6月12~16日(教養講座:理想の国語教科書)
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***デイ・ウオッチ(9~11日)
◎ウクライナ、大規模反攻開始 ロシアは「失敗」主張―東・南部で激しい攻防:時事ドットコム (jiji.com) →ゼレンスキー大統領も反転攻勢を明言した。11日朝のTBSサンデーモーニングで、寺島実郎氏が「日本は戦況ばかりに関心を向けているが、仲介や平和も考えるべきだ」という趣旨の発言をしていた。確かに防衛研究所幹部が毎日テレビに出ている。戦況も重要だが、日本独自の役割も考えたい。
◎村制100年で記念式典 原発事故乗り越え―福島・葛尾村:時事ドットコム (jiji.com) →一時全村避難した福島・葛尾村が100周年。2016年には一部を除いて避難指示が解除されたが、居住住民は住民登録の4割という。先祖伝来の田畑が汚染され、丹精込めて耕した表土は除染ではぎ取られた。忘れてはならない現実だ。
◎LGBT法案、自公維国が修正合意 衆院委で可決:時事ドットコム (jiji.com) LGBT法案「危機感覚える」 衆院委可決で支援者団体会見―東京:時事ドットコム (jiji.com) →あらら、当初の超党派案が、いつの間にか「自公維国」案に。議員の視線は当事者より国会内部に向けられている。「じこう・いこく」という言葉も定着しそうで、遠からずパソコンやスマホからすぐに変換できるようになりそうだ。
◎米検察、トランプ氏37件で起訴 機密持ち出し「国を危険に」―共和党内では擁護論:時事ドットコム (jiji.com) トランプ氏「決して屈しない」 起訴後初の演説で気勢―米:時事ドットコム (jiji.com)→起訴は2件目、罪名は37件。最初の起訴は今年4月、不倫相手への口止め料支払いで罪名は34件。正確に記憶するのはもはや困難だが、共和党の大統領候補では1番人気というから、よくわからない。
*** 「社会人キーワード」
◎プロファイリング 当初の意味は犯罪捜査で犯人像を各種の証拠から推理することだった。IT用語では検索や購買履歴などウェブの行動データからユーザー像を推測することを指す。行動データによって、住所、年齢層、性別、職業、年収、家族、趣味などがある程度正確に推測できるようになった。企業にとっては非常に有用なデータで、確度の高いいろいろなレコメンデーションが可能になる。重要分野として企業の採用がある。AIなどがウェブ上のデータを集める「クローリング」をすれば、面接をしなくても人柄や能力を推察できる。過去にSNSへ不適切な投稿をしたことがわかり、内定を取り消して話題になる例もある。技術面ではなく倫理面の課題が大きい。犯罪歴のない人でも「犯罪を起こす確率が高い」と当局や企業が判断できる可能性もある。活用には社会的な議論が必要になるだろう。
*** きょうの教養 (理想の国語①パスカル)
今週は斎藤孝明治大学教授が書いた「理想の国語教科書」から紹介します。「最高レベルの日本語に出会おう。小学3年生から全世代が繰り返し味わいたいすごみのある名文」として31の文章を載せています。そのうち5編を味わってみましょう。
◎「パンセ」(パスカル著、松浪信三郎訳) 人間は自然のうちで最も弱いひとくきの葦(あし)にすぎない。しかしそれは考える葦である。これをおしつぶすのに、宇宙全体は何も武装する必要はない。風のひと吹き、水のひとしずくも、これを殺すのに十分である。しかし、宇宙がこれをおしつぶすときにも、人間は、人間を殺すものよりもいっそう高貴であるであろう。なぜなら、人間は、自分が死ぬことを知っており、宇宙が人間の上に優越することを知っているからである。宇宙はそれについては何も知らない。
それゆえ、われわれのあらゆる尊厳は思考のうちに存する。われわれが立ち上がらなければならないのはそこからであって、われわれの満たすことのできない空間や時間からではない。それゆえ、われわれはよく考えるようにつとめよう。そこに道徳の根源がある。
◎斎藤解説=パスカル(1623~62)が強調したいのは、私たちの生きる意味や尊厳が、考えることにあるということだ。考えるからこそ道徳が生まれる。「パンセ」は「キリスト教の弁証論」という著作のための材料として書き留めた1000近い断章から成り立っている。神学理論を追求すると同時に幾何学の論文も書いている。単純に文系理系を分けて考えがちな日本の歩調とは異なる強い知性のあり方が見られる。
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***デイ・ウオッチ(12日)
◎性被害防止で関係府省会議 岸田首相表明、ジャニーズ問題受け:時事ドットコム (jiji.com) 性加害問題、今国会中に対応策 自民:時事ドットコム (jiji.com) →ジャニーズ事務所の性加害問題が国会レベルで動き出す。被害を公表した当事者の勇気が事態を動かした。対応が鈍かったメディアは真摯に反省し、教訓として生かさなければならない。
◎【ChatGPT】サム・アルトマンCEOインタビュー (newsvideo.jp) 「AI技術はより進化する」 アルトマンCEO、学生と対話―チャットGPT開発・慶大:時事ドットコム (jiji.com) →開発者は自由な活用を訴えるのが通例だが、アルトマンCEOは、自ら規制の必要性も呼びかける。誠実な科学者のようで、日本を重視している。AI利用で日本が世界に与える影響は小さくないのだろう。核兵器を開発した科学者は後に後悔したが、もう遅かった歴史もある。
◎ 青木幹雄・元官房長官が死去 89歳 権勢振るった「参院のドン」 [自民]:朝日新聞デジタル (asahi.com) 「与野党から信頼」「連立の立役者」 政界から追悼の声―青木元官房長官死去:時事ドットコム (jiji.com) →引退13年の政治家の死にしてはニュースの扱いは大きい。田中派の流れをくむ経世会は、国会対策にたけ、野党も重視した。清和会の安倍首相になってから野党軽視になった。メディアは古き良き時代を懐かしんでいる。
*** 「社会人キーワード」
◎セキュリティ 広義には「安全確保」の意味だが、コンピュータやネット上での安全確保を指す言葉として使われる。サイバーセキュリティともいう。機密性、完全性、可用性の3つが重視される。機密性はアクセス権限がある人間だけが利用できることで、ユーザーの関心が最も高い領域だ。重要な技術が暗号技術で、企業間の重要情報はすべて暗号化してやり取りし、漏洩を防いでいる。最近の暗号は素数などの数学理論を用いており、見破るのは難しくなっている。完全性はデータが改ざんされたり破損されたりせず、本来の形で残ること。可用性は必要な時に確実に利用できること。「ソーシャルエンジニアリング」という言葉がある。人間の心理のスキや行動のミスにつけ込んで個人の秘密情報を入手する犯罪を指す。パスワードを本人から巧みに聞き出すといった手法で、技術だけでなく人間の意識も重要になる。
*** きょうの教養 (理想の国語②宮本常一)
◎「家郷の訓・父親の躾」(かきょうのおしえ・ちちおやのしつけ=宮本常一著) 父は学校で得た学問というものはほんとにわずかであった。その若い日に出稼ぎした社会も、文字には縁のないようなところだったし、結婚してからはずっと田舎で暮らした人であるが、この父が私の出郷に際して実に印象的な言葉をいくつか言いきかせ、これを書きとめさせた。それは次のようなものであった。
一 自分には金が十分にないから思うように勉強させることができぬ。そこで三十まではおまえの意志通りにさせる。私も勘当した気でいる。しかし三十になったら親のあることを思え。また困った時や病気の時はいつでも親のところへ戻って来い。いつも待っている。二 酒やたばこは三十までのむな。三十すぎたら好きなようにせよ。 三 金は儲けるのはやすい。使うのがむずかしいものだ。 四 身をいたわれ、同時に人もいたわれ。 五 自分の正しいと思うことを行え。
これによって私の新たなる門出がなされたのである。これらの言葉の中に含まれているものは新しい意志である。全国の農村を歩いて見ていると、その土地のよき人には皆このような分別があるように思われる。そしてこれは体験による叡智であるだけに尊い。深い体験は叡智をも深いものにする。一介の農民で生涯を終わった人であるが、心をうたれるものが多かった。私の接した多くの百姓たちのうち、村の指導的な地位にある人びとは皆かかる態度があるように思っている。
◎斎藤解説=宮本常一(1907~81)は世の中の無名な人たちの話を聞き取り、書きとめる達人で、日本を代表する民俗学者となった。宮本が書きとめておいてくれなかったら、誰の記憶からも消えてしまったと思われることがたくさんある。父の言葉は簡潔でありながら深みを持っている。子を思う心情にあふれている。
~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年6月14日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウオッチ(13日)
◎児童手当拡充、来年10月から 財源3.5兆円、年内に結論―少子化戦略方針決定・政府:時事ドットコム (jiji.com) →少子化対策はまさにラストチャンス。財源3.5兆円は歳出改革などで生み出し、増税はしないというが、本当にできるだろうか。軍備増強の増税が控えている。日本が抱える課題は等身大を超えているようだ。
◎「Vポイント」に統合 Tポイント、国内最大へ―三井住友・CCC:時事ドットコム (jiji.com) →「Tカード」が消える。統合するのは知名度の低い「Vカード」。会員は合計1億4600万人で日本最大規模という。統合キャンペーンが遠からずありそうだ。
◎中国、婚姻数が過去最低 ピーク時の半分、9年連続減:時事ドットコム (jiji.com) →中国の結婚離れが激しい。婚姻数のピークは2013年で、そこから半減しているというから少子化も激しく進みそうだ。少子高齢化も中国を占う重要な視点だ。
◎鉄道車内、防犯カメラ義務化へ 三大都市圏の在来線や新幹線―新規車両導入時に・国交省:時事ドットコム (jiji.com) →万一の事態に備えた安全のためだが、コストもバカにならない。監視社会が進むという声もある。完璧な安全や防災はなく、悩ましい問題だ。
*** 「社会人キーワード」
◎イノベーションのジレンマ 優良企業が優良顧客のニーズに応えて過剰スペックに陥り、低性能・低価格の破壊的技術に敗れて追い出される現象。ハーバード・ビジネススクールのクリステンセン教授が提唱し、「偉大な企業はすべてを正しく行うがゆえに失敗する」と主張した。メカニズムは①優良企業は先進顧客の声に耳を傾け、投資をして高性能の製品やサービスを投入し、競争優位を築く②ローエンドの破壊的技術が現れるが、優良企業はそうした動きを下に見て軽視する。一方でローエンドは着々と影響力を増す③破壊的技術が主流となり、優良企業の業績は落ち込んでいく――という流れだ。事例としては、ポケベルに対する携帯電話技術、どんどん小型化したハードディスクドライブ(HDD)、ディスカウンターなど次々と新形態が現れる小売業界などがある。優良企業には低機能の技術でもいずれライバルになると考える謙虚で健全な危機感が必要になる。
*** きょうの教養 (理想の国語③マルケス)
◎「百年の孤独」(ガルシア・マルケス著、鼓直訳)
人ごみで見失わないようにふたりの子供の手をひき、金歯の香具師や六本腕の奇術師にぶつかったり、大勢の人間から発散する糞とハッカの臭いが入りまじったものに息の詰まる思いをしたりしながら、ホセ・アルカディオ・ブエンディアはこの恐るべき悪夢の無限の秘密をとき明かしてもらうために、狂ったようにメルキアデスを捜し歩いた。言葉がわかるはずのないジプシーたちにまで声をかけた。とうとう、メルキアデスがいつもテントを張っていた場所へ来てしまった。ところがそこに立っていたのは、飲めば姿が消えるという薬を口数すくなくスペイン語で宣伝している、アルメニア生まれのジプシーだった。ホセ・アルカディオ・ブエンディアが見世物に気を取られている群衆をかきわけながら前へ出て質問したときには、男はすでにコップの琥珀色の液体を飲み干していた。ジプシーはぼんやりした目でしばらく彼を見ていたが、やがて煙と悪習の立ちのぼる溶けたコールタールに姿を変え、その上をただようように、こう答える声だけが残された。「メルキアデスは死んだよ」。
◎斎藤解説=ガルシア・マルケス(1928~2014)は、南米コロンビアに生まれ、新聞記者や映画の仕事をして小説家になり、1982年のノーベル賞を受賞した。「百年の孤独」は夢と現実が入り交じった傑作だ。南米産の強烈で独特な匂いを放ち、少量でも一度かいだら忘れることができない。登場人物たちはエネルギーにあふれているが、皆どこかに孤独を抱えている。個人の孤独であると同時に、南米そのものの孤独でもある。
~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年6月15日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウオッチ(14日)
◎自衛隊員銃発射「足を狙ったが胸にあたってしまった」…死傷の3人は防弾チョッキなし : 読売新聞 (yomiuri.co.jp) →52歳の指導役の上官を狙ったようだ。何かに不満を持っていたのだろう。自衛隊は若くて体力のある人たちが入隊するので、昔からいろいろあった。日本全体の人手不足に加え、戦争の可能性も語られる時代、隊員集めはより大変になるだろう。
◎山口公明代表「自民に過半数の基盤ない」 早期解散論をけん制:時事ドットコム (jiji.com) →メディアは無批判に解散風を吹かせているが、選挙目当てに解散をもてあそぶのは日本くらいということを忘れてはならない。「岸田クン、ウチが支えなければ負けるんだよ」と山口公明代表が強烈なけん制球を投げた。3塁走者・岸田クンはホームスチールか、帰塁か?
◎豊田氏の取締役選任承認 脱炭素の株主提案は否決―トヨタ総会:時事ドットコム (jiji.com) →豊田会長の取締役選任に反対するなど異例の株主提案が出されたが、粛々と否決された。裏話だが、株主総会の社内リハーサルの時、豊田会長は不在で、佐藤社長が代役を務めた。シナリオでは豊田会長が泣く場面があり、佐藤社長は本当に泣いた。スタッフは「ある意味すごい」と驚いたという。
◎児童手当の制限撤廃「大反対」 政府方針巡り―新浪経済同友会代表幹事:時事ドットコム (jiji.com) →経団連会長も批判的で、経済界が首相方針に反対するのは最近では珍しい。財政の厳しさは増しており、岸田政権の大盤振る舞いは今後の火種になりそう。
*** 「社会人キーワード」
◎AIスコアリング 各種データや回答をベースに個人や企業の信用度を点数化すること。信用が大きな意味を持つ資金調達、不動産の賃貸、就職・転職などの場面での活用が想定される。金融サービスでは、質問に答えていくだけで個人の信用や将来性が点数化され、融資の上限や金利を決めていくことができる。2014年に日本に導入された「アマゾン・レンディング」は、法人の取引先を対象にしたサービス。成長が予想され、アマゾンへの貢献を期待できる法人に対し、低金利で資金を融資し、ともに業績を伸ばすことを狙っている。金融以外では、健康状態の把握、試験やレポートの採点、就職や結婚との相性などでの利用が考えられる。いずれも個人情報を扱い、社会的な公平性もからんでくる。利用にはそうした問題を吟味する意識も必要だ。
*** きょうの教養 (理想の国語④野口シカ)
◎「野口英世の母シカの手紙」(原文はすべてひらがな。わかりやすく修正しています)
おまえの出世にはみなたまげました。私もよろこんでおります。中田の観音様に毎年、夜籠りをいたしました。勉強をいくらしてもきりがない。えぼし村の人からお金を返せといわれて困っていますが、お前が来たなら申し訳ができましょう。
春になるとみな北海道に行ってしまいます。私も心細くあります。どうか早く来て下され。金をもらったこと誰にも聞かせません。それを聞かせるとみな飲まれてしまいます。早く来てくだされ。早く来てくだされ。早く来てくだされ。
一生の頼みであります。西さ向いては拝み、東さ向いては拝みしております。北さ向いて拝みおります。南さ向いて拝んでおります。一日(ついたち)には塩断ちをしております。和尚様には一日(同)には拝んでもらっております。何を忘れてもこれは忘れません。写真を見ると、頭の上にささげております。早く来てくだされ。いつ来ると教えて下され。この返事を待っておりまする。寝てもねむられません。
◎斎藤解説=野口シカは1853年に貧農の家に生まれ、幼時に父母と別れ、祖母の手で育てられた。福島県の猪苗代湖畔で暮らしたが、夫は酒好きで農業が嫌いだったので、シカが一家の大黒柱としてフル回転で働いた。英世が囲炉裏に落ちて大やけどしことを心の負い目として持っていた。手紙は1912年、渡米12年で世界に認められ始め、ニューヨークいた英世に送ったものだ。美文ではないが名文の代表だ。読む者の心を揺さぶる力を持っている。
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***デイ・ウオッチ(15日)
◎今国会の衆議院解散見送り 岸田文雄首相が表明 – 日本経済新聞 (nikkei.com) →日本のような選挙目当ての解散は「世界の非常識」「ガラパゴス」。英国には下院3分の2の同意が必要とい法律もあった。政治ジャーナリズムも「いつ解散か」ばかりを追うのではなく、日本の解散の異質さをもっと報道し、埋もれた重要課題にスポットライトをあてるべきだろう。国会議員には腰を据えて4年間働いてもらいたい。
◎北朝鮮が弾道ミサイル発射 日本のEEZ内に落下:時事ドットコム (jiji.com) →恒例になってしまった北朝鮮のミサイル発射。政府の対応もメディアの報道もデジャブ気味。3年後、10年後にはどうなっているのだろうか。
◎近ツー支店長ら3人逮捕 5.9億円詐欺容疑―ワクチン業務で過大請求・大阪府警など:時事ドットコム (jiji.com) →コロナで旅行客が減ったプレッシャーがあったらしい。社内調査で過大請求は14.7億円にのぼり、取引先に改ざんを指示していたという。いくらコンプライアンスが叫ばれても企業不祥事はなくならない。
◎新幹線チャイム、来月21日に変更 20年ぶり、TOKIOからバトン―UAさん「会いにいこう」・JR東海:時事ドットコム (jiji.com) →「会いにいこう」は2月からJR東海のキャンペーンで使っているというが、知らなかった。スマホで聞いてみたが、どんなイメージになるだろうか。「リニアのチャイムは?」と思ったりした。
*** 「社会人キーワード」
◎グロースハック サービス自体に拡散・成長する仕組みを取り入れ、ビジネスの自走を目指すマーケティング手法。具体例として、オンラインストレージサービスのドロップボックスが、知人を新規ユーザーとして紹介すれば、追加サービスをプレゼントする手法で売り上げを伸ばしたことがある。口コミを利用するバイラルマーケティングも一例だ。グロースハックでは、「AARRRモデル」(アーモデル)を活用する。顧客獲得、利用、顧客維持、口コミ・紹介、収益化の5段階に分け、それぞれの英語の頭文字からとった言葉だ。それぞれの段階でKPI(重要業績評価指標)を設定し、プロセスを区切って検証するファネル分析で問題個所を発見して改善する。一定水準(クリティカルマス)を超えるまで知恵を出して手を打ち、成長を加速する。多くのベンチャーは資金的な余裕がないことから、費用対効果の高い打ち手がカギになる。
*** きょうの教養 (理想の国語⑤ラッセル)
◎「幸福論/退屈と興奮」(バートランド・ラッセル著、安藤貞雄訳)
退屈をまぬがれたいという願いは自然である。事実、あらゆる民族は、機会あるごとにこの願いをさらけ出してきている。未開人が初めて白人の手から酒を味わったとき、ついに幾時代にもわたる退屈から逃れる道を発見したのだ。そして、政府が干渉した場合を除いて、彼らは飲みさわいで死んでしまった。戦争、虐殺、迫害は、すべて退屈からの逃避の一部であった。隣人とのけんかでさえ、何もないよりはましに思えたのだ。それゆえ、退屈は、道徳家にとってきわめて重要な問題である。というのも、人類の罪の少なくとも半分は、退屈を恐れることに起因しているからだ。
偉大な本は、おしなべて退屈な部分を含んでいるし、古来、偉大な生涯はおしなべて退屈な期間を含んでいた。アメリカの出版業者が初めて持ち込まれた原稿として旧約聖書をまのあたりにした場合を想像してみるがいい。「この章はぴりっとしていませんな。読者の興味を引きつけることはできませんよ。余計な箇所を省いてください」と言うだろう。
カントは、一生涯、ケーニヒスベルク町から十マイル以上離れたことはなかったと言われている。ダーウィンは、世界一周をしたあと、生涯をずっとわが家で過ごした。マルクスは、いくつかの革命を起こしたあと、残りの日々を大英博物館で過ごすことに決めた。総じてわかることは、静かな生活が偉大な人びとの特徴であり、彼らの快楽はそと目には刺激的なものではなかった、ということだ。
◎斎藤解説=バートランド・ラッセル(1872~1970)は、世界トップの知性を持った偉大なる常識人だ。しかし凡人とは程遠く、厳密な数理哲学者である。核兵器廃絶などの平和運動にも熱心に取り組み、89歳の時、核兵器反対の座り込みをして7日間拘留されたという豪快な人物だった。「実りある退屈」という考え方は、私たちの生活をとらえ直すための重要なキーポイントだ。