医療の論点(2023年3月27~31日)
*** きょうの教養(医療の論点①先端医療)
今週は、医療の論点を考える。高齢化社会を迎え、医療の可能性と費用が大きな関心を集める。入試小論文に詳しい多摩大学名誉教授・樋口裕一さんの著書を参考にする。
◎「先端医療」 新しい技術には多くの場合、「光と影」がある。両面を理解したうえで、考えることが重要になる。
先端医療には、遺伝子治療、再生医療、生殖医療、出生前診断、臓器移植などがある。論点になるのは、生と死の領域、生命に関わる分野だ。自然の手にゆだねられていた領域に人類はどこまで踏み込むべきかという問題といえる。個人の価値観に関わるので、簡単に是非を論じることはできない。考える場合には、自分なりの考えをまず固め、他の意見も参考にしながら必要に応じて修正していく作業が求められる。
言い換えれば、倫理やルールの問題である。先端医療は一定の人に恩恵を与える。しかし、生命を人工的に操作することで問題も生まれる。そのバランスをどう考えるか。また、医療費高騰を考えると、費用の問題も無視できない。
*** きょうの教養(医療の論点②医師と患者の関係)
◎「医師と患者の関係」 かつて両者の関係は「先生と生徒」だった。患者の知識は乏しいので、医師の言うとおりにする。父権主義(パターナリズム)とも言い、医療以外でも見受けられる。
これが最近では、「患者主体の医療」に変化している。「インフォームド・コンセント」という言葉を知られている。「説明と同意」で、医師が情報を提供し、患者の納得を得ることだ。「根拠に基づいた医療」(EBM)という言葉もある。客観的で信頼できる情報に基づいた医療である。
しかし、患者の知識は限られる。重要になるのはコミュニケーションだ。病気を治す力は患者の中にある。両者の会話で、患者が持つ治癒力が高まる可能性もある。患者には、疑問を自分なりに調べ、医師に聞いていく姿勢も求められている。
*** きょうの教養(医療の論点③ターミナルケア)
◎「ターミナルケア」 回復の見込みがない患者とどう向き合うかという問題である。高齢化社会でより切実になっている終末期医療のあり方だ。
尊厳死と安楽死という言葉があるが、違いを知っておく必要がある。尊厳死は無理な延命治療をしないで自然な死を迎えさせることだ。延命治療には、人工呼吸器や、胃に栄養分を供給する胃ろうなどがある。安楽死は患者を安楽に死なせること。明確な線引きは困難で、尊厳死を消極的安楽死、安楽死を積極的安楽死と言うこともできる。
前者は多くの先進国では法的に認められている。日本では法制化されていないが、意思表示があれば認められるようになってきた。後者を法律で認めているのは、オランダやベルギーなど一部だ。倫理問題がからみ、場合によっては殺人罪になる可能性がある。死期の切迫度、苦痛の程度、代替手段の有無、患者や家族の意思などが論点になる。
***医療の論点④(高齢者の介護)
◎「高齢者の介護」 高齢化社会が進み、高齢者が増えている。高齢になるほど、何らかの体の不調を抱えることになるが、介護する人が増えるわけではない。日本は「課題先進国」と言われているが、世界を先取りする大きなテーマだ。
論点は、介護は家族が担うべきか、社会で担うべきか、だ。介護してくれる家族や近親者らがいない人は生きていけない。社会の関与は不可欠だが、どういう形での関与が適切なのかが問われている。
介護保険は、社会で担おうという制度で、40歳から保険料を納め、65歳以上になれば、原則1割負担で介護サービスを受けられる。現在75歳になりつつある団塊の世代が高齢化して高齢者はさらに増えるが、今の保険料で十分かという問題がある。
金銭的な問題がある程度解決しても、介護施設の不足や質の確保も課題だ。介護される期間を短くするため、運動などで健康寿命をいかに伸ばすかも大きなテーマになる。高齢者の社会参加や生きがいなど心に関わる問題も浮上している。
*** きょうの教養(医療の論点⑤科学のあり方)
◎「科学のあり方」 科学の特徴として5点指摘できる。第1は、主体と客体、人間と自然のように二項対立で論理的に分析する認識手法である。第2は最小単位に分けて分析する還元主義、第3はすべてを物資とみなし、第4は普遍法則を求めて数学的に分析する。第5は価値を問わない、と言える。科学の力で近代は大きく発展してきた。
一方、批判や反省も高まっている。二項対立や還元主義では捉えられない現実がある、人間の把握が不十分で人の尊厳を軽視している、価値を問わないため核兵器のように人類の存続を危うくする開発がされる、などだ。科学は主に西洋で発達したが、全体性を重視する東洋思想の再評価を求める声もある。
科学が大きな役割を持つ時代には、科学の基本を理解し、批判的な目を持って向き合うことが必要だろう。科学は絶対ではない。限界を認識しながら、よりよく活用する姿勢が求められている。