「本気の文章上達法を教えます」(2024年1月22~26日)

2024.01.26教養講座

*** きょうの教養 (本気の文章上達法①)

「本気の文章上達法を教えます」(セルバ出版)を今月から書店とネットで販売している。長谷川キャリア文章塾のノウハウや考え方を披露したものだが、全部で5章ある。各章のポイントについて、「過剰なネタバレ」にならない範囲で紹介する。スポーツの実技は練習で上達するように、作文もたくさん書くことでうまくなる。 本気の文章上達法を教えます | 長谷川 智 |本 | 通販 | Amazon

◎第1章「プロフェショナルなコミュニケーションのための文章術」

この章はいわば「総論」だ。ノウハウ流行りの世の中だが、物事はまず俯瞰的に見たい。まず生成AIのチャットGPTを使って「文章とは何か」を考察した。生成AIは文章作りに威力を発揮するが、逆にその機能を利用して物事を考えることもできる。

「文章とは何か」「文章の機能」「文章の種類」を順に聞いた。出てくる出てくる、大いに参考になる。ちょっと読んだだけでは、似たような内容に思えるが、よく分析していくと、キーワードが浮かんでくる。このキーワードを意識して書いていけばいいのだ。

「文は人なり」という言葉も考察する。フランスの博物学者ビュフォンの言葉だが、文章は人格に由来し、人格から生まれる独自性が重要といえる。志賀直哉やヘミングウェイの文章を引用しながら考えていく。

「正解主義からの脱却」も訴えた。日本人は受験勉強の悪弊で、何にでも正解があり、探そうとする。しかし、文章に「正解はない」。というより、「たくさんある」。絵は自由に描けばいいように文も自由に書けばいい。正解にこだわる必要はない。一例として、20世紀初頭のモダニズム文学を紹介した。ジェイムズ・ジョイス、ヴァージニア・ウルフらの文章を引用しながら「意識の流れ」と呼ばれる新しい手法を追求した人たちだ。その熱意に触れ、文章は豊かな可能性をはらんでいることを知る。

その延長線上で当塾の2つのステップを解説する。まずは「基本ルールの習得」、次に「知識・教養の蓄積」である。いい文章を書きたいという意欲は、この2つを意識して努力する生き方そのものでもある。

*** きょうの教養 (本気の文章上達法②) 本気の文章上達法を教えます | 長谷川 智 |本 | 通販 | Amazon

◎第2章「文章スタイルの基礎知識(初級8か条)」

この章からノウハウに移る。当塾では受講生に「文章の極意」という40ページ程度のテキストを配っている。初級8か条を最初に紹介しているが、本ではそれぞれについて、詳しく解説した。8か条そのものは大げさに言えば「企業秘密」でもあり、すべてをここで紹介するわけにはいかない。文章に関する本はたくさんあり、重なる部分も少なくない。力点をどこに置くかで違いが出る。

当塾が初級編で特に強調しているのが「わかりやすく、簡潔に」である。スッキリとしたスリムな文章は、明確な情報を伝達できる。そのために重要なポイントがある。一例を上げれば、「1文の長さは最大60字」というルールだ。世の中にわかりにくい文章は多くあるが、最大の要因は1文が長く、何を言いたいのか、途中で錯綜することだ。書き慣れない学生や社会人に文を書いてもらうと、多くは長過ぎる。

文が長いと、主語と述語がいくつも出てきたり、言いたいことが3つも4つもあったりする。書いた人にしか意味がわからないことも少なくない。文章は情報や意志の伝達手段なので、相手に通じなければ意味がない。相手の立場に立って書くことが必要になるが、抽象的に指導しても効果は限られる。「1文60字まで」のルールを機械的に適用することで効果が出てくる。短い文章を徹底すると、書き手の中でも物事の考え方に変化が生まれてくる。思考の化学反応といってもいい。おもしろいように文章が上達することも少なくない。

もう1点紹介すると、接続詞はなるべく使わないルールだ。書き手の思考の流れに沿って、「そして」「また」「したがって」「だから」などを使いがちだ。書きたい気持ちはわかるが、多くはなくても意味が通じる。最小限の接続詞は文章を引き締める。接続詞を一切使わないで書く指導を時にするが、意味は十分に通じる。冗長な文章を避ける強力なルールだ。第2章では以上のような8か条の初級ルールを詳しく紹介している。

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◎第3章「ビジネス文書の効果的な作成方法」

文章にはいろいろな種類がある。小説やエッセー、コラムもあるが、この本は主に社会人を対象にしている。社会人の書く文書は、広くビジネス文書といえる。凝った表現や華麗な言い回しより、正確な内容が求められている。第3章では特に、日常のビジネス文書、ビジネスメール、ウェブライティングを解説した。

日常のビジネス文書は、目的によって「報告」と「提案」に分かれる。それぞれの注意事項を説明したが、「魂をどれだけ入れるか」という項目を設けた。ビジネス文書と魂の関係は唐突かもしれないが、ビジネスはすべて利益に関係する。利益は簡単に生まれるわけではないので、「魂」が重要になる。日本経済の低迷が続いているが、一因は日本のビジネスパーソンの魂の弱さ、思いの弱さにあると考えている。きれいな戦略や間違いのない計画ばかり追求していないだろうか。これまで中国企業の躍進が目立ったが、中国のビジネスパーソンには、些細なことにこだわらないアニマル・スピリッツが顕著だ。魂を忘れてはならない。

ビジネスメールは、新入社員ら若い人にとって最初の難問である。メールは情報や意志の伝達によってビジネスを前進させる一手段に過ぎないが、手段が目的化することがある。どう書いていいかわからないので、過剰に丁寧になり、メールを書くために多大の時間を使うことになりかねない。ビジネスは本質的なことで努力すべきだが、本末転倒になってしまう。ここでも「ビジネスメール8か条」を示した。一定のルールを前提にし、臨機応変に対応できる社会人になって欲しいという願いを込めた。

ウェブライティングは、主にネット用の文章である。最大の特徴は、「読んでいる人がつまらないと思えば、読むのをやめてしまう」ことにある。その他のビジネス文書は、おおむね読んでくれるが、ネットではそうはいかない。そのためには一定のノウハウがある。文章は短く、魅力的にし、訴求力を意識することである。検索エンジン適正化対策(SEO)もある。基本を解説した。

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◎第4章「読みやすさと引き込まれる文章のつくり方(中級8か条)」

第2章と第3章は、ノウハウ編だった。ノウハウは類書にも載っているが、第4章は知識と教養を意識して引き込まれる文章を作ろうという狙いである。第1章、第5章とともに本書の特徴になっている。文章をレベルアップするには、ルールやノウハウを超えた知識や教養が必要になる。「中級8か条」と名づけたが、大げさに言えばこれも「企業秘密」なので、すべてを紹介することはできない。その一つである「古今東西の視点を大切にしよう」を解説したい。

「古今」は昔と今で、歴史という「時間」になる。「東西」は単純に言えば東洋と西洋だが、世界規模の地理という「空間」である。「時空」を自由に駆けめぐる文章は、それだけでスケールが大きくなる。作家の司馬遼太郎は小学生向けに書いた「21世紀を生きる君たちへ」という文章で、歴史について「これまで生きてきた人たちの人生そのもの」と書いている。人類の集大成が歴史なのだ。「教養とはこれまで生きてきた人が考えてきたことのすべて」という人もいる。こうした要素を文章に取り込むことで、深みや厚みが増す。

具体的な手法の一つとして、偉人や著名人の言葉を引用する書き方がある。自分が地の文で理屈を書くより、誰かの言葉を引用した方が、説得力を増すことが多い。そのためには多くの言葉を知っておく必要がある。知っていなくても調べて引用する書き方を知っておきたい。図書館に行ったり、ネットで調べたりすれば、名言集をたくさん見つけられる。

中級編のノウハウは、個人の内面や精神的な充実に関わる内容が多くなっている。これらは一朝一夕には身につかない。出口治明さんは「本と人と旅」を提案する。日頃から心がける必要があり、それぞれの生き方に関わってくる。

*** きょうの教養 (本気の文章上達法⑤) 本気の文章上達法を教えます | 長谷川 智 |本 | 通販 | Amazon

◎第5章「文章力の継続的な向上に向けて」

大切な要素は2つある。第1は自分が取り組んでいる分野や仕事に関心を持つこと。第2は文章そのものへの関心を持つことだ。仕事への関心は当然だが、深めていくことでいろいろな世界が見えてくる。さらに頭の2割くらいを別の業界や文化に関心を割けば、広がりが出る。

この章ではまず、谷崎潤一郎と三島由紀夫の文章論を取り上げた。谷崎は日本語の文章には、源氏物語派と非源氏物語派があるという。言い換えれば、和文と漢文である。柔らかい文と硬質な文を比べることで、文章への理解を深めていく。三島は「文章の最高の価値は気品と格調」と論ずる。吉行淳之介が選んだ各氏の文章論も紹介した。文章の正解が一つではない以上、人の数だけ文章論があると言っていい。多くの文章論に触れることで、感度が高まっていく。

識者の文章論ということで、中村明氏ら学者の見解、朝日新聞記者で長く天声人語を書いた辰濃和男氏のアドバイスにも触れた。辰濃氏の岩波新書「文章のみがき方」は、コラムを書こうという人には大変参考になる。「いい文章のいちばんの条件は、これをこそ書きたい、これをこそ伝えたいという書き手の心の、静かな炎のようなもの」としている。書きたいものを心でしっかりつかめば、静かな炎が必要な言葉を贈ってくれるという。こういう心境になるほど深く考えることが大切になる。

文章を書くには時事の知識が必要だが、最適のメディアは新聞だ。新聞の読み方を紹介し、語彙、歴史、制度への着目を提案した。教養の参考書として斎藤孝明治大教授の多くの著書を推薦し、最後は「地球・生命・人類に詳しくなろう」という柱を立てた。池澤夏樹氏の文を紹介し、人類の存在を脅かす問題に関心を持ちたいと呼びかけた。