経済産業省2040ビジョン(2025年7月15~18日)

*** 今週の教養講座(経産省2040ビジョン①)

 参議院選挙では、「給付金か、減税か」が争点になっている。これは需要サイドのテーマだが、経済成長には供給サイド(主に企業活動)の活性化が必要だ。経済成長によって解決する課題は多い。経済産業省は6月、「成長投資が導く2040年の産業構造」をサブタイトルとした供給サイド強化の構想を発表している。生成AIに物語風の要約を依頼した。4回に分けて紹介する。

第1回:人口減少社会の先に、日本は何を描くのか  「日本はもう成長しない」――そんな言葉を、私たちは何度耳にしてきたことだろう。人口が減り、少子高齢化が進み、地方は過疎化し、国際競争にも出遅れる。閉塞感は社会の空気として漂い、それが次の挑戦を妨げる。だが、果たして本当にそうなのか? 「2040ビジョン」は、この思い込みに真っ向から挑む。人口が減っても、むしろ新しい豊かさを実現できる社会の姿がある。たしかに、2040年の日本は総人口が1億1千万人を割り、生産年齢人口も急減する。しかし、それを単なる衰退と捉えるのではなく、「社会構造の再設計によって乗り越えられる課題」として位置づける。

鍵となるのは、3つの要素――「成長投資」「高付加価値化」「賃上げ」だ。従来のように、安さと効率を追い求めるのではなく、質の高い製品やサービスで勝負し、適切な対価を得て、それが賃金として還元されるという好循環をつくる。コストカット型から「価値創造型」経済への転換である。もう一つの柱が「製造業X(エックス)」だ。単にモノを作るのではなく、モノにサービスやデジタル技術を組み合わせて付加価値を高め、国内外に新たな需要を生む構想である。かつての製造立国・日本の伝統を土台にしつつも、まったく異なる地平を目指すものだ。

少子高齢化という「負の現実」も、視点を変えれば「変革のドライバー」になりうる。人手不足に悩む現場では、省力化投資や自動化技術の導入が加速し、結果として全体の生産性が高まる可能性がある。高齢者が健康を保ちながら長く働ける社会が実現すれば、労働力不足の一部も補える。むしろ、この構造変化こそが、社会のあり方を見直す契機なのだ。

2040ビジョンは未来を「予測」するものではない。「こうしていこう」という意思の宣言である。経済は、人と人との信頼と希望によって動く。今必要なのは「できるかもしれない」という構想力と、それを形にする政策と行動だ。「縮む時代だからこそ、大きな発想を」――今、問われているのは数字の未来ではない。私たち自身がどんな国を選ぶのか、その想像力と意志なのだ。

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*** 今週の教養講座(経産省2040ビジョン②)

第2回:「安い国」からの脱却へ――賃金と投資が導く経済再生  今の日本を世界からどう見られているか、ご存じだろうか。「安全な国」「清潔な国」――それは確かに誇るべき評価だ。しかし、もうひとつ、忘れてはならない言葉がある。「安い国」。これは、長年にわたるデフレと賃金停滞の帰結にほかならない。1990年代以降、日本の実質賃金はほとんど上昇してこなかった。企業は国際競争にさらされ、価格を上げる余裕を失い、コスト削減に注力するようになった。その結果、消費者物価は抑えられ、企業物価との乖離が続いた。輸入品は高騰しても、販売価格を上げられない。輸出品も十分な価格がつかず、貿易における「交易条件」は悪化。これが実質賃金を押し下げた最大の要因だ。

経済産業省の「2040ビジョン」が訴えるのは、この悪循環からの決別である。ポイントは、国内投資の拡大と賃上げの好循環をどう実現するか。その中心にあるのが「高付加価値化」という戦略だ。安く大量に作る時代から、価値に見合った価格で売る時代へ。企業が価格転嫁に成功し、所得が増え、消費が回る――そんな経済モデルへの転換が求められている。そのためには、企業だけでなく政府の覚悟も問われる。経団連はすでに2040年度までに民間設備投資を200兆円にまで拡大するという目標を掲げ、政府もGX(グリーントランスフォーメーション)やDX(デジタル化)を後押しする形で産業構造の再構築を支援している。

投資は未来への意思表示である。例えば、省エネルギー技術、AI・半導体、バイオ産業、宇宙産業――これら成長分野への重点投資が、「安さ」から「価値」への転換をけん引する。生産性が高まり、輸出品に付加価値がつけば、世界市場での価格交渉力も強まる。また、価格が上がれば当然、賃金も引き上げられる余地が生まれる。2040ビジョンによれば、賃金は名目で約1.9倍に増加する可能性があるという。これは単なる希望ではない。賃上げと投資を繰り返す中で、日本経済の体質を変えていく道筋なのだ。

かつて、日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称されるほどの経済力を持っていた。それを単純に取り戻すことは難しい。しかし、成熟した社会としての強み――技術力、教育水準、生活インフラ――を活かせば、安さで競う必要のない「価値で選ばれる国」になれる。「安いままでいいのか?」と、自問する時が来ている。価格で妥協せず、価値を誇れる社会へ。2040年、日本が再び誇れる経済になるかどうかは、今、私たちがどれだけ本気で投資し、賃金を上げるかにかかっている。

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*** 今週の教養講座(経産省2040ビジョン③)

第3回:地域こそ日本の未来戦略――包摂と成長の二兎を追う  かつて「地方創生」という言葉が流行語になった。しかし現実には、地方の人口減少は止まらず、若者は都市に流出し、商店街はシャッター通りと化し、農地やインフラの維持すら困難な自治体が増えている。2040年、日本の地方はどうなっているのだろうか。悲観的な未来が語られがちだが、経済産業省の「2040ビジョン」は、もう一つの可能性を示している。

その鍵は「包摂的成長」という概念にある。成長の果実を一部の大都市や特定の産業だけが享受するのではなく、あらゆる地域や人がその恩恵にあずかるという考え方だ。単なる「支援」や「保護」ではない。地域自らが強みを見つけ、成長を遂げる主体になることが前提である。具体的な施策として注目されるのが、「地域産業の高付加価値化」である。たとえば、地場産業にデジタル技術を取り入れ、オンライン販売やクラウド型業務管理を導入することで、生産性を飛躍的に高める事例が増えている。観光・農業・福祉といった分野が融合し、地域に新たな雇用と経済循環を生み出す「複合型ビジネス」の芽も育ちつつある。

GX(グリーントランスフォーメーション)を地方で推進する流れも加速している。太陽光や風力、バイオマスなど、地域資源を活かした再生可能エネルギーの導入は、地元の雇用を創出すると同時に、エネルギーの地産地消を促す。2040年には、こうしたエネルギー自治体が新たな成長モデルとして定着する可能性がある。重要なのは、地方を「支える対象」から「担う主体」へと見方を変えることだ。たとえば、テレワークやデジタルインフラの整備が進めば、大都市にいなくても高付加価値の仕事が可能になる。教育や医療もオンラインで提供されれば、都市部と地方の格差は縮まる。人が少なくても、知と技術があれば、地域は強くなれる。

地域社会の信頼関係や共助の文化といった「見えない資本」も注目に値する。超高齢化社会では、助け合いが都市以上に価値を持つ。こうした地域の資産は、災害対応や孤立防止といった面でも全国モデルとなり得る。「地域にはもう未来がない」と決めつける前に、「未来をつくる場所」としての潜在力に目を向けるべきだ。地方が元気になることは、都市にとっても利益である。2040年、日本全体の持続可能性は、地域がどれだけ挑戦を選ぶかにかかっている。

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*** 今週の教養講座(経産省2040ビジョン④完)

第4回:2040年の鍵を握るのは「人」――変化に適応できる社会へ  経済を動かすのは資本か、技術か――もちろん、それらは不可欠だ。しかし、いかなる時代でも、最終的に未来をつくるのは「人」である。どんなに高度なAIが登場しても、それをどう使うかを決めるのは人間であり、社会の変化に適応できる人材こそが、新しい時代の原動力となる。経済産業省の「2040ビジョン」が最重要視するのも、まさに「人への投資」である。

2040年の日本は、働き手が減る一方で、求められるスキルは加速度的に変化している。AI、ロボティクス、データ分析、カーボンニュートラル…。こうした分野では、これまでの経験や資格だけでは通用しない。「一度学んで終わり」の時代は終わったのだ。必要なのは、学び直し=リスキリングを通じて、常に自分の価値をアップデートしていける社会である。そこで注目されるのが「越境学習」や「越境キャリア」の考え方だ。業界や職種、年齢の壁を越えて、新しい分野に挑戦する人を支える仕組みが求められている。たとえば、地方のベテラン職人がITを学び、新しい製品開発に加わる。子育てを終えた女性がデータ分析を学んで再就職する――こうした柔軟で多様なキャリアのあり方が、2040年には「普通」になるべきなのだ。

企業もまた変わらなければならない。人件費を「コスト」とみなす時代から、人材を「資産」と捉える発想への転換が不可欠である。経済成長を持続可能にするには、従業員の成長と企業の成長を一致させる戦略が必要だ。例えば、ジョブ型雇用、スキルに基づく報酬制度、社内教育への継続的な投資などが、これからのスタンダードになる。

一方で、AIによって「仕事が奪われる」という不安も根強い。しかし、AIは「人間の代替」ではなく、「人間の能力を拡張するツール」である。定型業務をAIに任せることで、人間はより創造的な仕事に集中できる。そこでは共感力、判断力、物語を紡ぐ力など人間にしかできないスキルがいっそう重要になる。教育も変わる。学校教育だけでなく、社会人向けのオンライン講座や、企業・自治体が連携した学習支援制度の拡充が不可欠だ。学ぶ場所と時間の自由化が進めば、人生100年時代において、何度でもやり直せる社会が実現する。

2040年の日本を希望の社会にできるかどうか――その答えは、「変わり続ける人を支える社会」を築けるかどうかにかかっている。「何を持っているか」ではなく、「どれだけ成長できるか」が人と社会の価値を決める時代なのだ。