ユネスコ教育勧告(2024年12月16~20日)
*** 今週の教養 (ユネスコ教育勧告①)
2023年11月に国連教育科学文化機関(ユネスコ)が発表した「平和、人権、持続可能な開発のためのユネスコ教育勧告」を紹介する。理念的な言葉が多く、やや硬い文章だが、新しい時代に求められる教育のエッセンスが詰まっている。わかりやすくするため訳を一部変更している。
【目的】勧告の包括的な目的は、国連憲章、国連教育科学文化機関憲章など関連する国際文書に定められた目的を、多面的な利害関係者を巻き込む取り組み手法をとることによって、加盟国が教育に浸透するよう努力する指針を与えることである。
教育を通じて人権、基本的自由、グローバル・シチズンシップ、持続可能な開発の完全な享受を確保する必要がある。すべての人々が、生涯全体を通じて平和を推進し、国際理解、協力、貧困撲滅や寛容を促進するコミュニティ、地方、国内的、地域的、世界的な規模での民主的な意思決定の過程、経済的に自律的な力の育成、個人や集団の行動に効果的に参加するために必要な知識、技能(社会情動的技能を含む)、価値観、態度や行動を身につけ、その力を与えられるよう確保する。
この勧告は、同様の目的のために社会全体で教育活動に関与する主体の行動、取組及び計画を動員し、指導し、及び支援することを目標とする。教育は、戦争、侵略、あらゆる形態の暴力や人権侵害を防止し、これらに対処することの重要性を強調すべきである。全ての人や社会が平和を維持し、促進し、希求する責任を理解し、前提とすべきである。教育は、人種主義、外国人排斥及び憎悪を扇動する行動や思想、あらゆる形態の不寛容、差別や暴力の防止に関する諸活動にも貢献すべきである。
*** 今週の教養 (ユネスコ教育勧告②)
教育は変革的で、読み書きや計算能力の強固な基礎を築くべきだ。次の事項を含む知識、技能、価値、態度、行動の育成を可能にすべきである。
(A)分析的、批判的な思考=規範、慣行、意見に疑問を持ち、複雑な制度、多文化的な環境を批判的に分析、理解する。各国、国民、自然環境や、地方、国内的、地域的、世界的な規模における力関係や相互のつながりを理解する。
(B)予測技能=全ての人々にとって平和な、公正な、平等な、衡平な、包摂的な、健康的な、持続可能な未来を促進するため、変化の主体として行動する。新たに生じる将来の機会や脅威を評価、理解し、新たな可能性に適応する。
(C)多様性の尊重=人種、皮膚の色、世系、ジェンダー、年齢、言語、宗教、政治的な意見、国民的出身、民族的出身、社会的出身、出生時の経済や社会的な条件、障害その他いかなる理由にかかわらず、全ての者の平等な尊厳や権利、ニーズ、展望や平和的な行動を理解、評価し、尊重する。多様な知識体系や学習活動について評価する。
(D)自己認識=個人の価値、認識、行動を認め、批判的に省みる。自己を知り、評価し、平和を保ち、感情を理解、制御し、共感する。共感を示し、他者や地方、国、地域、世界的なコミュニティにおける自己の役割を尊重する。
(E)共通であり多様な人類や地球とのつながり、帰属意識=人類は、健全な地球への責任、人類相互、他の生物と自然そのもののニーズや権利を尊重する。そうした責任を共有する世界的なコミュニティであると理解する。
*** 今週の教養 (ユネスコ教育勧告③)
必要な教育項目(前号の続き)
(F)自律的な力の育成、主体性と強靱性=課題に対して、リスク、目標相反、不確実性に対処しながら、効果的、積極的、意識的かつ責任を持って行動し、対応する意欲、自信と能力。
(G)意思決定の技能=多様で信頼できる情報源からの利用可能な情報を用いて、行動の影響を評価し、決定する。
(H)協働する技能=建設的な方法で感情と意見を効果的に伝え、責任と敬意のある行動で協働的交流、参加型計画に関与する。
(I)適応型、創造的技能=新たな考えを行動に転換できるよう、適応、関与、創造、変革、繁栄する。
(J)シチズンシップ技能=デジタル時代に倫理的に責任を持って行動し、市民社会生活に全面的に参加する。
(K)平和的な紛争解決・変革技能=平和的、建設的な交渉で紛争に対処し、調停や解決に貢献し、暴力や敵意の連鎖を終わらせる能力。
(L)メディア情報リテラシーとデジタル技能=技術を通じて情報や知識を効果的に検索し、批判的に評価し、倫理的に作成し、使用し、普及させる。権利や責任を理解しながら、デジタルセキュリティを強化し、プライバシーを保護する方法でデジタル環境に関与する。偽情報や誤情報、ヘイトスピーチ、あらゆる形態の暴力(ジェンダーに基づく暴力行為を含む)、有害なコンテンツ、オンラインにおける虐待や搾取を検出し、対処できることを意味する。
*** 今週の教養 (ユネスコ教育勧告④)
【指導原則】教育は、変革的で、質の高いものでなければならない。次の原則に導かれるべきである。
(A)質の高い教育は公共財及び共有財であり、全ての人々にとって利用可能であるべきことを認識する。
(B)国際法及び国際人権法にうたう権利と義務(全ての市民的、文化的、経済的、政治的及び社会的権利並びに開発の権利を含む)に基づいて、人権の促進や保護を目的として運用する。
(C)権利の保持者として学習者の能力を高めつつ、国際人権法に定めるところにより、人種、皮膚の色、世系、ジェンダー、年齢、言語、宗教、政治的意見、国民的出身、民族的出身、社会的出身、出生時の経済的又は社会的条件、障害その他の理由を問わず、教育における無差別、包摂性、衡平性を確保する。
(D)友好関係、隣人への親切心、帰属意識を高めるため、互恵性や思いやりを培うことを通じて、配慮や連帯の倫理を促進する。
(E)教育のジェンダー平等を促進する。全ての人の教育を受ける権利の実現、女性や女児の自律的な力の育成が重要である。
(F)全ての人が教育を受ける権利を有しており、いかなる差別もなく自らのアイデンティティを尊重し、自身と他者の歴史、伝統、言語、文化を知ることを奨励する。包摂的かつ質の高い教育を受ける機会が衡平なものとなることが保障されるべきである。文化の多様性の擁護は、人権と基本的自由を守る義務があることを意味し、いかなる者も文化の多様性を口実として、国際法によって保障される人権を侵害したり、人権の範囲を制限したりすることはできない。
*** 今週の教養 (ユネスコ教育勧告⑤)
指導原則(前号の続き)
(G)全ての学習者、教員や教育職員の安全、健康やウェルビーイングが保護され、促進されることを確保する。
(H)教育や学習は、継続的で、生涯にわたり生活網羅的、全体的、人道的及び変革的な過程であると認識する。
(I)全ての学習者が差別なく積極的に知識を創造、共創する意識を、全ての教育関係者の間で認識、評価、推進する。
(J)国際人権法が定める差別や暴力の扇動となるあらゆる理由に基づく憎悪の唱道を一切禁止し、思想、良心、信条、信教の自由、表現と意見の自由を確保する。
(K)テクノロジーを倫理的かつ責任を持って利用することにより、問題解決に積極的に関与しようとする個人の意欲を奨励、支援し、その能力を構築する。
(L)地域と世界の間の相互連携を強調し、教育における世界的な展望を可能にする。
(M)協力や連帯のための異文化間・世代間の対話を促進し、友好関係の構築に役立つ効果的なコミュニケーションを強化する。
(N)個人、コミュニティ、社会、国、天然資源、生態系の相互依存関係が増大していることについて意識を向上し、すべての利益に資するようグローバル・シチズンシップ、平和、人権、持続可能な開発のための倫理を啓発する。