未来の年表・処方箋(2023年5月29~6月2日)

2024.01.06教養講座

*** きょうの教養 (未来年表・処方箋①)

今週は「未来の年表・処方箋」を紹介する。5月15日の週に「未来の年表」(河合雅司著)から、今後の人口減少で生まれる現象を予測した。悲観的な内容が多いが、手をこまぬいているわけにはいかない。本では10の処方箋が提案されている。今週はその具体案をみていく。賛否はあるだろうが、新しい発想や常識が求められていることは確かだ。

◎序論 「戦略的に縮む」=日本は、出生数の減少、高齢者の増加、勤労世代の減少、という要因の異なる3つの課題に同時に立ち向かわなければならない。政府は対策として①外国人労働者②AI③女性④高齢者を選択肢とする。①への依存と②への過度な期待は人口増時代の発想だ。③と④は長年の労働慣行の打破が不可欠で、スムーズにいくだろうか。「戦略的に縮む」ことを提案したい。20世紀型成功体験を捨てることであり、10の処方箋を提案したい。

【1】高齢者を削減する=65歳以上を高齢者にしたのは19世紀のドイツ首相ビスマルクという。最近では「75歳以上にしたらどうか」という提案もある。65~74歳の高齢者は、データでも昔より肉体的に若返っている。子どもは現在、「14歳以下」だが、中学校卒で就職する人は少ない。「19歳以下」にすれば、子どもは増える。高齢者1人を支える人数は今より増える。年金に税金を投入するより、老後の費用を減らすため、低家賃の高齢者住宅を行政が整備すればいい。空き家を活用すれば予算も少なくて済む。今は50年で勤労世代が40%も少なくなる国家の非常事態だ。ルールや慣習の大胆な見直しが必要だ。

【2】24時間社会からの脱却=便利すぎる社会、過剰サービスを見直し、不要な労働をなくして、社会全体の労働時間を短くしたい。24時間営業のコンビニやレストランが多いが、やめる店も出ている。通販の拡大で急増する宅配も見直しの動きがある。ポイントは顧客の意識だ。便利さは誰かの必要以上の頑張りの上に成り立っていることを忘れてはならない。どんな仕事にも程度や頃合いがある。昔、商店は正月3が日は休んでいた。不便さを楽しむくらいの社会の余裕を持ちたい。

*** きょうの教養 (未来年表・処方箋②)

【3】非居住エリアを明確化=人が住む地域とそうでない地域に国土を色分けし、コンパクトで効率的な国に作り替える。人々が思い思いの土地に住み続ければ、公共インフラのコストがかかるし、買い物難民や医療難民を増やしてしまう。居住エリアに指定した市街地では自家用車がなくても用事を済ませられるかがポイントとなる。商業施設、公共施設、病院を再配置し、地域内に拠点を設けて公共交通機関で移動できるようにする。

ただ、住民の合意形成が難しく、住み慣れた土地を離れることに抵抗のある人もいる。非居住エリアから居住エリアに移転を決めた人には費用を支援する。非居住エリアに住み続ける人には受益者負担として負担増を求める。追い込まれる前に国土の戦略的活用が必要だ。

【4】都道府県を飛び地合併=参院選で2つの合区が設けられ、「地域の声が国政に届かない」と反発が出た。本質は参議院議員がいなくなることではなく、人口が激減する県が行政機関として成り立つかにある。地方創生は市町村を残すことではない。人口減社会では従来の枠組みにとらわれず、住民の生活圏に即した対応、遠く離れた鉄道沿線を一つのエリアと考える柔軟さ、強みと弱みを補完する発想も必要だろう。

例えば、東京都と島根県、千葉県と佐賀県が合併するといった選択もある。都市部と地方が結びつけることが重要だ。大都市では介護施設が足りないが、地方では空き病床もでているので補完できる。自治体同士で人材や財政を相互に協力することもできる。自分の土地や故郷に愛着を持つのは自然な感情で、地域への思い入れが多様性や奥深さを生んできたが、地域を大切にすることと今の行政区分を維持することは一致しない。自治体の権限や役割を根源から考え直すことが不可欠だ。

*** きょうの教養 (未来年表・処方箋③)

【5】国際分業の徹底=人口減少時代は日本の得意分野に資源を絞り込む。日本人自身の手でやらなければいけない仕事と、他国に委ねる仕事を思い切って分けてしまうのである。日本はほとんどの分野に国産品があるが、今後は得意な分野に集中し、世界をリードする産業として発展させるのが賢明だ。産業構造の変化を予測し、育成分野を決めて投資をし、人材育成を図る。

過去の日本は規模を競ってきた。「大量生産・大量販売」は途上国型ビジネスモデルで、若い豊富な労働力を前提としていた。日本は加工貿易のイメージがあるが、巨大な国内マーケットに支えられてきた。人口が減れば、国内マーケットは縮小する。途上国型に固執する限り、賃金の安い国と勝負するので、日本人の賃金はどんどん切り下げられる。

【6】「匠の技」を活用=豊かさを維持するアイデアを示したい。匠の技を活用した高付加価値の製品作りだ。生産性の向上には、「少量生産・少量販売」のビジネスモデルを選択する必要があり、量から質への転換が不可欠だ。成功しているのがイタリア。小さな村にも独自のデザインや技術で世界の圧倒的シェアを占める製品がある。世界中からバイヤーら関係者が集まる。ポイントは玄人をうならせる「こだわりの逸品」であり、それを支える職人技だ。

日本には世界に通用する匠の技がある。開発段階から輸出先の国と連携し、買い手の使い勝手のいいものをめざす。買い手が好む色やデザインを把握することが重要になる。地元出身の学生が都市部の大学で学んだ知識やスキルを生かすことができれば、優秀な人材が地元に還流する。関連産業ができ、雇用も生まれる。

*** きょうの教養 (未来年表・処方箋④)

【7】国費学生制度で人材育成=人口減少社会ではイノベーションが不可欠で、それを担う人材育成が必要だ。日本はイノベーションにつながるアイデアを持っているが、事業に結びついていないと言われる。起業を増やし、失敗を恐れず挑戦できる「転職しやすい社会」が重要だ。学校教育の段階から起業家精神を育む戦略的な人材育成が求められる。

社会を機能させるため、どの分野にどれくらいの数が必要かという長期計画をつくる。政府は大学進学者に一律に支援するのではなく、国として確保したい分野で学ぶ学生に優先配分する。選抜試験で成績優秀者を選び、「国費学生」として費用をすべて負担する。大学に対してもイノベーションへの取り組みや人口減少で役立つ人材を育成している大学に補助金を優先配分する。一方で、大学以外で専門技能や知識が身につく進路も充実させる。

【8】中高年の地方移住推進

お手本は米国にある。大学と連携した移住コミュニティが全米に広がっている。元気なうちに都会から移住し、大学キャンパスで学び直し、学生生活を楽しむ。医療や介護が必要になったら、キャンパス内の大学病院や施設で暮らす。日本向けにアレンジするなら、50歳代が対象だ。企業内での先も見え、新しいことを始める最後のチャンスとなる。いきなり永住は難しいだろうから、期間限定のお客さんから始める。住居は空き家をリフォームする。学び直しや若者たちとの交流で楽しさを見つける。老後のメリットとして、都会で懸念される医療・介護難民のリスクが減ることもある。

生活資金の確保が難問だが、都会の自宅を定期借地権で貸す選択もある。都会の賃料を生活費にあてるのだ。これだけで地方の人口減少が解決するわけではないが、有効な手段の一つだろう。国民が楽しみながら行動に移せる政策が欠かせない。

*** きょうの教養 (未来年表・処方箋⑤)

【9】セカンド市民制度を創設=セカンド市民制度は、第二の居住地を選び、住民登録する制度だ。帰省先を持たない都会住民にとって第二の故郷になる。地方自治体は定住人口の増加を狙って、他の自治体と綱引きをしている。定住人口を狙うのは住民税を納めてくれるからだが、発想を転換して、交流人口にターゲットを絞るのだ。

自治体は空き家や古民家を改修し、安く泊まれるゲストハウスを整備する。月1回程度は無料の直通バスを手配する。セカンド市民として便宜を図る一方、町おこしのアイデアやイベントへの参加を求める。訪問やイベント参加をデジタル技術でカウントし、それに応じて住民税を本当の居住地とセカンド市民の自治体に配分する。セカンド市民が定期的に行きたくなる魅力作りが必要だ。

退職した大学教授らの蔵書を地方に移す「知の巨人村」もある。都会の教授は大学研究室にある本をどこに移すか悩んでいる。地方は書庫や施設を用意し、教授OBに定期的に来てもらう。同じ分野の教授を集めれば、価値も高まる。地元の人と交流すれば新しい知の空間が生まれる。

【10】第3子以降に1000万円給付=結婚や出産は個人の選択でセンシティブな問題だが、少子化を改善するには出生数を増やすしかない。第1子対策は結婚支援が重要で、雇用を確保し、出会いの機会をつくる。第2子対策は長時間労働の是正だ。だが、こうしたありきたりの対策では大きな効果はない。出生奨励策としては、第3子以降に1人1000万円を給付したい。

問題は財源だが、国の有事に対応する趣旨から税金で負担すべきだ。消費税引き上げを期待する声もあるが、なかなか上げられない。そこで「社会保障費循環制度」と名付ける制度を提案したい。誰でも生涯を通じて税や国債などでまかなわれた社会保障サービスを受けている。これを国からの貸与と位置付ける。一方、日本では亡くなる際、高額な貯金を残す人も多い。貯蓄からそれまでに受けたサービス分を国に返すのだ。残りは相続すればいい。これなら将来世代に負担を残さない。

◎処方箋はいかがだったでしょうか。突飛と思われる提案もありますが、人口減少は猛スピードで進んでいます。発想の転換をしない限り、予想できないようなひずみが生まれかねません。大きなシステム転換に向け、タブーのない国民的な議論が必要でしょう。