企業版・生成AI活用の基本(2025年6月23~27日)

*** 今週の教養講座(企業版・生成AI活用の基本①)
生成AIのビジネス利用が注目されている。企業としてどう活用するかは、競争力に直結する時代になっている。「ハルシネーション」と呼ばれる間違いや情報漏えいなどのリスクはあるが、だからと言って使わないリスクも大きい。今の生成AIは、80~90点だが、残り10~20点を埋めるには、何が必要だろうか。基本を考えてみた。
第1回:生成AIの「得意・不得意」を知る——導入前に押さえる基礎理解 企業に生成AIを導入する際、最初に押さえておくべきは「生成AIが何を得意とし、何が不得意か」という理解です。生成AIとは、人間が行うような創造的作業を模倣し、自然な言語や画像などを自動生成する技術を指します。とりわけ注目されているのが、ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)です。これらは、膨大なテキストデータから学習し、自然な文章を生成したり、質問に答えたりすることができます。
得意な領域としては、「要約」「文章の草案作成」「アイデア出し」「定型文の自動化」などが挙げられます。例えば、会議録を簡潔にまとめたり、社内報の原稿案を出したり、FAQの回答例を生成したりする作業は、生成AIが高いパフォーマンスを発揮する場面です。人間の手でゼロから作るよりも早く、一定の品質でアウトプットを得ることができます。
一方で、不得意な点も明確です。もっとも大きな弱点は「事実確認」ができないこと。生成AIは過去の膨大なデータからパターンを学び、それをもとに「もっともらしい」出力を生成します。そのため、正しくない情報や架空の事実をあたかも本当のように述べることがあります。この現象は「AIの幻覚(ハルシネーション)」と呼ばれ、特に医療・法務・金融といった正確性が問われる分野では注意が必要です。
また、感情や倫理を判断する能力は持っていません。たとえば、社内で発信するメッセージにおいて、受け手の感情に配慮したトーンが求められる場面では、人間の判断が不可欠です。さらに、著作権のある内容を模倣するリスクもあります。生成された内容が誰かの著作物と酷似している場合、法的トラブルに発展する可能性もあります。生成AIの導入にあたっては、その機能と限界を正しく理解し、「どこまで任せ、どこから人間が担うか」を明確にしておくことが重要です。過信せず、使いどころを見極める冷静な判断が、企業活用の第一歩となります。
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*** 今週の教養講座(企業版・生成AI活用の基本②)
第2回:「業務のどこで使うか」を見極める——現場での活用ポイント 生成AIを社内で活用する際に重要なのが、「どの業務に導入すべきか」の判断です。AI技術は魔法のようにすべてを解決してくれるわけではありませんが、適切な場所に使えば劇的な効果を発揮します。企業のなかには、すでに複数部門で導入・検証を進めているケースも増えてきました。
たとえば、広報・マーケティング部門では、商品説明文のたたき台作成やSNS投稿案の作成、広告キャッチコピーのアイデア出しなどに活用されています。定型文や発信系のコンテンツを迅速に量産できる点がメリットです。営業部門では、顧客対応メールの雛形、提案資料の要約作成、架電トークスクリプトの草案などで利用されており、コミュニケーション効率の改善に寄与しています。
また、人事・総務などの管理部門では、社内通知文、社則やマニュアルの文案作成、評価コメントの案出し、さらには面接質問例の作成など採用全般でも幅広く活用可能です。事務作業の効率化と標準化が図れます。重要なのは、「AIに任せる業務の切り出し方」です。判断の基準は、①ルールが明確、②情報の整理が可能、③繰り返し作業が多い、④創造的な要素が含まれる、などです。完全自動化ではなく、「AIに下書きを作らせて人間が確認・修正する」体制を整えることで、業務品質を保ちつつ効率を高めることができます。
導入初期は、いきなり全社に広げるのではなく、1部署・1業務からスモールスタートし、効果を検証しながら段階的に展開するのが現実的です。実際に使う社員の声を聞き、改善点を洗い出すことで、現場に合った活用法が定着します。生成AIは、業務そのものを根本から見直すきっかけにもなります。「なぜこの業務をしているのか」「本当に人がやるべきなのか」といった問いを促し、働き方改革や組織風土改革にもつながる可能性を秘めているのです。
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*** 今週の教養講座(生成AIの活用方法③)
第3回:「プロンプト力」が成果を分ける——使い方次第で精度が変わる 生成AIの性能を最大限に引き出すには、「プロンプト(指示文)」の工夫が欠かせません。同じAIでも、入力する内容によってアウトプットの質は大きく異なります。「聞き方」が成果を決めるといっても過言ではありません。
たとえば、「報告書を書いてください」では曖昧すぎて、抽象的で使いづらい出力になります。一方、「営業会議の議事録を800字で要約し、冒頭に結論を明記。文体は敬体でお願いします」と指示すれば、実務に耐える文章が得られます。よいプロンプトを作るには、いくつかのポイントがあります。第1に「目的」を明確にする。何のために、誰に向けて、どんな場面で使うのかを伝えることで、AIの出力精度が向上します。第2に「文体・トーン」を指定する。たとえば「親しみやすい語り口」「専門用語を避けて」「箇条書きで要点を」などの指示が有効です。第3に、「構成や長さ」も重要です。「3つのポイントに分けて」「500字以内で」「見出しをつけて」など、具体的な形を示すことで意図に合った出力が得られやすくなります。
企業での活用では、プロンプトの「型」を部門ごとに整備しておくことも有効です。たとえば「営業メール文案用プロンプト」「社内報原稿生成用プロンプト」など、よく使うパターンを共有することで属人性を減らし、業務の再現性を高められます。プロンプトの型は生成AIに聞くことで、大量に入手できます。プロンプト設計力は、今後のビジネススキルの1つとなるでしょう。AIとの対話を通じて「考える力」「伝える力」「問いを立てる力」が磨かれ、単なる自動化ではなく、人間の知的生産性を高める手段としてのAI活用が実現します。一方、依存しすぎるリスクに注意する必要があります。
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*** 今週の教養講座(企業版・生成AI活用の基本④)
第4回:導入リスクとガイドライン整備——情報漏洩・誤情報・著作権問題 生成AIの業務活用においては、利便性だけでなく「リスク管理」も欠かせません。特に企業利用では、情報漏えいや誤情報、著作権侵害といったリスクが現実の課題となります。これらを見落とすと、企業の信用や法的責任に関わる深刻な問題に発展しかねません。
まず最大のリスクは「情報漏えい」です。生成AIに入力した情報は、外部サーバーに送信される場合があります。たとえば顧客情報や未公開の製品情報などを不用意に入力すれば、第三者に漏れる危険性があります。多くのAIサービスでは、入力内容が再学習に利用される可能性があるため、業務上の機密情報の取り扱いには細心の注意が必要です。
次に注意すべきは「誤情報の生成」です。AIは過去のデータに基づいて回答を作るため、出典が不明なまま不正確な内容を出力することがあります。特に法律、医療、経理など、正確性が求められる領域では、AIの出力を鵜呑みにせず、必ず人間が内容を確認・修正するプロセスが必要です。さらに、著作権や倫理上の問題もあります。AIが生成したコンテンツが他人の著作物に酷似している場合、著作権侵害に問われる可能性があります。また、差別的な言い回しや攻撃的表現など、無意識に不適切な出力が含まれることもあり、チェック体制が不可欠です。
こうしたリスクに対応するために、企業は「利用ガイドライン」の整備を進めるべきです。たとえば、「入力禁止事項の明示」「出力の確認ルール」「社内での共有方法」などを明文化し、社員教育と合わせて運用する必要があります。さらに、特定部門における利用事例やトラブル事例を社内で共有することで、リスク感度を高めることができます。生成AIは道具です。便利である一方、取り扱いには知識と責任が伴います。安全な活用を推進するには、ルールづくりと現場の意識向上の両輪が求められます。
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*** 今週の教養講座(企業版・生成AI活用の基本⑤)
第5回:生成AIは「補助者」——人間の創造性と判断力がカギ 生成AIがもたらす変化は大きく、さまざまな業務を効率化・高度化しています。しかし、最も重要なのは「AIは人間の代わりではなく、あくまで補助者である」という認識を持つことです。使う側の人間が主導権を握ることが、生成AI活用の成否を分けます。
AIは膨大な知識と高い言語処理能力を持っていますが、そこに「意図」や「責任」はありません。出力される文章はあくまで確率的に予測されたものであり、それが適切かどうか、正しいかどうかを判断するのは人間の役割です。これは、最終的な判断を要する業務において極めて重要な視点です。たとえば、社外向けの発信文書にAIを使う場合、言葉遣いや表現の細かいニュアンスが問われます。生成AIが作った草稿に対し、「この文で顧客はどう感じるか」「社内の意図と合っているか」といった観点で人間が目を通し、修正する必要があります。
また、AIの活用が広がるにつれ、「人間が考えなくなるのではないか」という懸念も生まれています。しかし見方を変えれば、AIと共に作業することで、「自分の考えを言語化する力」「問いを立てる力」が鍛えられる機会にもなります。AIを活かすには、人間の創造力や判断力が欠かせないという事実は変わりません。これからの時代に必要なのは、「AIに使われる人」ではなく「AIを使いこなす人」です。生成AIを活用する現場では、単なる技術スキル以上に、「何を任せ、何を人が担うべきか」を見極める思考力と判断力が問われます。
AIを最大限に活かす組織をつくるには、現場と経営が連携し、継続的に試行錯誤を続ける姿勢が欠かせません。生成AIは単なる業務効率化の手段にとどまらず、人間の働き方そのものを再定義するきっかけとなる可能性を秘めているのです。