科学ネタ大全(2024年4月22~26日)

2024.04.26教養講座

*** 今週の教養 (科学ネタ大全①) 

日本の教育は戦後、文系と理系に分かれてきた。それぞれで知識が偏る傾向になり、弊害もある。最近は「文理融合」がトレンドだ。文系人間には乏しい知識を学ぶため、「科学のネタ大全」(2020年、青春出版社)から小ネタを紹介する。

◎金属の常識と不思議

★金はなぜ金色に輝くのか?  金が古代から珍重されてきた理由は、輝きにある。金属が光るのは電子殻の外側の自由電子が光を反射するからだが、金もそのメカニズムが働いている。金の場合は可視光のうち、赤から黄色の色をよく反射する。それらの色が混じり合って人間の目に飛び込んでくると、金色に輝いて見える。

★銀が食器に使われた理由は?  銀は、空気中の水分や硫化水素、亜硫酸ガスと反応して、表面に硫化銀ができやすい。手入れを怠ると、銀製品が黒く変色するのはこのためだ。銀が古くから食器として用いられてきたのはこの性質を利用してのことである。中世には毒物としてヒ素がよく使われたが、当時のヒ素は不純物が多く、硫化物を含んでいた。このためヒ素の食べ物や飲み物を銀食器に入れると、銀が黒ずみ、毒が盛られていることが目で見てわかった。銀食器は、毒殺から身を守る護身用の道具だった。

★銅がよくコインに使われる理由は?  銅は10円玉だけでなく、1円玉を除くすべての硬貨に含まれている。10円玉は銅95%と亜鉛、スズの青銅、5円玉は銅60%、亜鉛40%の黄銅。50円、100円、500円玉は銅75%、ニッケル25%の白銅である。硬貨に銅が多用されるのは、銅が他の金属と組み合わせると強度の高い合金になるからだ。加えて安っぽくない割には、比較的安価に硬貨を鋳造することが出来る。

★人類が鉄を使い続けてきたのは?  人類が使ってきた金属の95%は鉄であり、現在も「鉄器文明の時代」が続いているといってもいい。それほど鉄が使われて来た理由は、埋蔵量が非常に多く、地表近いところにたっぷりあることだ。その分採掘しやすく、コストがかからない。しかも鉄は加工しやすく、炭素を使って強度や性質を自在に変えることができる。鉄とコンビを組む炭素も地球上にたっぷりあって、安価に調達できる元素なのである。

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*** 今週の教養 (科学ネタ大全②) 

◎飲食物のなぜ

★ビールの泡がなかなか消えないのは?  ビールの泡が炭酸水やシャンパンの泡に比べると長持ちするのは、多種多様な成分を含んでいるからだ。ビールはタンパク質、炭水化物、ホップなどを含み、それらには粘度や表面張力を高める働きがある。そのため炭酸ガスを保持する力が強くなり、なかなか泡が消えないのだ。泡だつと苦み成分が泡に吸収されて味がまろやかになり、香りも良くなる。泡が保たれてこそビールはより美味しく飲める。

★柿ピーの袋に窒素が詰められている理由は?  柿の種は次のような工程で作られる。もち米をすりつぶして粉にし、水を加えて蒸し上げると生地になる。それを成形機にかけて柿の種の形にし、オーブンで焼いて辛く味付けをする。この柿の種にバターピーナッツを混ぜたものが「柿ピー」だ。袋詰めにする時、袋の中の酸素を抜き窒素ガスを注入しているが、バターピーナッツに含まれる油分の酸化を防ぐためだ。

★おいしい水の成分は?  一般に水のおいしさの秘密は、水の中に溶け込んだ物質にある。地底から何年もかけて湧き出した天然水には、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル分が溶け出し、甘みやまろやかさが加わっている。少量の炭酸ガスが溶け込んでいる水も、飲んで美味しいと感じるとされる。一方、有機物が溶け込んでいるとまずく感じるが、どんな成分がどれくらい含まれていれば美味しくなるのかという点については、分かっていないことが多い。成分の解析は日夜行われているが、味を再現すべく技術を駆使しても天然水とは全く違う味になってしまうのである。水の世界は奥が深い。

★厚いグラスほど熱湯で割れやすいのはなぜ?  グラスに熱湯を注ぐと厚いグラスの方が薄いグラスよりも割れやすい。ガラスは熱伝導率が悪いのに熱によって膨張しやすいという性質を持っている。熱に直接触れた部分は膨張するが、触れていない部分までは熱が伝わらず、膨張しない。すると一部は膨張し、他の部分は膨張しない歪みが生まれ、ひびが入ったり割れたりしてしまう。厚いグラスは内側が熱くなっても外側まで熱が伝わりにくい。内外の膨張率の差が大きくなり、割れてしまいやすいのだ。

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*** 今週の教養 (科学ネタ③) 

◎日常生活のなぜ

★新型コロナウイルスは何番目?  コロナウイルスは知られているだけでも約40種類ある。1930年代に鳥から発見され、それ以降、豚やマウスなどからも発見された。人に感染するのは6種類で、4種類は普通の風邪ウイルス。ほとんどは人体に無害で、危険ではなかった。しかし2002年、SARS(重症急性呼吸器症候群)が流行し、重篤な症状を引き起こした。2012年以降のMERS(中東呼吸器症候群)は、感染者数こそ約2000人と少なかったが、致死率は30%にのぼった。2020年以降の新型ウイルスは人間に感染する7種類目になる。

★自動ドアはなぜ人間しか反応しない?  日本は自動ドア大国で世界全体の4分の1が集中しているといわれる。セールスポイントは、人間以外には反応しないという点だ。昔の自動ドアはゴムマットにスイッチが設置され、体重の軽い幼児には反応しなかった。その後、近赤外線センサーが導入され、人間を感知して開く仕組みになった。誤作動を防ぐため近赤外線を5本程度に限定していたため、反応が鈍い欠点があった。現在は50本以上あり、雪や雨、犬や鳥など様々な物のパターンを記憶させて人間以外に反応しないようプログラミングされている。

★電波時計の電波はどこから飛ばしているの?  電波時計は高性能アンテナで「標準電波」を受信し、誤差を自動修正する時計。誤差は10万年に1秒程度という。送信局は、東日本は福島県大鷹度谷山(おおたかどややま)、西日本は福岡と佐賀県境の羽金山(はがねやま)にある。セシウム原子時計が設置され、電波を送って日本全土をカバーしている。送信にはかつて短波が使われたが、現在は長距離まで安定して送信できる長波に切り替えられた。マンションの奥まった部屋や変電所、高圧電線、電車の架線近くなど同じ長波を利用するラジオのAM放送が入りにくいところでは、受信しにくくなっている。

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*** 今週の教養 (科学ネタ大全④) 

◎モノのなぜ

★ゴルフボールの表面にくぼみがある理由は?  くぼみは「ディンプル」と呼ばれ、遠くまで飛ばすためだ。表面の滑らかなボールはくぼみ付きの3分の2くらいしか飛ばない。空気抵抗が関係している。表面が滑らかだと、ボール後方に空気の渦ができて後方の圧力が下がり、前方からの空気抵抗が相対的に大きくなって飛距離が伸びない。くぼみ付きは渦ができにくく、後方の圧力があまり下がらないので、前方の空気抵抗に対抗する力が大きくなる。回転しやすく揚力が大きくなるという効果もある。

★切れ目がなくても切れる袋の謎とは?  「マジックカッ」トと呼ばれ、旭化成系の会社が開発した。肉眼ではわからないほどの小さな穴が連なって空いている。手で力を加えると、穴と穴の間に力がかかり、次から次へと裂けていく。開発のきっかけは同社関係者が新幹線の中でおつまみを買ったことだ。袋の切れ目を見つけられず、食べるのは諦め、開発を思い立った。当初は薬品を袋に塗ったが、食品用には適さない。多くの切り込みを入れたが、強度不足。そんな試行錯誤の結果、開発された。

★芳香剤入り消臭剤が芳香まで消臭しない理由は?  芳香剤の成分にある。オレンジの皮に由来する精油のリモネン、植物の香気成分の精油であるテルペン類が使われているが、ともに消臭剤によって香りを失わない物質だ。消臭剤には二つのタイプがある。小さな穴がたくさん空いた活性炭のタイプは、リモネンやテルペン類を吸着しにくい。別のタイプは悪臭の原因になる物質と化学反応起こす物質を使うが、これらとも反応しにくいので、香りを放ち続けることができる。

★ヘルスメーターは北海道用と沖縄用で別物?  日本のヘルスメーターには、北海道型、沖縄型と中間型の3タイプある。南北で重力に違いがあるからだ。本州で体重60キロの人が中間型メーターを運んで計算すると、北海道では59.95キロ、沖縄では60.05キロになる。重力の違いは地球の自転で遠心力が働くためだ。遠心力は赤道に近づくほど大きくなり、同じ重力の人が赤道に近い地域で計ると、高緯度より重い数字が出てしまう。

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*** 今週の教養 (科学ネタ⑤) 

◎医療・人体の不思議

★薬のカプセルは何でできている?  プラスチック類のようにも見えるが、原料はゼラチンだ。牛や豚の骨や腱を長時間煮込むとできるエキスからタンパク質を抽出したのがゼラチンである。乾燥状態では形を保っているが、胃や腸の中に入ると溶けて、中の薬が体内に吸収される。薬によっては胃ではなく腸で吸収されるよう表面をコーティングし、胃酸で溶けないようにしている。

★手術用の体内で溶ける糸の原料は?  「吸収糸」と呼ばれ、1970年代にアメリカで開発された。体内にしばらく残っていても害がなく、時間が経つと溶けてしまうので、抜糸の必要がない。主原料には乳酸菌など人体の中にもともと存在する素材が使われている。吸収糸が体内に入ると、水分に触れて繋がっていた分子がバラバラになる。「加水分解」と呼ばれる。

★注射の痛みが昔より軽くなったのは?  第1の理由は注射針の先端に「ランセットポイント」と呼ばれる技術が使われているからだ。注射針は昔から皮膚に差し込みやすいように斜めに切ってあった。ランセットポイントは、斜めに切った先端の角度を2段階にしたものだ。それによって鋭く尖った針の先端がメスで切るような働きをする。針を単に突き刺すより、痛みが少なくなる。ランセットは「メスの刃」という意味だ。昔の注射針は先端の切り口が1段階で、しかも針の先端がやや丸みを帯びていたので、針の先端に負荷が集中し、ちくっとした痛みが発生していた。

★100度のサウナで火傷しないのは?  100度の風呂に入るとやけどをするが、サウナなら耐えられる。これは液体と気体では熱の伝わり方が違うからだ。温度の高さは、物質の構成分子が激しく不規則運動しているということだ。人が熱いと感じるのは、熱を帯びた分子が皮膚にぶつかり、感覚器官を刺激するためである。気体と液体では分子間の距離が大きく違う。気体は分子間の距離が長く、まばらであるため皮膚に接触する分子数は液体より少ない。サウナは熱を帯びた物質が少なく、熱湯ほど熱く感じない。