「税の12月」と「政治の信頼」 天声こども語紀行③

2023.12.18コラム

2023年12月18日・朝日小学生新聞1面コラム「天声こども語」

一年を表す「今年の漢字」に「税」が選ばれましたが、12月は将来の税金をどうするかを決める月でもあります。政党や政府は、関係する人たちから要望を開いて、会合を開いて議論をします▼税金は大きなできごとのきっかけになってきました。アメリカは昔、イギリスの植民地でしたが、イギリスが勝手に税金をかけるので、戦争を起こして独立しました。皆さんも何か買うと、消費税を負担します。誰にとっても身近です▼憲法は、教育、勤労、納税を国民の三大義務としています。国民は勉強をし、働き、税金を納めることを求められているのです。税金は総理大臣が勝手に決めることはできません。国会で半分以上の賛成が必要です▼国民が納得して税金を払うためには、政治に対する「信頼」が重要です。しかし最近、政治パーティーの裏金が大きなニュースになり、大きな信頼問題になっています。おカネは社会を揺るがします。

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「今年の漢字」が「税」に決まったのは、12月12日。天声こども語の原稿はすでに出してあったが、新しいニュースを取り入れようと、冒頭を書き直した。「税」の語源は「一年間蓄えたコメを抜き取られること」という。確かに「抜き取られる」という感覚はしっくりくる。日本のサラリーマンは給料から抜き取られる源泉徴収が徹底している。税金はしっかり集まり、納税者意識は低くなる。お上にとっては好都合だが、納税者意識が低いことは主権者としての意識も低く、「お任せ民主主義」になりがちだ。

長谷川キャリア文章塾で「税と社会保障」といった課題作文を出すと、優秀と思われる受講生でも税の知識が乏しい。いろいろ書いているが、結論は「よくわかりません」に等しい。おいおい、「自分の将来がかかっているんですよ」と厳しい講評を返送したが、「税を真面目に勉強したい」と反応した。こうした点はやはり優秀だ。知識不足は本人の理由もあるが、岸田首相はじめ歴代政権が税に関して国民との情報共有をさぼっている要因も大きい。アメリカ独立革命はボストン茶会事件から始まった。宗主国イギリスの一方的な課税が引き金だった。税と革命は表裏一体の歴史でもある。

税と初めて深く関わったのは、1996年4月から1年間、当時の大蔵省(現財務省)をキャップとして担当した時だ。バブル崩壊の痛手が予想以上に深いことがわかり、今につながる財政危機キャンペーンを始めた年だ。大蔵省は当時、「官庁の中の官庁」と言われ、銀行局と証券局の金融部門(現金融庁)もあり、日本のカネの流れをすべて牛耳る官庁だった。特に予算編成権を持つ主計局は、政党や他官庁に大きな影響力を持っていた。省内でも主計局の地位は圧倒的に高く、次に税を担当する主税局、続いて金融部門だった。黒田前日銀総裁らがいた国際金融局は海外向けの特殊部門だった。

財務省。霞が関で最も古い部類の庁舎で、建て替えは恐らく最後だろう。

東大法学部卒業生が多く、成績優秀なエリート集団とみられるが、いろんな人間がいる。タイプは二つに分かれる。単純に言えば、やり手の政治家タイプと手堅い官僚タイプである。政治家タイプの中には強大な権限を背景に尊大にふるまう人間もいる。主計局の尊大な官僚は嫌われる。主税局は税負担のお願いをするので、慎重で謙虚にふるまう傾向がある。バブル崩壊や住専問題、金融破たん問題の責任も取る形で、金融部門が分離されたが、底流には尊大な官僚に対する政治家や他官庁の反感もあった。実るほど頭を垂れずにふんぞり返る人がいるのだ。

12月は財務省を中心とした官庁担当記者にとって、特別にあわただしい季節だ。予算案や税制大綱の決定に向けて、議論が日々詰まっていく。シナリオに沿って政治家や圧力団体がやらせのように踊る案件もあれば、先行きが見えないガチンコもある。ガチンコをさばくことで政治家の腕力が評価され、そのおぜん立てで官僚が評価される。物事を決める時、理屈だけではまとまらない。あることないこと言い合い、疲れた末に合意するということも少なくない。疲労困憊した身体で一体感も生まれ、決着するのだ。

財政規律を重視した意見を言う人に対して、「財務省の回し者」「財務省の陰謀」と批判することがあるが、違和感がある。借金をすれば、返さなければならない。家庭も政府も変わらない。違うのは、政府は通貨を発行する権限があることだ。日本の借金は主に日本国民が持っているので心配ない、という意見もある。確かにこの2点は重要だが、だからといっていくらでも借金して大丈夫、とはならない。政府は発行した国債を返済しなければならないのだ。独自通貨を持つ国は借金をしても財政破たんはしないというMMT(現代貨幣)理論が安倍政権時代にまことしやかに言われたが、「誰も無限には借金できない」というのは、経済学ではなく常識の問題だろう。

今回のこども語のメッセージは「納税は国民の義務であり、前提知識も義務みたいなものですよ。政治への信頼がなにより大切。国民も政治家もしっかりしよう」だ。小学生には少し難しいかもしれないが、早くから知っておいた方がいいことだろう。その政治が、パーティー券裏金問題で大揺れだ。そのあおりで税のまともな議論はなかった。東京地検特捜部の捜査が焦点だ。小学生が、捜査のニュースや「天声こども語」に触れながら、「税金や政治って大事なんだ」と思ってくれればと願っている。「紀行」と銘打っているが、今週は紀行っぽくなかった。申し訳なし。まぁ、いいか。