽光発電のベンチャー企業を設立した。捜査はこれからだが、絵にかいたような「今風エリート」の倫理観が問われる。

ガーシー議員 帰国しないと表明 – Yahoo!ニュース →除名が確実となった。議員の地位という本質的に微妙な問題をはらむが、国民の理解がなければどうしようもない。NHK党も同罪とみられるだろう。

*** 「社会人キーワード」

◎ファイブフォース  きのう紹介した「SCP理論」と関連した産業分析の手法で、「産業の収益性は5つのフォース(脅威)で規定される」という。具体的には、①潜在的な新規参入企業=参入障壁が低いと、企業が新規に参入して市場を奪おうとする。②競合関係=競合する度合いが高く、熾烈な産業ほど収益性は低下する。③顧客の交渉力=顧客が自社から他社に乗り換えやすい産業ほど収益性が低下する。④売り手の交渉力=自社が売り手を選べない立場にいる時、収益性は低くなる。⑤代替製品の存在=代わりになる製品が多いほど収益性は低下する。現状を分析するときだけでなく、将来の予測に使うと有用性が増す。有力な分析ツールだが、前提の置き方ややり方によって結論が違う可能性があるので、注意が必要とされる。

*** きょうの教養(日中関係史③明治から終戦)

◎「対等と侮蔑の国」(明治から戦争終結まで)=日清戦争までは対等、それ以降は侮蔑に転じた。

清は「清こそ世界の中心」という態度だった。貿易を求める欧州人も朝貢のために来たとみていた。しかし、英国とのアヘン戦争に敗れ、1842年に不平等の南京条約締結を強いられた。欧米各国とも不平等条約を結ぶことになり、貿易拠点がそれまでの広州から上海に移った。幕府は1862年、高杉晋作らを上海に派遣。アメリカ租界の繁栄や美しさ、外国兵の跋扈をみた高杉は「攘夷は非現実的」と感じた。

1871年、日本は清と対等の国交を樹立する天津条約を締結したが、1876年には朝鮮と不平等の日朝修好条規を結んだ。このため、宗主権を主張する清との対立が深まり、1894年の日清戦争に至った。日本が勝利すると、清は弱体化した。明治期は、琉球の帰属や朝鮮問題をめぐって日中間の国家的対立が深まり、老大国清への印象や評価が官民で大きく揺れ動いた時期だった。

清が敗れると、清朝打倒を目指す中国の若者が留学生として日本にやってきた。後の首相・周恩来もその一人だった。1911年の辛亥革命、翌年の中華民国成立で、日本にとって先進国だった中国は、単なる市場、戦略対象の地域となった。明治初期の対等な関係が、日清戦争をきっかけに侮蔑の対象へと変質していった。

そして、1931年の満州事変、1937年の盧溝橋事件を引き金とした日中戦争で、完全な敵対国となった。終戦で、中国は戦勝国、日本は敗戦国となった。

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*** 「デイ・ウオッチ」(8日)

世界各地でデモ 国連総長、権利進展に危機感―国際女性デー:時事ドットコム (jiji.com)  女性の働きやすさ、日本はワースト2位 北欧が上位独占―英誌ランキング:時事ドットコム (jiji.com) →国際女性デーで、世界的にデモがあった。日本は近年、多くの指標で中進国並みに転落しているが、女性の働きやすさはワースト2位。大転換を迫られている。

高市氏、放送法文書は「捏造」 議員辞職を否定:時事ドットコム (jiji.com) →高市氏が国会で再び「捏造」批判。高市氏と総務官僚が対立する構図になりつつある。表現の自由に政局がからんで、着地点はまだ見えない。

N党・立花党首が辞任表明 「政治家女子48党」に改称:時事ドットコム (jiji.com) →ガーシー氏の国会欠席が、NHK党首の辞任、「政治家女子48党」への党名変更に。国民はもうついていけない。

「くら寿司」迷惑動画3人逮捕 業務妨害容疑―愛知県警:時事ドットコム (jiji.com) →回転ずしの「銚子丸」は、すしを回転させるサービスをやめた。回転ずしは消え、「注文ずし」に衣替えしそうだ。

*** 「社会人キーワード」

◎アジャイル   ソフトやアプリを開発する時、大きくまとまった単位でプロジェクトを進めるのではなく、小さな単位でテストを繰り返して開発する手法。英語で「俊敏、機敏」という意味。21世紀前半に生まれたといわれる。それ以前は「ウォーターフォール型」と呼ばれる手法が一般的だった。最初に全体の機能設計などを細かく決めた上で、まとまった単位に分割してプロジェクトを進める。確実性が高いように見えるが、不具合が発見されると工程をさかのぼり、時間のロスが大きくなる。アジャイルは、計画時は細かく作らず、修正を前提に小さな単位で素早く開発していく。特に発注者の要求が変わりやすい時に効果がある。一方、最初の計画がゆるいので、出来上がったものが当初意図したものと乖離する可能性もある。部分最適に走る結果で、大型プロジェクトになるほどリスクは高まるという。

** きょうの教養(日中関係史④終戦以降)

◎「親愛と嫌悪がないまぜとなった国」(終戦以降)=1945年7月のポツダム宣言は、米英と蒋介石率いる中華民国3カ国の共同宣言だった。ソ連は日ソ中立条約が有効だったため、同宣言への署名は8月8日の対日宣戦布告後だった。ソ連の参戦は満州に住む日本人に悲劇をもたらした。シベリアでの強制労働にも従事させたため、日本の反ソ感情は高まった。一方、満州以外の中国からは無事に引き揚げることができ、親愛感を持った。

国際連合が設立され、戦勝国として中華民国が常任理事国になった。しかし、中国は内戦状態となり、1949年に毛沢東が率いる中華人民共和国が成立。蒋介石は台湾に逃れた。日本は1952年に日華条約を結び、中華民国を正統政府と認めた。中共とは民間人が貿易や文化面で交流したが、日米新時代を掲げた岸信介政権が中華民国寄りの政策を取り、政経不可分を主張する中共との交流は停止された。

ニクソン米大統領の側近であるキッシンジャーが隠密外交を展開。1972年にニクソン大統領が電撃的に訪中し、米中共同声明を発表した。日本の田中角栄首相も訪中し、日中国交回復を実現。その後は日中蜜月時代でパンダの寄贈などがあったが、1989年の天安門事件、1990年代後半の江沢民による愛国教育で嫌悪感が高まった。

中国経済の目覚ましい発展で、西側社会は経済面で中国との相互依存関係を深めている。しかし、習近平国家主席の覇権主義的政策は、米国や日本、アジア諸国との軋轢を生んでいる。2022年のロシアによるウクライナ侵攻後、中国の台湾への武力侵攻による「台湾有事」が公然と語られ、緊張関係はかつてなく高まっている。

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*** 「デイ・ウオッチ」(9日)

侍ジャパンが中国に8-1で勝利 – Yahoo!ニュース →前半は重苦しかったが、終盤で突き放した。大谷の活躍が光った。

ヨーカ堂、3年で33店閉鎖 衣料は撤退―セブン&アイ:時事ドットコム (jiji.com) →祖業であるスーパーは縮小し、コンビニシフトが鮮明に。アパレルから撤退し、食に集中する。中興の祖である鈴木敏文氏が退任した際、先行きが懸念された。「時代に合わせた転換か、衰退か」は今後の結果次第。

韓国大統領、16、17日に来日 岸田首相と会談、関係改善を確認へ:時事ドットコム (jiji.com) →日韓の接近で、東アジアの政治状況が大きく変化する。北朝鮮や中国への影響が焦点。

WHOが葛西氏解任 差別発言巡り – Yahoo!ニュース →人種差別的な発言や出身国を理由にした攻撃的な発言があったという。慶応大医学部卒で、岩手県庁や厚生省を経てWHOに転じた。

*** 「社会人キーワード」

マーケティング  よく耳にするが、人によって「リサーチ」「広告宣伝」「データ分析」など意味合いが違う。一言で表現すると「商品やサービスが売れる仕組みをつくること」といえる。経営学の大家ピーター・ドラッカーは「マーケティングの理想は、販売を不要にするものである」と述べている。顧客に「買ってください」と言わなくても自然に買いたくなる状態をつくるには、ニーズに合った商品やサービスを適切なターゲットに向けて発信していくことが大切になる。商品開発から市場調査、販売戦略、広告宣伝、効果検証までの一連のプロセスを、一貫した計画で実行・管理することで「売れる仕組み」になる。「セールス」は、「自社製品を多くの人に販売しよう」「市場を拡大して目標を達成しよう」と属人的な努力で「売ること」に目が行きがちだ。マーケティングは、「顧客起点」で考えることによって販売員の能力に頼らず売れる状態の創出を目指す。

*** きょうの教養(日中関係史⑤考える視点)

我々は中国をどこまで知っているだろうか。中国に嫌悪感を示す日本人は増えており、友好を望む人を「媚中派」のレッテルで非難する風潮もある。世界のどこでも隣国とは難問を抱えている。隣国関係を適切に管理し、武力衝突に発展させないことが肝要だ。

今週は日中関係の歴史を見てきた。戦争に至ったのは、①白村江の戦い(663)②元寇(1274、81)③日清戦争(1894)④満州事変から第二次世界大戦(1931~45)。いくつかの教訓がある。

第一は日中対決というより、第三国が関係した戦争ということだ。①は新羅(朝鮮)、②は南宋、③は朝鮮利権が関係していた。④は日本の侵略行為だった。現在の台湾有事は、米国抜きには語れない。日中間は単純な2国間対立ではなく、複雑な様相を持っているという認識が必要だ。

第二は圧倒的多数を占める漢民族との対立は少ないということだ。①は漢民族だが、②はモンゴル、③は満州族だ。漢民族は北方民族の侵入をたびたび受けているが、領土的な拡張志向は強くない。アヘン戦争まで、日本にとって中国はお手本とする先進国だったが、日清戦争後に侮蔑に変わった。中国から見れば、アヘン戦争以降の屈辱を清算したい思いは強い。その手段として漢民族が「武」で戦うか、「文」を使うか、見極めが必要だ。

国家と社会を分けて考える視点も重要だ。習近平氏は国家主席3期目に入り、強権的な一強のように見えるが、「独裁のジレンマ」も抱える。イエスマンをそろえた側近への猜疑心が独裁を揺るがすという教えだ。コロナ対応、経済運営は統治の試金石だ。国民生活が揺らげば、政権も強権的に抑えることはできない。

中国には米国への留学経験者が日本より多く、彼らは日本人の平均的感覚と変わらない。知識人を中心に国民は、習政権を心からは支持していないとみていいだろう。中国には王朝交代は天の意志だと肯定する「易姓革命」の考え方が根強い。広大な大地と14億の民を抱える中国人の意識は、日本人とは異なると考えた方がいい。統治は容易ではなく、内政が最優先される。日本や米国との関係を軽率に荒立てたいとは思っていない。

日本人が思う以上に中国は多元的だ。日本側にも多元的な視点が必要になる。その前提で両国関係を適切に管理する官民の知恵と努力が必要と言える。