4月24~28日(教養講座:三島由紀夫の文章論)

2023.04.28メルマガ

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年4月24日号(転送禁止)~~~

***「デイウオッチ」(21~23日)

衆参5補選、自民が4勝 千葉5区、山口2・4区、大分―和歌山1区は維新、立民全敗:時事ドットコム (jiji.com)  北海道函館市長選、大泉潤氏が当選確実 タレント大泉洋さんの実兄 [統一地方選挙2023]:朝日新聞デジタル (asahi.com) →注目の国政5補選。与党の現有議席は3なので、3勝が勝敗ラインと言われたが、大分を奪取し4勝とした。和歌山1区は維新が勝利し、奈良県知事選に続いて維新の躍進が続いた。各党は結果を分析し、広島サミットを軸とした今後の政局に臨む。話題はタレント大泉洋の実兄の函館市長当選。大泉兄弟は大ブレイクだ。

米外交官ら100人、ヘリで脱出 サウジは陸路700キロ―「停戦」中も交戦続く・スーダン:時事ドットコム (jiji.com)  スーダンから在留邦人の一部が退避開始(ABEMA TIMES) – Yahoo!ニュース →スーダンからは米国をはじめ脱出した国も出始めている。究極の事態になると、軍事力に裏打ちされた国の総合力が問われる厳しい現実。日本人も首都から東部へ退避を開始した情報もある。

ジャニーズ事務所 タレントら聞き取り “性的行為”会見などで | NHK →やっとジャニーズ事務所が動き出した。市民社会で人気ビジネスをする以上、可能な限りの真相究明・謝罪・今後の取り組みの提示が必要だろう。民放もやっと報道し始めた。メディアも目先の利害より社会の大きな流れを踏まえた骨太な報道をしないと信頼を得られない。

水泳教室で5歳児死亡 コーチ4人、気付かず―富山:時事ドットコム (jiji.com) →まさかの痛ましい事故。心配になる親御さんも多いだろう。小学校の水泳授業を委託して民間プールで実施する例も増えているので、影響は大きい。

*** 「社会人キーワード」

◎オンデマンド調達  必要な時に専門知識のある人的資源を調達すること。広義には人材以外にも資金や原材料などの調達も含める。IT技術の発達で、特定の組織に属さず、独立して自分の専門技術を提供できる場面が増えている。フリーランスや契約社員、副業などの形をとる。簡単な仕事を外注する「クラウドアウトソーシング」が注目されているが、オンデマンド調達は、高度技術を調達するため、大きくて長いプロジェクトになるのが一般的だ。人工知能(AI)やDX、データ活用などの分野が有望だ。企業にとっては、固定費として人材を丸抱えしなくてすみ、海外の人材を活用しやすくなるメリットがある。一方、AIなど特定分野の人材は取り合いになる。忠誠心が薄いので、プロジェクトの運営がしにくくなる可能性もある。情報やノウハウが流出する恐れもあり、企業側のマネジメントが重要になる。

*** きょうの教養 (三島由紀夫の文章論①)

今週は三島由紀夫の「文章読本」を紹介する。文章論は1934年刊の谷崎潤一郎から多く書かれている。三島由紀夫の本は1959年に刊行されたが、参考になる記述は多い。最後の第8章「文章の実際-結語」から引用する。

私は短編小説ばかり書いていた時、文章の中に凡庸な一行が入り込むことがひどく不愉快でした。しかしそれは小説家にとって、つまらない潔癖にすぎないことに気がつきました。凡庸さを美しく見せ、全体の中に溶け込ますことが、小説というこのかなり大味な作業の一つの大事な要素なのであります。

「月が上がった。屋根のひさしが明るくなった。二人は散歩に出た」というような文章を書くときに、以前の私なら、そこへさまざまな自分の感覚的発見をちりばめることなしには書くことができなかったでありましょう。月には形容がつき、ひさしの明るさには、ひさしの明るさ独特の色調の加減が加味されたでありましょう。しかし私は、むしろ自然な平坦な文章のところどころに結び目をこしらえることに熱中します。私は、文章があまりに個性的な外観をもつことを警戒します。そうすれば、読者は作者の個性ばかりに気をとられて物語を読まないからであります。 

二、三行ごとに同じ言葉が出てこないように注意します。「病気」と書いた時には、次には「やまい」と書こうとします。古い支那の対句の影響が残っていて、例えば「彼女は理性を軽蔑していた」と書くべきところを、「彼女は感情を尊敬し、理性を軽蔑していた」と書くことを好みます。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年4月25日号(転送禁止)~~~

***「デイウオッチ」(24日)

スーダンの在留邦人ら45人、自衛隊機でジブチに到着 首相が発表:朝日新聞デジタル (asahi.com) →スーダンの邦人45人がジブチに到着した。岸田首相が深夜に発表した。まだ数人残っているという。

「勝った気がしない」「中身が悪い」衆参5補選で自民4勝も岸田首相の表情硬く(日テレNEWS) – Yahoo!ニュース 統一選12人落選、公明動揺 98年以来最多:時事ドットコム (jiji.com)  維新、地方議員ら774人に 統一選目標達成、衆院選準備急ぐ:時事ドットコム (jiji.com) →統一地方選の総括。自民は4勝1敗と勝敗ラインの3勝を上回ったが、接戦が多く厳しい受け止め。公明党は12人落選し、動揺。維新は和歌山1区で勝ち、議員選挙でも躍進した。焦点は次の総選挙。公明は大阪で維新の追い上げを受けているため、選挙区再編で議席が増える都市部での擁立を目指すが、自民と競合する。連立与党の枠組みに微妙に影響する可能性もある。岸田首相は党内にライバルがおらず、低位安定の様相。野党がまとまれば政権交代もあるが、そうならない。政治の熱量が低い。

世界の軍事費、過去最高 ウクライナや東アジア情勢が影響―国際平和研:時事ドットコム (jiji.com) →ロシアのウクライナ侵攻で、世界の軍事情勢は一変した。軍拡競争は新たな脅威を生まないか。軍需産業が笑っている。

*** 「社会人キーワード」

◎ハッカソン  特定の目的やテーマについて、専門家が集まり集中的に作業をする集まり。主にソフトウェア開発を狙う。プログラムの改良を意味する「ハック」と「マラソン」を組み合わせた造語。20世紀後半にサン・マイクロシステムズ社などで生まれたといわれる。短期間で大きな成果を上げることを目指す。最初に目的やテーマを説明し、チームで開発や解決にあたる。コンテスト的な要素を取り入れて競争し、賞金が出ることもある。参加者は場所やハードウエアの作業環境を提供され、寝る間を惜しんで作業をする。IT企業が主催したり、ゲーム開発を目的にしたり、学生を対象にしたり、多くのイベントが開かれている。ソフト開発だけでなく、具体的な事業企画につなげ、ベンチャーキャピタルが投資をして大規模な事業化に進むこともある。

*** きょうの教養 (三島由紀夫の文章論②)

文章の中に一貫したリズムが流れることも、私にとってどうしても捨てられない要求であります。リズムは決して七五調ではありませんが、言葉の微妙な置きかえによって、リズムの流れを阻害していた小石のようなものが除かれます。わざと小石をたくさん流れに放り込んで、文章をぎくしゃくさせて印象を強める手法もありますが、私は小石を置きかえて、流れのリズムを面白くすることに注意を払います。

前日書いた文章を読みなおしてみると、自分が肉体的精神的に最上のコンディションにあって一種の興奮のうちに書いた文章には、二度とかえらぬ熱っぽさが溢れています。長い小説を書いている場合、そういう熱っぽさの次にだらけた心境で文章を続けようと思ったときほど苦痛なことはありません。

しかし、長い眼で見ると、人間の内的リズムは、無意識のうちに持続しているのであって、そのあいだには大いに凹凸があり、緻密と粗雑の違いがあるように見えても、あとで自分の作品を読みかえしてみると、だいたい同じリズムで起伏していることがわかります。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年4月26日号(転送禁止)~~~

***「デイウオッチ」(25日)

HAKUTO-R、月面着陸の直前で通信途切れる 船の状況わからず:朝日新聞デジタル (asahi.com) →成功すれば民間企業では世界初の快挙、明るい話題になる。失敗もまだ確認できていないので、望みは残る。失敗しても月までの飛行データが次につながるか。

バイデン米大統領、再選出馬を正式表明-2024年大統領選(Bloomberg) – Yahoo!ニュース →既定路線だが、ひとつの節目。現在80歳、2期目を終える時は86歳。中国との対立を深めているが、中国を具体的にどうしたいのかよくわからない。ロシア・ウクライナ戦争はどうするのか。共和党の候補がトランプ氏になれば、大統領選のわくわく感はゼロ。世界は希望を求めている。

2月にモスクワ攻撃計画か 米要請で中止、機密文書|47NEWS(よんななニュース):47都道府県52参加新聞社と共同通信のニュース・情報・速報を束ねた総合サイト →ウクライナ内部にもロシア攻撃を主張する強硬派が存在する。米国の要請で中止したというが、ロシア・ウクライナ戦争の内幕が垣間見える。

<読む政治>退陣1年半で再脚光、政権は神経とがらせ 菅前首相のいま/1(毎日新聞) – Yahoo!ニュース →統一地方選を受けてキーマンに浮上する菅前首相。永田町の政局スズメとメディアの悪習で、「解散はいつ」の観測が盛んだが、解散は内閣と議会が対立した時、やむなくするものだ。選挙目当ての解散は日本独特の悪しき政治文化だ。メディアは解散風をあおらない見識が必要だ。

*** 「社会人キーワード」

◎アルゴリズム  コンピューターを用いて問題を解決するための計算手順や段取り。ポイントになるのは、効率よく課題を解決するため、できるだけ少ない計算数にすることだ。アルゴリズムはまず人間が考える必要があり、コンピュータサイエンスを学んだ人材が決め手となる。日本はこうした人材が少ないが、米国の「GAFA」と呼ばれるIT大手は、大量の人材を雇い、莫大な資金を投入してアルゴリズムを開発している。膨大な情報を円滑に処理するフェイスブックなどSNSプラットフォームは代表的な例だ。著名なアルゴリズムは、グーグル創業者のラリー・ペイジらが作った「ページランク」。重要なウェブページを評価する検索システムだが、「重要なページは多くのページからリンクされている」「重要ページにリンクされているページは重要度が高い」という2つのシンプルな前提でアルゴリズムを構築した。それ以前は検索した単語が多く含まれているページを上位にランクしたが、検索の精度が低かったという。

*** きょうの教養 (三島由紀夫の文章論③)

途中で文章を読みかえして、過去形の多いところをいくつか現在形になおすことがあります。日本語の特権で、現在形のテンスを過去形の連続の間にいきなりあてはめることで、文章のリズムが自由に変えられるのであります。日本語の動詞はかならず文章のいちばん後にくるという特質によって、過去形のテンスが続く場合には「した」「た」「た」という言葉があまりに連続しやすくなります。そのために適度の現在形の挿入は必要であります。

「潮騒」のように物語的小説では「であった」という語尾をたびたび使いました。この言葉は物語的雰囲気を強めます。しかしリアリズム小説に「であった」がたくさん使われると、内容をあまりにロマネスクに見せすぎるきらいがあります。

いつか大岡昇平氏とも話したことがありますが、「彼」とは書きやすいが、「彼女」とは書きにくい、「彼女」という言葉は日本語としてまだ熟していないものをもっていて、「彼女」を無神経に乱発する小説を読むと、眉をしかめます。

女性の登場人物の場合には、努めて女性の名前を何度でも使って、なるべく彼女という言葉を避けるようにしています。小説ではない随想の文章に、「僕」と書くことを好みません。「僕」という言葉の、日常会話的なぞんざいと、ことさら若々しさを衒ったような感じは文章の気品を傷うからであります。「僕」という言葉を公衆の前で使う言葉とは思いません。会話のなかだけで使われるべき言葉でありましょう。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年4月27日号(転送禁止)~~~

***「デイウオッチ」(26日)

中国主席、ウクライナ大統領と電話会談 ロシア侵攻後初、特別代表派遣へ:時事ドットコム (jiji.com) →ゼレンスキー大統領は電話会談を評価した。安易な期待はできないにしても、中国のロシアへの影響力は大きく、中国の和平交渉にかける本気度も伝わってくる。慎重に注視する必要がある。

50年後、人口8700万人 10人に1人が外国人―出生率、前回推計から低下・厚労省:時事ドットコム (jiji.com) →厳しい人口減は変わらないが、外国人の増加で減少ペースはわずかに緩和した。2070年に外国人は10.8%になる。2020年は2.2%なので、ほぼ5倍だ。少子化は止めようもなく、日本には賢く縮む戦略が必要だ。

台湾編集長、中国で拘束 国家安全当局が取り調べ:時事ドットコム (jiji.com) →理由もはっきり言わず拘束を繰り返す中国のやり方は、国際社会から到底理解されない。中国共産党は弱いからこそ強権をふるう体質を自覚する必要がある。

通信途絶にこわばる表情 月面衝突可能性も「歩み続ける」―アイスペース:時事ドットコム (jiji.com) →ベンチャーのアイスペース社は失敗と判断した。しかし、失敗なくして成功はない。来年にも月着陸船を打ち上げるという。宇宙開発は国家の威信から企業の夢に変わりつつある。日本初、民間なら世界初の挑戦を応援したい。

*** 「社会人キーワード」

◎機械学習  コンピューターが経験から学び、よりよい計算をするアルゴリズムを使う学習手法。今は「第3次AIブーム」と言われるが、AIの進化は機械学習の進化で、機械学習とAIはほぼ同義になっている。機械学習の得意分野は、①予測②発見③音声認識④言語認識に分けられる。①は与えられたデータから傾向やパターンを見つけることを重視する。「教師あり学習」とも呼ばれる。商品の推薦(レコメンデーション)が典型だ。②は「教師なし学習」と言われ、データの背後にある構造を発見する。顧客を属性や購買履歴から似たような群(クラスター)を選ぶ。人間が思いつかなかったことができる。③と④は現在、進化中で、自動翻訳を含めた通訳やチャットGTPのような対話型AIが出現している。問題点としては、コンピューターが行っている学習や計算が複雑すぎるので、人間が理解できないことだ。どんな規制が必要かについて、議論が高まっている。

*** きょうの教養 (三島由紀夫の文章論④)

文章の目的によって、言葉の感覚はさまざまの変化をします。例えば小説のなかで、俳優の名前を出すことを好みません。なぜなら今日のマリリン・モンローは、十年後には誰かわからなくなってしまうからであります。私の文章が滅びるとしても、少なくとも十年先を考えなければ文章を書く楽しみがありません。

「マリリン・モンローのような女」ということを小説に書けば、十年後、その女の概念は読者になにもつかめなくなってしまうでありましょう。こういう潔癖さは小説作品のなかで、あるいは戯曲の中でだけ発揮されるものであって、随想や随筆や雑文の文章のなかで映画俳優の名前を出すまいと思ったら、無理というものであります。

小説以外の評論や随想の文体はどうしてもおろそかになります。わたしの好みや潔癖さを捨て、俗語も使いますし、わざとふざけた、くだけた文章も使います。その代わり論理的に正確であるように心がけ、作家としての論理に対してもつ、ある気恥ずかしさから、わざと卑俗なくだけた表現をそれにくっつけて使うこともあります。

去年書いた文章はすべて不満であり、いま書いている文章も、来年に見れば不満でありましょう。進歩の証拠と思うなら楽天的な話であって、不満のうちに停滞し、不満のうちに退歩することもあるのは、自分の顔が見えない人間の宿命でもあります。

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***「デイウオッチ」(27日)

コロナ5類移行「5月8日」正式決定 対策は自主判断に – 日本経済新聞 (nikkei.com)→やっとポスト・コロナの時代に。3年4か月は長かった。再び感染拡大の予想もあり、マスク着用なら感染数は少ないという報告もある。このまま平穏な社会に戻って欲しいが。

ディズニー、フロリダ州知事を提訴-言論巡る報復は違憲と主張(Bloomberg) – Yahoo!ニュース →世界的なエンターテインメント企業と共和党の大統領候補の対立。情勢次第ではさらに大きな注目を集めそうだ。

中国、反スパイ法を改正 定義拡大で取り締まり強化:時事ドットコム (jiji.com) 在留邦人に広がる不安 「スパイ行為」の対象拡大―中国:時事ドットコム (jiji.com) →中国に住む日本人ビジネスマンに不安が広がっている。何がスパイ行為かがよくわからない。過剰そんたくによる事業の縮小や投資の抑制で中国にもメリットはないだろう。異論を強権で封じる発想をいつまでするのだろうか。

25年大河は「べらぼう」 横浜流星さん主演―NHK:時事ドットコム (jiji.com) →主役は、江戸時代に吉原に生まれ育ち、東洲斎写楽や喜多川歌麿、葛飾北斎らを見いだした「江戸のメディア王」、蔦重こと蔦屋重三郎というが、よく知らない。視聴率は大丈夫だろうかと心配してしまう。

*** 「社会人キーワード」

◎バイオインフォマティクス  生命情報科学。コンピュータ・サイエンスを分子レベルの生命現象解明に応用する研究領域。これまでDNA遺伝子の解明に威力を発揮してきた。DNAの最小分子は、ACGTという4パターンの塩基の差しかなく、それが二重らせんで延々と続く。犯罪捜査では一般的になっているが、コンピューターの性能向上で1人の人間のすべてのDNA配列を安く早く解明できるようになった。今後の応用分野としては、特定の疾病の発症確立や創薬があり、人間の寿命や健康年齢を伸ばすことが期待されている。動植物の品種改良にも取り組んでおり、食糧不足への解決もテーマになっている。一方、これらは生命の根本に関係する面もあり、倫理的な問題をはらむケースがある。利用と弊害のバランスを深く考え、よりオープンに議論する必要がある。

*** きょうの教養 (三島由紀夫の文章論⑤)

ブルジョア的嗜好と言われるかもしれませんが、文章の最高の目標を、「格調と気品」に置いています。例えば、正確な文章でなくても、格調と気品のある文章を尊敬します。現代作家の中でも私は自分の頑固な好みに従って、世間の評価とはまったくちがった評価を各々に下しています。

日本語がますます雑多になり、与太者の言葉が紳士の言葉と混じりあうような時代に、気品と格調ある文章を求めるのは時代錯誤かもしれませんが、しかし一言をもって言い難いこの文章上の気品とか格調とかいうことは、闇のなかに目が慣れるにしたがって物がはっきり見えてくるように、かならずや後代の人の眼に見えるものとなるでありましょう。

具体的に言えば、文章の格調と気品とは、あくまで古典的教養から生まれるものであります。古典時代の美の単純と簡素は、いつの時代にも心をうつもので、現代の複雑さを表現した複雑無類の文章ですら、粗雑な現代現象に曲げられていないかぎり、どこかで古典的特質によって現代の現象を克服しているのであります。

文体による現象の克服ということが文章の最後の理想である限り、気品と格調はやはり文章の最後の理想となるでありましょう。