7月28日~8月1日(教養講座:非戦・反戦の系譜 海外編)

~~~ 長谷川塾メルマガ 2025年7月28日号(転送禁止)~~~

***デイ・ウォッチ(25~27日)

維新の一部に連立容認論、「副首都構想」実現狙う : 読売新聞 石破首相「退陣」時期巡り観測 両院懇・選挙総括、判断に影響:時事 官邸前で「石破辞めるな」 首相続投求めデモ:時事 →維新の一部に連立容認論が出ている。辞任圧力を受ける石破首相だが、今週が1つのヤマになりそうだ。きょうの両院議員懇談会、8月1日の臨時国会などの日程が続く。一方、「石破辞めるな」デモが起きている。SNS時代は国会外も騒々しい。朝日新聞の世論調査では「辞めるべき41%」に対し、「辞める必要ない」が47%で上回っている→ 石破首相は「辞めるべきだ」41%、「必要はない」47% 朝日世論:朝日新聞

トランプ大統領 EUからの輸入品 関税15%で合意したと明らかに | NHK | 関税 →米国とEUが関税率15%で合意した。EUは米国から110兆円相当のエネルギーを購入し、新たに88兆円の投資を約束したという。トランプ大統領は「過去最大の取引だ」と自賛した。いつも同じようなことを言っているようだ。支持者なら喜ぶのだろうか。

仏、9月にパレスチナ国家承認 G7初、米とイスラエルは反発:時事ドットコム →悲惨な状況が続くガザ地区。イスラエルとパレスチナの2国家共存が有力な平和構築策だが、フランスがG7で初めてパレスチナ国家を承認した。日本や欧州各国がフランスに追随すれば、事態は動く可能性もある。米国とイスラエルは反発しているが、いつまでも両国に遠慮する時代ではないだろう。

リコール投票全て不成立 野党24議員対象、頼政権に逆風―台湾:時事ドットコム →台湾の少数与党・民進党の奇策が失敗した。野党で中国寄りとされる国民党の24議員のリコールを求めたが、すべて不成立となった。頼清徳政権の逆風になることは確実で、社会の分裂を深めた。投票で選ばれた議員をリコールしようという戦術はやはり無理筋だろう。

沖縄北部にテーマパーク開業 期待の一方 渋滞影響など懸念も | NHK | 沖縄県 →沖縄北部に700億円を投じた巨大テーマパーク「ジャングリア沖縄」が開業した。計画を主導するのは、大阪のUSJを再建したことで知られる森岡毅氏のマーケティング会社「刀」。大自然をテーマにアジア20億人を商圏に設定。日本人の料金は6930円だが、外国人は8800円にする二重価格制を導入した。

大相撲 琴勝峰が初優勝 安青錦に勝利 平幕力士の優勝は8場所ぶり  | NHK →前頭15枚目の琴勝峰が初優勝した。平幕優勝は8場所ぶり。千葉県柏市出身の25歳。身長190センチで将来を期待されたが、ケガで苦しんだ。期待の新横綱大の里は、金星4つを献上して沈没。悪癖の引きをなくさないと大成しない。ウクライナ出身の安青錦が優勝争いをし、技能賞に輝いたのはビッグニュース。

*** 「今日の名言」

◎谷崎潤一郎(小説家。1965年7月30日死去、歳

「名文とは長く記憶に留まるような深い印象を与えるもの。何度も繰り返して読めば読むほど滋味のでるもの」 「文章のコツ、すなわち人にわからせるように書く秘訣は、文字や言葉で表現できることとできないことの限界を知り、その限界内にとどまることが第一」 「世間はただ、私の作品をさえ見てくれればよいのであります。それが立派なものなら、私という個人に用はないわけであります」 「意地の悪い人間は、その意地悪さを発揮する相手がいないと寂しいに違いない」 「我という 人の心はただひとり 我より外に 知る人はなし」 「美は考えるものではない。一見して直に感ずることのできる極めて簡単な手続きだ」 「恋愛は芸術である。血と肉とをもって作られる最高の芸術である」 「議論を吹っかける場合には、わざと隙間を与えておくほうがいい。そうしないと敵が乗って来ない」「筋の面白さは、言い換えれば、物の組み立て方、構造の面白さ、建築的の美しさである」

*** 今週の教養講座(非戦・反戦の系譜 海外編①)

 日本の夏は「戦争を考える季節」でもある。「安全保障環境の悪化」を理由に軍事費を増やす国が多くなっているが、各国にそんな余裕があるのか。国民の生活は守られるのか。緊張を増すだけではないか。そんな疑問が強い。核兵器が拡散し、無人兵器で永久に殺し合うような時代だからこそ、非戦・反戦の意義が増している。理想論ではなく、一般の国民にとっては非戦・反戦こそが現実論ではないか。2週間にわたり、「非戦・反戦の系譜」を特集する。今週は海外編。

イマヌエル・カント(17241804  18世紀ドイツを代表する哲学者であり、近代哲学の基礎を築いた思想家として知られる。生涯の大半を東プロイセンのケーニヒスベルク(現在のロシア領カリーニングラード)で過ごし、認識の革新をもたらした。功績は純粋理性批判や倫理学にとどまらず、「永遠平和のために」(1795年)という小著において、戦争の否定と恒久的な平和の実現を哲学的に構想したことにもある。

「永遠平和のために」は、当時ヨーロッパで頻発していた戦争、特に革命後のフランスと諸王政国家との対立という時代に書かれた。平和はただの夢想ではなく、理性に基づいた「義務」として捉えるべきだと主張する。彼の提唱する「永遠平和」の条件は、国際秩序のための6つの「予備条項」と3つの「確定条項」からなり、主なポイントは次の通りである。

第1に、国家は共和制であるべきだという。君主が独断で戦争を始める専制主義に対し、市民が戦争の負担を被る共和制では軽々に戦争に踏み切れないと論じる。第2に、国家間の連合(国際連盟的なもの)を提唱する。統一政府ではなく、各国の主権を保ったままの法的枠組みとして設計される。第3に、他国への干渉や転覆を禁じ、互恵的な外交と信義に基づく関係を重視する。

カントの平和思想は、単なる理想主義ではない。彼は人間の「悪」と戦争の傾向を現実的に認めた上で、それを克服するための理性的な枠組みを設計した。根底には「定言命法(無条件の道徳法則)」に基づく倫理観がある。「汝の行為が同時に普遍的法則となるように行為せよ」という倫理規範は、戦争に訴えることを否定し、平和を維持することこそ人間の理性にかなう行為だと説く。

カントの思想は、後世に大きな影響を与えた。20世紀に設立された国際連盟や国際連合の理念の源泉の1つとされ、現代の国際法や人権思想、世界市民の概念にも深く通じている。ジョン・ロールズやユルゲン・ハーバーマスといった政治哲学者にも継承され、民主主義と国際協調の理論的基盤として重視されている。現在のグローバル社会においてもなお問いを投げかけている。永遠平和とは到達できない理想か、理性による実践的課題か――カントはその可能性を信じ、思想として結晶させた。

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~~~ 長谷川塾メルマガ 2025年7月29日号(転送禁止)~~~

***デイ・ウォッチ(28日)

石破首相 続投に理解求めるも辞任や総裁選挙の前倒しの実施求める意見相次ぐ 党内の亀裂 より深まる状況に | NHK | 国会 →自民党の両院議員懇談会で首相退陣を求める声が相次いだが、石破首相は続投を表明した。森山幹事長は辞意を表明した。政治の理想論を別にすれば、今回の権力闘争は興味深い。石破首相は党内右派に配慮して慎重な党運営を続け、党外からは「石破カラーが出ていない」と批判されてきた。ここにきて開き直って乾坤一擲、右派や守旧派への配慮を断ち切っているようだ。党内世論か、国内世論か。首相の居座りで、前代未聞の事態になっている。

タイとカンボジアが停戦合意 係争地の軍事衝突、トランプ氏も仲介:朝日新聞 →衝突していたタイとカンボジアが、停戦に合意した。ASEAN議長国のマレーシアが仲介に動いた。トランプ大統領や中国も仲介に加わった。世界秩序が流動化している今、ASEAN内部で対立している余裕はない。穏健勢力としてまとまっていることが得策と考えた賢明な判断だろう。

アステラス社員、上訴せず 実刑判決が確定―中国:時事ドットコム →中国は二審制だが、アステラス社員は上訴しなかった。争っても意味がないと判断したとみられる。日本の公安調査庁に情報提供したらしいが、どんな情報提供をしたかなど細かな実態は不明。これで永遠に闇の中になりそうだ。他に拘束者がおり、今後の摘発も予想されるので、情報公開が望まれるが。

北朝鮮が対話拒否表明 韓国は「信頼回復」訴え:時事ドットコム →韓国に北朝鮮との対話を期待する新大統領が誕生したが、北朝鮮は拒否した。金正恩総書記の妹の与正・朝鮮労働党副部長が述べた。揺さぶりか、本心か。ロシア傾斜を強める北朝鮮は、東アジアに対する視線が変化しているかもしれない。ピョンヤンとモスクワを結ぶ直行便が27日就航している。

イチローさん 英語でスピーチ アメリカ野球殿堂入り式典 野茂さんに感謝 | NHK  →アメリカ野球殿堂入りしたイチローさんが、表彰式典で英語のスピーチをした。先駆けとなった野茂英雄さんにふれて「彼の勇気ある挑戦で私の視野が広がり、大リーグへの挑戦という道が開かれた」と話し、会場にいた野茂さんに「野茂さん、ありがとうございました」と日本語で感謝を伝えた。歴史的一幕だ。

*** 「今日の名言」

◎李登輝(第4代中華民国代表。2020年7月30日死去、97歳

「22歳まで自分は日本人であった」 「新渡戸稲造と後藤新平が、強い信念と信仰心を持ちなさいと教えてくれた」 「生涯をかけて台湾の民主化を大きく進展させることができたのは、私にとって最大の誇りだと思っている」 「西田幾多郎の『善の研究』、和辻哲郎の『風土』、ゲーテの『ファウスト』『若きウェルテルの悩み』、ドストエフスキーの『白痴』、トルストイの『戦争と平和』など、私の人生観に影響を与えた本は多い」 「指導者は理想や考えを示すだけではだめで、実践して初めて意味を成す」 「日本精神の良さは口先だけではなく、実際に行う、真心をもって行うところにある」 「台湾人は日本精神という言葉を好んで用いる。日本統治時代に台湾人が日本人から学んだ、勇気、誠実、勤勉、奉公、自己犠牲、責任感、清潔といった諸々の美点を指す言葉である」

*** 今週の教養講座(非戦・反戦の系譜 海外編②)

レフ・トルストイ(18281910  ロシアを代表する文豪であると同時に、深い宗教的・道徳的探究を通じて非戦・非暴力思想を展開した思想家でもある。『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』といった文学作品で知られるが、貴族の出自を持ちながらも、人生の後半には富や名声を否定し、農民的で質素な生活と、キリスト教に基づく愛と平和の実践を追求した。単なる個人の信仰にとどまらず、後世の非暴力運動にまで影響を与える世界的な潮流を生み出すこととなる。

非戦思想の出発点は、晩年の宗教的転換にある。ロシア正教会に反発し、イエス・キリストの教え、とくに「敵を愛せ」「悪に抵抗するな」といった福音書の言葉を文字通りに受け取った。この理解に基づき、いかなる暴力も道徳的に否定されるべきだと考えるようになる。戦争はもちろん、国家による徴兵や死刑、さらには反乱や革命による暴力もすべて否定した。

その主張は、そのまま非戦・非服従の思想へと結実する。代表作『神の国はあなたがたの中にある』(1894年)では、国家という権力装置が人々に対して暴力を正当化している現実を厳しく批判し、良心に従って国家の命令に逆らうことの重要性を説いた。真の信仰とは制度や権威に従うことではなく、自らの内なる声(良心)に従って愛と非暴力を実践することだった。

インドのマハトマ・ガンディーは南アフリカ滞在中にトルストイの著作に出会い、深く感銘を受けた。2人は書簡を交わし、トルストイの思想はガンディーの非暴力・不服従運動の根幹となる。アメリカのマーティン・ルーサー・キング・ジュニアにも間接的に影響を与え、20世紀の平和運動や公民権運動にも連なっていく。トルストイは自らを「無政府主義的キリスト教徒」と称し、国家や軍隊を否定する思想を唱え続けた。

トルストイの非戦主義の意義は、単に戦争への反対にとどまらず、「生き方」そのものを問う哲学的態度にある。暴力と支配を前提とした近代国家のあり方に根本的な疑問を投げかけ、人間が本来持つべき愛と良心に基づいた社会の可能性を訴えた。彼の思想は過激でもあったため、ロシア政府や正教会からは異端視され、晩年は孤立しながらもその信念を曲げることはなかった。

トルストイの非戦思想は今日、国家権力と個人の良心との葛藤、暴力を正当化する社会構造の批判として読み直されている。戦争が絶えず続く現代にあって、彼の問い――「我々は本当に敵を愛しているか?」「殺さずに生きることは可能か?」――は、今なお重く響く。トルストイは、自らの思想と生き方を一致させようと苦闘し続けた「実践の人」であり、その姿勢が非戦思想の本質を体現していたと言えるだろう。

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~~~ 長谷川塾メルマガ 2025年7月30日号(転送禁止)~~~

***デイ・ウォッチ(29日)

トランプ氏、対ロ制裁前倒し表明 「12日以内」、英首相と会談:時事ドットコム 対ロ制裁前倒しを歓迎 トランプ氏に「感謝」―ウクライナ大統領:時事ドットコム →トランプ大統領は停戦に向けて対ロシア制裁を前倒しすると表明。ゼレンスキー大統領が感謝の意向を投稿した。トランプ大統領はプーチン大統領を激しく非難している。こうなるとトランプ大統領の剛腕に期待したくなるから不思議だ。

自民党「両院議員総会」の開催決定 石破首相“逃げずに説明” | NHK | 参議院選挙 →石破首相の退陣を求める議員が要求していた両院議員総会の開催が決まった。党の意思決定機関だが、総裁を辞めさせる権能はないようだ。総裁選を前倒しすることはできそうで、開催は来週後半の見通し。議題など内容を慎重に検討するという。手続自体が権力闘争の対象になっていく。

米中協議 中国側“停止期限延長で合意” 米側“大統領が判断” | NHK | アメリカ →米中協議で24%の相互関税の停止が延長される見通しになった。期間は90日間で、トランプ大統領が了解すれば合意する。トランプ大統領はいつも妥協する「TACO=Trump Always Chickens Out」がまた実証されそうだが、むやみに対立するよりマシだ。年内にも習主席との首脳会談を望んでいるという。

暫定税率、11月廃止目指す 野党8党、臨時国会に法案提出へ:時事ドットコム →野党8党がガソリンの暫定税率廃止で足並みをそろえた。時期は11月1日で、8月1日召集の臨時国会に法案を提出する。参院選挙前から一致していたが、参院の与党過半数割れを受けて、結束した。野党がまとまれば政治を変えられる状況だ。蜜月はいつまで続くか。

福島第一原発 核燃料デブリ取り出し 初の方針 開始時期は2030年代後半以降に 詳細は | NHK | 福島第一原発 →福島第一原発の燃料デブリの本格的な取り出し日程について、これまでの2030年代初頭から30年代後半に遅らせる方針を決めた。2051年としている廃炉完了時期は変えないが、間に合わないのは確実。原発計画はほとんどオオカミ少年だが、再稼働には前のめりになっている。

東京メトロの霞ケ関駅と日比谷駅で冷房停止 復旧は8月下旬見通し [東京都]:朝日新聞 →酷暑の東京で、地下鉄霞が関駅と日比谷駅で冷房が停止している。復旧は8月下旬とういうから、驚く。移動冷房機でしのいでいる。簡単に直らないのだろうか。

*** 「今日の名言」

◎杉原千畝(外交官。戦時中、ユダヤ難民にビザを発給。1986年7月31日死去、86歳

「(独自の判断で6千人以上のユダヤ人難民を救ったことについて)私がしたことは、外交官としては間違ったことだったかもしれない。しかし、私には頼ってきた何千人もの人を見殺しにすることはできなかった当然のことをしたまでです」 「ユダヤ民族から永遠に恨みをかってまで、旅行書類の不備だとか、公安上の支障云々を口実にビザを拒否しても構わないというのか? それが果たして国益に叶うことだというのか?」 「人間として当たり前のことをしよう。戦争には関係ない女性とか子どもたちだ。人として当たり前のことをしよう」 「外務省から罷免されるのは避けられないと予期していたが、1940年8月31日に列車がカウナスを出発するまでビザを書き続けた」 「世界は大きな車輪のようなものです。対立したり争ったりせずに、みんなで手をつなぎあって回っていかなければなりません」

*** 今週の教養講座(非戦・反戦の系譜 海外編③)

ジョン・レノン(19401980  イギリスのリヴァプール出身のミュージシャン、作詞・作曲家、平和活動家である。伝説的バンド「ビートルズ」の中心人物として世界的な名声を得た後、音楽の枠を超えて、戦争と暴力に対する根源的な問いを社会に投げかけた。彼の反戦・平和思想は、理論ではなく「歌」と「行動」によって表現され、20世紀後半のカウンターカルチャーの象徴ともなった。

レノンの反戦活動が最も色濃く現れるのは、ビートルズ解散後、妻オノ・ヨーコとともに行った一連の平和運動である。1969年、2人は「ベッド・イン」と呼ばれる奇抜な抗議行動を実施した。ハネムーン先のホテルに1週間こもり、ベッドの上でメディアに向かって「平和を想像せよ」と語り続けたのだ。これらのパフォーマンスはしばしば嘲笑の対象ともなったが、彼らはそれを恐れず、むしろ「平和を訴えるには、騒ぎを起こさなければならない」と信じていた。

そのメッセージは、代表曲「イマジン(Imagine)」に結晶する。1971年に発表されたこの歌は、国境も宗教も所有もない世界を夢見ることで、戦争や分断のないユートピアを描いた。レノンは「これは共産主義のマニフェストと受け取られるかもしれないが、人類愛の歌だ」と語っている。単純なメロディに込められた問いは鋭く、なおかつ普遍的である。「想像してごらん、国がない世界を――殺す理由も死ぬ理由もない」と歌われ、その言葉は思想や体制を超えて、人々の心に届いた。

ベトナム戦争の泥沼化が続くなか、レノンはアメリカ政府からも危険視される存在となった。FBIは彼の活動を監視し、移民局は国外追放を試みた。だが、レノンは一貫して「愛と平和」をキーワードに、音楽と行動によって反戦を訴え続けた。政治家でも哲学者でもない彼が、多くの若者たちに影響を与えたのは、言葉ではなく「生き方」によってメッセージを伝えたからだ。

歴史的意義は、反戦思想をポップカルチャーと結びつけ、大衆レベルで平和を語る力を可視化した点にある。アカデミズムでも宗教でもなく、ギターとマイクで世界に問いかけた。社会や政治に対する鋭い批評精神をもちながらも、怒りではなく想像力と愛を武器にしたその姿勢は、非暴力の理想を音楽の言葉で体現したものだった。

1980年、ニューヨークの自宅前で凶弾に倒れたが、メッセージは死によってかえって強く生き続けることとなった。現在でも「イマジン」は世界の平和式典や抗議運動で歌われ続けており、思想は音楽とともに次世代へと受け継がれている。「夢想家(ドリーマー)」であることを恐れず、「自分ひとりではない」と信じ、世界に向かって静かに、しかし確かに非戦メッセージを響かせ続けている。

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***デイ・ウォッチ(30日)

【随時更新】岩手 久慈港で1m30cm 北海道~沖縄で津波観測 | NHK | 地震 各地の交通影響まとめ 首都圏への影響も | NHK | 地震 →ロシア・カムチャッカ半島近くの地震で津波が発生、日本にも大きな影響を与えた。発生は午前8時25分ころだが、警報が夕方から夜まで解除されず、酷暑下の避難が長引いた。交通も大きく乱れ、首都圏では大勢の人が夜まで足止めされた。テレビ各局も長時間の報道番組を組んだ。津波は岩手・久慈で1.3メートルだったが、その他は数十センチ程度。津波による直接の被害はなかった。災害は大きく構えたほうがいいので批判するつもりはないが、大山鳴動なんとやらの感も残った。

【会見速報中】米FRB 利下げを見送り 政策金利の据え置き決定 | NHK | 金融 →トランプ大統領が利下げをあからさまに求めているが、FRBは据え置きを決めた。ただ、理事11人のうち利下げを求める2人が据え置きに反対した。意見が分裂するのは32年ぶりという異例の決定。金融政策の独立を尊重するのは先進国の常識だが、トランプ大統領はさらに圧力をかけ続けそうだ。

ガソリン旧暫定税率の年内廃止、与野党が合意 自民「財源確保が前提」 – 日本経済新聞 →ガソリンの旧暫定税率の廃止がすんなりと決まった。野党が合意していたが、衆参とも少数になった与党がすんなりと認めた。利用者の負担が1.5兆円減り、一般ドライバーや物流業者らに恩恵となる。減収分の財源手当は決まっていない。

兵庫 丹波で41.2度 国内最高を更新 31日も西日本で40度予想のところ 熱中症に厳重警戒を | NHK | 兵庫県 →兵庫県丹波市で国内最高気温を更新した。これまでは熊谷市と浜松市の41.1度だったが、41.2度になった。今後も酷暑が予想されており、更新の可能性もある。

泊原発、規制委の安全審査に合格 防潮堤増設し27年にも再稼働 – 日本経済新聞 →一時は安全審査を通らないとも言われた北海道電力・泊原発が、12年かけてやっと合格した。2027年の再稼働を目指す。知事の合意が次の焦点。北海道では半導体の量産を目指すラピダス開業やAIのデータセンターの建設が続いている。大量の電力を使うため、合格の背景になったと言われている。

旧統一教会本部の土地仮差し押さえ 被害者申し立てで 東京地裁 | NHK | 旧統一教会 →東京地裁が旧統一教会本部の土地の仮差し押さえを認めた。元信者10人が総額2億2600万円の賠償を求めている訴訟の一環。同額を供託するなどしない限り、教会側は土地の処分や移転ができなくなった。

*** 「今日の名言」

◎赤塚不二夫(漫画家。2008年8月2日死去、72歳

「自分が最低だと思っていればいいのよ。そしたらね、みんなの言っていることがちゃんと頭に入ってくる」 「自分が偉いと思っていると、他人は何も言ってくれない。てめぇが一番バカになればいいの」 「バカだからこそ真実を語れるんじゃないか」 「『天才バカボン』を描き出した時にまず思った。バカに真実を語らせようと。そこからバカボンが生まれ、バカボンのパパが生まれたんだ」 「利口よりバカが英雄なのだ」 「バカボンのパパってさ、別にラクして生きてるわけじゃないんだよ。どうすれば家族を幸せにできるかを考えながら、一生懸命ガンバってるわけ」 「頭のいい奴は、わかりやすく話す。頭の悪い奴ほど、むずかしく話すんだよ」 「ウケるためなら、死んでもいい」 「最後につじつまがあってりゃ、何やってもいいんだよ」 「トキワ荘で俺だけ彼女がいたんだよ。ハンサムだったから」 「世の中に友情と欲情ほど良いものはない」

*** 今週の教養講座(非戦・反戦の系譜 海外編④)

墨子(ぼくし、紀元前470年頃~紀元前391年頃)  中国戦国時代の思想家で、儒家と並ぶ重要な学派「墨家」の開祖である。儒家の家族中心主義を批判し、実利と平等、「非攻(ひこう)」という戦争の否定を説いた。思想は極めて実践的で、弱者や小国を守るために戦争を否定し、力の濫用を批判する倫理的な視座に貫かれている。東アジア思想史のなかで、明確な「反戦」の立場を最初に体系立てた人物と言ってよい。

貧しい庶民の出身とされ、儒家の学問を学んだ後に決別し、独自の道を歩む。思想の中心には「兼愛」と「非攻」がある。兼愛とは、すべての人を分け隔てなく愛すること。儒家は「親を最も愛すべし」と説いたが、墨子はそれでは差別と争いが生じるとし、「他人の父母も自分の父母と同じように愛するべきだ」と主張した。

兼愛の実践として現れるのが非攻の思想である。墨子は「戦争とは人を殺し、国を滅ぼし、財を奪い、民を苦しめる不義そのものだ」と断じた。大国が小国を攻めるのは盗賊と変わらない行為であり、道徳的に許されないと説く。著作『墨子』の中には、実際に攻撃を受けようとする小国に赴いて防衛の技術を授けるエピソードもあり、思想だけでなく実行の人でもあったことが窺える。

工学や軍事技術にも精通し、戦争を否定するために「守る技術」に力を注いだ。単なる理想主義ではなく、現実の力関係と暴力を認識したうえで、それを最小限に抑えるための合理的な手段だった。墨家集団は高度な組織力を持ち、各地を巡って戦争の抑止に奔走した。実践的姿勢は、戦国時代において極めて異色であり、哲学者でありながら社会運動家・技術者としての側面も持っていた。

墨子の非戦思想の歴史的意義は、中国思想において初めて「戦争の不道徳性」を体系的に論じ、普遍的な愛の原理から政治を正すべきだとした点にある。後世の法家や道家、さらには日本や韓国における平和思想にも影響を及ぼしている。儒家が時の権力と結びついて制度化されていったのに対し、墨家は反体制的な思想として徐々に姿を消していったが、20世紀以降、再評価が進んでいる。

特に現代において、「力による支配」や「国益のための武力行使」が再び台頭するなか、墨子の「非攻」「兼愛」の思想は、国境を越えた倫理として注目されている。「なぜ他国を攻めるのか?」「殺す理由は何か?」という問いは、21世紀の人たちにも鋭く突きつけられている。

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~~~ 長谷川塾メルマガ 2025年8月1日号(転送禁止)~~~

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***デイ・ウォッチ(7月31日)

カナダ首相 パレスチナを国連総会で国家承認する方針を表明 | NHK  英首相 “イスラエル次第でパレスチナを国家として承認” 表明 | NHK  →フランスに続いて、イギリス、カナダがパレスチナの国家承認を表明した。イスラエルの非人道的攻撃を考慮したとみられる。反対している米国にも事前に連絡しているはずだ。同じG7の日本はどうするのか。もともとアラブ産油国と近いので、真っ先に承認してもよさそうだが、今のところ音沙汰なし。ポチは悩んでいる。

トランプ大統領 “ブラジルに40%の追加関税”署名 税率50%に | NHK | 関税 トランプ大統領 “関税交渉で韓国と合意 日本やEUと同じ15%” | NHK | 関税 →トランプ大統領はブラジルに50%、韓国に15%の関税率を決めた。対ブラジル貿易は黒字だが、トランプ大統領と近いブラジル前大統領が起訴されたことに報復した。韓国からは造船の投資を引き出した。批判されながらディールで果実を手にしている。政治は結果責任というが、これでいいのだろうか。

政策金利、4会合連続維持 関税影響「少しずつ出る」・植田日銀総裁:時事 円、一時4カ月ぶり150円台に下落  – 日本経済新聞 →米国に続いて日銀も政策金利の維持を決めた。植田総裁が利上げに慎重な姿勢を示したとして、1ドル150円台の円安になった。米国の関税に苦しむ輸出企業には有利だが、輸入品の値上がりで物価高になる構図だ。

大地震、ロシア原潜基地に影響か カムチャツカ半島の閉鎖都市:時事ドットコム →ロシアの独立系メディアによると、カムチャツカ半島沖地震で、原潜基地のある閉鎖都市ビリュチンスクにも及んだ模様だ。閉鎖都市は立ち入りが制限されており、仮にあっても公表されない可能性が高いという。今回の地震でロシア国内の死者は報告されていないが、本当だろうかという気がする。

経歴詐称疑惑の伊東市長、事前表明していた「月内辞職」せず続投表明 [静岡県]:朝日新聞 →お騒がせの静岡県伊東市の田久保市長。7月中の辞職を表明していたが、何と続投を表明した。石破首相に刺激されたわけではないだろうが、市政の混乱は必至。最初に「ごめんなさい。卒業していませんでした」と謝ればよかった。ボタンの掛け違いのまま突っ走るようだ。

*** 「今日の名言」

◎津川雅彦(俳優。2018年8月4日死去、78歳

「不幸には、『神様が試練という意味を持たせている』と信じられたら勝てる。『あの不幸があったから今がある』という将来をつくればいい」 「人生、不幸なことは必ず起こる。でも、その時、起こったことは、すべて正しいと信じることが大切」 「僕は不器用だから演技が下手だった。ある日『役者は不器用じゃなきゃいけない』と教わった。不器用が器用になるためには努力をする。この努力が人間の魅力になる」 「僕は遅咲きだった。若いうちに苦労して、年を取ってから咲くと、一番無駄なく人生を楽しめる」 「今日より明日、明日より明後日、一歩一歩さ。飛躍なんてものはない。才能もないし、器用でもないカメさんは、コツコツ努力するしかない」 「若い人たちに言いたいのは、今の人生は、自分だけの力で手に入れたんじゃないって自覚すること。誰だって生まれてからこの方、何百人もの手にかかり、その人たちの思いや期待を背負って今日がある」

*** 今週の教養講座(非戦・反戦の系譜 海外編⑤)

胡適(こてき、Hu Shih、18911962  近代中国を代表する思想家・文学者・教育者であり、「白話(日常語)運動」の旗手として中国の言語・文学・思想に革命をもたらした。暴力や革命による社会変革を批判し、理性と漸進的改革によって平和と民主を実現すべきだと説いた。20世紀中国における代表的な「非戦・反暴力の知識人」として、独自の歴史的役割を果たすこととなる。

清末の安徽省に生まれ、アメリカのコーネル大学とコロンビア大学に留学し、哲学者ジョン・デューイに師事した。帰国後は北京大学教授として、旧来の漢文による文語文学に対し、日常語による新文学を提唱。「五四運動」と重なり、中国の若者たちに新たな思考と表現の可能性を開いた。思想の根底には、デューイ流のプラグマティズム(実用主義)があり、抽象的な理論ではなく、「実験と改善」によって社会を良くすることを信じていた。

その延長線上に、胡適の非戦・反暴力の立場がある。急進的な共産革命や、暴力的手段による体制転覆を否定し、自由な言論と教育、制度の漸進的改革によって社会を変えるべきだと考えた。とくに国民党と共産党の内戦、さらには抗日戦争の渦中でも、胡適は一貫して理性と対話を重視し、知識人が感情やイデオロギーに流されることへの警鐘を鳴らし続けた。

1930年代、「容共不容暴力」(共産主義に一定の理解は示すが、暴力革命は容認しない)という立場をとった。当時の中国においては異端に近く、左派からも右派からも批判を浴びたが、彼は「思想の自由」「個人の尊厳」を守るために、いかなる強制的権力にも屈しなかった。反戦というよりも「反暴力」「反専制」と言ったほうが適切であり、その根底には深い人間観と啓蒙主義がある。

国際的な視野を持ち、戦争による国家主義の高揚や、ヒステリックな排外主義に反対した。太平洋戦争前夜には、国際連盟の理念を支持し、国際協調による紛争解決を主張していた。戦後は中華民国の駐米大使としても活躍し、冷戦下でも極端な反共・反米に与せず、自由と対話の道を模索した。国共内戦を経て台湾に移り、1958年に中研院院長となり、学問の自由・言論の自由を守る砦として台湾の知的基盤を築いた。彼の自由主義的・非暴力的立場は、後の台湾の民主化にも間接的に影響を与えている。

胡適の歴史的意義は、「暴力ではなく理性を」「革命ではなく改革を」「独裁ではなく自由を」というメッセージを守り抜いた点にある。理想を語るだけでなく、自らの知識と立場をもって、冷静に、粘り強く、暴力に抗し、「沈黙しない良心」として、多くの知識人のモデルとなった。今日においても「われわれは、感情や怒りではなく、理性と対話によって、平和を築く覚悟があるのか」と問いかけている。