好きを言語化する技術(2025年4月21~25日)

*** 今週の教養 (好きを言語化する技術①)
「好きな理由」を言葉にするのは、簡単なようで、難しくもある。文芸評論家・三宅香帆さんの「『好き』を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに『やばい!』しかでてこない」(2024、ディスカバー携書)で考える。「推し」を軸に書いているが、文章で表現する時の普遍性を説いている。フランス語で「ありきたり」を意味する「クリシェ」を避けようと訴える。アマゾンの「サンプル」で公開されている「はじめに」を掲載し、最後に目次を紹介する。三宅さんは「なぜ働いていると本を読めなくなるのか」で「新書大賞2025」を受賞している。
人生の指針になっている漫画・アニメ・映画・小説・ゲーム。いつも応援しているアイドル・俳優・バンド・ユーチューバー。生で見ると胸がときめいて仕方ないライブ・舞台・試合。この本を手に取ってくださったということは、あなたには「推し」つまり、大好きな存在がいるのではないでしょうか。そしてその推しに感動した時、「推しについて誰かに語りたい!」「推しの魅力をみんなに知ってほしい!」「推しの素晴らしさについて発信したい!」と思う。けれども、いざ語ろうと思うと、「やばい!」という言葉しかでてこない。
平凡な言葉しか出てこないから、「まあじっくり考えてから書こうかな」と後回しにして、結局何も書かないまま、時間だけが過ぎていく。そんな経験をしたことはありませんか?ああ、私には語彙力がないからダメなんだ。観察力も分析力もないから言葉が出てこないんだ。言語化することが自分は下手なんだ。そんな風に思ってしまったかもしれません。でも、あなたが落ち込む必要は全くありません。なぜなら自分の感想を言葉にする上で大切なことは、語彙力ではないからです。もちろん、観察力でも分析力でもありません。必要なのは、自分の感想を言葉にする「ちょっとしたコツ」です。そのコツさえ知っていれば、自分の言葉は誰でも作ることができます。
自分だけの言葉で推しを語ることができれば、もっともっと推し活が楽しくなります。自分の大好きなものについて、自分の言葉で伝える。その面白さを、ぜひあなたにも知ってほしいです!
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*** 今週の教養 (好きを言語化する技術②)
ここで、少し自己紹介をさせてください。最初に言っておくと、私の推しはアイドルや宝塚です。普段はX(旧ツイッター)でオタク友達と交流し、インスタで推しの写真を眺め、インターネットで見知らぬ人の感想ブログを読み漁り、そして観劇やライブや配信を楽しみに生きています。推しに元気をもらっているオタク一人です。
一方で、本や漫画も昔から大好きで、フィクションに感動したときは「うわ、この感動を言葉にしたい!」と思っていました。そのような欲求が昔から強かったからか、いつの間にかブログに本の感想を書くようになりました。そして今では、本について発信する書評家という仕事をするようになったのです。プライベートでは日々「推し」を語る文章を読み漁り、仕事では日々「本」について語る文章を書き続けている。そんな生活を送るうちに、私は頻繁にこんな質問を受けるようになりました。
「推しについて発信したいのですが、どうすれば言語化がうまくなりますか?」。確かに私が普段書評家として発信している文章は、本という名の「推し」の魅力について解説している文章がほとんどです。考えてみれば、好きなものについて語るという点では、書評家もオタク発信も同じことをやっている・・・! もしかしたら、私の書評家として培った文章技術が、世の中の推しについて語りたい人々のお役に立てるのでは・・・! 質問を受けるうちに、そんなふうに思い始めました。それが本書を執筆したきっかけです。
推しについての発信。そういうと、「でも私、語彙力がないし」とか「感動を言語化できるほど、本を読んでこなかったから文章力ないし」と尻込みしてしまう人もいるかもしれません。でも大丈夫。必要なのは、語彙力でもなければ、大量の読書でもありません。推しについての発信で一番大事なこと。それは、自分の言葉を作ること。ただそれだけです。
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*** 今週の教養 (好きを言語化する技術③)
「自分の言葉? そんなの普通にみんなできていることじゃないの?」と思われる方もいるかもしれません。今の時代、自分の言葉を作るのは何より難しいことなんです。というのも今は、SNSを通して「他人の言葉が自分に流れ込みやすい時代」だから。息抜きのつもりで、SNSをぼんやり見ている私たちは、無意識に他人の情報発信に普段から触れています。すると、友人の言葉や見知らぬ人の言葉が、日々大量に頭の中に流れ込んでくる。現代の人間が目にする情報量やその速度は、今までにないほど膨大なものになっています。
例えばアイドルが好きな人は、SNSでそのアイドルについての賛否両論の言葉を日々目にしているのではないでしょうか。ちなみに私もそうです。SNSでは、すごく素敵なエピソードや、見ただけで元気になる嬉しい言葉もたくさん発信されています。一方で、ちょっと違和感を抱いてしまう言葉を読む日もたくさんある。面白い映画を観た後に、他人の感想を読む。すると、自分の感想を忘れてしまって、他人の感想がまるで最初から自分の言葉だったかのような錯覚を覚える・・・なんて経験をしたことはありませんか? 私はしょっちゅうあります。SNSを見ている人にとって「あるある」ではないでしょうか。
他人の言葉に私たちはどうしても影響を受けてしまうのです。でもこれって、危険なことですよね。他人の言葉を自分の意見だと思い込んでしまう。自分の意見が本当は何だったのか、よくわからなくなってしまう。他人の影響を受けること自体は悪いことではありません。でも、自分の意見や感想が完全になくなってしまうのは、ちょっとさびしい。他人の言葉に影響されやすいと、なんだか思考まで洗脳されているような気がして少し怖い。
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*** 今週の教養 (好きを言語化する技術④)
重要なことは、「自分の言葉をつくる」技術です。他人の言葉と、距離を取るために。自分の言葉をつくる技術が、今の時代には不可欠です。本書では、現代において必須スキルである「自分の言葉をつくる」技術について、お伝えします。と言っても、構えなくて大丈夫です! 難しい文章のレッスンをするわけではありません。語彙力がない、言語化が下手。すぐに他人の言葉に影響を受けてしまう。そんなあなたこそ、「自分の言葉をつくる」ための、ちょっとしたコツを知って欲しいのです。
「推し」について、自分の言葉で発信する。もしそれができれば、きっと推しについての愛情も、葛藤も、もっともっと深くなるのではないでしょうか。「推しについて自分の言葉で発信する」ことのメリットは、たくさんあります。推しへの解像度が上がる。たくさんの人に推しを知ってもらえる。推しについてのもやもやを言語化できる。推しを好きになった自分への理解が深まる。自分の言葉をつくり、そしてそれを発信することで、きっとあなた自身の人生にもプラスの影響があるはずです。
私が書評家として長年培ってきた、推しについて自分の言葉で発信するための技術。それを一冊にぎゅぎゅっとまとめて、あなたにお伝えします。「推し」はなんのジャンルでも大丈夫です。俳優でも、声優でも、ブイチューバーでも、ユーチューバーでも、アイドルでも、バンドでも、歌手でも、スポーツ選手でも・・・・あなたの好きな物や人なら何でも!
SNSなどの短文発信、ブログなどの長文発信、そして友達に向けてしゃべるとき、音声配信で不特定多数に向けてしゃべるとき、といった発信方法ごとに分けて解説しています。あなたが自分の好きな物や人について発信したい・・・そう思ったとき、本書が役に立てたらとてもとてもうれしいです。きっと推しを語ることで、あなた自身の「好き」がどこからきたのか、わかるはずです。推しを語ることは、あなた自身の人生を語ることでもある。さあ、たくさん推しを語りませんか?あなたの言葉が、推しを輝かせる日本が来るかもしれませんよ!
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*** 今週の教養 (好きを言語化する技術⑤)
【目次】
第1章 推しを語ることは自分の人生を語ること 技術さえ理解すれば誰でも教えを語れる/感想は「自分だけの感情」が一番大切!/文章に必要なのは「工夫しようとする志」/読解力ではなく妄想力が必要!
第2章 推しを語る前の準備 なんのために「推し」を言語化するの?/スマホ時代の推し語り講座/言語化とは、細分化のこと/感情の言語化には、パターンがある/悪口の言語化は。案外難しい/メモは孤独に自由に取るのが一番楽しい
第3章 推しの素晴らしさをしゃべる 相手との情報格差を埋める/注釈をつけて語ろう!/音声発信メディアで推しを語るコツ
第4章 推しの素晴らしさをSNSで発信する みんなの空気から自分の言葉を守る/他人の言葉は自分に伝染させない/推しを語りながら、自分を語る
第5章 推しの素晴らしさを文章に書く 伝えたいことが伝わるのがうまい文章だ/一番重要で、一番難しい「書き出し」/いったん最後までラフに書き終えよう!/書けなくなったときにやること/書き終わったら修正するクセをつける
第6章 推しの素晴らしさを書いた例文を読む プロの推し語り文を参考にしよう/「お手本」の真似は、上達への近道
【編集部補足】自分の言葉をつくるための3つプロセスとして、①よかった箇所の具体例をあげる②感情を言語化する③忘れないようにメモをする――を指摘しています。①について、「言語化とは細分化」と強調し、どこがよかったかをとにかく具体化するように求めています。②について、ポジティブな感情は「共感」と「驚き」のどちらかで、共感では自分の体験や好きなこととの共通点を探し、驚きではどこが新しいかを考えるよう促しています。ネガティブな感情は、「不快」か「退屈」のどちらかで、同様に共通点や理由を考えるよう提案しています。大いに参考になりそうです。