点描・ジャニーズ事務所記者会見

2023.09.08コラム

ジャニーズ事務所が9月7日、創業者・ジャニー喜多川氏の性加害問題で記者会見をした。性加害を事実と認めて謝罪し、東山紀之氏が新社長に就任したことが新事実だった。多くは今後に持ち越されるが、何が焦点になるのか。ジャニーズ事務所と大衆文化、メディアのあり方の2点について考えてみた。

テレビ東京とNHK教育以外の主要地上波が長時間生中継する注目の会見だった。被害補償の概要も明らかにされるとみられたが、新事実は乏しく、実務能力の乏しさを印象付けた。しかし、東山氏は井ノ原快彦氏らと4時間以上会見し、言葉の端々から覚悟は伝わってきた。

まず重視されるべきは、被害者の思いだろう。対話をしながら、事実を認定し、被害補償の枠組みを決め、実行していく。時間がかかり、曲折も予想される。金額の問題になってくれば、話はより複雑になる。東山氏らは多くの発言したので、その一部への不満も募る。金だけで済む問題ではなく、被害者が納得するけじめをつけなければならないだろう。

社名問題は引きずりそうだ。「ジャニーズと聞くと苦しくなる」とフラッシュバックを告白する被害者がいる。ジャニーズ文化ともいえるこれまでの活動を継承したいというのが東山氏らの思いだが、被害者救済や解体的出直しというなら、新社名を求める声は高まるだろう。

喜多川氏は、児童虐待をするためにタレント希望の少年を集めたとみることもできる。一方、かつてない魅力をもったエンターテインメントを創造し、大衆文化に貢献したことも事実である。ファンにとってはかけがえがない。この文化が残るはどうかは、これからの活動次第で、社会がそれをどう受け止めるかにかかっている。CMスポンサーを降りる企業も出ている。イメージを重視する企業の論理だが、タレントに罪はないとも言える。

メディアはどうか。反省と今後について、各社コメントを出しているが、本当に変わることはできるのだろうか。メディアがジャニーズを重用したのは、視聴率や部数にいい影響があるからだ。好影響がある限り、それを活用しようという理屈は今後も変わらない。各社の経営が厳しくなっているので、より強まっているともいえる。

メディアにとってこの問題の本質は、「人権」と「強者」という二つの側面がある。人権に対する考え方はここ30年でかなり変化した。性加害だけでなく、虐待、パワハラ、セクハラ、差別といった問題に対する認識は年々深まっている。今回と同じようなことが起きれば、自らの調査報道で追及するかどうかは別にして、視聴率や部数を犠牲にしても距離を取ることは確実だろう。

メディアがジャニーズを重視した理由は、ジャニーズ事務所の言うことを聞かないと不利になるという事情もあった。強者である喜多川氏の権力性である。社会的な強者や権力は大なり小なりどの世界にもある。忖度と同調もつきものだ。人権問題を抱えた強者とは距離を取るが、そうでない場合はどうだろうか。

国家、政治、行政、検察、警察、大企業などは大きな影響力を持つ。メディアは基本的に弱い立場にある人や組織を重視すべきだと考えている。強者にすり寄るメディアが増えている気がするが、どうだろうか。強者を何でも批判しろと言うのではない。弱い立場を重視しながら、自律的に活動すべきだと考える。メディアも権力である。自律性を持って社会をチェックする役割を果たしているかどうか、監視される身でもある。