ジェンダー平等(2023年1月9~13日)

2023.01.13教養講座

*** きょうの教養(ジェンダー平等①ジェンダーとは)

今週はSDGs(持続可能な開発計画)で5番目の目標になっている「ジェンダー平等を実現しよう」を考える。男性主導社会が長く続いてきたことから、ジェンダー平等に対する意識の差は、世代や個人、国によって非常に大きい。

ジェンダーは、「社会的・文化的性差」で、社会や文化によって決まる男女の違いを指す。服装や髪形、家庭や職場での役割や責任の違いなどがある。長男が実権を握る家父長制や、「男は外で働き、女は家庭を守る」という性別の役割分担は、工業化した近代特有の現象と言われ、多くの人の行動や意識を規定してきた。「ジェンダー平等」は、こうした性差に基づく差別や偏見をなくすことだ。

ジェンダー平等が必要な理由の第1は、あらゆる人間は平等という普遍的理念に由来する。第2は、どんな国でも社会をよくするために女性の力が求められている背景がある。女性差別をなくすことで、大勢の人が働いて持続可能な社会となり、経済成長も期待される。女性が生きやすい社会は、男性にとっても暮らしやすい社会といえる。戦争や過度な経済競争、環境破壊は、「強さ」を重視する男性主導社会の負の遺産と言われる。長く社会に根差した観念を変えることなので、息の長い取り組みが必要になる。

男女格差を示す主な数値は二つある。「ジェンダーギャップギャップ指数」(GGI)は、世界経済フォーラム(スイス)が発表している。2019年の調査で格差の少ない上位は北欧で、日本は121位と大きく遅れている。「ジェンダー不平等指数」(GII)は国連開発計画(UNDP)が発表している。2018年調査では、欧州各国が上位で、日本は23位。前者が低いのは国会議員数など政治面での項目が入っており、後者は健康や教育で指数が良好になっているためといわれる。

*** きょうの教養(ジェンダー平等②世界の実情は)

「ジェンダー平等を実現しよう」の2回目は、世界の実情を考えたい。SDGsは、国連が進めており、常に世界全体の状況を考えているが、途上国を中心に深刻な現状があることがわかる。

「女性の役割は家事や出産、子育て」「女性の仕事は畑仕事など家の周りでやれることだけ」といった考え方は世界各地に根強く残っている。SDGsのジェンダー平等のターゲット(具体的目標)には、人身売買や性的搾取、女子に対する暴力の禁止が盛られている。未成年者の結婚、強制結婚、女性器切除など有害な慣行の撤廃もある。女性器の一部を切り取る行為は「FGM」を呼ばれ、一部アフリカ諸国では文化的慣習としてまだ続いている。

背景にある大きな要因が貧困だ。水道がなければ、池や川から水を運ぶ役割は女性や子どもの役割とされる。電気やガスのない地域ではより深刻で、食事のしたくが大きな負担になっている。子どもが水くみなどで学校に行けず、教育がしっかりできなければ、差別や偏見が残りやすい。学校にトイレがなく、女子が登校しない地域もある。

開発途上国では女性がたくさんの子どもを産む例が多い。水くみや家事を手伝う労働力として期待しているためだが、1歳未満で亡くなってしまう確率が高い事情もある。歴史的に見れば、日本も似たような道をたどってきた。根強い男尊女卑の風潮は薄らいでいるとはいえ、まだ各国でかなり残っている。ジェンダー平等は各地の文化や歴史も含めて考える必要がある。

*** きょうの教養(ジェンダー平等③先進国の現状は)

「ジェンダー平等」の3回目は、先進国の現状をみたい。

2019年のジェンダーギャップ指数(GII)によると、男女差別が少ない1位はアイスランド、2位ノルウェー、3位フィンランド、4位スウェーデンと続く。すべて北欧だ。経済、教育、政治、健康の4側面から判断しているが、日本は153か国の中で121位にとどまっている。

「働く女性インデックス」(PwC社、2017年)によると、経済協力開発機構(OECD)加盟29か国で、女性に力を与えているエンパワー指数の1位はアイスランドだ。さらにスウェーデン、ニュージーランドと続き、日本は下から3番目の27位と低い。どの調査でも北欧が高く、続いてその他の欧州各国や米国が続き、日本はじめアジア各国は低い傾向がある。

アイスランドでは国会議員の約半数は女性で、赤ちゃんに授乳しながら質問することもある。50人以上の企業では女性管理職を4割以上にすることが義務づけられている。差別解消には法的措置が重要という考えだ。ヨハネンソン大統領は2022年12月、新聞のインタビューで「半世紀前はアイスランドも男性中心の社会だった。でもジェンダー平等の利点と公正さに気づくと変化は早く進んだ。国際社会の中で競争力を持ちたいのなら一部の人を排除することはできない。ジェンダー平等は公平さ公正さに加え、経済発展や幸せな生き方に関わり、進める意義がある」と語っている。

かつて各種の経済指標で世界のトップクラスだった日本はここ30年間、多くの国に追い越されている。その背景の一つとして、ジェンダー平等が進まず、生産性が落ちていることが大きな要因という指摘がある。「女性活躍」や「一億総活躍」のキャッチフレーズで各種の政策が打ち上げられたが、まだ実を結んでいない。

*** きょうの教養(ジェンダー平等④日本の男女格差は)

「ジェンダー平等」の4回目は、日本の男女格差を考える。先進国の中で日本は、「女性が一生働きにくく、男女差別が最も残る」と指摘されている。日本はここ30年、1人当たりGDPや労働生産性、賃金などの経済指標で多くの国に抜かれている。ジェンダー平等への取り組みの鈍さが一因だ。

2018年のジェンダー不平等指数(GII)で、日本は162か国中23位と悪くない。算出の基準が、妊産婦死亡率、国会議員の進学率、女性の就労率で、日本に有利な分野になっているからだ。しかし、ジェンダーギャップ指数(GGI)は、2019年で153か国中121位と低い。国会議員や企業での女性の進出度が低いことが大きな要因で、「諸外国が男女平等を進めている時、日本は何もしなかった」と言われる。西欧各国では女性の議員や会社役員を増やすために割当制を義務づけた例もある。「ポジティブ・アクション」と呼ばれる一時的な支援はかなり有効な制度だ。

男女平等は普遍的な人権の課題と考えるべき時代になっている。日本は国際比較の順位がどうなろうが、平等に向けて努力することが求められている。内閣府の男女共同参画に関する調査では、「女性は家庭を守るべき」という意見に賛成の割合は、2014年の45%が2019年には35%に下がっている。「考え方が変わりつつある」といえるが、「まだ不十分」ともいえる。

意識の面では明治期にできた家父長制の影響も根強く、多くの企業は依然として強さが重視される男社会だ。男女の賃金格差、女性の非正規労働の多さ、子育て支援の貧弱さは、日本の大きな問題だ。「働く夫と専業主婦」を前提とした税制、年金、社会保障、雇用など制度の壁もある。男女対立にならず、対話をしながら男女ともに暮らしやすい社会をつくる姿勢が必要だろう。

*** きょうの教養(ジェンダー平等⑤何をすべきか)

「ジェンダー平等」の最終回は、男女差別をなくすために何が求められ、個人がどうすればいいか、を考える。

ジェンダー平等は国連が主導してきた。SDGsの前身である「MDGs」では、8つの目標のうち、ジェンダー平等の推進、幼児死亡率の引き下げ、妊産婦の健康状態の改善と3つも盛られたが、十分に改善しなかった。2015年にSDGsに引き継がれたが、2030年までの達成は危ぶまれている。

世界的に重要とされているのが、識字率の向上だ。男性に対する女性の識字率の割合で、中国は90%台、インドは80%前後、アフリカには75%以下の国も多い。教育の充実で識字率を上げることが格差解消の大きな対策と言われている。

日本国民としては、世界と日本の現状をまず知ることが大切だ。貧困、教育、健康、人権、災害をキーワードに国内外の男女格差を考えたい。日本では高度成長期に女性の社会進出が始まり、1986年に男女雇用機会均等法、1999年に男女共同参画社会基本法が制定された。しかし、平等には遠い。男女の賃金格差、女性の非正規雇用の割合の高さをまず改善する必要がある。

知識を深め、周囲の人と対話することも意義がある。ジェンダー平等を目的に活動し、寄付を募っている団体もある。若い人はボランティアをして肌で感じ、将来を考えることも有益だろう。男女対立にならず、ジェンダー平等が男性にも女性にも住みやすい社会を作り、経済成長によって豊かな社会につながるというコンセンサスも必要だ。