SDGs貧困をなくそう(2023年2月6~10日)

2024.01.05教養講座

*** きょうの教養(SDGs貧困①貧困とは何か)

「SDGs」という言葉はもはや一般的になっている。2015年に国連が決めた「持続可能な開発目標」で、17の目標から構成されるが、どこまで詳しく知っているだろうか。世界の社会課題を考える基本と言えるので、折に触れて紹介したい。

今週は目標1「貧困をなくそう」について深めたい。まず「貧困とは何だろうか」。 貧困には絶対的貧困と相対的貧困がある。前者は極度の貧困で、1日1.9ドル未満で生活しなければならない状態だ。日本円にして300円弱。ほとんどはアフリカだ。2015年の統計で最貧国はマダガスカルで、国民の77%が絶対的貧困の状態にある。

相対的貧困は、その国の平均所得の半部以下の所得の状態で、年200万円が平均なら100万円以下の人たちだ。先進国で苦しい生活をしている人たちも含まれる。

国の豊かさは「GDP」で示される。「国内総生産」の頭文字で、一国で生産されたモノやサービスの合計額だ。1位はアメリカで、2010年に中国が2位に浮上した。3位日本、4位ドイツ、5位イギリスの順だ。一方、アフリカは人口の16%を占めるが、GDPはわずか3%。特にサハラ砂漠以南の国々は貧しく、絶対的貧困に苦しむ人が4割以上もいる。

*** きょうの教養(SDGs貧困②英米中の状況)

貧困の2回目は、英国、米国、中国の歴史と現状を見ていきたい。日本は3回目で考える。

英国の歴史は各国の参考になる。18~19世紀の産業革命で優位に立ち、覇権を握った。第二次世界大戦後、米国に抜かれたが、「ゆりかごから墓場まで」を目指して福祉国家を完成。しかし、経済は停滞し「イギリス病」と呼ばれた。サッチャー首相の新自由主義的改革で一時立て直したが、最近は失業や移民流入、EU離脱で混迷している。

移民国家の米国は、昔から格差が大きかった。「ゲットー」と呼ばれる低所得者地域がある一方、高所得者が壁に囲まれて住む「げーテッドタウン」がある。職種間、人種間の格差は依然として大きく、最近は政治的に民主党と共和党の深刻な分断が指摘されている。

中国は改革開放政策で経済規模は拡大したが、国内格差は大きくなっている。新富裕層と呼ばれる実業家や起業家が多く生まれる一方、大学を卒業しても安定した職に就けない「蟻族」(ありぞく)、地方から都会に出て厳しい生活を強いられる「鼠族」(ねずみぞく)がいる。

格差拡大は、中間層の不在を意味し、政治的に不安定になりやすい。国際協調による経済の安定が重要だが、冷戦崩壊直後比べて、そうした気運は乏しい。

*** きょうの教養(SDGs貧困③日本の相対的貧困)

3回目は日本国内の相対的貧困を考える。

日本のGDPは、米国、中国に次いで3位になっている。これを人口で割った国民1人当たりでみると、日本は2018年の統計で26位。1位はルクセンブルクの11万5536ドルで、以下スイス、マカオ、ノルウェー、アイルランドと続く。日本は3万9303ドルで、ルクセンブルクの3分の1弱だ。理由は1人当たりの生産性が低く、高齢化で働いていない人が多いなどのためだ。GDP2位の中国は、1人当たりでは70位にとどまっており、豊かとはいえない。

日本では、基本的な生活を保障する生活保護制度があるため、絶対的貧困はほとんどみられない。しかし、相対的貧困率は15.7%で、先進国が加盟するOECD(経済協力開発機構)で10位の高さにある。最高は米国の17.8%、最低はアイスランドの5.4%。英独仏は8~11%台だ。

格差を表す指標として「ジニ係数」がある。イタリアの統計学者ジニが考案した数値で、0から1の間の数字で示される。1に近づくほど格差が大きくなるが、日本は先進国で高い位置にある。生活保護世帯もここ30年で3倍近くに増えており、日本はかつてほど豊かな国とは言えない。

*** きょうの教養(SDGs貧困④世界の絶対的貧困)

4回目は世界の絶対的貧困の原因を考える。戦争や内戦、事故や病気、異常気象など多くの要因がある。

戦争や内戦による貧困は、生命の危機に直結し、支援が届きにくい状況も加わる。もっとも悲惨だ。働き手の命が奪われれば、家族の収入がなくなる。電気やガスといったインフラも破壊され、難民として国外に逃れる人も生まれる。国連は難民支援に力を入れているが、最近ではシリア、ウクライナからの難民が深刻だ。 

新型コロナウイルスのような感染症の影響は経済力の弱い国でより大きくなる。不衛生な環境が拍車をかける。熱波や日照りなどの異常気象、台風や地震などの自然災害も弱い部分を直撃する。国や個人にのしかかる重い借金も足を引っ張る。

人類共通の課題として、地球温暖化を緩和するために二酸化炭素の削減などを進めているが、国同士の利害が衝突する。課題解決には国際的な協調行動が不可欠だが、その機運は後退している。ロシアのウクライナ侵攻で、世界は民主主義を標榜する国と権威主義的な国に分裂している。

人間の生活を大きく左右するのは、教育費や医療費、社会保障費だ。しかし世界ではそれ以前の段階で足踏みしている国が多い。

*** きょうの教養(SDGs貧困⑤何ができるか)

貧困の最後は、私たちに何ができるかを考える。SDGsは、2030年までに極度の貧困を終わらせ、各国の貧困者の割合を半分に減らすことをターゲットにしている。何ができるかは、政府や企業、団体など立場によって違うが、一般個人に求められることはまず、貧困の実態・原因・悪影響を知ることだ。

日本では2012年に子ども貧困率が過去最高の16.3%になった。7人に1人が相対的貧困で、仲間外れになったり、いじめられたりする例もある。親のリストラや失業、離婚なども背景にある。子どもの貧困は将来に連鎖する。見過ごせない問題だ。

最近では子ども食堂が注目されている。2012年に東京都大田区の青果店主が始めたと言われている。必要な子ども達に食事を提供するのが第一の目的だが、最近では子ども同士や地域の大人の交流拠点としての意義も高まっている。個人レベルでは、募金やボランティア活動も重要だ。

政府レベルでは途上国への開発援助、税制改正による分配の公平化などが柱になる。国際的には戦争停止、気候変動への対応などで、狭い国益ではなく人類益を意識した行動が求められる。貧困はすべての課題の核心でもある。取り組みの真剣さに人類の将来がかかっている。