職業の学歴(2024年8月26~30日)

2024.08.30教養講座

*** 今週の教養 (職業の学歴①)

今週は「職業の学歴」を特集する。経済学者・橘木俊詔氏と教育ジャーナリスト・小林哲夫氏の共著「日本の学歴」(2022年、朝日新聞出版)から、①警察官・消防官・自衛官②公認会計士③一級建築士・弁理士④国家公務員・外交官⑤法曹界(司法試験)を取り上げる。データのある年は職種によって異なる。

◎警察官採用数 ▼2007年①日大194②東海大84③福岡大74④近畿大、帝京大72⑥中京大71▼2021年①国士舘大131②東海大89③日本文化大82④日大78⑤環太平洋大64。最近は国士舘大が1位だが、日大はそれまで10年以上、トップを続けた。法、経済、文理などの学部が多い。学生数が日本一で、付属高校が全国に26校あり、スポーツ射撃部など体育会の存在も大きい。日本文化大は警察官試験に強いことを売り物とし、学長は警察庁OBだ。試験対策に力を入れ、苦手とする人が多い数学もていねいに教える。

◎消防官採用数 ▼2007年①日大33②専大、中京大21④法大18⑤愛知学院大、近畿大14▼2021年①国士舘大115②帝京大67③帝京平成大63④日体大、日大46。かつて日大が多かったが、最近10年は国士舘大がトップ。ほとんどが救急救命士を養成するスポーツ医科学科がある体育学部出身だ。救命救急士の資格取得や消防官養成に力を入れる大学が増えている。

◎自衛官採用数 ▼2007年①札幌学院大18②福岡大16③熊本学園大15④大東文化大13⑤拓殖大、帝京大、日本文理大11▼2021①日大45②帝京大29③東海大28④龍谷大24⑤近畿大、国士舘大、札幌大21。上位校は首都圏の大学だが、基地や駐屯地が多い北海道と九州の大学も多い。熊本県は戦前、多くの軍人が輩出した歴史がある。ランキングの上位には登場しないが、音楽大学出身者も少なくない。音楽隊のメンバーになるためで、クラシック界で評価されている。

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*** 今週の教養 (職業の学歴②)

◎公認会計士 ▼1951年①中大16②一橋大15③神戸大14④東大13⑤神戸商大、明大8▼1996年①慶大115②早大95③中大39④一橋大38⑤明大33▼2021年①慶大178②早大126③明大72④中大65⑤東大58。

公認会計士制度は1948年に始まったが、現在は合格率10%の難関になっている。合格後、2年間の会計実務と補習所での講習と修了考査が必要だ。専門性と報酬も高く、人気が出ている。自分で会計事務所を持つか、大手の監査法人に所属する2つの働き方がある。米国では会計と経営の知識を生かしたコンサルティング業務が人気で、日本も同様の傾向になると予想されている。

合格者は、経済、経営、商学部出身者が多い。戦後20年ほどは、国公立系では旧商大、旧高商である一橋大、神戸大、神戸商科大(現兵庫県立大)、横浜国立大が多かった。私大では東京の学校が目立った。トップ校は1970年代前半まで、資格試験に強い中大だった。1970年代後半からは、実業界志向の強い慶大がダントツの1位となり、現在に至っている。2位は常に早大が続き、東京の明大、法大、立大、関西の関関同立の私大も多い。

政府や法曹界志向の強い東大は4~7位にとどまり、京大はさらに低い。公認会計士の試験は難しいが、民間希望の東大生らは大企業を志望するようだ。官庁や裁判所、検察庁、大企業はどれも大きな組織である。大組織は内部の昇進競争が激しく、その際に学歴が有利に働くと考えても不思議ではない。私立大に加え、歴史的に商業系の一橋大や神戸大は、大組織志向がより弱いといえそうだ。

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*** 今週の教養 (職業の学歴③)

◎一級建築士  ▼2006年①日大205②東京理科大101③芝浦工大、早大82⑤近畿大73▼2021年①日大153②東京理科大128③芝浦工大96④近畿大87⑤早大79。

ランキングでは長年、日大が1位の座を守り続けている。理工、工、生産工の3学部にそれぞれ建築系学科がある。3学部ある大学は日大だけだ。在学生は1学年700人ほどにのぼる。東京理科大は工と理工に建築系学科があるが、定員は計230人。芝浦工大は1学部で240人。いずれも日大の3分の1だ。日大卒業生の就職先はゼネコンやハウスメーカーで1位か上位を占める。女子大で力を入れる大学が増えている。ランキング上位には登場しないが、武庫川女子大は2021年に16人が合格した。2006年に開設した生活環境学部建築学科が建築家養成を打ち出している。昭和女子大や駒沢女子大も力を入れている。かつては日本女子大や奈良女子大が多かった。

◎弁理士  ▼2006年①京大59②東大57③阪大44④早大41⑤東京工大38▼2021年①東大21②京大18③阪大11④九大、東京工大9。

弁理士の主な業務は、特許権、実用新案権、商標権など知的財産権を取得したい人のために、代理人として特許庁へ手続きすることだ。大学でこうした実務的な仕事を知る機会は少ない。2021年の合格者の属性は、会社員48.7%、特許事務所27.1%、無職7.5%、学生は3.5%と極端に少ない。受験生の多くが学生の司法試験とは大きく違う。弁理士の合格率は6.1%。司法試験は41.5%なので、はるかに狭い門だ。1次の短答試験と2次の論文試験の必須科目は、特許、意匠、商標に関する法令で、論文は理工5科目、法律6科目から1科目を選択する。ランキングの上位には東京工大、東京理科大、電気通信大など理系大学が多い。その他は入試難易度にかなり近い結果だが、大阪工業大や金沢工業大は、毎年数人の合格者を出している。弁理士養成に力を入れており、大学のブランド力を高める狙いもあるようだ。

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*** 今週の教養 (職業の学歴④)

◎国家公務員試験  (旧上級、Ⅰ種試験合格者。事務系と技官系の合計)▼1964年①東大286②京大137③北大69④中大62⑤日大56▼1994年①東大436②京大204③早大121④北大87⑤東工大82▼2021年①東大362②京大142③早大98④北大82⑤岡山大78。

官吏養成学校として発足した東大が戦前から一貫して1位にいる。富国強兵を目指した明治期、官僚の地位は圧倒的に高く、報酬も高かった。1882年の給与をみると、高級官僚(次官・局長級)は、中堅官僚の16倍、初級公務員の65倍だった。現在は10~15倍なので、歴然だ。戦後、給与格差は縮まったが、最近まで天下りも多く、生涯賃金が高かった。2位はずっと京大だ。2番目の帝国大学として発足し、公務員志向も強い。旧帝大、旧制大学は、今でも上位だ。戦後は私大が増えた。当初は中大や日大が多く、その後は早慶が増えてきた。

今後はどうか。民間企業の賃金上昇、政治主導によるやりがいの低下、残業の多さなどがあり、東大卒業生での人気が低くなっている。民間企業では学歴を問わない登用が浸透しており、官庁も同様の傾向に向かうだろう。相対的に国公立大の多様化、私学の伸びが予想されている。国のかたちの変化でもある。

◎外務省総合職(外交官)採用数  ▼1953年①東大12②大阪外大、一橋、中大1▼1996年①東大16②慶大4③京大3▼2021①東大18②早大4③京大、慶大3⑤東京外大、一橋1。

外務省は2000年まで他省庁とは異なる外交官試験を実施していた。外国語や国際法、国際政治の知識も問われたが、それ以降は他の国家公務員と同じ試験になった。東大が圧倒的に多く、京大が続く構図は国家公務員と同様で、外語大も一定数いる。最近は早慶の私大が増えている。人数が少ないので多様性は低いが、今後は他省庁と同様の傾向になりそうだ。

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*** 今週の教養 (職業の学歴⑤)

◎司法試験  ▼1951年①中大93②東大79③京大20④関西大14⑤明大11▼1995年①東大166②早大104③中大87④京大74⑤慶大61▼2021年①慶大125②早大115③京大114④東大96⑤中大83。

明治期の司法制度は1880年、司法官(裁判官)と代言人(弁護士)で発足した。東京大法学部と司法省法学校の卒業生が無試験で合格した。今の法大、専大、明大、早大、中大が5大法律学校と言われ、官立との格差を不公平だと訴えて、官立にも試験が導入された。私立はその後、関西大、日大、慶大などが加わったが、官立は裁判官や検察官になり、私立出身者はほとんどが弁護士だった。

戦後の1949年に新しい試験制度が始まった。裁判官、検察官、弁護士になるには、司法試験に合格し、司法修習(現在は1年)を受けることになった。合格率は3%前後だったが、難しすぎるという批判と司法ニーズの高まりを予想する観点から、2006年に法科大学院経由で受験資格を得られる現行制度になった。大学院以外の人は、予備試験に合格して受験資格を得られるようにした。

合格のトップ校は戦後1970年くらいまで常に中大だった。司法試験の団体が多くあり、OBも含めて大学をあげて試験対策に力を入れた。その後、東大がトップになった。1990年代は100人前後だったが、その後200人程度に増えた。合格者数の増加もあるが、長期不況で民間企業への就職から法曹へのシフトがあったとみられる。京大は常に3~5位の間。最近では早慶が伸びて上位を占め、1位になることもある。中大は以前に比べて後退する傾向にある。2023年、法学部を郊外の八王子市から都心に近い茗荷谷(文京区)に移転させ、都心回帰で再興を目指している。

法科大学院は、法学部出身者で2年、それ以外で3年の教育を受け、その後、司法試験を受験する。ピーク時は74校もあったが、今は半減している。日本はアメリカのような訴訟社会にはならず、弁護士が過剰になり、合格者が少なくなった背景がある。日本にふさわしい司法制度の構築が課題だ。