豊洲は築地を超えるか? 天声こども語紀行⑪

2024.02.11コラム

2024年2月11日付・朝日小学生新聞1面コラム「天声こども語」

東京の豊洲市場の隣に「豊洲 千客万来」という施設が1日オープンしました。約65の飲食店、24時間営業の温泉とホテルがあります。開業して最初の土曜日に行ってみました▼江戸の町並みを再現した通りに、魚料理やすし、ラーメン、うなぎなどの店が並んでいます。昼前だったので、何か食べようと思いましたが、人が多すぎてあきらめました。待つのが苦手なのです。外国人観光客もたくさんいました▼「羽田空港のようだ」という声を聞きました。新しい飲食店がたくさんあることが似ているようです。皆さんが20歳代になる2040年ころには地下鉄ができ、いずれ羽田空港に伸ばす話も出ています▼東京の魚市場は、日本橋から築地、そして豊洲に移りました。朝日小学生新聞の本社は旧築地市場の隣にあります。市場はなくなりましたが、問屋街が残り今も観光客が大勢来ます。豊洲もにぎわいそうですよ。

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東京の魚市場には縁がある。勤めていた朝日新聞社は築地市場のすぐ隣。今は残った場外市場がインバウンド客でごった返しているが、これはここ20年の現象だ。かつては市場内も市場外も、観光地でも何でもなかった。市場内外には夜から昼まで営業している飲食店が軒をつらねていた。仕事が終わって時計の針が12時を回った深夜、同僚とよく飲みに行った。ビールが美味く、刺し身やアジフライ、ポテトサラダをよく食べた。市場に変貌した豊洲には、かつてグラウンドがあり、野球をよくやった。今は自宅が近いというつながりがある。

東京の新名所は、全国的に関心が高い。「千客万来」は2018年の豊洲市場開場と同時にオープンする予定だったが、移転にともなうゴタゴタやコロナ禍で遅れに遅れ、やっと2月1日に日の目を見た。小池百合子東京都知事が深く関係しており、ちょっとした政治問題だった。豊洲市場内には開場と同時に開店した飲食店があるが、「千客万来」は江戸の町並みを再現した新しい独自の一角。24時間営業の銭湯とホテルもあるので、存在感が違う。そんな様子を伝えようと思って、こども語で取り上げた。

オープン2日後、2月3日(土)の雑踏

オープン2日後の3日昼前に出かけた。すごい人だ。入り口に人がたまり、中に入ってもなかなか前に進めない。いやいや。市場の歴史を伝える東京都PRコーナーがあった。パンフレットをもらう。1階は主に大型バスの駐車場で、歩道に面した場所にコンビニや飲食店がある。北海道のラーメンや函館直送の食堂もあった。2階は「豊洲目抜き大通り」という通りがあり、「時の鐘の広場」を囲んで飲食店や玉子焼き屋、和カフェ、たこ焼きなどもある。3階はフードコートで、海鮮バイキングなどがある。

もう一つの売り物が「万葉倶楽部」で、温泉の全国チェーンだ。入館料は大人3850円。9階建てのビルに宿泊施設もあり、24時間営業になっている。当然、食事ができるコーナーもあり、貸部屋もある。家族や一族で、食べて、飲んで、風呂に入ってまた飲んで、最後は泊まる。そんな遊び方もできる。屋上には足湯もある。こちらは(確か)無料。行こうと思ったが、エレベーターが混んでいたので、断念した。

このうな重は半身なので安い。高いものは5000円以上する。

ランチを食べようかと思ったが、こちらもやめた。長時間並ばないといけないからだ。こども語にも書いたが、「待つのが苦手」ときている。「なんで昼飯を食べるのに並ばないといけないのか」と思ってしまい、イライラする。人混みも嫌いだ。だからディズニーランドも好きではなかった。こどもが小さい頃、何回も行ったが、待たずに楽しめる「イッツ・ア・スモールワールド」ばかり。船に乗りながら、世界の民族衣装を着た人形を見て回る。国際色が豊かで、「みんな仲良くしよう」というメッセージもよかった。

集客効果は結構あるようだ。周辺は私の古くからのジョギングコースだが、開場後の土日は、豊洲駅方面の人が増えた印象だ。都心からのアクセスはバスが中心で十分とは言えないが、目的を持った人は集まってくる。すぐ近くには、運河をはさんでオリンピックの選手村の跡地を利用した「晴海フラッグ」が完成し、入居が始まっている。豊洲ららぽーとまでは歩いて15分ほどだから、湾岸地帯で半日遊ぼうと思えば、絶好の場所だ。公園もきれいに整備され、レインボーブリッジも目の前。2040年ごろには地下鉄が新設され、いずれ羽田空港に向かうという話も最近出始めた。

地方は人口減少で青息吐息の地域もあるが、東京は一極集中が進み、土地がある湾岸地域はまだ開発ラッシュだ。11日(日)も近くをジョギングして写真を撮ったが、以前より混んでいた。しばらくは文字通り、「千客万来」だろう。話は変わるが、市場近くといってもお値段は安くない。ランチの寿司でも平均4000円はする感じだ。払う人がいるからこのお値段なのだが、高ければ美味しいものはどこでも食べられる。昔、深夜に行った築地市場の食堂は、汚いが、安かった。「市場近くなら、安くてうまいものを食べたい」。そう思うが、どうだろうか。

2月11日(日)の様子。3日(土)よりはるかに人が多い。