メディア活用法(2023年7月3~7日)

2024.01.06教養講座

*** きょうの教養 (メディア活用法①新聞)

新聞、雑誌、ネットなどから情報をどう取得し、活用するかは、現在を生きる人の必須知識だ。ジャーナリスト池上彰氏と作家佐藤優氏の共著「僕らが毎日やっている 最強の読み方」(2016年刊)から、新聞、雑誌、ネット、書籍、教科書について、2人の読み方の勘所を紹介する。

◎「新聞の読み方」  新聞が世の中を知るための基本かつ最良のツールであることは今も昔も変わらない。一覧性で新聞に勝るものはない。ネットが普及しても新聞情報の重要性は変わらない。朝は見出しを中心に新聞全体にざっと目を通す。気になった記事はあとでじっくり読む。見出しだけ、前文まで、最後まで読む、の3分類して読む。新聞情報を整理する要諦は、時間と労力を最小にすることだ。

新聞は少なくとも2紙読まなければ危険だ。1紙だけだとバイアスに気づかない。以前は産経新聞だけが保守だったが、読売新聞と日経新聞も保守的。朝日、毎日、東京は政権に批判的な立場だ。新聞のバイアスは、社説とコラムを読むのが手っ取り早い。情報価値はさほどないが、立場がよくわかる。コラムは朝日の「天声人語」、読売の「編集手帳」、毎日の「余録」、産経の「産経抄」、日経の「春秋」。自分が読んでいる新聞のバイアスを知っておけば、他の記事を読むときも役に立つ。1紙は保守系、もう1紙はリベラル系を読むといい。

地方紙も重要。全国で見れば地方紙の読者数は多い。死亡広告、不動産広告、書籍広告を見れば、土地柄や経済状況が見えてくる。通信社のニュースをカバーできるメリットもある。日本では全国紙だけ読んでいると、通信社の重要ニュースを見逃すことがある。通信社のニュースはとにかく早く、速報性が高い。NHKや民放各社も共同通信から原稿を受けている。地方紙のニュースには共同通信のニュースがかなりの割合を占めている。時事通信は国際的に影響力を持っている。時事の内外情勢調査会は内閣情報調査室と直結し、地方のエリート層向けだ。

*** きょうの教養 (メディア活用法②雑誌)

◎雑誌の読み方  電子雑誌の定額読み放題は画期的なサービスだ。雑誌1冊程度の値段で多種多様な雑誌が読める。ネットサーフィンをするより、電子版の雑誌を眺めている方が効率がいいし、娯楽としても楽しい。ほとんど読めるので、雑誌との付き合い方が根本的に変わる。

雑誌は興味や関心、視野を広げるのに役立つ。趣味系では文房具、プロレス、ネコなど何でもある。パラパラ読んでいると、意外な情報に出会うことがある。雑誌には娯楽と、仕事に役立つ実用性の二つの要素があるが、「雑誌は娯楽」が現実に即している。しかし、作り手は真剣に作っている。編集や事実関係の確認が不十分な雑誌もあるので見極めに注意した方がいい。信頼できる書き手の記事を読むという付き合い方もある。

「週刊文春」や「週刊新潮」など総合週刊誌は、世の中で何が話題になっているかをチェックするのに便利だ。世の中の雰囲気やトレンドを知るのに適している。人間のどす黒い感情をすくい取るのがうまい。雑誌は「読書人階級」のための娯楽だ。200万人はいるだろう。

経済誌・ビジネス誌は、一部上場企業に勤めるような人が読んでいる。特定の主義主張に固執せず、トレンドやニュースを公平な視点で見ることができる。最近は特集主義が特徴で、書籍より早い。「文藝春秋」のような総合月刊誌は海外にはない。情報収集という点ではさほど重要ではないが、論壇カタログになっている。論壇の論点がわかる。「同級生交歓」のようなコラムは読者が古くからのエリート層だとわかる。「世界」はリベラル派、読売系の「中央公論」は政権の意向を知るにはいい媒体だ。「選択」と「FACTA」もチェックしている。

国際関係では日本語で読める「フォーリン・アフェアーズ・リポート」はアメリカ外交がわかる。日本の総合誌には国際情報が少ないので、アメリカの「タイム」やイギリスの「エコノミスト」はページをめくるだけで世界の流れがわかる。

*** きょうの教養 (メディア活用法③ネット)

◎ネットの読み方  うまく使えば有益なツールになる反面、時間を浪費し、ノイズ情報に惑わされる危険性もある「諸刃の剣」だ。ネット情報は玉石混交で、「玉」だけを選ぶのはかなりの知識とスキルが必要だ。誰もが発信できるということは、裏を返せば新聞や雑誌が持つ編集と校閲の機能がないことだ。その意味でネットは「上級者のメディア」だ。

効率の悪さもネットの特徴だ。自分で記事の重要度を判断する必要があるからだ。新聞や雑誌で精度の高い情報をチェックした方が効率は何倍もいい。お金はかかるが、ビジネスパーソンには新聞や雑誌の方が効率がいい。ネットには偏見が助長されるプリズム効果があることも知っておきたい。特定のものだけが大きく見えたり、別のものが見えなくなったりする。逆に関心のある情報や自分の考えを補強する情報はどんどん詳しくなる。ネットを使う人はネットの論調が社会の論調と思い込んでしまう人もいる。安易なマスコミや陰謀論に走ってしまう傾向もある。

即時性を重視するならNHKオンラインなどテレビ系のネットは早い。ビジネス系では東洋経済オンラインなどがある。ヤフーニュースは多くの人が見ているが、娯楽や世間が関心のあるニュースを見るにはいいがニュースソースとしてはどうか。アクセス数を稼ぐため、タイトルや見出しが必要以上に過激になっている傾向もある。検索では、ウィキペディアは概要を押さえるには便利だが、テーマによって信ぴょう性にばらつきがある。専門以外の分野では、有料の辞書・辞典サイト「ジャパンナレッジ」を利用している。平凡社の世界大百科事典、小学館の日本大百科事典などを引く習慣はきちんとした知識を身につけるためにも効果的だ。

サイトでは政府の各省や日銀、企業、団体などのホームページは1次情報があり、結構役に立つ。海外メディアではCNNやウォールストリートジャーナル、韓国紙などに日本で読めるサイトもある。フィナンシャル・タイムズの英語が読みやすい。その気になればかなりの情報収集ができる。

*** きょうの教養 (メディア活用法④書籍)

◎「書籍の読み方」  世の中で起こっていることを「知る」には新聞がベースになるが、「理解」するには書籍がベースだ。記述の信頼度と体系化が重要で、基礎知識は書籍でしか身につかない。基礎を理解するまでは大変だが、一度やってしまえば、あとで大きな差が出る。急がば回れだ。

絶版本や希少本はネット書店が便利だが、リアルの書店にも行きたい。俯瞰性の高さが非常にいい。書店の棚を見ているだけで興味がどんどん広がっていく。本のタイトルと帯を見ているだけで情報を得られ、勉強になる。失敗しない本選びには書店員の知恵を最大限活用すべきだろう。そのジャンルの基本になる参考書を「タネ本」という。どのジャンルでもせいぜい3冊。理解するように読むと、そのジャンルの基礎知識になる。いい本と出合うコツは、本をたくさん買うこと。迷ったら買う。本の費用対効果は安い。

古典を読むコツはニュースと絡めること。捕鯨問題ならメルヴィルの「白鯨」、キリスト教ならダンテの「神曲」。日本の古典なら夏目漱石の「坊ちゃん」と「こころ」が基本。思想や文学では講談社「人類の知的遺産」シリーズ、中央公論社の「世界の名著」「日本の名著」「日本の文学」がおススメ。論理的な思考力をつけるには難解な本と格闘し脳みそが汗をかくほど向き合いたい。「資本論」「存在と時間」「善の研究」などがある。自分の専門以外なら、入門書のような通俗化された良書がいい。「やさしいダンテ神曲」とか。講談社ブルーバックスは良書。

本の読み方は、熟読する本か、速読かを分けたい。速読なら「はじめに」と「おわりに」に必ず目を通す。熟読に値するかどうかは、真ん中部分を少し読んでみる。娯楽か勉強や仕事で読む本かでも線引きできる。超速読は1冊5分、普通の速読は1冊30分で、重要箇所は1ページ15秒程度、後は超速読をする。読書時間は最初に「きょうは何時間読む」と決めないと難しい。ネット断ち、酒断ちも重要。通勤やすき間の時間も活用する。アウトプットを意識すると頭に入って来る。電子書籍は2冊目として購入し、いつでも読めるようにして頭に定着させる方法もある。

*** きょうの教養 (メディア活用法⑤教科書・参考書)

◎教科書・参考書の読み方  知識の土台となる基礎知識をいかに身につけるかが、インプットの技法で最重要だ。しっかりした土台の上に積み重ねてこそ、情報は知識となり、繰り返すことで使える知識や教養になる。

ニュースの基礎は中学校の公民の教科書が最適だ。ビジネスパーソンには公民、歴史、国語、英語の教科書を手に取って欲しい。日本史と世界史の学び直しは、全体の歴史を書いた「B」より、現代史に比重を置いた「A」がいい。基本と大まかな流れがわかる。歴史を学ぶメリットは短期間で通史が身につくことだ。数学や物理に比べて学び直しがしやすい。コツとしては、旅行で行ってみたいところや出張で行く場所を調べるといい。司馬遼太郎が書いたような歴史小説はあくまで娯楽として読むべきで、歴史を学ぶのは厳禁だ。

語学は「読む」「書く」「聞く」「話す」のうち、「読む」「聞く」から鍛えるのが王道。中学2~3年の教科書の例文を丸暗記するのも有効だ。単語を多く覚えることもいい。外国語習得に必要なことは「モチベーション」「時間」「お金」。具体的な目標を作らないと続かない。「教養のため」というあいまいな目標では身につかない。すべての勉強の基礎になるのは読解力だから、現代文を通して読解力と論理的思考能力を鍛えたい。

最後に人から情報を得る方法を伝えたい。情報を提供してくれるのは斜めの人間関係だ。会社なら別の部署や競合しない先輩が狙い目。「初々しさ」を出して「いい聞き手」になろう。良き生徒は誰にとってもかわいい。情報を引き出すうえで大事なことは、情報を持っている人かどうか、話してくれそうな人かどうかだ。複数のしゃべる人からの断片情報をつなぎ合わせたい。セミナーや講演会異業種交流会を上手に活用したい。いつも読書ばかりしている人には飲み会に参加することを勧めたい。飲み歩いている人には、読書をする時間をしっかりつくって欲しい。飲み会で仕入れた情報は、翌日知らないふりをするのが礼儀だ。