6月5~9日(教養講座:企業倫理・理論編)

2023.06.09メルマガ

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年6月5日号(転送禁止)~~~

***デイ・ウオッチ(2~4日)

アメリカの債務上限停止、財政責任法が成立 バイデン大統領が署名 – 日本経済新聞 (nikkei.com) →米国の債務上限問題が決着した。共和党の政治的思惑による民主党へのいやがらせが本質だが、テーマは歳出削減をめぐって激しく議論している。日本は少子化対策の財源を歳出改革で生み出すというが、どこまで真剣にできるのか。この点は米国を見習いたい。

ガーシー氏を逮捕、俳優ら脅迫の疑い 関係者「自主的な帰国でない」:朝日新聞デジタル (asahi.com) →忘れかけていたガーシー前参院議員。容疑や罪名が何になるかは別にして、動画で旧知の芸能人を中傷し、議員の地位を汚した行為は許しがたい。同情の余地がある犯罪もあるが、今回はわかっている事実を見る限り、その余地はない。

豊田章男氏の選任に反対票 米最大年金「独立性が不十分」―トヨタ株主総会で:時事ドットコム (jiji.com) →米国最大の公的年金基金カルパースも豊田章男会長らの選任に反対を表明した。社外取締役が少なく、独立性が低いという理由だ。その他の外資系会社も人事や環境対策関連の議決で反対を表明している。株主総会は6月14日。

出生率、過去最低1.26 コロナ影響で17年ぶり低水準―22年、赤ちゃん80万人割れ・厚労省:時事ドットコム (jiji.com) →少子化が止まらない。最近発表されるデータは、過去最低ばかり。多少でも反転するときは来るのか。

*** 「社会人キーワード」

◎パターン認識  文字や画像、音声などの情報について、AI技術を使ってパターンとして認識する技術。人間の脳は、崩れた文字や知人の顔の一部でも認識することができ、非常に優れたパターン認識の機能を持っている。この能力を機械によって最大限に引き出し、企業活動や生活に応用しよういう動きが活発になっている。比較的早くから実用化されたのが「文字認識」だ。OCR(Optical Character Recognition)という技術は、紙に印刷された文字をスキャナーで読み取り、文字情報に変換する。「生体認証」もパターン認識の応用分野である。指紋や声紋をセキュリティ用に使う動きがある。金融機関の指紋認証は実用化している。顔を認識する技術も進化している。AIの学習能力が飛躍的に向上しており、用途は広がっていくと期待されている。技術と応用のセンスが重要になる。

*** きょうの教養 (企業倫理・理論編①功利主義)

企業倫理・理論編

社会における企業の存在感は高まっている。かつては短期的に儲ければいいという傾向もあったが、今は持続可能性が注目されている。世界がグローバル化し、「SDGs」に代表される規範意識も高まり、「企業倫理」の重要性も大きくなっている。しかし、実態や内実は多様だ。「企業倫理入門」(高浦康有ら著、2022年刊、白桃書房)から各種の理論を紹介する。

①功利主義

人間のさまざまな欲求の充足や快楽を「功利」と呼ぶ。功利に注目して社会全体の幸福を最大に高めることを「功利主義」という。ベンサムやミルら19世紀の英国の思想家によって提唱された。特徴は2点ある。第一は、ある行為の結果が最善かという「帰結主義」である。第二が、最善によって「幸福の総和が最大になる」という「幸福帰結主義」である。幸福の測定は、各自の幸福をポイントにして単純加算する「功利計算」を行う。特定の者を優遇したり、えこひいきしたりしないので、偏りのない「不偏性」があるとされる。

ただ問題点として、①行為の正しさを結果のみに求めることは一面的ではないか②善が幸福に尽きるという考えは言い過ぎではないか③公平性に無関心ではないか、が指摘されている。

確かに功利主義は不十分な面がある。しかし、最近注目されているステークホルダー経営の観点から考えると、実践的な意味がある。短期的利益を優先した株主偏重の弊害が言われているが、功利主義の不偏性によって、株主に偏った経営は不健全と判断できる。従業員の幸せは、金銭的報酬だけでなく、長時間労働やハラスメントのない健全な職場も重要だ。これは幸福帰結主義の思想とマッチする。功利主義のレンズを通すと、企業経営が果たすべき最低限の条件が見えてくる。

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***デイ・ウオッチ(5日)

30年までに女性役員30% プライム企業、政府が重点方針案:時事ドットコム (jiji.com) →かつてあった「逆差別」の声はもうあまり聞かれない。努力目標とはいえ、プライム市場企業に課せられれば、注目度も含めて影響は大きいだろう。「社内に候補者が十分いない」と女性の社外取締役が引っ張りだこになりそうだ。

ウクライナ、東部で「大規模攻撃」 ロシアは「阻止」主張:時事ドットコム (jiji.com) →ウクライナの大攻勢がささやかれるが、明言しないというから実態はよくわからない。ロシアは「阻止した」と言っているが、ウクライナ側は否定している。しばらくはこんな状況が続きそうだ。

東京株、連日のバブル後高値 33年ぶり3万2000円台:時事ドットコム (jiji.com) →東京の株高が止まらない。米国株も上昇しているので、まだ高くなりそうだ。全国チェーンレストランの経営者は「株が上がるとお客さんが増え、単価も上がる」と言っている。株高の真相はなお不明だが、景気上昇につながれば「結果オーライ」だろうか。

*** 「社会人キーワード」

◎ベーシックインカム  政府が国民全員に一定額を定期的に支給する制度。2017年にフィンランドが実験的に実施したことがある。最大の利点は、生活保障になるため貧困対策や少子化対策につながり、生活の不安が消えて経済成長を実現する可能性があることだ。全員に一律に配るので手続きはシンプル。税金や社会保険料の徴収のように手間がかからず、運用コストも低い。最近はAIで人間の職が奪われるともいわれており、ベーシックインカムで人間が不可価値の高い仕事にシフトしやすくなる。一方、批判も多い。人間の勤労意欲を奪い、努力しなくなるという指摘は根強い。財源の確保も難題で、今の日本を考えれば、政府支出をかなり削って財源にする必要があり、現実的ではない。富裕層も含めて全員が受け取ることへの疑問も強い。ただ、世界的に格差社会がさらに進めば、有力な貧困対策として注目される可能性もある。

*** きょうの教養 (企業倫理・理論編②義務論)

②義務論

義務の視点からビジネスを考えれば、顧客や従業員との契約を守ることから、人権や尊厳を尊重することまで、さまざまな義務がある。低賃金の長時間労働を行っている場合、功利主義の観点なら、それが長期的に売上を増やすか減らすかという「結果」で考える。義務論の立場は、行為自体が義務によって成されたかを考える。結果を重視する功利主義は「帰結主義」と言われるが、義務論は結果が失敗でも義務に従った行為なら道徳的に正しいと考え、「非帰結主義」とされる。

代表的な理論家はドイツのカント(1724~1804)で、人権概念の中核となる「人間の尊厳」を重視する。特徴は、道徳判断が誰にでも当てはまる普遍的法則に合致すると考える点にある。ビジネスの場面でも例外なく成り立つ普遍的な道徳判断が、人間の理性によって可能だと考えた。「理性主義」とも言われる。カントは道徳に関する判断について、特定の条件で成り立つ「仮言命法」と、無条件で成り立つ「定言命法」の2つあり、後者が道徳法則だと考えた。

これをビジネスに応用すると、契約の反故や非道徳的企業との提携、情報漏洩など問題があると思われる行為は、例え結果が良くてもすべきではない。ステークホルダーに何かを強制したり、人を手段として扱ったりする行為は排除される。また、権威主義的な管理、機械的で科学的な管理、極端な分業など、組織のメンバーを手段として扱う手法は否定され、民主的な組織が求められる。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年6月7日号(転送禁止)~~~

***デイ・ウオッチ(6日)

原発の取水ダム爆破、決壊 ウクライナの反転攻勢「妨害」か―ロシアは否定:時事ドットコム (jiji.com)→ウクライナの攻勢が始まった模様だ。ロシア国防相はそう言明したという。ダム決壊をめぐっては、ウクライナとロシアは、いずれも相手が破壊したと非難している。住民はこれまでの戦闘に加え、洪水の被害も受けることになる。

マイナ別人口座「2月に把握」河野デジ相が謝罪 庁内で共有されず [岸田政権]:朝日新聞デジタル (asahi.com)  岸田首相、マイナカード問題で河野デジタル相にシステム再点検を指示(朝日新聞デジタル) – Yahoo!ニュース →朝日新聞の特ダネ。隠ぺいを疑わせる政府のミスは、命取りになる。岸田首相は立て直しに躍起で、制度設計を冷静・率直に議論できる環境つくりに動いた。

将棋「学生名人戦」 優勝者が対局中にAIアプリ使用 失格に | NHK | 将棋 →AIを悪用したこうした事態は、どこでも、どんな分野でも起こりかねない。悪知恵を持った人はどこにでもいる。「AIセキュリティ」が叫ばれる時代になるだろう。

「生意気言うな」「あほ」 受刑者に不適切言動―刑務官ら46人処分へ・法務省:時事ドットコム (jiji.com) →刑務官や出入国管理官の人権感覚が問われている。民間サービス企業での研修や人事交流をしたらどうだろうか。

*** 「社会人キーワード」

◎キャッシュレス  決済する時、現金ではなく電子マネーなどを使うこと。日本の消費者は世界でもドイツと並んで現金好きな国民と言える。韓国や中国は世界トップのキャッシュレス社会で、大半の欧米国家も同様だ。最近のキャッシュレス化の動きは、ICカードやQRコードなどを使う方法が主流になっている。スマホの普及も追い風だ。利点としては、レジで現金をやり取りする時間の短縮、現金管理の手間の低減や効率化、現金を落とすリスクがなくなる、などをあげることができる。政府レベルでは、脱税やマネーロンダリング、賄賂の防止や地下経済の縮小がある。一方、懸念もある。最大はセキュリティが確保されているのが大前提なので、システムやネットワークがダウンした時に決済できなくなる。お金に関する個人情報が企業に収集される懸念もある。

*** きょうの教養 (企業倫理・理論編③正義論)

③正義論

西洋思想の正義論には複数の体系がある。代表的なものは、人格面での完全無欠さを重視したアリストテレス(紀元前384~332)、自由で公正な社会正義を重視したロールズ(1921~2002)である。

アリストテレスは「ニコマコス倫理学」で、優れた魂の状態を「正義」ととらえた。優れた人物の全体像を表すのが「全体的正義」であるのに対し、対人関係での関係を「部分的正義」と位置づけ、4つあるとした。本来の状態まで埋め合わせる「是正的正義」、双方の必要を自発的に満たす「交換的正義」、功罪にふさわしい賞罰を与える「応報的正義」、人物にふさわしい地位と役割を割り当てる「部分的正義」だ。それぞれの特徴は異なるが、関係性のバランス=適切な釣り合いを正義と呼んでいる。

ロールズは1971年に発表した「正義論」で、個人や行為に着目する伝統的な正義のイメージを変えた。誰でも自由を享受できる社会を構想し、公正さを重視する「社会正義」を唱えた。キーワードは「分配」で、分配の理由について、不遇者を弱者に変えないためと主張した。分配の対象は自由に等しく生きるための基本財とした。

分配のルールについては、「正義の二原理」を提唱した。第一原理は、基本的な自由を個人は等しく権利として保持すべきという内容で、「平等な自由な原理」と呼ぶ。第二原理は、社会的地位と経済的利益の不平等が許容される合理的な条件に関わる内容で、二つの細則がある。一つ目は、最も不遇な人々の利益最大化が図られている場合に限り格差を認める「格差原理」。もう一つは、機会が均等に開かれている条件で生じる不平等を認める「機会均等原理」だ。 「正義の二原理」を社会が受容するプロセスについて、人間の合理的判断と選択にゆだねる手続き的正義も重視した。

社会正義論をビジネスに応用すれば、企業の倫理課題の多くは経営資源の分配に関係しており、公正さに配慮した企業経営が求められることになる。自由と多様性の尊重や少数派を弱者にしない今日的な関心に応えるものでなければならない。

~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年6月8日号(転送禁止)~~~

***デイ・ウオッチ(7日)

マイナンバー給付金、家族名義の口座登録13万件 河野太郎デジタル相 – 日本経済新聞 (nikkei.com) →またも飛び出したマイナカードの新事実。まだ出てきそうだ。今回は家族名義というが、口座のない子どもの分なら大きな問題ではない気もするが、どうだろうか。マイナカードは時間をかけた仕切り直しが必要だろう。

ウのダム破壊 集落や動物園で被害 – Yahoo!ニュース ウクライナ、ダム決壊で農業に打撃 穀物価格が上昇 – 日本経済新聞 (nikkei.com) →ダム破壊の被害が広がっている。穀物価格上昇は世界に長く影響するかもしれない。いまだにどちらの犯行かわからない。反転攻勢も始まり、ウクライナをめぐるニュースが多くなりそうだ。

生活保護申請、6.9%増 22年度、3年連続プラス(共同通信) – Yahoo!ニュース →2021年度は0.8%の伸びだったから、22年度の6.9%はかなり大きい。高齢者が増加しているという。年金収入だけでは立ち行かない人が増えているのだろうか。

参院、斎藤法相問責決議を否決:時事ドットコム (jiji.com) LGBT法案、9日採決 与党、今国会成立目指す―衆院委:時事ドットコム (jiji.com) →「終盤国会の攻防」と言えるが、緊迫感を欠く。超党派のLGBT法案は与党案になりそうだ。「後退」とみるか、「これまでより一歩前進」と評価するか。世界からは一周遅れだが。

*** 「社会人キーワード」

◎ロングテール  マイナーなニッチ商品の販売額がネット通販で高い水準になっていること。商品ごとの売り上げをグラフで示すと、ヒット商品は恐竜の長い首(ヘッド)にあたり、その他の商品は長い尾(テール)のようになる。かつては上位2割の製品や顧客が、売り上げの8割を占めるという「パレートの法則」が著名だった。しかし、小売店がリアルからネット空間に広がると、売り場面積や在庫スペースが無関係になり、ニッチ商品や多品種少量の製品でも大きな売り上げを稼ぐようになった。本屋なら売れない本を置かないが、アマゾンのようなネット通販なら売れないニッチな本をたくさん集めて稼ぐことができる。2004年に米国の雑誌編集長が「ザ・ロングテール」という記事でアマゾンなどの成功を取り上げ、定着した。

*** きょうの教養 (企業倫理・理論編④徳理論)

④徳倫理

徳理論は、人間にとっての善い生き方や幸福を問い、徳を備えることの重要性を説く。徳理論の祖はアリストテレスで、「ニコマコス倫理学」で主張している。究極的な善としての幸福は、巨万の富でも名誉でもなく、善き生き方であり、「エウダイモニア」を呼んだ。「幸福」や「善き生」とも訳されるが、善き人間となることによって達成される生を意味する。

「徳」はギリシア語の「アレナー」に原語があるが、アリストテレスは人間固有の機能は「理性」だと考えた。それは人間の関係性の中で発揮され、思いやり、協調的な態度、寛容さ、感謝の念、正直さ、公正さ、誠実さ、ユーモアや機知が重要になる。とりわけ重視したのが「中庸」で、欠乏と超過という二つの悪徳の中間にある。例えば、勇敢という徳は、臆病と無謀の中間である。有徳な人は、置かれた状況で発揮すべき徳を理解し、実際に実践する。特に長期にわたる実践が大切で、有徳であろうとする自己改善によって善き生となる。

ビジネスに応用すれば、企業の目的は、経済的利益の追求に加え、そこで働く人の徳の陶冶、人間的な成長を支えることが重要となる。善き生には善き仕事が含まれ、社会を豊かにし、誇りを持て、充実や喜びや成長を感じられる仕事が期待される。

日本の実業家では、渋沢栄一が代表的だ。幼い時から親しんだ「論語」の教えをもとに「道徳経済合一説」を唱えた。各人がヒト、モノ、カネ、知恵を持ち寄る「合本主義」の構想を持ち、「日本資本主義の父」と呼ばれた。京セラの創業者である稲盛和夫もこの系譜に入る。「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」と定義した。最も重視するのが「考え方」で、これ次第でプラスにもマイナスにもなる。心のあり方や生きる姿勢、倫理観と置き換えることもでき、具体的には、利他、感謝、前向きさ、協調性、明るく肯定的などをあげることができる。マイナスの考え方は、利己的、強欲、傲慢、非協調的な姿勢などだ。こうした考え方は、グローバル資本主義が生き詰まりを見せる中で注目されている。

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***デイ・ウオッチ(8日)

全仏OP女子複失格の加藤未唯が混合複で四大大会初V、日本女子2年連続頂点に<テニス>(tennis365.net) – Yahoo!ニュース →ボールガールにボールをぶつけて失格になった加藤選手。世界中から注目され、ワイドショーでも同情される存在となったが、切り替えて見事に初優勝。知名度を一気に上げ、「幼いころからアスリート」という話もテレビで放映され出した。ただし、失格の後処理はこれから。

同性婚認めないのは「違憲状態」 福岡地裁判決、賠償請求は棄却:朝日新聞デジタル (asahi.com) →司法の一審判断は違憲2件、違憲状態2件、合憲1件。方向は明確だ。原告は同性婚を増やそうという訳ではなく、生きるための法的権利を求めている。政治が動くべき時期だが、自民保守派のイデオロギーが立ちはだかる。現実をみないと、安倍元首相亡き後の保守派は先細りだろう。

入管法改正案、9日にも成立 参院法務委で可決、立・共反対:時事ドットコム (jiji.com) 山本太郎代表への懲罰動議 提出へ – Yahoo!ニュース →入管法改正案には強い反対があるが、野党分裂で影響力を欠いた。採決を阻止しようとするれいわ新撰組・山本代表の動画は迫力あるが(2本目の記事)。

国家公務員合格者、東大卒10年で半分以下 最少の193人 – 日本経済新聞 (nikkei.com) →明治政府は、東大法学部の前身の卒業生を国家公務員試験で優遇し、成績優秀者を集めた。主導したのは自由民権運動の広がりを恐れた山縣有朋。それ以降、官権国家と官尊民卑が強化された。東大卒の官僚が減り、多様な人が働く開かれた政府になれば、慶事とすべきだろう。

*** 「社会人キーワード」

◎ラストワンマイル  モノが届く最終区間のことで、直訳すれば「最後の1マイル(1600メートル)」となる。ネット通販の場合、物流拠点から最終消費者に配達するが、デジタル化がいくら進んでも最後は人が運ぶしかない。ネット通販に慣れた消費者は、何でも通販に依頼して「どんどんわがままになっている」と言われている。不在で配達が遅れたり、何回も受け損ねたりした場合、不満を募らせる。一方、物流業界は人手不足や高齢化に加え、単身や共稼ぎ世帯の増加で不在者が多くなる問題を抱えている。2024年4月からトラックドライバーの年間時間外労働を960時間に制限する「2024年問題」ものしかかっている。コンビニやスーパーに受け取りロッカーを置き、ラストワンマイルを消費者と分担し合う「ピックアップ型」の普及、軽い商品をドローンで送る検討も始まっている。

*** きょうの教養 (企業倫理・理論編⑤行動倫理)

⑤行動倫理

企業は倫理教育やコンプライアンス研修を実施しているが、不祥事はなかなか減らない。人々に倫理性を植え付けようという従来のアプローチと異なるのが、行動倫理だ。シカゴ大学のリチャード・セイラーが2017年に行動経済学でノーベル賞を受賞し、行動科学が注目を集めている。人間の実際の行動法則を明らかにし、行動を予測したり、コントロールしたりしようというものだ。カギになるのが、認知バイアスや人間心理に関わる心の動きである。背景には、ハーバート・サイモンが1940年代に提唱した「人間の判断の合理性には限界がある」という限定合理性がある。

従来の倫理学は「倫理観の欠けた人間が非倫理的行動をとる」と考えるが、行動倫理学では「誰でも非倫理的行動をとってしまう」という前提を置き、背後にある要因に着目する。行動科学の観点から予防策を講じ、人の行動を倫理的な方向に誘導しようとする。

非倫理的な行動を生むメカニズムが複数ある。「倫理の後退」のメカニズムでは、次のような実験がある。有害除去装置をつけなかった場合、罰金の有無でどう違うかを調べた。罰金付きの方が違反は少ないと思われるが、結果は逆だった。罰則が導入されると、罰金を払うかどうかという経済的な問題になり、倫理が後退する。

このほかのメカニズムとして、自己中心的な考えで非倫理的行動を正当化する「自己中心主義」、婉曲的な表現で社会的に許容されない行為でも許容されると思い込む「婉曲的表現」、先入観で決めてしまう「無意識の偏見」、自分と共通点のある人の便宜を図る「内集団びいき」、良い行為をする代わりに多少の非倫理的行為を許容する「善行の免罪符効果」などがある。行動倫理学は、「こうあるべき」という理想がうまく実現しない場合、人間性への深い洞察によって、何が問題やネックになっているかを明らかにできる可能性がある。