5月8~12日(教養講座:司馬遼太郎の戦国武将評)

2023.05.12メルマガ

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年5月8日号(転送禁止)~~~

***「デイウオッチ」(4月28日~5月7日)

元徴用工、岸田首相「心痛む」 福島処理水で韓国視察団―尹氏、未来志向強調・日韓首脳会談:時事ドットコム (jiji.com) 謝罪要求と訪韓歓迎が交錯 ソウル、野党代表は政権批判(共同通信) – Yahoo!ニュース →日韓シャトル外交が復活。米国頼みではなく、日韓で東アジアをどうするかという発信も必要だ。韓国内の対日批判は簡単になくならない。両国政府が誠実に向き合い、国民は過去を忘れないことが大切だ。

「ゼレンスキー氏抹殺」警告 ドローン事件、偽旗作戦の見方―ウクライナの攻勢阻止狙いか・ロシア:時事ドットコム (jiji.com)  露民間軍事会社ワグネル、ウクライナ東部要衝バフムトに大規模攻撃開始 「10日に撤退」表明も短期間の制圧可能とみて(日テレNEWS) – Yahoo!ニュース →ロシア・クレムリンのドローン攻撃。真相は不明だが、9日のドイツ戦勝記念日を前に緊張が高まっている。激戦地バフムトからワグネルが撤退し、ウクライナが近く攻勢をかける情報もあり、事態の急展開も予想される。今でも多くの人が犠牲になっている現実を忘れてはならない。

アリババ創業者のマー氏、東大「東京カレッジ」の客員教授に | Reuters →中国経済の重要人物。一時は中国政府と緊張関係にあった。日中政府間の緊張は緩和か激化か。どうなるかはっきりしないが、知的交流の機会として大切にしたい。

FRB、0.25%利上げ決定 銀行破綻相次ぐもインフレ抑制優先(毎日新聞) – Yahoo!ニュース →欧米はインフレ抑制優先で利上げが続く。動かない日本とは対照的だ。

日銀、金融緩和を検証へ 植田総裁「政策変更に直結せず」―大規模緩和は継続:時事ドットコム (jiji.com) →植田日銀が始動。過去の金融緩和の検証は当然の措置。政治化した黒田日銀は「まったく問題はない」と言い放っていたが、誰もそう思っていない。学者総裁の誕生で、信頼と理性の回復を図るしかない。銀行の根本は信用だ。

*** 「社会人キーワード」 (この欄はグロービス著「テクノべートMBA 基本70ワード」を主な参考文献にしています)

◎ツー・サイド・プラットフォーム 無料と課金で利用する2種類のユーザーがいるプラットフォーム。無料ユーザーは優遇ユーザーとも呼ばれ、フェイスブックやラインの個人ユーザーが典型的。課金ユーザーは費用をかけてプラットフォームを利用するユーザーで、法人の広告主が代表格。優遇ユーザーからみれば、無料で使える利点がある。しかし、広告主らの潜在的対象者になっており、中期的には「タダより高くついている」こともあるともいえる。課金ユーザーからみると、優遇ユーザーが多いほど広告・宣伝の効果が大きくなる。プラットフォーム企業は、早く一定規模の優遇ユーザーを獲得し、ネットワークの経済性を発揮できるように努力する。その結果、得た資金はアルゴリズムやインターフェイスの改良に投資し、さらに拡大を目指すことになる。

*** きょうの教養 (司馬遼太郎の戦国武将評①織田信長)

今週は、司馬遼太郎の戦国武将に関する人物評を特集する。週刊朝日に長期連載した「街道をゆく」で、日本各地の紀行文を書いた。そこに登場した文章を紹介する。教科書には載っていない評価と、司馬独特の表現を味わってほしい。わかりやすくするため、同じ文意で表現を変えた箇所もある。先週と今週で「三方ヶ原合戦」を取り上げる大河ドラマ「どうする家康」にあわせた。

◎織田信長 織田信長の世界観は、家康などと比べると比較が気の毒なほどにいきいきしている。信長は極東の孤島の一隅で生まれた人間でありながら地球のかなたのイスパニア人やポルトガル人によっておこされた大航海時代という世界史的な動向をいち早く嗅ぎ取り、疑いもなくその潮流に乗った人物であった。農本主義よりも貿易による国家経営に魅力をもち、それに手をつけ、しかしながら中道で倒れた。

信長は、世界史的に見ても最も早い時期に出た積極的無神論者である。中世を支配してきた不合理を憎み、粉砕した。商品経済が盛んになっているのに、商品の製造・販売権を社寺が握り、他者の参加を許さなかったのを、本拠の美濃で自由商業(楽市・楽座)をひらき、広げた。中世的なものを壊してしまう最も強力な破砕機のひとつが楽地・楽座であったろう。

宗教軍団が軍事化することも中世の特質であったが、信長はこれを病的に嫌った。比叡山を攻撃し、本願寺嫌いを見てもわかる。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年5月9日号(転送禁止)~~~

***「デイウオッチ」(8日)

ロシア、9日戦勝記念日 取材制限、航空パレードなしか:時事ドットコム (jiji.com) →例年なら盛大に祝う戦勝記念日だが、どうなるか。ドローンによるクレムリン攻撃、ワグネルによる国防当局批判、石油施設の火災などロシア国内でプーチン政権の基盤を揺るがせる動きが出ている様にも見えるが、どうだろうか。

首脳会談で「一歩進んだ」 岸田氏の謝罪なしに不満―韓国紙:時事ドットコム (jiji.com) →韓国内の対日世論は、これまで通り一様ではない。批判は最後まで残るだろうが、ユン大統領の政治的リスクを取った動きに日本政府もうまく呼応し、安定した関係を定着させる必要がある。後は対話を続けるしかない。

ダイハツ不正「トヨタグループ全体の問題」 豊田章男会長 – 日本経済新聞 (nikkei.com) →トヨタグループで不正行為が目立っている。偶然の一致か、構造問題か。100%子会社のダイハツが不正を起こしたタイは、トヨタにとって重要市場で豊田章男会長が先頭に立つという。どんな手を打つのか注目。

コロナ5類、「平時」へ 仕切り撤去、戻る日常―感染対策は個人判断:時事ドットコム (jiji.com)  「もう頃合いかな」マスク外す人、1割強→4割近く 街で1千人調査 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル (asahi.com) →既定路線でコロナが5類に。当面の関心事は日本人のマスク着用。日本文化を考える材料にもなりそうだ。

*** 「社会人キーワード」

◎タッチポイント 顧客が企業やブランドと関係するすべての接点。顧客経験価値をマネジメントする場合、非常に重要なポイントとなる。企業にとってその機会や質を有利に活用することが重要になるが、コントロールできる接点とできない接点がある。例えば英会話教室の場合、教材や講師の質、ウェブサイト、広告などはコントロールしやすい。しかし、教室での受講者の態度、口コミ、SNSなどはコントロールしにくい。芸能事務所は所属タレントの24時間を管理できないので、プライベートでの振る舞いはコントロールしいくい。最近はSNSでの接点が増えており、顧客の発信やそれに伴う評判は半ばどうしようもない。接点に応じてどんな対応を取るべきかという戦略が必要になる。

*** きょうの教養 (司馬遼太郎の戦国武将評②武田信玄、伊達政宗)

◎武田信玄 金(きん)を探して掘り出すという面で、甲斐(山梨県)の武田信玄はずば抜けていた。当初、甲斐という峻嶮(しゅんけん)と急流の多い土地から米の取れ高を増やそうとし、治山治水を盛んに行った。信玄はその事業から見ても、半ば農業土木家であったといえる。

土木技術は容易に鉱山技術に転換できたというのが専門家の説である。「甲州流」という言葉が、江戸期でも尊敬をこめて称せられた。農業土木、鉱業土木全般を通じての甲州のやり方を甲州流という。 それまで日本では黄金は砂金の形で採った。信玄の時代になって大いに「山金」を生産した。

◎伊達政宗 関ヶ原の合戦で家康の世が始まり、戦の世が終わると、正宗の意識は「領国」に拘束された。仙台62万石を豊かにすること以外、考えなくなった。仙台に城と城下町がつくられた時、すぐれた詩人でもあった正宗は、和歌一首を詠んだ。

「入りそめて 国ゆたかなる みぎりとや 千代とかぎらじ せんだいのまつ」

この国土経営の意識が、北上川のつけかえという壮大な土木事業になってあらわれた。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年5月10日号(転送禁止)~~~

 ***「デイウオッチ」(9日)

別容疑で逮捕の4人は少年 レンタカーで逃走か―銀座高級時計店強盗・警視庁:時事ドットコム (jiji.com) →雑踏の銀座を舞台にした驚きの強盗事件。高校生を含む横浜市の少年が犯行に関与した模様で、再び衝撃が走った。都内の宝石強盗との関係、ルフィのような黒幕の有無、ロレックスの高騰など背景が焦点。

プーチン氏「戦い続ける」 戦勝記念日、成果示せず – 日本経済新聞 (nikkei.com)  プーチン氏、ウクライナ戦争の勝利を約束-軍事パレード大幅縮小(Bloomberg) – Yahoo!ニュース →異例の戦勝記念日。登場した兵器は近年に比べて見劣り。戦車は第2次大戦の旧型1台のみ。装甲車両やミサイル発射装置も少なかった。例年なら行われる戦闘機やヘリコプターの飛行も中止。説明もなかったという。

法務省ホームページで障害 サイバー攻撃か:時事ドットコム (jiji.com) →ハッカー集団「アノニマス」が犯行声明を出したという。サイバー攻撃は死者を出さずに国家や都市を混乱に陥れる新時代の戦争だ。日本の他省庁に及ぶかどうか。「日本のサイバー防衛は大丈夫か」という疑問が大きくなれば、大規模な予算投入となるのだろうか。

*** 「社会人キーワード」

◎ティール組織 変化の激しい時代に適合する生命体組織。マッキンゼーのコンサルタントだったフレデリック・ラリーが書いた「ティール組織」で有名になった。同書によると、組織は衝動型(ギャングなど)から、順応型(軍隊など)、達成型(多国籍企業など)、多元型(コミュニティ)へと進化し、最後はティール組織である進化型になるという。進化型組織は、売り上げ目標や上下関係、会議などがなく、自主経営(セルフマネジメント)と全体性(ホールネス)、存在目的を重視する。社員のモチベーションが高く、全員で経営にあたっている。それぞれに色をあてはめ、進化型はティール=青緑色としたことから命名された。「本当に結果が出るのか」という疑問もあるが、全体を統制する中枢がなくても各人が自律的に機能して結果を出すという。インターネットの登場で脚光を浴びた自律分散型の世界観が背景にある。

*** きょうの教養 (司馬遼太郎の戦国武将評③豊臣秀吉)

◎豊臣秀吉 「大領域をおさめる城下は海港を持つべし」。これが秀吉の国土経営の新思想であったと思える。それまでの勢力圏の一番大きな町は、海から離れている。海に面した土地へ意図的に進出してそこに大城郭をつくった最初の人は、秀吉であった。

秀吉は商人の親方であった面がつよい。政権の財政基盤の大きな部分を、堺と博多といった貿易収入源に置いた。所領を比較してもわかる。徳川政権の直轄領は600万とも800万石ともいわれているが、あれほど豊かであった豊臣政権の直轄領はわずか200万石あまりにすぎなかった。秀吉は農村を収奪して米穀をもって財政の基盤とするより、海外貿易に魅力を感じる政治家であった。同時に世界史的潮流の中での時代の申し子だったことがわかる。

秀吉が死ぬ。絶対権力を樹立した人物は、史上まれなほどの孤独な権力者だった。平家の清盛や源氏のような一門をもたず、早く他界した秀長をのぞいて兄弟をもたず、ひとりの妾腹の幼児のほかは子すらもたなかった。家康のように先祖代々が培養してきた郎党ももたなかった。そうでありながら、ただ一個の力で絶対権力を維持したのは、奇跡に近い。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年5月11日号(転送禁止)~~~

***「デイウオッチ」(10日)

バイデン大統領、G7サミット欠席の可能性 債務上限問題を優先:朝日新聞デジタル (asahi.com) →米国で債務問題が与野党対決の問題として急浮上している。米国では政府債務に限度額が定められ、6月までに上限の引き上げか停止を決めないと、国債利払い費などが調達できないという。市場の混乱は必至だが、政治的な思惑が先行している。米国の分断の厳しさを映している。

AI活用と規制、議論本格化 政府、11日に戦略会議:時事ドットコム (jiji.com)  →広島サミットもにらんだ動きだが、日本は世界規模のルール作りで出遅れることが目立っている。AIでの発言力化確保と影響力が問われている。欧米が言及していない新しい論点を提示できるかどうかが当面の関心事だ。

トランプ氏敗訴、賠償金6億円超の支払い命令 27年前の女性暴行 [アメリカ大統領選挙2024]:朝日新聞デジタル (asahi.com) →トランプ氏から性的暴行の被害に遭ったと訴えている人は10人以上いて、司法で認定されたのは初めてという。政治的な背景がゼロではないにしても、トランプ氏がなお大統領候補でいることが日本では理解できない。

「学校でLGBT教育するのか」自民、修正案に注文相次ぐ(産経新聞) – Yahoo!ニュース →自民党内でまだもめている。保守派の反発はイデオロギー的で、現実社会で苦しんでいる人と向き合っているとはいえない。保守派の代表格だった稲田朋美氏は現実を知って柔軟になった。党内で修正案はまとまりそうというが、超党派でまとめた案を修正することになり、ひと悶着はありそうだ。ジェンダー平等などで保守派が現実を見なければ、長期的に自民党の支持率に影響するだろう。

*** 「社会人キーワード」

◎フリー 利用者が無料で利用でき、他の部分で料金を得て継続する収益モデル。次の3種類ある。①フリーミアム=基本となる商品・サービスを無料で提供し、一部を有償にするモデル。例えば、無料のソフトウエアを多くのユーザーに利用してもらい、その中から有償で購入する人を見つける。わかりやすい例ではラインのスタンプがある。本屋の立ち読みも似ている。②三者間市場=第三者が費用を負担する方式で、広告モデルや集客代行モデルがある。民放の地上波テレビは典型的な広告モデルだ。集客代行では無料の着物着付け教室がある。着付けは無料だが、着物販売会社が営業をして売り上げの一部を教室運営者に支払う。③直接的内部補助=一部を無料にして他を有償にする。プロスポーツ観戦の子ども無料がそうだ。入場はタダだが、場内の飲食や物販で収入を得る。どれも昔かあるが、デジタル技術の発達で組み合わせやより高度なモデルが可能になっている。

*** きょうの教養 (司馬遼太郎の戦国武将評④石田三成、毛利元就)

◎石田三成 関ヶ原の戦いで、もともと石田三成の挙兵には無理があった。豊臣家における彼の地位は総務局長程度にすぎず、その石高も近江佐和山で20万石に満たなかった。ただ彼には、打算の時代である戦国に成人した人間としてはめずらしく理念があり、義の観念がつよかった。義という徳目には、無理がともなう。ふつうの利害や保身の感覚からいえば為しがたいことをするのが、義である。三成は、豊臣期の大名のなかで、加藤清正とならんでもっとも民政に留意した人物であり、農民からも慕われていた。

◎毛利元就 戦国末期、中世的政治感覚ではいたって御しがたい門徒をみごとに御して一度もトラブルをおこさなかったのが、毛利元就である。元就研究で、このことにふれた書物が一冊もないのは、惜しいといわねばならない。本来さまざまな欲求や価値観をもつ領民に対し、元就は温和な政治態度をつねにくずさなかった。こういう態度のなかに、安芸(広島)門徒に対する彼の感覚や対処の仕方もふくまれているとみていいだろう。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年5月12日号(転送禁止)~~~

***「デイウオッチ」(11日)

千葉や神奈川で4人がけが 木更津で震度5強(毎日新聞) – Yahoo!ニュース 北海道で震度4 津波の心配なし – Yahoo!ニュース →揺れる日本列島。石川県に続いて、千葉など首都圏、北海道でも地震が起きた。南海トラフ地震、首都直下型地震に冷静に備えるしかない。

AIの基盤技術、急速進化 米グーグル、最新版を披露:時事ドットコム (jiji.com) →グーグルが日本でのサービスを始めた。名称は「バード」で、マイクロソフト系の「チャットGPT」より覚えやすい。大手IT企業以外の参入は無理とみられているので、大手の競争を利用者の利益に誘導する当局の役割も大きい。

岸田首相、米誌「タイム」次回号の表紙に“日本を真の軍事大国にすることを望んでいる”(日テレNEWS) – Yahoo!ニュース →海外から見れば、「岸田首相は日本の軍事大国化を望んでいる」となるが、そう思っている日本人は多くない。国会での議論も乏しいまま予算だけが決まっていくので当然だろう。政治家同士が国会で経綸を戦わせ、国民がそれを見て考え、納得するプロセスが必要だ。

衆院選150議席未満なら辞任 泉立民代表が表明:時事ドットコム (jiji.com) →150議席を公約とすれば、まず無理。辞任は不可避となる。具体策なしに非現実的な議席数の発言をすること自体、党勢の衰退を物語る。辞任しても事態の改善は望めない以上、党の再建と野党の結集を図るしかないと思われるが。

*** 「社会人キーワード」

◎テクノベート・シンキング コンピューターを活用した問題解決のための思考方法。コンピューターの仕組みや得意・不得意を知り、次のような4ステップの段取りで適切なシステムを構築することが重要になる。①問題の定義=解決すべき問題をはっきりさせる。②データの構造化=どのようなデータをどのように与えるのかを人間が考える。③アルゴリズム化=どんな仕様で計算をしていくかを決める。④実行=プログラムに落とし込む。プログラムは専門の機械語で、各種のプログラミング言語がある。特徴を理解して複数の言語を扱えることが望ましい。②~④は随時、検証して修正していく。注意したい点は、よくわからないからと言って、すべて担当任せにすることだ。コンピューターに関する基本的なことは常識として知っておきたい。

*** きょうの教養 (司馬遼太郎の戦国武将評⑤徳川家康)

◎徳川家康 徳川氏、三河武士団のよさも悪さも、百姓の原理の上に立っていたことである。尾張という流通のさかんな土地で成長した信長や秀吉は商人の原理と機略をもっていたが、家康はそういうところがすこしもなく、あくまで山村の庄屋さんの原理でその生涯を終始した。信長・秀吉という商人が倒産したあと、庄屋さんが出てきて自分のものにし、徳川帝国というものを庄屋の原理でつくりあげた。鎖国も庄屋の原理であり、四民の階級を法制化したのも農民の感覚であり、家康のそれらを意識的に平定の原理であるとし、死ぬ前に「三河のころの制度を変えるな」と遺言し、天下統治の法制的原理としたのである。その点、変わったおっさんであった。

秀吉政権を継承した家康は、対外伸張主義はなかった。対外侵略など百害あって一利なしとよく知っていた。つねに自他についての安定した計算能力が働いていた。

徳川の大名配置は、中国・四国で石高が大きく、東にゆくにつれて小さくなっていく。西から外国勢力がやってくるという想定が、計算の中に十分入っていたと思われる。朝鮮とも修好した。その思想を官僚たちにも徹底させたはずである。この方針は、江戸期を通じて不動のものになった。秀吉の侵略によって荒廃させられた朝鮮は、日本への復讐の余力を持たなかったが、宗主国である明に報復を依頼する可能性が絶無とはいえない。家康の対朝鮮修好の手厚さも十分に考え抜かれたものであったにちがいない。 

家康は可能な限りの周辺国の情報を吸収していた。家康の死は、徳川体制における唯一の外政家の死でもあった。対外情報をあつめるだけでなく、それについての判断もした。判断の能力をもつ唯一の人物であったかもしれず、日本国の方針、対応を決める唯一の人でもあった。