コミュニケーション学入門(2023年6月19~23日)

2024.01.06教養講座

*** きょうの教養 (コミュニケーション学①定義と視点)

就活や社会人生活、グローバル化した社会で生きていくため、コミュニケーション能力の重要性が強調されている。人間社会の大半はコミュニケーションとも言える。何となくわかっても、実はよくわかっていない。やや複雑に感じるかもしれないが、「コミュニケーション学 その展望と視点」(末田清子、福田浩子著)を参考に考えてみる。

◎定義と視点 コミュニケーションの語源は、「共通項」という意味を持つラテン語だ。アメリカの人類学者ホールは「文化はコミュニケーションであり、コミュニケーションは文化である」と定義した。126の定義があるとした研究もある。

4つの視点がある。第1は、物理的にとらえ、機械が情報を伝達する効率に焦点をあてた「機械論的視点」。第2は、受け手が外からの刺激を選別して情報を取り入れるフィルターを重視した「心理学的視点」。第3は、当事者間にある言葉や行為というシンボルが、どう創造や意味付けされ、共有されるかに焦点を当てた「シンボリック相互作用論的視点」。第4が、コミュニケーション総体の仕組みや動きを考える「システム論的視点」。第3の視点がわかりやすく、一般的だ。

コミュニケーションは、シンボルを介し、人が意味付けをすることで行われる。国なら国旗や国歌、学校なら校章や制服である。人はシンボルを介してコミュニケーションをせずにはいられない。振り出しに戻すことはできず、再現もできず、そのプロセスが重要になる。

コミュニケーションは、3つのニーズのカテゴリーで行われる。「生存」「関係」「成長」である。ニーズの認識の違いで摩擦が生まれる。Aさんが職場や個人の悩みを打ち明ける。Bさんはそれぞれの解決策を答えるが、かみあわない。Aさんは「ただ聞いて欲しい」という関係ニーズから話しているが、Bさんは職場などでの生存ニーズから打ち手を考えている。人質事件が起きた時、人質の生存ニーズを重視して、金など犯人の物質的要求を重視した。しかし、犯人は認められたいという承認欲求を持っていた。関係ニーズからのアプローチが有効になる。

コミュニケーションは、調整不可能な法則に支配されていると言えるし、関係者が主体的に調整できるとも考えられている。

*** きょうの教養 (コミュニケーション学②文化)

◎文化とコミュニケーション  文化の定義について、国際ビジネスと文化人類学に詳しいフェラーロ氏は「人々が社会の構成員として所有し、思考し、行動するすべてのこと」としている。主要な要素として、有形物、思考・価値・姿勢、行動パターンがある。言い換えれば、物質文化、精神文化、行動文化で、「文化はコミュニケーションの当事者が共有するシンボルであり、コミュニケーションによってシンボルが構築、再構築される」ということができる。

人間は「社会的アイデンティティ」を持っている。集団のメンバーであることが心情的にも価値的にも重要という認識である。「日本人」という自覚は、外国人に対した時に生まれる。また、アイデンティティは、社会的な面と個人的な面があり、社会が前面に出れば異文化コミュニケーション、個人が前面に出れば対人コミュニケーションになる。

共通の文化を持った人は共通のシンボルを持つ。シンボルとしては、言語があり、服などの非言語もある。人は別文化とのシンボルを絶えず調整している。他集団と競争関係にある時はシンボルを守ろうとし、協調的なら目立たないようにして境界を緩めようとする。

近年では異文化トレーニングの重要性が高まっている。本格的に取り組まれたのは、第二次大戦後、米国企業が世界に進出するためで、赴任先での業務や生活をスムーズにする狙いだった。日本では1970年代に始まった。目標は、考え方(認知)、感じ方(感情)、行動の変容で、個人が自分の文化の境界をどう乗り越えるかがポイントになる。接客業務などで日本人は謝りながらコミュニケーションを取ることに抵抗は少ないが、理解できない外国人もいる。

トレーニングの方法としては、体験型か講義型か、文化特定型か文化普遍型かという違いがある。また、問題解決型シュミレーションも導入されている。教育現場や企業研修での活用が中心になっており、大きな役割を担うのがファシリテーターだ。参加者が心理的安全性の高い環境で気づきを高めることを期待されている。

*** きょうの教養 (コミュニケーション学③言語Ⅰ)

◎言語Ⅰ  コミュニケーションの要素として、言語と非言語がある。言語の中では、音声(話し言葉)と非音声(書き言葉、手話)がある。新約聖書に「初めに言葉があった。言葉は神とともにあった。言葉は神であった」という記述があるように、言葉は人間生活で重要な意味を占めている。西洋の伝統では、言葉は神の言葉であり、論理(ロゴス)が中心だった。 

欧州では古代ギリシャから中世まで言語を学ぶことが教育の中心だった。中世の大学では文法学、修辞学、論理学が重視された。雄弁学、文献学もあり、19世紀以降、言語学が盛んになった。特徴は、文学や民俗学と切り離し、分析的に精密化したことだ。音声や意味、語用など研究し、その後、社会学や心理学などの要素も加わった。言語の特性として、超越性、恣意性、生産性、文化的伝承、非連続性、二重性が指摘される。

言語に関する考察は多い。19世紀のドイツの言語学者フンボルトは「言語は思考を形成していく器官である」といった。哲学者ウィトゲンシュタインの「言語ゲーム論」とそれを踏まえた社会学者ハーバーマスの主張も影響を与えた。2人は言語の機能やコンテクスト、社会との関わりや相互作用に着目し、認識論から言語論に至る言語哲学を主導した。

言語を歴史的視点ではなく、ある一時点の構造を研究したソシュール、言語獲得の仕組みや脳との関係に注目したチョムスキーらが登場し、言語を科学的に研究するようになった。その後、言語能力とコミュニケーション能力の関係に注目し、機能面からの研究が進んだ。最近ではメディアの影響力増大を受けて、単なる識字ではなく、メディア・リテラシーにも関心が集まっている。一口にコミュニケーションというが、研究対象は広く多様だ。

世界には5000~6000の言語あると言われる。インド国内だけで1000以上という。日本のように一つの言語が通用する国は珍しく、1人が2つ以上の言語を使うのは珍しくない。多くは口語で、文字を持っている言語はごく少ない。言語学では話し言葉の研究が主流だ。もっとも使われているのは中国語の10億人以上で、英語、スペイン語、ヒンディー語と続き、日本語は9位だ。英語を母語とするのは4億人余りだが、60カ国を超える地域で第二原語とされ同じく4億人以上が使う。その意味で、英語は特殊言語と言える。

*** きょうの教養 (コミュニケーション学④言語Ⅱ)

◎言語Ⅱ  今回は言語をコミュニケーションの観点から特徴や機能をみていく。

言語コミュニケーションの特徴は4つある。第一は「デジタル」である。言語は分断でき、恣意的に操作できる。第二は「新しい社会的現実を創る」ことができる。言葉によって概念やイメージを創ることが可能だ。第三は「抽象的な思考」に重要な働きをする。例えば、犬を名前、種類、生物などいろいろな抽象度のレベルで語ることができる。第四は「内省的」である。言語を通じて他人とコミュニケーションをすることで自分と対話することができる。

次に言語と文化の相互作用を考えたい。「サピア・ウォーフ仮説」という考え方がある。アメリカ先住民の言語を観察した結果、「言語はその言語を話す人の思考に影響を与える」という仮説だ。これは、すべての文化は対等であり優劣はつけられないという文化相対主義を裏付けている。語彙も文化によって変わる。日本人は「ディナーは夕食」と教わったが、同じ英語圏でも英国の労働者階級や米国の農業地帯では「昼食」を指す。こうした例は多い。

言語では「コンテクスト」という考え方も重要だ。言語行動が起こっている環境や背景を重視する概念だ。コンテクストの分類方法として、あまり変えられないとする「静的」、当事者で変えられるとする「動的」の分け方がある。また、コンテクストを特定の場面でとらえる「状況」、社会的、政治的、歴史的背景も含めて考える「文化」で分ける尺度もある。

文化に関しては、ハイ・コンテクスト文化、ロー・コンテクスト文化に分けられる。文化的に共有している情報が多ければ、前者となる。日本のようなほぼ単一民族の国が代表的で、言語化して伝える情報は少なくなる。アラブ、ギリシャ、スペインなども同様で、以心伝心の社会だ。一方、多民族国家は共有している情報が少なく、後者になる。言語を通じた意思疎通が求められる。ドイツ語を話す地域のスイス、ドイツ、スカンジナビア諸国、アメリカなどが代表的だ。

*** きょうの教養 (コミュニケーション学⑤非言語)

◎非言語  非言語メッセージも言語同様、音声と非音声に分けられる。前者は声色や声の性質。後者は、外見、身体接触、動作、におい・嗅覚、空間(対人距離)、時間に分けられる。それぞれの特徴は後述するが、人間のコミュニケーションの93%は非言語に頼っているという研究結果もある。非言語は無意識で、観察を通じて経験的に学び、文化的に不偏性と固有性があることが特徴だ。また、言語メッセージを代用、補強、調整するなどの機能がある。文化性では話す時に距離をどの程度をとるかといった差がある。

まず音声メッセージの特徴をみたい。声の高さ、強さ、リズムなどの違いがある。意味の理解を促す、感情を出す、年齢や性別などの属性を出す機能がある。公の場でのスピーチや私的な会話など場面ごとに変化する。社会的階級による違いもある。当事者は自然と調整している。

次に非音声の特徴を考える。「外見」は体つき、髪や肌の色に加え、アクセサリーもある。制服なら職業を特定できる。魅力の要因にもなる。「身体接触」はいろいろな役割がある。まず母親が赤ちゃんをしっかり抱くような基本的な生活ニーズの充足がある。相手に対する親しみや愛情を示すこともある。

「動作」は、顔の表情、ジェスチャー、姿勢、アイコンタクトなどだ。70万通りあり、表情だけで25万通りもあるという。ジェスチャーは地域で共通するものも多いが、首を横に振る動作は日本では「ノー」だが、インドなどでは「イエス」と分かれる。アイコンタクトは視線接触学ともいわれ、「相手から情報を得る」という特別な機能もある。

「におい・嗅覚」は五感の中でももっとも原初的と言われ、意識の底に眠っている記憶も呼び覚ます。においは対人魅力につながり、悪習を消すデオドラントの効果もある。「空間」は近接学ともいわれる。対人距離は親密性を表すが、国によって差がある。欧州では北部は離れ、南部は近づく。南米やアラブも近いが、インドはカースト制があり離れる傾向にある。オフィスの部屋や机の配置、会議の際の位置などでも特徴が表れる。「時間」は概念や管理の仕方で違いが出る。過去・現在・未来のどこを志向するかでも分かれる。イランやインドは過去志向、日本企業は長期、米国企業は短期志向と言われる。