7月28日~8月1日(教養講座:非戦・反戦の系譜 海外編)

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***デイ・ウォッチ(25~27日)

維新の一部に連立容認論、「副首都構想」実現狙う : 読売新聞 石破首相「退陣」時期巡り観測 両院懇・選挙総括、判断に影響:時事 官邸前で「石破辞めるな」 首相続投求めデモ:時事 →維新の一部に連立容認論が出ている。辞任圧力を受ける石破首相だが、今週が1つのヤマになりそうだ。きょうの両院議員懇談会、8月1日の臨時国会などの日程が続く。一方、「石破辞めるな」デモが起きている。SNS時代は国会外も騒々しい。朝日新聞の世論調査では「辞めるべき41%」に対し、「辞める必要ない」が47%で上回っている→ 石破首相は「辞めるべきだ」41%、「必要はない」47% 朝日世論:朝日新聞

トランプ大統領 EUからの輸入品 関税15%で合意したと明らかに | NHK | 関税 →米国とEUが関税率15%で合意した。EUは米国から110兆円相当のエネルギーを購入し、新たに88兆円の投資を約束したという。トランプ大統領は「過去最大の取引だ」と自賛した。いつも同じようなことを言っているようだ。支持者なら喜ぶのだろうか。

仏、9月にパレスチナ国家承認 G7初、米とイスラエルは反発:時事ドットコム →悲惨な状況が続くガザ地区。イスラエルとパレスチナの2国家共存が有力な平和構築策だが、フランスがG7で初めてパレスチナ国家を承認した。日本や欧州各国がフランスに追随すれば、事態は動く可能性もある。米国とイスラエルは反発しているが、いつまでも両国に遠慮する時代ではないだろう。

リコール投票全て不成立 野党24議員対象、頼政権に逆風―台湾:時事ドットコム →台湾の少数与党・民進党の奇策が失敗した。野党で中国寄りとされる国民党の24議員のリコールを求めたが、すべて不成立となった。頼清徳政権の逆風になることは確実で、社会の分裂を深めた。投票で選ばれた議員をリコールしようという戦術はやはり無理筋だろう。

沖縄北部にテーマパーク開業 期待の一方 渋滞影響など懸念も | NHK | 沖縄県 →沖縄北部に700億円を投じた巨大テーマパーク「ジャングリア沖縄」が開業した。計画を主導するのは、大阪のUSJを再建したことで知られる森岡毅氏のマーケティング会社「刀」。大自然をテーマにアジア20億人を商圏に設定。日本人の料金は6930円だが、外国人は8800円にする二重価格制を導入した。

大相撲 琴勝峰が初優勝 安青錦に勝利 平幕力士の優勝は8場所ぶり  | NHK →前頭15枚目の琴勝峰が初優勝した。平幕優勝は8場所ぶり。千葉県柏市出身の25歳。身長190センチで将来を期待されたが、ケガで苦しんだ。期待の新横綱大の里は、金星4つを献上して沈没。悪癖の引きをなくさないと大成しない。ウクライナ出身の安青錦が優勝争いをし、技能賞に輝いたのはビッグニュース。

*** 「今日の名言」

◎谷崎潤一郎(小説家。1965年7月30日死去、歳

「名文とは長く記憶に留まるような深い印象を与えるもの。何度も繰り返して読めば読むほど滋味のでるもの」 「文章のコツ、すなわち人にわからせるように書く秘訣は、文字や言葉で表現できることとできないことの限界を知り、その限界内にとどまることが第一」 「世間はただ、私の作品をさえ見てくれればよいのであります。それが立派なものなら、私という個人に用はないわけであります」 「意地の悪い人間は、その意地悪さを発揮する相手がいないと寂しいに違いない」 「我という 人の心はただひとり 我より外に 知る人はなし」 「美は考えるものではない。一見して直に感ずることのできる極めて簡単な手続きだ」 「恋愛は芸術である。血と肉とをもって作られる最高の芸術である」 「議論を吹っかける場合には、わざと隙間を与えておくほうがいい。そうしないと敵が乗って来ない」「筋の面白さは、言い換えれば、物の組み立て方、構造の面白さ、建築的の美しさである」

*** 今週の教養講座(非戦・反戦の系譜 海外編①)

 日本の夏は「戦争を考える季節」でもある。「安全保障環境の悪化」を理由に軍事費を増やす国が多くなっているが、各国にそんな余裕があるのか。国民の生活は守られるのか。緊張を増すだけではないか。そんな疑問が強い。核兵器が拡散し、無人兵器で永久に殺し合うような時代だからこそ、非戦・反戦の意義が増している。理想論ではなく、一般の国民にとっては非戦・反戦こそが現実論ではないか。2週間にわたり、「非戦・反戦の系譜」を特集する。今週は海外編。

イマヌエル・カント(17241804  18世紀ドイツを代表する哲学者であり、近代哲学の基礎を築いた思想家として知られる。生涯の大半を東プロイセンのケーニヒスベルク(現在のロシア領カリーニングラード)で過ごし、認識の革新をもたらした。功績は純粋理性批判や倫理学にとどまらず、「永遠平和のために」(1795年)という小著において、戦争の否定と恒久的な平和の実現を哲学的に構想したことにもある。

「永遠平和のために」は、当時ヨーロッパで頻発していた戦争、特に革命後のフランスと諸王政国家との対立という時代に書かれた。平和はただの夢想ではなく、理性に基づいた「義務」として捉えるべきだと主張する。彼の提唱する「永遠平和」の条件は、国際秩序のための6つの「予備条項」と3つの「確定条項」からなり、主なポイントは次の通りである。

第1に、国家は共和制であるべきだという。君主が独断で戦争を始める専制主義に対し、市民が戦争の負担を被る共和制では軽々に戦争に踏み切れないと論じる。第2に、国家間の連合(国際連盟的なもの)を提唱する。統一政府ではなく、各国の主権を保ったままの法的枠組みとして設計される。第3に、他国への干渉や転覆を禁じ、互恵的な外交と信義に基づく関係を重視する。

カントの平和思想は、単なる理想主義ではない。彼は人間の「悪」と戦争の傾向を現実的に認めた上で、それを克服するための理性的な枠組みを設計した。根底には「定言命法(無条件の道徳法則)」に基づく倫理観がある。「汝の行為が同時に普遍的法則となるように行為せよ」という倫理規範は、戦争に訴えることを否定し、平和を維持することこそ人間の理性にかなう行為だと説く。

カントの思想は、後世に大きな影響を与えた。20世紀に設立された国際連盟や国際連合の理念の源泉の1つとされ、現代の国際法や人権思想、世界市民の概念にも深く通じている。ジョン・ロールズやユルゲン・ハーバーマスといった政治哲学者にも継承され、民主主義と国際協調の理論的基盤として重視されている。現在のグローバル社会においてもなお問いを投げかけている。永遠平和とは到達できない理想か、理性による実践的課題か――カントはその可能性を信じ、思想として結晶させた。

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***デイ・ウォッチ(28日)

石破首相 続投に理解求めるも辞任や総裁選挙の前倒しの実施求める意見相次ぐ 党内の亀裂 より深まる状況に | NHK | 国会 →自民党の両院議員懇談会で首相退陣を求める声が相次いだが、石破首相は続投を表明した。森山幹事長は辞意を表明した。政治の理想論を別にすれば、今回の権力闘争は興味深い。石破首相は党内右派に配慮して慎重な党運営を続け、党外からは「石破カラーが出ていない」と批判されてきた。ここにきて開き直って乾坤一擲、右派や守旧派への配慮を断ち切っているようだ。党内世論か、国内世論か。首相の居座りで、前代未聞の事態になっている。

タイとカンボジアが停戦合意 係争地の軍事衝突、トランプ氏も仲介:朝日新聞 →衝突していたタイとカンボジアが、停戦に合意した。ASEAN議長国のマレーシアが仲介に動いた。トランプ大統領や中国も仲介に加わった。世界秩序が流動化している今、ASEAN内部で対立している余裕はない。穏健勢力としてまとまっていることが得策と考えた賢明な判断だろう。

アステラス社員、上訴せず 実刑判決が確定―中国:時事ドットコム →中国は二審制だが、アステラス社員は上訴しなかった。争っても意味がないと判断したとみられる。日本の公安調査庁に情報提供したらしいが、どんな情報提供をしたかなど細かな実態は不明。これで永遠に闇の中になりそうだ。他に拘束者がおり、今後の摘発も予想されるので、情報公開が望まれるが。

北朝鮮が対話拒否表明 韓国は「信頼回復」訴え:時事ドットコム →韓国に北朝鮮との対話を期待する新大統領が誕生したが、北朝鮮は拒否した。金正恩総書記の妹の与正・朝鮮労働党副部長が述べた。揺さぶりか、本心か。ロシア傾斜を強める北朝鮮は、東アジアに対する視線が変化しているかもしれない。ピョンヤンとモスクワを結ぶ直行便が27日就航している。

イチローさん 英語でスピーチ アメリカ野球殿堂入り式典 野茂さんに感謝 | NHK  →アメリカ野球殿堂入りしたイチローさんが、表彰式典で英語のスピーチをした。先駆けとなった野茂英雄さんにふれて「彼の勇気ある挑戦で私の視野が広がり、大リーグへの挑戦という道が開かれた」と話し、会場にいた野茂さんに「野茂さん、ありがとうございました」と日本語で感謝を伝えた。歴史的一幕だ。

*** 「今日の名言」

◎李登輝(第4代中華民国代表。2020年7月30日死去、97歳

「22歳まで自分は日本人であった」 「新渡戸稲造と後藤新平が、強い信念と信仰心を持ちなさいと教えてくれた」 「生涯をかけて台湾の民主化を大きく進展させることができたのは、私にとって最大の誇りだと思っている」 「西田幾多郎の『善の研究』、和辻哲郎の『風土』、ゲーテの『ファウスト』『若きウェルテルの悩み』、ドストエフスキーの『白痴』、トルストイの『戦争と平和』など、私の人生観に影響を与えた本は多い」 「指導者は理想や考えを示すだけではだめで、実践して初めて意味を成す」 「日本精神の良さは口先だけではなく、実際に行う、真心をもって行うところにある」 「台湾人は日本精神という言葉を好んで用いる。日本統治時代に台湾人が日本人から学んだ、勇気、誠実、勤勉、奉公、自己犠牲、責任感、清潔といった諸々の美点を指す言葉である」

*** 今週の教養講座(非戦・反戦の系譜 海外編②)

レフ・トルストイ(18281910  ロシアを代表する文豪であると同時に、深い宗教的・道徳的探究を通じて非戦・非暴力思想を展開した思想家でもある。『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』といった文学作品で知られるが、貴族の出自を持ちながらも、人生の後半には富や名声を否定し、農民的で質素な生活と、キリスト教に基づく愛と平和の実践を追求した。単なる個人の信仰にとどまらず、後世の非暴力運動にまで影響を与える世界的な潮流を生み出すこととなる。

非戦思想の出発点は、晩年の宗教的転換にある。ロシア正教会に反発し、イエス・キリストの教え、とくに「敵を愛せ」「悪に抵抗するな」といった福音書の言葉を文字通りに受け取った。この理解に基づき、いかなる暴力も道徳的に否定されるべきだと考えるようになる。戦争はもちろん、国家による徴兵や死刑、さらには反乱や革命による暴力もすべて否定した。

その主張は、そのまま非戦・非服従の思想へと結実する。代表作『神の国はあなたがたの中にある』(1894年)では、国家という権力装置が人々に対して暴力を正当化している現実を厳しく批判し、良心に従って国家の命令に逆らうことの重要性を説いた。真の信仰とは制度や権威に従うことではなく、自らの内なる声(良心)に従って愛と非暴力を実践することだった。

インドのマハトマ・ガンディーは南アフリカ滞在中にトルストイの著作に出会い、深く感銘を受けた。2人は書簡を交わし、トルストイの思想はガンディーの非暴力・不服従運動の根幹となる。アメリカのマーティン・ルーサー・キング・ジュニアにも間接的に影響を与え、20世紀の平和運動や公民権運動にも連なっていく。トルストイは自らを「無政府主義的キリスト教徒」と称し、国家や軍隊を否定する思想を唱え続けた。

トルストイの非戦主義の意義は、単に戦争への反対にとどまらず、「生き方」そのものを問う哲学的態度にある。暴力と支配を前提とした近代国家のあり方に根本的な疑問を投げかけ、人間が本来持つべき愛と良心に基づいた社会の可能性を訴えた。彼の思想は過激でもあったため、ロシア政府や正教会からは異端視され、晩年は孤立しながらもその信念を曲げることはなかった。

トルストイの非戦思想は今日、国家権力と個人の良心との葛藤、暴力を正当化する社会構造の批判として読み直されている。戦争が絶えず続く現代にあって、彼の問い――「我々は本当に敵を愛しているか?」「殺さずに生きることは可能か?」――は、今なお重く響く。トルストイは、自らの思想と生き方を一致させようと苦闘し続けた「実践の人」であり、その姿勢が非戦思想の本質を体現していたと言えるだろう。

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