2月12~16日(教養講座:山田太一エッセイ)

2024.02.16メルマガ

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HPにアップしました→ 豊洲は築地を超えるか? 天声こども語紀行⑪ – 長谷川キャリア文章塾 (hasegawa-cwa.com)  2月12日からの教養講座は「山田太一エッセイ」 – 長谷川キャリア文章塾 (hasegawa-cwa.com)

***デイ・ウォッチ(9~11日)

小澤征爾さん死去 88歳「世界のオザワ」の訃報に国内外で追悼 | NHK | 訃報 →高校の音楽の先生が「オザワはすごい」といつも言っていたが、どうすごいかわからなかった。訃報記事を読んで、国境を簡単に超えて誰とでも仲良くなる個性がすごいと知った。満州で生まれ、スクーターで欧州をかけまわって西洋音楽の一流人の胸に飛び込み、日本人の感性で西洋を説得するという革命に挑んだ。スケールが別格だ。音楽のすごさは、まだ?か。スポーツ選手なら誰でもわかるが、指揮者の実力は素人にはなかなか理解できない。

小澤征爾さんを失って  村上春樹さん寄稿:朝日新聞デジタル (asahi.com) →11日朝刊掲載の有料記事。村上春樹は小澤征爾とのロングインタビューの本を新潮社から出版しており、その体験も踏まえた寄稿だ。エピソードを交えながら小澤氏の人柄を書いていく文章のお手本。村上がメジャーになってから、朝日新聞が寄稿やインタビューを独占掲載するのは初めてでは。

立民 岡田氏 国民との合流に意欲「大きなかたまり目指したい」 | NHK | 国会 →国民の誰がみても野党がまとまらなければ、日本の政治はよくならないと思っている。自公支持者でも多くはそうだろう。自民党も野党も当たり前のことができるかどうか問われている。

中国の旧正月「春節」祝う祭りや行事 観光地訪れる人たちも | NHK | 中国 春節 →中国の春節で日本も観光客でにぎわっている。「上に政策あれば、下に対策あり」という中国。福島第一原発の処理水問題で日本からの水産物を禁輸しているが、中国の一般国民はお構いなしの風情。今冬は青森や和歌山など地方の人気が高いという。当面は「政経分離」が望ましいようだ。

日弁連 次の会長に渕上玲子氏選出 法曹三者の女性トップは初 | NHK | ジェンダー →ジェンダー平等の歯車が、また一つ回った。法曹三者の女性トップは初というが、法曹界は遅れている。取り組みたいテーマは、選択的夫婦別姓。自民党保守派と対立する課題だ。

*** 「今日の名言」

◎小澤征爾(指揮者。2月6日、88歳で死去)

「集中力っていうのは天才のものじゃない。訓練だ」 「音楽は一人一人の経験の中からじわじわっと出てくる」 「技術の上手下手ではない。心が人を打つ」 「音楽は言葉も国も宗教も政治も超えて、人と人の心をつなげることができる。みんなで一つになれる」 「私たちが若い頃よりもはるかに海の向こうの情報は入ります。でも、それは他の誰かの体験であって、自分自身の経験ではありません」 「日本人がどこまで西欧音楽を理解できるかという壮大な実験をしてきた。僕は、東洋人と西洋人は違う、ってはっきり言いました。だけど、どっかではつながっているんだと思う。世界共通、人間の感情は」 「これまで生きて悲しみを味わった経験。悲しみは人から教われないからね。自分でわかんなきゃ、わかんないわけだから」 「音楽は言葉も国境も人種も大気圏も超え、人と人の心を直接つなぐことができる。地球にいる私たちは皆同じ生き物であり、一つなんだ」

*** きょうの教養 (山田太一エッセイ①) 

「男たちの旅路」や「ふぞろいの林檎たち」「岸辺のアルバム」など数多くの名作ドラマを手がけた脚本家の山田太一さんは、昨年11月に老衰のため、89歳で亡くなった。東京・浅草で生まれ、木下恵介監督の助監督として映画作りに携わり、1965年には脚本家として独立したが、エッセイの名手でもあった。大きな矛盾をはらむ小さな現実や物語にこだわり、社会をみつめてきた。「夕暮れの時間に」(河出書房新社、2015年)から5編を選んで紹介する。

◎「新春の願い」  先日のテレビで小沢昭一さんへのロングインタビューの再放送があった。「ぜひともおっしゃりたいことは」というアナウンサーの質問に「戦争をしてはいけないということだ」といい、「昔は川中島で武田信玄と上杉謙信が戦った。つまり日本人同士が戦争をしていた。そういうことは今の日本にはない。人間の世界から戦争はなくならないと訳知り顔にいう人がいるけれど、そんなことはない。日本人同士の戦争がなくなっているではないか。戦争はやめられる。希望をなくしてはならない」という趣旨のことを話していた。 

心から共感する。戦争はいけないなんて、当たり前のことをわざわざ正月から言い出すなよ、ムッとされた人もいるだろうけれど、そんなことはない。私は心配である。日本が国内外の空気に押されて外交の柔軟性を失い、局所であれ、戦火を交えるようなことがないように心から願う。動機が正当だとしても、プライドや利権のために戦争を始めたら、犠牲は計り知れない。今はトンネルの天井板の落下も大事件だが、戦争となれば日々爆弾が落ちてきても当然という世界になるのである。対抗するには相手の国に同じように爆弾を落とすしかない。原発の多い日本がそんなことになったら、仮にその戦いに勝ったとしても滅亡する他はない。

馬鹿げた心配なら幸いである。年末の選挙でいったいこの人たちの誰に日本を託したらいいのか、と途方にくれた人も少なくないと思う。勇ましいこと言わないでもらいたい。引くに引けなくなることのないように、ぐずぐずだらだらでもいいから、戦争を外交で避けきる人たちであって欲しい。(多摩川新聞2013年1月1日)

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***デイ・ウォッチ(12日)

立憲と国民民主、14日にも党首会談 トリガー条項や衆院補選を協議 [立憲] [国民]:朝日新聞デジタル (asahi.com) →国民民主党の立ち位置に注目が集まっている。与党協議を離脱し、立憲と党首会談の方向だが、いつも目立ちたがる玉木代表の本音がわからない。何でもいいから目立ちたいのが本音だろうか。

アメリカ オースティン国防長官 再び病院に搬送 権限は副長官に一時的に委譲 | NHK | アメリカ →米国は直接・間接に世界の紛争に関与しているが、オースティン国防長官の存在感は薄い。前立腺の病気をめぐるマイナス報道ばかりが目立つ。米国や世界の安全保障について、どんな考えの持ち主だろうか。職責の重さを考えれば、もう交代したほうがいいように思うが。

ダイハツ、2車種の生産再開 不正拡大後初、京都工場で:時事ドットコム (jiji.com) →昨年12月下旬に生産を停止して以来の再開。地元は喜ぶが、全面再開には程遠い。トヨタ自動車の出方も引き続き焦点だ。現場が「ノー」と言いにくいのはわからないわけではないが、違法行為だと考えれば、もう少し気骨があってもいい。上司・経営陣の責任がより大きいのは論を待たないが。

NHKニュース7、「やってます感」で視聴率下落 能登半島地震後1カ月で課題露呈 – 産経ニュース (sankei.com) →NHKは能登半島地震のニュースを大量に流しているが、1ヶ月を過ぎても個別の被災ストーリーが中心。より構造的な問題や将来の教訓になる報道が欲しいという注文記事だ。NHKには「取材が困難」といった反論がありそうだが、貴重なメディアの相互批判だ。

*** 「今日の名言」

◎ルネ・デカルト(フランスの哲学者。1650年2月11日死去、53歳)

「我思う、ゆえに我あり」 「自分自身の思考を除けば、この世で絶対的な力など存在しない」 「実際に人々が何を考えているのかを理解するには、彼らの言葉ではなく、行動に注意を払いなさい」 「楽観主義者は何もないところに明かりを見るが、なぜ悲観主義者はいつだってその明かりを吹き消そうとするのか?」 「疑うことは、知の始まりである」 「真理を探究するのであれば、人生において一度は、あらゆる物事をできる限り深く疑ってみる必要がある」 「良い書物を読むことは、過去の最も優れた人々と会話を交わすようなもの」 「精神を向上させるためには、学ぶことよりもより多く熟考するべきだ」 「世界ではなく、自分自身を征服せよ」 「人間の誤りの主な原因は、幼少期に身についた偏見である」 「不決断ほど、深く後悔させるものはない」 「優秀な知性をもっているだけでは、十分ではない。大切なのは、それをうまく活用することだ」 「良識は、この世でもっとも公平に配分されているものである」 

*** きょうの教養 (山田太一エッセイ②) 

◎「いきいき生きたい」  東北の大震災は、日本の大体験だった。いや、だったなどとはとても言えない。いまの若い人が生きている間でも片づかないものをかかえた出来事になってしまった。思い出して鴨長明の「方丈記」を読んだという人が私の周りで何人もいる。私もその一人で、大火事、竜巻、飢饉、大地震、津波の、生々しく簡潔な名文に支えられた無常観は、まるでいまの私たちに向けて語りかけているように感じられた。

確かに人の一生なんて、天から見下ろせば小さくて束の間だし、いつ何があってすべてを失うかもしれず、死ぬかもしれず、見栄をはって豊かさを競うのも権力に身を寄せるのも、はじかれて苦しむのも、むなしいといえばむなしい。人が生きて行くために必要なものは、結局「方丈」――つまり畳五枚ぐらいの住まいでおさまってしまうのではないか、といわれると、ああ無駄なものを抱えているなあ、捨てなきゃと思いながら、いろいろ処分できないでいる私などは、反省ばかりという気持ちになる。

たしかに死んでしまえば万事が終わりなのだから、むなしいといえばすべてがむなしい。何かに執着するのは愚かといわれればその通り愚かである。しかし、どこに住んでも文句をいわれない土地のある平安時代に、お坊さんで、家族もなく、人とも付き合わず、嫁がなくても自給自足できる、老境の近い人のいうことは割り引いて聞いた方がいいと思う。お坊さんへの教訓としてはよくわかるが、俗人には無理があると思う。死ぬことを考えたら、確かにむなしいことばかりだが、すぐ死ぬわけではない人間は、そんな啓示で身をつつしんでいたら、生きているうちから死んだようになってしまう。 

大災害は、ぎりぎり一番大切なものを教えてくれる。生きているだけでありがたいとか、絆が大事だとか、確かにそれは真実だが、究極の真理だけで、私たちは日々をいきいき生きていけないのだと思う。哀しいといえば哀しいが、それが生きているということなのだと思う。(多摩川新聞2012年1月1日)

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***デイ・ウォッチ(13日)

不記載、85人5億円超 自民が裏金アンケート公表―野党は政倫審開催要求:時事ドットコム (jiji.com)  岸田内閣支持率25% 不支持58% 政治資金問題への評価は 能登半島地震への政府対応は | NHK | 選挙 →自民党のアンケートはわずか2問で、野党は「調査になっていない」と反発。政治倫理審査会の開催が当面の焦点になる。それにしても自民党の動きは国民感情と乖離して鈍い。小出しにする戦術か、事態の重さをわかっていないのか。高をくくっている、国民をなめている、とみられても仕方ないだろう。NHKの世論調査は岸田首相の裏金問題の対応をほとんど評価していない。

ダイハツ 奥平社長と松林会長が退任へ 認証取得の不正問題受け 社長後任にトヨタ 井上雅宏 中南米本部長 | NHK | 自動車 →トヨタ自動車の豊田会長は社長就任時に米国のリコール問題で苦しんだが、佐藤社長もグループ不正で茨の道だ。ダイハツの社長交代、軽自動車専念は改革の第一歩。風土改革は全治3年か。

“核のごみ”最終処分地選定 「文献調査」報告書の原案公表 | NHK | 「核のごみ」処分場選定 →調査は3段階あるが、最初の文献調査は北海道の2町村がパスしそうだ。2段階目の概要調査に進むには、知事と地元首長の同意が必要になるが、鈴木道知事は反対の構え。原発を始めてしまった以上、最終処分地は必要だが、どこも合意は困難だろう。まさに「トイレなきマンション」。

東京株、一時3万8000円台 34年ぶり高値、好決算に買い:時事ドットコム (jiji.com) →政治の低迷を横目に株高がバブル最高値に迫っている。日本の株価の最高値は、1989年12月29日の大納会に記録した3万8957円。13日は一時3万8000円を超えたので、バブル超えも視野に入っている。投資家だけが明るい表情だ。

ドミノ・ピザ 従業員の不適切行為動画で謝罪 法的措置も検討 鼻の穴に入れた指をピザ生地に | NHK | 兵庫県 →また飲食関係アルバイトの不祥事。本人は「面白半分でやった。とても後悔しています」と話している。これまで何回もあったのに知らなかったのか。若い人はもっとニュースに接して常識を身につけないと、不祥事ドミノは終わらない。

*** 「今日の名言」

山本周五郎小説家。1967年2月14日死去、63歳)

「人間の一生には晴れた日も嵐の日もあります。苦しい悲惨な状態も永久に続くということはありません。まあ焦らずにゆっくり構えるんですね」 「人間は調子のいいときは、自分のことしか考えない。不運がまわってきて、苦労をするようになると、初めて他人のことも考える」 「生きることに情熱を感じて仕事をしていれば、金は付随的についてくるものです」 「人生は無限の教訓に満ちあふれている。しかし、どの一つも万人にあてはまるものはない。教訓にするかどうかは、君自身の選択にかかっている」 「この世で生きてゆくということは、 損得勘定じゃあない。短い一生なんだ、自分の生きたいように生きるほうがいい」 「一足跳びに上がるより、一歩ずつ登るほうが途中の草木や泉や、いろいろな風物を見ることができる。一歩、一歩をたしかめてきたという自信をつかむことのほうが強い力になるものだ」 「目的を定めて事を起こすとき大切なことは、目的が達せられるかという結果ではなく、目的を達成するために努力する過程である」 「心に傷をもたない人間がつまらないように、過ちのない人生は味気ないものだ」

*** きょうの教養 (山田太一エッセイ③) 

◎「小津の戦争」  長いこと「東京物語」の瑕瑾(かきん=欠点)のように思っていたセリフがある。周吉(笠智衆)が紀子(原節子)に、もう戦死した息子の事は忘れてくれ、「ええとこ」があったら、いつでもお嫁に行っておくれというと、紀子が「私ずるいんです」という。そんな「いい人間じゃない」という。「いつも昌二さん(亡夫)のことばっかり考えてるわけじゃありません」「思い出さない日さえあるんです。忘れてる日が多いんです」と。それを「ずるい」というように自分から三度もいうのである。

夫の死から8年がたっている。いつも亡夫のことばかり考えていないのは当然であり、思い出さない日があるのも当然であり、それを「ずるい」という強い言葉でいうのは相手がそれを打ち消すのを見越したうえでの偽善の言葉で、紀子の人物像を小さく傷つけるように感じた。それに周吉は「いやあ、ずるうはない」「あんたは、ええ人じゃよ、正直で」と応ずる。

しかし、紀子は正直だろうか。本当に自分を「ずるい」と思っているだろうか。死んで8年もたてば亡夫が遠くなるのは当然と思いながら、きれいな口をきいたのではないだろうか。紀子は明らかに小津作品の肯定的人物なのだから、こんな疑わしいやりとりはしないほうがいい、と名作のこのシーンだけは浮いているような気がしてならなかった。それがある日、小津の軍服の写真を見ていて、紀子が自分を「ずるい」と感じる気持ちを突然納得した。

亡夫は戦死をしたのであった。紀子は――そして小津は――ただ亡夫を忘れかけていることを「ずるい」といったのではなかった。8年前までの戦争でおびただしい数の日本人が死んだことを、半ば忘れかけている自分を――小津を「ずるい」といったのだった。そのようにとれば8年間は長いとはいえない。忘れかけていることを「ずるい」と思う感情もよくわかる。小津は生き残った自分を責める気持ちを紀子に託したのだ、とみるみる瑕瑾の消える思いをしたが、どんなものだろうか。(「東京人」2003年10月号)

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***デイ・ウォッチ(14日)

診療報酬改定、開業医の改革道半ば 医療費抑制200億円 – 日本経済新聞 (nikkei.com) →高齢化で増え続ける医療費は、2040年で今の1.5倍になるという。何とか抑制しようと、儲かっている開業医への切り込みを図ったが、小幅な抑制に終わった。初診料は消費税引き上げ時を除けば、20年ぶりの引き上げ。社会保障のあり方は国民負担に直結する。国民全員が常識として共有する必要がある。

衆院予算委 集中審議 岸田首相“さまざまな機会通じ説明責任果たすよう促している” | NHK | 政治資金 →政治資金問題の集中審議だが、大きなニュースになるような内容は出なかった。自民党議員が連座制の導入を求めたが、岸田首相は「おとりなど悪用防止の議論が必要だ」と煮えきらない。派閥解散では党内をリードしたが、最近は消極姿勢ばかり目立つ。

花巻東 佐々木麟太郎が米スタンフォード大進学へ 大学側が発表 | NHK | 高校野球 →花巻東高校の監督の息子さんが、野球で難関大学スタンフォード大学に入学という。驚いた。さすがに大谷翔平を生んだ花巻東はスケールが違う、と思ってしまう。野球と勉強のバランスはどうなるのか、大学を卒業したらどうするのか。いろいろ想像してしまう。

NHK「ブラタモリ」通常放送終了へ 4月から「新プロジェクトX」:朝日新聞デジタル (asahi.com) →「ブラタモリ」ではいろいろ学ばせてもらった。NHKが目指すべき番組といえた。同じ時間帯で「プロジェクトX」が復活する。登場人物を持ち上げすぎの感もあったが、物語としては面白い。倒産する心配のない公共放送NHKは、民放のような視聴率狙いはやめて、教養色のある番組を増やしたい。

4歳次女を殺害容疑、両親逮捕 向精神薬、不凍液を与えたか―虐待の疑いも・警視庁:時事ドットコム (jiji.com) →実子に劇薬を与える信じられない事件。警察は捜査に時間をかけたので、背景はおおむねわかっているはず。親の虐待や精神的な不安定が伝えられており、目を背けたくなる事件だ。

*** 「今日の名言」

◎釈迦(仏教の開祖。紀元前595年?2月15日死去、80歳)

「生まれを問うな、行為を問え」 「思いわずらうな。なるようにしかならないから、今を生きよ」 「沈黙している者も非難され、多く語る者も非難され、少し語る者も非難される。世に非難されない者はいないのである」 「もし、清らかな心で生きている人がいたとしたら、幸福はその人の後に必ず付いていく」 「善をなすのを急ぎなさい。善をなすのにのろのろしていたら、心は悪を楽しむようになります」 「他人の過失を見る必要はありません。自分がしたことと、しなかったことだけを見るようにしなさい」 「自分で自分を励ましてあげなさい」 「まず自分を正しく整えてから、他人に指摘しなさい。他人に指摘したことは、自分も実行しなければなりません」 「戦いにおいて、一人が千人に打ち勝つこともある。しかし、自己に打ち勝つ者こそ、最も偉大な勝利者である」 「過去は追ってはならない、未来は待ってはならない。現在の一瞬だけを強く生きねばならない」 「最大の名誉は決して倒れないことではない。倒れるたびに起き上がることである」

*** きょうの教養 (山田太一エッセイ④) 

◎同じ家族はいない  寺田寅彦の「柿の種」という短文集の一文が、まるで自分が体験したことのように残っていて、いつの間にか勝手に映像つきにまでなっている。私の気持ちの芯のようなものに触れたというようなことかもしれない。短いので全文を引用させていただく。

大学の構内を歩いていた。病院のほうから、子供をおぶった男が出てきた。近づいたとき見ると、男の顔にはなんという皮膚病だか、ブドウぐらいの大きさのイボが一面にあって、見るのもおぞましく、身の毛がよだつような心地がした。背中の子供は、やっと三つか四つの可愛い女の子であったが、世にもうららかな顔をして、この恐ろしい男の背にすがっていた。そうして、「おとうちゃん」と呼びかけては、何かしら片言で話している。そのなつかしそうな声を聞いたときに、私は、急に何物かが胸の中で溶けて流れるような心持がした。(岩波文庫版)

家族の一番いいところをとらえているように思えた。女の子はやがて父親のおぞましさに気がつかないわけにはいかないだろう。誰だって社会の美意識や価値観と無縁ではいられないから、そんな家族から逃れたいと思うかもしれない。はた目には瞬時にそれが予感できるから、女の子がおぞましい容貌などものともせず、うららかに「おとうちゃん」と呼ぶ声に胸を打たれるのだろう。

誰でも両親を選べない。生まれてきた家も土地も選べない。生年月日も性別も容姿も選べない。だからこそ人はその宿命性に違和感を抱き、人によっては憎んだり悲しんだりするのだが、一方でその宿命性を、その女の子のように「うららかに」愛せたらどんなにいいかと思っているのではないだろうか。人間がそれらの宿命性を持つことなく、生まれる前に自分で家族も性別も容姿も選べるとしたら、人は無限の自由の前で立ちすくむしかないだろう。それぞれが他の人間とは違う限界と可能性を持っているからこそ、人生は豊かにもなり、悲しくもなり、陰影も深みも味わいにも恵まれるのではないだろうか。誰かに文句をいいようもないそれぞれの宿命性は、人間のもつ宝だと思う。

誰もが同じスタートラインに立って走り出し、それで上位に入れなかった者は努力が足りないのだというような人間観は、あまりにそれぞれの宿命性を無視した考えで、ちょっと家族を見渡すだけで、いかに不自然な説教であるかと感じるのではないだろうか。(「健康」2012年春号)

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***デイ・ウォッチ(15日)

GDP年率0.4%減で2期連続マイナス 10〜12月、消費不振 – 日本経済新聞 (nikkei.com)  日本の去年1年間の名目GDP ドイツに抜かれ世界4位に後退 | NHK | GDP →昨年10~12月のGDPは、年率換算-0.4%で、2期連続のマイナス成長になった。インバウンドを除くほとんどで減った。この結果、昨年のGDPでドイツに抜かれることが確定した。GDPは人口規模が大きく影響する。ドイツは8380万人で日本より少なく衝撃だが、どの程度の日本人が深刻に受け止めているだろうか。円安に加えて、ドイツと比べた生産性の低さが響いている。

還流不記載「20年以上前から」 安倍派幹部に責任論―自民、裏金事件で聴取報告:時事ドットコム (jiji.com) →自民党が安倍派議員らに対する裏金調査の結果を発表し、全員が「政治活動費以外には使っていない」と証言した。不祥事を起こした企業は弁護士らで第三者委員会を作って調査する。自民党も最低限、第三者調査をしないと何をやっても信用されない。

自民 政治倫理審査会の開催検討 安倍派5人衆の1人は出席に難色 | NHK | 衆議院 →自民党は新年度予算を成立させるため、政治倫理審議会の開催に同意する方向だ。問題は安倍派5人衆の出欠。ここに至っても何とか逃れようとする姿勢が情けない。開催しても新事実が出るとは思えないが、個々のプロセスが自民党のイメージを落としている。

北朝鮮キム・ヨジョン氏 “岸田首相の本心見守る” と談話発表 | NHK | 北朝鮮情勢 →北朝鮮が異例の談話。能登半島地震で見舞いの電報を送るなど、明らかに変化している。何を意図しているのかは不明だが、岸田首相も「絶えず働きかけている」と答弁している。何かが動くのかどうか。

漫画家 芦原妃名子さん死亡受け 日本テレビ特別調査チーム設置 | NHK →漫画家の自殺で、日本テレビも動かざるをえなくなった。真相はよくわからないが、コミュニケーションが不十分だったことは間違いない。テレビ局にとって原作者との関係で大きな警鐘と教訓になるだろう。

*** 「今日の名言」

坂口安吾小説家。1955年217日死去、48歳)

「孤独は、人のふるさとだ」 「すぐれた魂ほど、大きく悩む」 「人間は生き、人間は堕ちる。そのこと以外に人間を救う近道はない」 「悲しみ、苦しみは人生の花だ」 「個人の自由がなければ、人生はゼロに等しい。何事も人に押し付けてはならないのだ」 「日本に必要なのは制度や政治の確立よりも、先ず自我の確立だ。自分自身の偽らぬ本心を見つめ、魂の慟哭によく耳を傾けることが必要なだけだ。自我の確立のないところに、真実の道義や義務や責任の自覚は生まれない」 「恋愛は人間永遠の問題だ。人間である限り、最も主要なるものが恋愛だろうと思う」 「あらゆる自由が許された時に、人ははじめて自らの限定とその不自由さに気づくであろう」 「政治が民衆を扱うとすれば、文学は人間を扱う」 「人はなんでも平和を愛せばいいと思うなら大間違い。平和、平静、平安。私はそんなものは好きではない。不安、苦しみ、悲しみ。そういうものが好きだ」 

*** きょうの教養 (山田太一エッセイ⑤) 

◎あとがき  画家の木下晋さんの絵は黒一色の鉛筆画なのである。描かれているのは、しわの多いシミの多い老婆や老人の頭部や全身像で、やせ衰えた裸体である。大きいのに細密で、シワの一本一本が丁寧に鉛筆で描かれている。しわが並ではない。見事にしわだらけなのである。美しいと思った。引きこまれた。

木下さんと雑談をする機会があった。私は「どうして老婆老人ばかりを描くのですか」と聞いてしまった。「しわのない肌はつまらないから」とさらりといわれてしまった。しわのない肌が語る人生などたかが知れている。深みも悲しみも歳月もない。そう思っていなければ、しわばかり描けるものではない。しかし、そのような物言いを偽善ではなく、長年の仕事を背にして口に出来る人は滅多にいるものではないと一礼してしまった。

木下さんは流布している美意識とは反対のことをいっているのである。「マイナス」こそ美ではないか、生きている証拠ではないか、それらを美として見る目こそ私たちを解放するのではないか。通俗の言葉に翻訳すればそういうことでもあると思う。日本の科学や医学は老人を長生きにしてくれたけれども、早くもその成果を持て余しているのではないだろうか。老人の数を調節できないかと考えてやしないだろうか。老人に長命に見合うほどの取り柄が見つからないのだ。

しかし社会は現在と未来だけでは不足で、過去を生きた人たちを失えば、その分人間の現実を見失ってしまう、と思うのだが。木下さんは「シミひとつない肌」を嫌がったりはしないだろう。ところが老人の私は、生活者としても「シミひとつない」はとっくに無縁で、老婆の真実の方がずっと身近である。老いの実存を見つめ直したいような欲求が湧いているのである。しかしそれはまだとば口で、自力できいた風なことをいう力がない。そこで、木下さんのしわの美の発見に(勝手ながら)すがってしまったのである。(2015年7月)