ノーベル賞と村上春樹

2022.12.10コラム

文章塾なので、文章についての考察をしてみたい。文章の最高峰の賞となれば、やはりノーベル文学賞だろう。歴史と特徴から考えてみたい。

初代受賞作を味わう

最初の受賞者は、フランスの詩人シュリ・プリュドム。授賞は1901年だ。授賞理由は「高尚な理想主義と芸術的完成度、心情と知性を組み合わせた」で、代表作は「壊れた花瓶」。以下で雰囲気を少し味わってほしい。

「壊れた花瓶」

扇が触れただけなのに花瓶にひびが入ったの 

目には見えないけど、ひびは毎日、確かに増えていく

水がしみ出して花が枯れているけど、誰も気づかない 

触らないでね、壊れているの

愛する人の手が触れて心を傷つけ、愛情が衰えることもある 

他人には無傷に見えても、傷は深くなって泣いている 

触らないでね、壊れているの

最近の決め手は越境性

日本で詩は文芸の主流とは言えないが、西洋ではギリシャ以来の伝統があり、王道だ。詩人の受賞は多い。2年前に米国の詩人が受賞したが、邦訳はほとんどない状態だった。

言語学の橋本陽介さんによると、ノーベル文学賞の傾向は、差別やナチズムなどによる抑圧で生まれる強烈な文学、エスニック性、国境を超える越境性だという。

2022年8月15日正午の東京大学安田講堂

川端康成、大江健三郎、次は…

川端康成はエスニック性だったのだろうか。大江健三郎の受賞理由は「現代人の持つ苦境を浮き彫りにした」だが、自意識過剰の「情けないオレ語り」と自殺のモチーフが日本的とされているようだとも指摘する。

毎秋、期待が膨らむ村上春樹は、受賞の条件に近づいているのかどうか。多和田葉子はどうか……

(最初の写真は、早稲田大学演劇博物館。村上が学生時代に通った)

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