3月27~31日(教養講座:医療の論点)

2023.04.01メルマガ

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年3月27日号(転送禁止)~~~

*** 「デイ・ウオッチ」 (24~26日)

4月から公務員定年引き上げ 国・地方、人手不足に対応:時事ドットコム (jiji.com) →公務員の定年延長は、民間企業に大きな影響を与える。年金をはじめとした社会保障、雇用体系、年功序列賃金や終身雇用などすべてがからむ。日本は人生100年時代のシステム再構築が問われている。

ベラルーシに核配備へ ロシア大統領、ルカシェンコ政権と合意―空軍機とミサイル、7月に保管庫:時事ドットコム (jiji.com) →脅しもあるとはいえ、プーチン大統領は強気一辺倒。対立はエスカレートするばかりだ。

拘束された男性はアステラス社員 中国で国内法違反か(共同通信) – Yahoo!ニュース →帰国直前だったという。背景が焦点。中国政府は明らかにしないことも多いが、日本政府は説明をしっかりと求めるべきだ。

*** 「社会人キーワード」

◎行動データ  ビジネスではデータが重要になっているが、種類は属性データ、意識に関するデータ、行動データなどがある。属性データは、性別、年齢、住所、学歴などだ。住民票や運転免許なら信頼できるが、履歴書などでは信頼性が落ちる。選挙の際には学歴詐称が時に問題になる。意識に関するデータは、アンケート調査などで収集できるが、回答する側がどこまで真剣に考えているかという問題がある。週に何時間テレビを見るか、といった質問では、答える側も感覚的になる。これに対し行動データは、移動や商品の購買、ネット検索などデジタルデータで収集できる場合は、信頼性が高い。デジタルデータを活用した個人向けの広告発信やリコメンド機能は一般的になっている。ただ、回数や時間は正確に把握できるが、質は不十分という課題もある。ウェブページを長い時間開いていたとしても真剣に読んでいるかはわからない。質の把握が今後の課題だ。

*** きょうの教養(医療の論点①先端医療)

今週は、医療の論点を考える。高齢化社会を迎え、医療の可能性と費用が大きな関心を集める。入試小論文に詳しい多摩大学名誉教授・樋口裕一さんの著書を参考にする。

きょうのテーマは、「先端医療」。新しい技術には多くの場合、「光と影」がある。両面を理解したうえで、考えることが重要になる。

先端医療には、遺伝子治療、再生医療、生殖医療、出生前診断、臓器移植などがある。論点になるのは、生と死の領域、生命に関わる分野だ。自然の手にゆだねられていた領域に人類はどこまで踏み込むべきかという問題といえる。個人の価値観に関わるので、簡単に是非を論じることはできない。考える場合には、自分なりの考えをまず固め、他の意見も参考にしながら必要に応じて修正していく作業が求められる。

言い換えれば、倫理やルールの問題である。先端医療は一定の人に恩恵を与える。しかし、生命を人工的に操作することで問題も生まれる。そのバランスをどう考えるか。また、医療費高騰を考えると、費用の問題も無視できない。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年3月28日号(転送禁止)~~~

*** 「デイ・ウオッチ」(27日)

国産量子コンピューターが稼働 「分野の活性化に期待」―理研など:時事ドットコム (jiji.com) →米中が先行している先端技術。2021年に米IBMが川崎市に設置したが、国産機では初。日本の産業競争力は辛うじて自動車が踏ん張っているが、EV化で劣勢に立つ。量子コンピューターのような先端分野で一矢報いたいが、多くはこれから。

台湾の馬英九前総統が訪中 総統経験者は分断後初:時事ドットコム (jiji.com) →かつて激しく対立した中国の共産党と国民党。習主席の統一シナリオとして、国民党を支援して政権につかせ、統一の機運を醸成。台湾土着的な民進党が激しく反発すれば、武力行使をちらつかせながら、現地警察を前面に出して抑え込み、一気に統一を達成するが考えられるが、どうだろうか。ホンジュラスが台湾と断交して中国と国交樹立、チェコ下院議長の台湾訪問など、緊張を高める動きが相次いでいる。

拘束邦人「反スパイ法違反」 具体的容疑の説明避ける―中国:時事ドットコム (jiji.com) →反スパイ法での日本人拘束は17人目という。中国政府はスパイ容疑の内容をはっきり説明していないが、これでは誰でも拘束できてしまう。

太陽光投資会社代表を起訴 4億円超横領―東京地検:時事ドットコム (jiji.com) →起訴された三浦容疑者は、国際政治学者でテレビにも出演していた三浦瑠璃さんの夫。各方面で話題になりそうだ。

*** 「社会人キーワード」

◎VR、AR、MR  それぞれ仮想現実(Virtual Reality)、拡張現実(Augmented Reality)、複合現実(Mixed Reality)。VRは、メガネなど専用のハードやソフトを用いて、コンピューターが作り上げた世界を現実であるかのように知覚させる。ARは、現実に電子情報を付加し、認知する世界を拡張させる。MRは、両者を組み合わせる。VRの歴史は古いが、現在ではエンターテインメント分野が先行している。実務では宇宙飛行士の訓練や医師の手術シミュレーションなどでの活用が見込まれる。普及に向けてのハードルは、コスト高と言われる。ARは2016年に話題になった「ポケモンGO」で知られる。こちらもエンターテインメント分野が先行しているが、まずは小売店での活用が有望だ。MRは専用メガネをかけると実際の商品の説明や価格がわかる例がある。いずれもコスト高が課題で、技術の進化や使用料の増加によるコスト安で普及することが期待されている。

*** きょうの教養(医療の論点②医師と患者の関係)

きょうのテーマは「医師と患者の関係」。かつて両者の関係は「先生と生徒」だった。患者の知識は乏しいので、医師の言うとおりにする。父権主義(パターナリズム)とも言い、医療以外でも見受けられる。

これが最近では、「患者主体の医療」に変化している。「インフォームド・コンセント」という言葉を知られている。「説明と同意」で、医師が情報を提供し、患者の納得を得ることだ。「根拠に基づいた医療」(EBM)という言葉もある。客観的で信頼できる情報に基づいた医療である。

しかし、患者の知識は限られる。重要になるのはコミュニケーションだ。病気を治す力は患者の中にある。両者の会話で、患者が持つ治癒力が高まる可能性もある。患者には、疑問を自分なりに調べ、医師に聞いていく姿勢も求められている。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年3月29日号(転送禁止)~~~

*** 「デイ・ウオッチ」(28日)

川下りの船が転覆 船頭1人死亡、1人不明―京都:時事ドットコム (jiji.com) →観光シーズン、有名観光地の惨事。転覆の詳細はまだはっきりしない。2011年8月、浜松市の天竜川川下りで転覆事故があり、乗客5人が亡くなった。翌年、63年の歴史に終止符を打ったが、保津川下りがどうなるかは、今後の検証次第。

23年度予算が成立 過去最大114兆円―岸田首相「物価高、切れ目なく対応」:時事ドットコム (jiji.com) →規模や国債残高など多くが過去最高となった。岸田首相は同日、国会決議のいらない予備費で2.2兆円の物価高対策を決定。野党は「統一地方選で票目当てのバラマキだ」と批判する。

東芝元社長ら5人に賠償命令 3億円、個人責任を認定―不正会計一部「違反でない」・東京地裁:時事ドットコム (jiji.com) →不正会計での賠償は初という。元社長ら5人で3億円を支払うことになった。OBには厳しい金額で、経営者への大きな警鐘となる。

*** 「社会人キーワード」

◎限界費用ゼロ社会 限界費用は、ある程度の製品を製造した後の追加単位当たりの費用。ゼロに近づくと、コストの急激な低下が起き、ビジネスを劇的に変えることがある。デジタル製品は、早い段階で費用がゼロ近くになる。成功例がマイクロソフトの「ウインドウズ」で、開発には多額のコストがかかるが、初期投資分を回収すれば、あとはすべて利益になる。音楽ソフトでは劇的な変化が起きた。アーティストはCD時代には印税で儲けていたが、ネット配信になると安い料金で売られることになった。愛好家には恩恵だが、アーティストはライブ演奏に収入を求めていった。限界費用ゼロ社会は、米国の著述家ジェレミー・リフキンの提唱した概念で、デジタルだけでなく、モノやサービスの世界でも製造・物流コストは低くなり、価格が安くなると予想した。具体的にはDNAの読み取り、オンライン教育などで低コスト化が進んでいる。この結果、消費刺激型の資本主義は、社会の持続性を意識したシェアリング・エコノミーに転換すると予測している。

** きょうの教養(医療の論点③ターミナルケア)

きょうは「ターミナルケア」を取り上げる。回復の見込みがない患者とどう向き合うかという問題である。高齢化社会でより切実になっている終末期医療のあり方だ。

尊厳死と安楽死という言葉があるが、違いを知っておく必要がある。尊厳死は無理な延命治療をしないで自然な死を迎えさせることだ。延命治療には、人工呼吸器や、胃に栄養分を供給する胃ろうなどがある。安楽死は患者を安楽に死なせること。明確な線引きは困難で、尊厳死を消極的安楽死、安楽死を積極的安楽死と言うこともできる。

前者は多くの先進国では法的に認められている。日本では法制化されていないが、意思表示があれば認められるようになってきた。後者を法律で認めているのは、オランダやベルギーなど一部だ。倫理問題がからみ、場合によっては殺人罪になる可能性がある。死期の切迫度、苦痛の程度、代替手段の有無、患者や家族の意思などが論点になる。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年3月30日号(転送禁止)~~~

*** 「デイ・ウオッチ」(29日)

値上げの春再び、家計圧迫 給与デジタル払い、出産一時金増額―4月からこう変わる:時事ドットコム (jiji.com) →4月から変わるものは何か。相変わらず値上げの動きが続く。デジタル給与が登場し、出産一金は42万円から50万円に引き上げられる。

台湾総統、中米歴訪を開始 米国経由に中国猛反発:時事ドットコム (jiji.com)  「台湾独立支持するな」 米に警告―中国:時事ドットコム (jiji.com) →台湾をめぐる動きは、今後10年単位で世界の注目となりそうだ。中国共産党と台湾国民党の「国共合作」が進みそうな気配で、台湾土着の民進党と米国が結び付き、日本も巻き込まれる構図だ。

岸田首相、早期解散を否定 「政策取り組みが第一」:時事ドットコム (jiji.com)  早期解散「大義ない」 立民・安住国対委員長:時事ドットコム (jiji.com) →解散風をあおりたがる政治家と、それに乗るメディア。日本は解散を政局や選挙と結びつける珍しい国だと知っておく必要がある。解散権は、政府と国会が抜き差しならない対立になった時、やむを得ず行使するもので、選挙対策ではない。

*** 「社会人キーワード」

◎データ・ドリブン・マーケティング  データを総合的に分析し、有機的に活用する手法。最近では「データなきマーケティングはばくち」という声さえある。かつては社内のデータベースに蓄積した顧客や調査のデータを活用することだったが、IT技術やセンサーの進歩を生かしてデータを集め、きめ細かく活用する。典型例はフェイスブックで、過去の閲覧や検索の履歴、「いいね」の履歴を分析し、個人にふさわしい広告をピンポイントで伝える。小売店でも、店ごとに顧客特性を分析できる。一人暮らし高齢者が購入する商品がわかれば、他の店舗でも品ぞろえを厚くしたり、クーポンを配ったりする。前提として、データベースの充実やシステム投資が必要になる。多くの企業ではデータベースが社内に複数あり、内容を連携できないという課題が指摘されている。

** きょうの教養(医療の論点④高齢者の介護)

きょうは「高齢者の介護」を考える。高齢化社会が進み、高齢者が増えている。高齢になるほど、何らかの体の不調を抱えることになるが、介護する人が増えるわけではない。日本は「課題先進国」と言われているが、世界を先取りする大きなテーマだ。

論点は、介護は家族が担うべきか、社会で担うべきか、だ。介護してくれる家族や近親者らがいない人は生きていけない。社会の関与は不可欠だが、どういう形での関与が適切なのかが問われている。

介護保険は、社会で担おうという制度で、40歳から保険料を納め、65歳以上になれば、原則1割負担で介護サービスを受けられる。現在75歳になりつつある団塊の世代が高齢化して高齢者はさらに増えるが、今の保険料で十分かという問題がある。

金銭的な問題がある程度解決しても、介護施設の不足や質の確保も課題だ。介護される期間を短くするため、運動などで健康寿命をいかに伸ばすかも大きなテーマになる。高齢者の社会参加や生きがいなど心に関わる問題も浮上している。

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*** 「デイ・ウオッチ」(30日)

◎ 電力大手に課徴金計1010億円 中部・中国・九州でカルテル―幹部関与、過去最高額・公取委:時事ドットコム (jiji.com)  中国電、滝本社長が退任 カルテル問題で経営刷新:時事ドットコム (jiji.com) →過去最高の課徴金で電力業界が激震の様相だ。カルテルを主導したと思われる関西電力は当局に通報したため「おとがめなし」、中国電力は社長会長退任、中部電力は提訴と対応が分かれるが、本質は法律軽視で反競争に走る業界の体質にある。原発反対論の背景には、言行不一致で反競争、非公開体質の電力業界への不信も小さくない。体質改善策が急務だ。

元国交次官、民間人事に介入 OBの社長昇格求める:時事ドットコム (jiji.com) →30日朝刊で報道した朝日新聞の特ダネだが、ここまで露骨で時代錯誤な人事介入が明らかになるのも珍しい。現在の社長ら首脳陣が民間出身で、そこから情報が表面化したのは確実。朝日のきょう31日の朝刊では「JALとANAの了解を得た」と伝えていたと報じている。

「LINEバンク」中止発表 準備会社清算へ―みずほ:時事ドットコム (jiji.com) →メガバンクの一角みずほフィナンシャルグループのもたつきが目立つ。合併3行の主導権争いから派生するシステム力の弱さがアキレス腱のようだ。

*** 「社会人キーワード」

◎人間に残される5分類の仕事  米バブソン大のトーマス・ダベンポート特別教授が提唱した。人間がAIや機械よりも優位を保てる仕事として、①ステップアップ=システムを高次の視点から評価し、課題設定をして意思決定する仕事。大局観が求められる重要な仕事。②ステップ・アサイド=微妙な気配りや手作業など、機械が苦手で、人間らしい仕事。相手の感情を読み取って気配りをする看護師や介護士、文学や音楽、絵画など文化芸術的な仕事がある。③ステップ・イン=新しい技術とビジネスをつなぐ仕事。現場の人間や起業家が担うことになり、説明できる能力も重要。④ステップ・ナロウリー=機械ではコストが見合わない、複雑で特殊な仕事。科学者、香水の調合師など職人系、ニッチビジネスの個人事業主らがあてはまる。⑤ステップ・フォワード=新しいシステムを生み出す仕事。IT専門家、研究者、ITコンサルタントらが該当する、と分類した。STEM(科学、技術、エンジニアリング、数学)の知識が必要とされる。

*** きょうの教養(医療の論点⑤科学のあり方)

医療の論点の最後に「科学のあり方」を考えたい。科学の特徴として5点指摘できる。

第1は、主体と客体、人間と自然のように二項対立で論理的に分析する認識手法である。第2は最小単位に分けて分析する還元主義、第3はすべてを物資とみなし、第4は普遍法則を求めて数学的に分析する。第5は価値を問わない、と言える。科学の力で近代は大きく発展してきた。

一方、批判や反省も高まっている。二項対立や還元主義では捉えられない現実がある、人間の把握が不十分で人の尊厳を軽視している、価値を問わないため核兵器のように人類の存続を危うくする開発がされる、などだ。科学は主に西洋で発達したが、全体性を重視する東洋思想の再評価を求める声もある。

科学が大きな役割を持つ時代には、科学の基本を理解し、批判的な目を持って向き合うことが必要だろう。科学は絶対ではない。限界を認識しながら、よりよく活用する姿勢が求められている。