SDGs産業(2023年4月17~21日)

2024.01.06教養講座

*** きょうの教養 (SDGs産業①キーワード)

今週はSDGs9番目の目標である「産業と技術革新の基盤をつくろう」を特集する。これまで「ジェンダー平等」や「貧困」という社会問題を取り上げてきたが、今回はやや経済色の強いテーマだ。

具体的な目標は「強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的(インクルーシブ)かつ持続可能な産業化の促進およびイノベーションの推進を図る」となっている。耳慣れない言葉があるかもしれないが、カタカナで書いた言葉は、重要なキーワードだ。

この目標が掲げられた背景として、①水道やガス、電気などインフラ整備が不十分②インターネットにアクセスできない人が多数いる③多様な社会課題に対応するにはイノベーションが重要、と指摘できる。

インフラ整備で重要な点は、途上国では生活に必要な基本的施設を整備し、経済成長につなげることが優先される。世界中で自然災害が増えていることから、最近では強靭なインフラに対する関心が高まっている。台風や津波、洪水などに耐えられるインフラが必要になっている。

そのために必要なことがイノベーション=技術革新だ。特にエネルギー分野では、地球温暖化を防ぐために化石燃料からの脱却が大きなテーマで、再生エネルギーに関するイノベーションが期待されている。安全性に懸念がある原子力発電所からの脱却も同様だ。

*** きょうの教養 (SDGs産業②日本のインフラ)

2回目は日本のインフラについて考える。日本は世界でもインフラ整備が進んだ国だ。日本のように水道の水を飲める国は世界で少ない。水道の普及率は100%近い。昔から水を確保するために努力を重ね、水道技術が進歩してきた。下水道の普及率は79.3%(2019年)で、5人のうち4人が利用できる。自治体によって差はあるので、解消が課題だ。

電気やガス、通信などその他インフラも整備が進んでいる。今後は災害対策、老朽化に伴う修繕、人口減社会を迎えて抜本的なインフラ見直しが必要になる。日本はこうした課題の先進国なので、知見は世界最先端といえる。

問われているのは、技術力をさらに磨き、途上国のインフラ整備に役立てることだ。日本の産業界は情報技術で出遅れが目立ち、製造業で日米摩擦を起こした時のような競争力はない。しかし、インフラは各種技術を組み合わせる側面があり、日本の技術力を生かせる余地は大きい。日本で実践したインフラ整備を途上国に伝えることはできる。

今後は、資源をより効率的に使う技術や、少ない人員で大きな成果を生み出すシステムなどのイノベーションが求められている。IoTやAIを活用するため、データサイエンティストらの育成が急務。政府は2021年に「科学技術・イノベーション基本計画」を決め、研究開発投資を5年間で政府30兆円、官民合わせて120兆円を目指すとした。SDGsの視点からも期待されている。

*** きょうの教養 (SDGs産業③途上国のインフラ)

3回目は途上国のインフラについて考える。2015年の国連資料によると、世界で26億人が安定的な電力供給を受けられず、25億人は基本的な衛生施設を利用できない。8億人が水資源にアクセスできず、10~15億人は信頼できる電話サービスを受けられていない。多くのアフリカ諸国はインフラ未整備で生産性が40%損なわれ、開発途上国の国内で加工される農産物は30%にとどまり、高所得国の98%とは大きな差がある。

インフラは生活に必要な社会インフラと経済活動に必要な経済インフラに分けられる。生存のためには、上下水道、医療、教育関係の施設整備が急務だ。経済インフラでは道路や港湾、エネルギー、通信などが柱となる。「リープフロッグ現象」という言葉がある。電話が普及していなかった途上国で、固定電話より先に携帯電話が「かえる跳び」のように一気に広まった現象をさす。

途上国で最も貧しいのが、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国だ。かつてアジアも同様な状態だったが、1960~90年代に韓国や台湾などから順に急激な成長を遂げた。世界銀行は1993年のレポートで「東アジアの奇跡」と呼んだ。背景には日本経済の躍進や援助もあり、雁が飛ぶように順に伸びていく「雁行型発展」と呼ばれた。次の成長地域としてアフリカ諸国に対する期待は大きくなっている。中国の関与が目立っているが、地域全体の発展につながるかどうかが注目だ。

*** きょうの教養 (SDGs産業④通信・ネット)

4回目は情報化社会で重要な「通信」と「インターネット」について考える。

携帯電話の普及は途上国でも進んでいる。先に紹介した「リープフロッグ」と呼ばれる現象で、インフラ未整備の地域に新しい技術が導入され、一気に浸透することを指す。途上国の生活は以前に比べれば豊かになりつつあるが、ネットにアクセスできない地域は少なくない。ネットにアクセスできる権利を基本的人権とする考えも広まっており、フィンランドやエストニアでは法律で明記されている。

2011年にチュニジアやエジプトなどで起きた民主化運動は「アラブの春」と呼ばれるが、携帯電話やネットの普及を背景に民主化運動が拡大した。ネットへのアクセスは、教育や職業にも深く関係し、格差をもたらしかねない要因になっている。情報格差を拡大しないことは世界的な課題だ。 

最近では「モノのインターネット化」を意味する「インターネット・オブ・シングズ=Iot」が注目されている。パソコンや家電品、いろいろな設備や備品、インフラなどをネットに接続して新たな価値を生む動きだ。ドローンを使った宅配サービスや金融技術を高度化する「フィンテック」と呼ばれる技術も関心を集めている。これまで考えられなかったようなサービスの登場が新しい産業や生活を創造するのは間違いない。

*** きょうの教養 (SDGs産業⑤個人ができること)

最後に一人一人ができることを考えたい。SDGsの各目標には「ターゲット」と呼ばれる具体的な行動計画がある。目標9では、持続可能で強いインフラを作る、産業を起こして雇用を生み出す、途上国の小規模事業者のための環境を整える、インフラや産業の持続可能性を高める、研究開発に従事する人を増やして技術力を向上する、などが盛り込まれている。 

SDGsのすべてに共通するが、まずはこうした内容を知り、理解することが大切だ。必要に応じて対話や議論をし、それぞれの思考を深めたい。ターゲットは専門家が議論した結果であり、おおむね望ましい未来を描いている。目標9では、イノベーション、インフラ、インターネットがキーワードになる。

先に紹介した「Iot」「AI」は特に重要だ。人類史上で文字の発明は大きなイノベーションだが、最近の情報技術も文字に匹敵するインパクトがある。新しいインフラは、新しい問題を引き起こすことがあるが、問題を克服して前に進もうという意志と柔軟な対応力が問われる。 

目標9のインフラ整備は、同7の「すべての人が使えるクリーンエネルギー」、同8の「働きがいと経済成長」、同10の「不平等をなくす」、同11の「町づくり」、同12の「エネルギーや資源を大切に使う」など多くの目標達成の助けになる。基盤としてのインフラの重要性がわかる。