モリー・マルーフ著「健康最適化」(2024年10月28~11月1日)

2024.11.01教養講座

*** 今週の教養 (健康最適化①)

今週は健康を考える。スタンフォード大学で人気講師になっているモリー・マルーフ医学博士の著書「脳と身体を最適化せよ!」(ダイヤモンド社、2024)を紹介する。バイオテクノロジーを使って脳と身体を最適化する「バイオハック」という健康法を詳しく説明している。「明晰な頭脳」「疲れない肉体」「不老長寿」を実現する狙いがある。詳しくは同書を読んで欲しい。

◎ミトコンドリアとスパーク エネルギーは精子と卵子が出会う瞬間から始まる。卵子が受精した時、亜鉛による蛍光グリーンのスパーク(電気エネルギー)が放たれる。その直後から、卵子のミトコンドリアが胚の発育を促す働きを始める。ミトコンドリアは細胞の発電所の役割を果たす細胞内器官であり、電荷を蓄えるバッテリーだ。人生を輝かせ続けることができるかどうかは、ミトコンドリアがいかにうまくエネルギーを作り、蓄え、使えるかにかかっている。

十分なエネルギーがなければ、身体はやるべき仕事ができない。人生を活気づけることができない。電気の強さとエネルギー産生能力があなたの体調を左右するのだ。あなたは自分のスパークを感じているだろうか。起きた時に活力が上がっているだろうか。一日中その状態が続くだろうか。それとも一日が終わる前にエネルギー切れを起こすだろうか。痛みを抱えながら生活している? それはエネルギー欠乏のサインかもしれない。健康的に働いている? それはエネルギー容量が十分なサインだ。

スパークは細胞の一つ一つに存在している身体を動かす電気エネルギーだ。人によっては「気」「プラーナ」「生命力」と呼ぶ。どの文化や神話にも存在する普遍的概念だ。あらゆる生命がこのスパークから生まれているが、日常生活の欲求によって私たちのスパークは曇り始めている。私たちは慢性的で容赦ないストレスに潰されるような感覚を抱いている。有害物質に汚染された環境の中で暮らしている。細胞が生み出すエネルギーが目に見えて減少しているのだ。スパークがなければ健康に長生きすることはできない。

*** 今週の教養 (健康最適化②)

◎現代人のエネルギー危機  あなたは日常生活や社会からの要求に対して十分なエネルギーを持っているだろうか。私が治療している患者の大半は「いいえ」と答える。患者が訴える主な症状の一つが疲労だ。今や多くの人が疲れていて、ウイルスに感染しやすく、気分がすぐれず、過剰なストレスにさらされるのも普通だと考えてしまっている。重い疲労症状を訴える患者たちには、同様のパターンが見られる。健康の原則に反したエネルギー欠乏と免疫機能不全を引き起こすライフスタイルだ。こうした患者はストレスを感じる大きな出来事に見舞われ、厄介な感染症にかかり、万全とは言えない健康状態が続いている。

エネルギーが十分でない時、私たちは不調を感じる。脳が最適に機能をせず、身体が効率よく動かず、人生がより困難で負担に感じられ、満足感を得られない。エネルギー産生不足が続けば、病気になるのはほぼ間違いない。エネルギーは寿命と健康寿命の両方を決定づける主要な基本要素なのだ。長生きをして命が尽きるまで人生を楽しみしたいなら、エネルギー容量を増やすことに力を注ぐべきだ。

健康寿命のカギを握るのがこのエネルギー産生だ。細胞内で作られるエネルギー量が多いほど身体がうまく機能し、より長く健康を維持できる。人は死なないことにばかり注目する傾向にある。ゆっくりと衰えていく過程を受け入れながら、薬や手術でひたすら生きる時間を延ばそうとしてしまう。健康寿命を伸ばせば、病気とは無縁の生活を送れる。それこそが誰もが本当に望んでいることではないだろうか。

長寿の人であっても、最終的には普通の人がかかる慢性疾患を発症している。ただ、普通の人たちと決定的に違う点は、長寿な人が病気になるのは人生の最後の数年だけという点だ。健康寿命が非常に長いのだ。通常慢性疾患の悪化は、長い時間をかけてゆっくりと進行し、命が尽きるまで数十年にわたって障害や痛みを引き起こす。ほとんどの人がこうした経過をたどるため、避けられないことに思えるかもしれない。だが、人生の最後の数十年を衰弱しながら過ごすか、活動的に過ごすかどうかは、あらかじめ決まっているわけではない。どのような生活を送るかによって行く末が決まるのだ。

*** 今週の教養 (健康最適化③)

◎寿命と遺伝の関係は少ない  長寿は遺伝すると長年信じられてきたが、最新の研究によると、寿命に影響する要因のうち、遺伝が関係するものはわずか10~20%程度に過ぎない。米国人の寿命は1990年以降、約60%も伸びている。要因の一つは、公衆衛生的介入だ。下水や排水処理の向上、食の安全、ワクチン、抗生物質、個人衛生に対する文化的な変化により感染症関連の死亡が大幅に減少したからだ。

死因のトップは心疾患だが、心疾患や心臓発作を含む循環器系疾患の80%は予防可能だ。もう一つの主な主因であるがんも50%以上予防できる可能性がある。糖尿病が蔓延しているが、遺伝的要因は10~15%に過ぎない。病気の発症は、ライフスタイルや社会経済的要因、環境的要因に大きく左右される。残念ながら糖尿病予備軍の84%は、その自覚がなく、糖尿病を患う人の21%は確定診断を受けていない。

エネルギーの枯渇が問題となるが、これは診断不能な面がある。しかし、自力で改善はできる。エネルギー容量を増やせば、見返りは大きく、ストレスにうまく適応できるようになる。エネルギー容量が不十分なときのサインは多くある。1日が終わる前にエネルギー切れ起こす。朝、頭がぼんやりする。睡眠不足。気分が不安定になりがち。集中できない。常に何かを食べていないと気が済まない。良質な人間関係の欠如。スタミナ、持久力、体力の低下。柔軟性と骨強度の低下。感覚の鈍化。肌の不調。内臓脂肪。髪や爪の痛みにあらわれる。

仕事に集中できず、注意散漫になるのもエネルギー欠乏のサインだ。頭の中にモヤがかかったような状態になるブレインフォグや、日常生活の複雑なやり取りができなくなるのも、脳がエネルギーの安定した流れを得られていないからだ。良質な人間関係の欠如は、健康に直接関係ないように思えるかもしれないが、他者との深いつながりをいくつか持っていなければ、本当の意味での健康は極めて難しい。健全で協力的な関係は、ストレスを大幅に減らし、生活の質を大きく高める。

*** 今週の教養 (健康最適化④)

◎自分なりのバイオハックが決め手  エネルギー容量を減らす要素と増やす要素は、それぞれ4つずつある。減らす要素は、①運動不足②慢性炎症を引き起こす食べ過ぎと栄養不足③ストレス過多④社会的断絶である。増やす要素は、①運動と回復によって細胞のバッテリーを増やす②適切な食べ物を適切な時間に適量食べることで細胞のバッテリーを充電する③十分な睡眠をとり、瞑想し、自然に触れることでストレスを効果的に管理し、細胞のバッテリーを適切に使う④人との触れ合いとつながりによって細胞のバッテリーを外部充電して元気を保つ。エネルギー容量を減らす問題を克服し、容量を増やす習慣を身に付けられるバイオハック戦略が、重要になっている。それを実践出来れば、エネルギー産生を最大限に増やして健康寿命を伸ばすことができる。

今の米国の医療システムは、病気でもうける産業複合体だ。慢性疾患からの回復を促すためではなく、治療を管理するためのサービス料を患者に請求しているのだ。医療には多額の費用がかかるが、患者にも主治医にも自己決定権を与えていない。いったん開業すれば、医師は好むと好まざるとにかかわらず、保険会社の下請けになる。健康や元気を増進する方法で医療を行うインセンティブは働かない。現行の医療システムは、栄養やライフスタイル医療について教えないため、今日の医師の大半がこうした方法で健康にアプローチする能力を備えていない。

エネルギーは基盤、バイオハックは手段、脳と身体の最適化は結果だ。いたってシンプルだが、健康づくりへの決意を心に持っていなければならない。実際にライフスタイルを変えるとなると、実行は難しい。エネルギーを生み出すために必要な行動を起こすエネルギーがない場合、あなたが今いる場所からスタートして、正しい方向に向かって力を尽くすしかない。時間をかけても、かけなくてもいい。お金をかけても、かけなくてもいい。あなたのやり方で脳と身体を最適化することが重要だ。バイオハックは結局、個人的なものだ。あなた自身の内なる知恵に耳を傾けることを学ぶのがバイオハックだ。

*** 今週の教養 (健康最適化⑤)

◎個別の健康法  個別の健康法を解説した第4章以降について、目次から主な項目を紹介する。興味のある人は本書(「脳と身体を最適化せよ!」 ダイヤモンド社)を読んで欲しい。

第4章・身体活動=週150分の運動ができなければ運動不足。運動不足解消のためにジムに通う必要はない。これは運動だと考えるだけで健康になれる。姿勢の悪さがさまざまな不調の原因となる/第5章・運動=運動こそもっとも安上がりで最も効果的なバイオハック。運動は脳を鍛え、老化すら抑制する。ミトコンドリアを鍛えるには運動しかない。1日1時間の運動が早死を防ぐ。人生の分かれ道は筋トレで決まる。タンパク質の最適な摂取量。心の状態を最適化するヨガ・太極拳。運動を習慣化する秘訣は気持ち良さ。

第6章・食事=炭水化物を摂取するときの注意点。取ってはいけない脂肪、取るべき脂肪。食べてはいけないタンパク質、食べてもいいタンパク質。ビタミンミネラルと野菜を効果的に取る。自分に合う食事法の見つけ方/第7章・血糖値=内臓脂肪はやせている人にも蓄積するなぜ。血糖値が高いと糖尿病になるのか。血糖値は低すぎてもいけない。血糖値を安定させる最も効果的な方法。第8章・腸=腸内環境の整え方、野菜・果物・ナッツを食べる。健康な腸を作るための食事ルール。第9章・代謝=なぜ炭水化物の摂取量を減らすべきなのか。代謝柔軟性を高める5つの方法。断食(ファスティング)が代謝柔軟性を高める。断食が脳を鍛え、長寿を実現する。

第10章・ストレス=ストレスの効能。慢性ストレスの危険性。気づかないストレスの隠れた要因。現代人が漠然とした不安を感じる理由。子ども供の頃のトラウマも影響。第11章・メンタル=メンタル状態を心拍変動で把握する。メンタルを最適化する方法。呼吸でメンタルを整える。マインドフルネスで鍛える/第14章・人間関係=社会的つながりがエネルギーに影響する。自分を愛することが最高のバイオハック。スマホを使わない人ほど幸福感が高い。個人主義が孤独を広げる。触れることでオキシトシンを増やす。

著者のモリー・マルーフさん