10月13~17日(教養講座:石破首相の戦後80年所感)

~~~ 長谷川塾メルマガ 2025年10月13日号(転送禁止)~~~

***デイ・ウォッチ(10~12日)

公明 自公の連立離脱表明 首相指名選挙へ各党の駆け引き活発に | NHKニュース  →日本政治史に刻まれる公明党の連立離脱。政治に「まさか」はつきものだが、公明党は本気で怒っていた。高市政権とは思想的にも人脈的にも重ならなかった。日本社会の多様化に伴って、政治は中長期的に再編過程に入っている。目先の駆け引きだけでなく、長期的な視点も持って注視したい。

立民、公明取り込みへ働き掛け 国民民主、連立入り否定的:時事ドットコム →首相指名選挙が一気に流動化してきた。高市陣営は動きが鈍そうで、野党がまとまれば政権交代も可能になっている。政治の混迷はバラバラの野党にも大きな責任がある。自党より日本の未来を見据え、小異を捨てて大同につけるかどうか。首相候補に急浮上した玉木氏の大局観と柔軟な覚悟が問われている。こちらの「まさか」はあるか。

石破首相、退任前に執念 保守派に配慮「謝罪」なし―戦後80年所感:時事ドットコム →石破首相が、戦後80年の所感を発表した。退任前に妥当かという議論はあるが、内容は常識的で良識的だ。先の戦争は日本の歴史で最大の痛恨事。「戦争を再度起こさない」というメッセージについて、考える材料を提供している。今週の教養講座で全文を紹介する(下記参照)。

アメリカ トランプ大統領 中国に100%の追加関税表明 米中対立に懸念も | NHKニュース  →トランプ大統領が中国に100%の追加関税をかけると発表した。レアアースの輸出強化への対抗措置で、今月のAPECでの首脳会談にも消極的な姿勢を示した。お決まりの脅しか、ディールの始まりか、本格的な対立に発展するのか。NY株は下落した。14日の東京株は政局不安もあって暴落必至。

ドジャース リーグ優勝決定シリーズ進出  佐々木が勝利に貢献 | NHKニュース  CS パ・リーグ 日本ハムがオリックスに勝利  | NHKニュース  CS セ・リーグ DeNAが巨人にサヨナラ勝利 | NHKニュース  →日米で野球のポストシーズンが熱い。ドジャースの佐々木は突如、ヒーローになった。一時は帰国説までささやかれたが、今や全米注目だ。パは日本ハム、セはDeNAが、劇的な逆転でファイナルに進出。日ハムはソフトバンクへのリベンジなるか。DeNAは2年連続の下剋上か。日米とも話題満載だ。

*** 「今日の名言」

◎谷村新司(シンガーソングライター。2023年10月8日死去、74歳)

「鳥は飛び立つ時、向かい風に向かって飛ぶ」 「カッコつけなくなると、人ってすごくチャーミングになれると思う」 「過去はいい。人間にあるのは今だけ」 「人生と仕事は切り離すことができません。生活するためには働かなくてはいけない。それも何十年という永きにわたって。だからこそやりたいことを仕事にするべきではないでしょうか」 「どんな場所にいたって不安はある。それなら自分のやりたい場所で、夢を追いかける」 「自分のやりたいことを行動に移すかどうか。自分で答えを出すしかない。冷たいようですが、気持ちが何かに頼っていると、うまくいかなくなったとき、絶対に誰かのせいにしてしまいます」 「自分がやりたいから引き受ける。自分自身が幸せを感じられることを仕事にする。本来仕事とはそういうものではないでしょうか」 「自分を信じて動いてみる。天命と感じたものに、素直に従う。それは、とても大切なことです」 「ブレイクできたアーチストとそうでないアーチストの違いは何か。それは意志です」

*** 今週の教養講座(石破首相の所感①)

 石破首相が11日、戦後80年の節目にあわせた所感を発表しました。アジア太平洋戦争は、日本という国が初めて存亡の危機に至った事態です。今の国際秩序は第二次世界大戦の結果によって形づくられています。こうした歴史は現代人の基本的教養でしょう。所感は、戦争に至った要因について、憲法、政府、議会、メディアのあり方など多角的にまとめています。日本人へのメッセージにもなっています。全文を紹介します。

戦後 80年に寄せて  (はじめに)  先の大戦の終結から、80年が経ちました。この 80年間、我が国は一貫して、平和国家として歩み、世界の平和と繁栄に力を尽くしてまいりました。今日の我が国の平和と繁栄は、戦没者を始めとする皆様の尊い命と苦難の歴史の上に築かれたものです。

私は、3月の硫黄島訪問、4月のフィリピン・カリラヤの比島戦没者の碑訪問、6月の沖縄全戦没者追悼式出席及びひめゆり平和祈念資料館訪問、8 月の広島、長崎における原爆死没者・犠牲者慰霊式出席、終戦記念日の全国戦没者追悼式出席を通じて、先の大戦の反省と教訓を、改めて深く胸に刻むことを誓いました。

これまで戦後 50年、60年、70年の節目に内閣総理大臣談話が発出されており、歴史認識に関する歴代内閣の立場については、私もこれを引き継いでいます。過去3度の談話においては、なぜあの戦争を避けることができなかったのかという点にはあまり触れられておりません。戦後 70年談話においても、日本は「外交的、経済的な行き詰まりを、力の行使によって解決しようと試みました。国内の政治システムは、その歯止めたりえなかった」という一節がありますが、それ以上の詳細は論じられておりません。

国内の政治システムは、なぜ歯止めたりえなかったのか。第一次世界大戦を経て、世界が総力戦の時代に入っていた中にあって、開戦前に内閣が設置した「総力戦研究所」や陸軍省が設置したいわゆる「秋丸機関」等の予測によれば、敗戦は必然でした。多くの識者も戦争遂行の困難さを感じていました。

政府及び軍部の首脳陣もそれを認識しながら、どうして戦争を回避するという決断ができないまま、無謀な戦争に突き進み、国内外の多くの無辜の命を犠牲とする結果となってしまったのか。

米内光政元総理の「ジリ貧を避けようとしてドカ貧にならぬよう注意願いたい」との指摘もあった中、なぜ、大きな路線の見直しができなかったのか。戦後 80年の節目に、国民の皆様とともに考えたいと思います。

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~~~ 長谷川塾メルマガ 2025年10月14日号(転送禁止)~~~

***デイ・ウォッチ(13日)

ガザ地区 ハマス拘束の人質 生存者20人全員を解放 2年余り拘束 | NHKニュース   →ハマスが生存している人質20人全員を解放した。今後は和平計画の第2段階に入る。ハマスは武装解除に反対しており、難航も予想される。トランプ大統領がイスラエルを訪問し、議会で「新たな中東の歴史的夜明け」と演説。ガザ戦闘は新しい局面に入った。

立・国、首相指名巡り党首会談へ 14日にも幹事長協議:時事ドットコム 決選投票、野党連携否定せず 公明の西田幹事長:時事ドットコム →連休が明けるきょうから、首相指名に向けた政局が本格化する。最大の焦点は、野党共同の候補を決められるかどうか。国民民主党・玉木代表の政治家としての覚悟、公明の動向に注目が集まる。細川政権樹立の時は山岸・連合会長というフィクサーがいたが、今回はどうか。共闘不発なら、高市・単独少数与党がスターとする。与野党とも正念場だ。高市総裁は連休中、議員宿舎にいて、「X」に投稿していた。

大阪・関西万博が閉幕 最後まで楽しもうとする人で混雑 | NHKニュース  →大阪・関西万博が閉幕した。最初は盛り上がりに欠けたが、中盤から追い上げて2500万人が来場。関西とそれ以外では情報量が数倍違ったようで、リピーターが増えた。気持ち悪かった「みゃくみゃく」も大人気となった。心理学で「単純接触効果」というらしい。「分断より交流、対立より寛容」のメッセージを発信したと世界にアピールしたい。

トランプ氏は平和に尽力 「ノーベル賞委の権威失墜」―プーチン氏:時事ドットコム →プーチン大統領がノーベル平和賞を熱望していたトランプ大統領について「彼は複雑かつ数十年間にわたる危機の解決に尽力している」と持ち上げた。トランプ大統領は「プーチン大統領よ、ありがとう」とSNSに投稿した。2人は最近、仲がよくないはず。平沼首相ではないが、国際情勢は「複雑怪奇」だ。

小川前橋市長「市のため働きたい」 市民対話集会に出席:時事ドットコム 伊東市議選が告示 市長、不信任受け解散―静岡:時事ドットコム →前橋市長は市民集会に出席し、「市民のために働きたい」と続投に意欲を示した。伊東市議選が告示された。市長の不信任に反対する議員は1人にとどまり、市長が失職する公算が確実になった。2市長の振る舞いがしばらく注目されそうだ。

*** 「今日の名言」

◎三浦綾子(小説家。1999年10月12日死去、77歳)

「なぜ私たちは不満を後回しにし、感謝すべきことを先に言わないのだろう」 「苦難の中でこそ、人は豊かになれる」 「つまずくのは恥ずかしいことじゃない。立ち上がらないことが恥ずかしい」 「私たちは、毎日生きています。誰かの人生を生きているわけではないのです。自分の人生を生きているのです」 「秀れた人間というのは、他の人間が愚かには見えぬ人間のことだろう」 「やれるかも知れないと思った時、自分でも気づかなかった力が出てくるものだ。初めから、できないと言えば、できずに終わる」 「人間は弱い者である。たとえ幾多の才があっても、大きな意欲があっても、ダメな奴と言われれば、たちまちしぼんでしまう」 「相手の一言によって生きる力を与えられる」 「少なくとも、人間たる者は、医者になるとか、政治家になるとかいう目標よりも、どんな生き方の医者になりたいとか、どんな生きかたの政治家になりたいかを問題にすべきではないだろうか」

*** 今週の教養講座(石破首相の所感②)

(大日本帝国憲法の問題点)   まず、当時の制度上の問題が挙げられます。戦前の日本には、政治と軍事を適切に統合する仕組みがありませんでした。大日本帝国憲法の下では、軍隊を指揮する権限である統帥権は独立したものとされ、政治と軍事の関係において、常に政治すなわち文民が優位でなくてはならないという「文民統制」の原則が、制度上存在しなかったのです。内閣総理大臣の権限も限られたものでした。帝国憲法下では、内閣総理大臣を含む各国務大臣は対等な関係とされ、内閣総理大臣は首班とされつつも、内閣を統率するための指揮命令権限は制度上与えられていませんでした。

それでも、日露戦争の頃までは、元老が、外交、軍事、財政を統合する役割を果たしていました。武士として軍事に従事した経歴を持つ元老たちは、軍事をよく理解した上で、これをコントロールすることができました。丸山眞男の言葉を借りれば、「元老・重臣など超憲法的存在の媒介」が、国家意思の一元化において重要な役割を果たしていました。元老が次第に世を去り、そうした非公式の仕組みが衰えたのちには、大正デモクラシーの下、政党が政治と軍事の統合を試みました。

第一次世界大戦によって世界に大きな変動が起こるなか、日本は国際協調の主要な担い手の一つとなり、国際連盟では常任理事国となりました。1920年代の政府の政策は、幣原外交に表れたように、帝国主義的膨張は抑制されていました。1920年代には、世論は軍に対して厳しく、政党は大規模な軍縮を主張していました。軍人は肩身の狭い思いをし、これに対する反発が、昭和期の軍部の台頭の背景の一つであったとされています。

従来、統帥権は作戦指揮に関わる軍令に限られ、予算や体制整備に関わる軍政については、内閣の一員たる国務大臣の輔弼事項として解釈運用されていました。文民統制の不在という制度上の問題を、元老、次に政党が、いわば運用によってカバーしていたものと考えます。

(政府の問題)   しかし、次第に統帥権の意味が拡大解釈され、統帥権の独立が、軍の政策全般や予算に対する政府及び議会の関与・統制を排除するための手段として、軍部によって利用されるようになっていきました。政党内閣の時代、政党の間で、政権獲得のためにスキャンダル暴露合戦が行われ、政党は国民の信頼を失っていきました。1930 年には、野党・立憲政友会は立憲民政党内閣を揺さぶるため、海軍の一部と手を組み、ロンドン海軍軍縮条約の批准を巡って、統帥権干犯であると主張し、政府を激しく攻撃しました。政府は、ロンドン海軍軍縮条約をかろうじて批准するに至りました。

しかし、1935年、憲法学者で貴族院議員の美濃部達吉の天皇機関説について、立憲政友会が政府攻撃の材料としてこれを非難し、軍部も巻き込む政治問題に発展しました。ときの岡田啓介内閣は、学説上の問題は、「学者に委ねるより外仕方がない」として本問題から政治的に距離を置こうとしましたが、最終的には軍部の要求に屈して、従来通説的な立場とされていた天皇機関説を否定する国体明徴声明を2度にわたって発出し、美濃部の著作は発禁処分となりました。このようにして、政府は軍部に対する統制を失っていきます。

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~~~ 長谷川塾メルマガ 2025年10月15日号(転送禁止)~~~

***デイ・ウォッチ(14日)

立民 維新と国民に首相指名選挙で連携求める あすにも党首会談 | NHKニュース →時々刻々と変わる近来にない大政局。予断を許さない。当面の焦点は野党の統一候補を決められるか。立憲、維新、国民の党首がきょう会談する。立憲・野田氏が、政策の一致を前面に出す国民・玉木氏を説得できるかどうか。玉木氏は立憲より自民志向のようだが。ここに来て公明が野党色を強めており、3党の協議に影響を与える可能性もある。政局の終点は21日に決まった →新首相、21日選出へ 臨時国会召集、自民が伝達:時事ドットコム 

自民 高市総裁が首相指名選挙に協力呼びかけ 両院議員懇談会 | NHKニュース →自民党は両院議員懇談会でガス抜きをした。高市首相を目指して動く方針だが、今は野党の動き待ち。執行部は野党とのパイプが細いので、無理に野党と連携するより、解散総選挙で保守派を引き戻す主戦論が台頭する可能性もある。石破首相を続投させる「総総分離案」も一部にある。

東京株、1241円安 政局不透明に、米中対立再燃も:時事ドットコム →高市トレードが逆回転した。東京株は終値で1241円安。政局不安に米中対立も加わった。ガザ和平は材料にならなかった。円安に傾いていた為替も円高に振れた。市場はしばらく迷走しそうで、底が見えるまでには時間がかかりそうだ。

サッカー日本代表 ブラジルに歴史的な初勝利 14回目の対戦で  | NHKニュース →日本が14回目の対戦でブラジルを初めて破った。歴史的勝利。前半に2点先行されたが、後半で3点あげてひっくり返した。かつてなら考えられない逆転劇だ。来年はワールドカップがあり、森保ジャパンへの期待が高まる。ブラジルの監督は「日本は非常にすばらしい強いチームだ。後半は前線からプレスをかけられて攻撃の組み立てが困難だった」とコメントした。

長野 中野市の警察官ら4人殺害事件 34歳被告に死刑判決 地裁 | NHKニュース →2023年5月、長野県で起きた4人殺害事件で、34歳の被告に死刑判決が出た。「1人ぼっち」と悪口を言われていると妄想し、女性2人を刺し、駆けつけた警察官2人を猟銃で撃った。弁護側は責任能力が弱かったと主張したが、認められなかった。判決言い渡しの際、被告は前を向いたまま動かず、動揺した様子はなかったという。

“日本一短い祭り” 塩嶺御野立記念祭 長野 岡谷 | NHKニュース | 長野県 →閑話休題。長野県に日本一短い祭りがある。15秒で終わるという。

*** 「今日の名言」

◎日蓮(鎌倉時代の僧。1282年10月13日死去、60歳)

「冬は必ず春となる。昔から冬が秋に戻ったためしはない」 「禍(わざわい)は口より出でて、身を滅ぼす」 「命とは、人間にとって最も大切な第一の宝である。一日でもこれを延ばすことができるなら、千万両の金(こがね)より大変な価値がある」 「正月一日は、日の始まりであり、月の始まりであり、年の始まりであり、春の始まりである」 「人に物をほどこせば、我が身のためになる」 「現世の出来事に一喜一憂しがちだが、それよりも、人としての正しい生き方や素直な気持ちを持つことができるよう、常に互いに励まし合いながら、感謝を忘れることなく、後の世の救済を祈ることが重要だ」 「この世に生を受けたものすべてが尊敬をしなければならないものが三つある。主と、師と、親である」 「人の一生とはすべて夢の中のことであるから、明日に期待しないことだ」 「死ぬ瞬間のことを考えれば、やるべきことが見えてくる。まず臨終のことを習い、その後にほかのことを習うべし」

*** 今週の教養講座(石破首相の所感③)

(議会の問題)   本来は軍に対する統制を果たすべき議会も、その機能を失っていきます。その最たる例が、斎藤隆夫衆議院議員の除名問題でした。斎藤議員は 1940 年 2 月 2 日の衆議院本会議において、戦争の泥沼化を批判し、戦争の目的について政府を厳しく追及しました。いわゆる反軍演説です。陸軍は、演説は陸軍を侮辱するものだとこれに激しく反発し、斎藤議員の

辞職を要求、これに多くの議員は同調し、賛成 296票、反対 7票の圧倒的多数で斎藤議員は除名されました。これは議会の中で議員としての役割を果たそうとした稀有な例でしたが、当時の議事録は今もその 3分の 2が削除されたままとなっています。

議会による軍への統制機能として極めて重要な予算審議においても、当時の議会は軍に対するチェック機能を果たしていたとは全く言い難い状況でした。1937年以降、臨時軍事費特別会計が設置され、1942 年から 45 年にかけては、軍事費のほぼ全てが特別会計に計上されました。その特別会計の審議に当たって予算書に内訳は示されず、衆議院・貴族院とも基本的に秘密会で審議が行われ、審議時間も極めて短く、およそ審議という名に値するものではありませんでした。

戦況が悪化し、財政がひっ迫する中にあっても、陸軍と海軍は組織の利益と面子をかけ、予算獲得をめぐり激しく争いました。加えて、大正後期から昭和初期にかけて、15年間に現役首相 3人を含む多くの政治家が国粋主義者や青年将校らによって暗殺されていることを忘れてはなりません。暗殺されたのはいずれも国際協調を重視し、政治によって軍を統制しようとした政治家たちでした。五・一五事件や二・二六事件を含むこれらの事件が、その後、議会や政府関係者を含む文民が軍の政策や予算について自由に議論し行動する環境を大きく阻害したことは言うまでもありません。

(メディアの問題)  もう一つ、軽視してはならないのはメディアの問題です。1920年代、メディアは日本の対外膨張に批判的であり、ジャーナリスト時代の石橋湛山は、植民地を放棄すべきとの論陣を張りました。しかし、満州事変が起こった頃から、メディアの論調は、積極的な戦争支持に変わりました。戦争報道が「売れた」からであり、新聞各紙は大きく発行部数を伸ばしました。1929年の米国の大恐慌を契機として、欧米の経済は大きく傷つき、国内経済保護を理由に高関税政策をとったため、日本の輸出は大きな打撃を受けました。

深刻な不況を背景の一つとして、ナショナリズムが昂揚し、ドイツではナチスが、イタリアではファシスト党が台頭しました。主要国の中でソ連のみが発展しているように見え、思想界にお

いても、自由主義、民主主義、資本主義の時代は終わった、米英の時代は終わったとする論調が広がり、全体主義や国家社会主義を受け入れる土壌が形成されていきました。こうした状況において、関東軍の一部が満州事変を起こし、わずか 1年半ほどで日本本土の数倍の土地を占領しました。新聞はこれを大々的に報道し、多くの国民はこれに幻惑され、ナショナリズムは更に高まりました。

日本外交について、吉野作造は満州事変における軍部の動きを批判し、清沢洌は松岡洋右による国際連盟からの脱退を厳しく批判するなど、一部鋭い批判もありましたが、その後、1937年秋頃から、言論統制の強化により政策への批判は封じられ、戦争を積極的に支持する論調のみが国民に伝えられるようになりました。

(情報収集・分析の問題)  当時、政府を始めとする我が国が、国際情勢を正しく認識できていたかも問い直す必要があります。例えば、ドイツとの間でソ連を対象とする軍事同盟を交渉している中にあって、1939年 8月、独ソ不可侵条約が締結され、ときの平沼騏一郎内閣は「欧州の天地は複雑怪奇なる新情勢を生じた」として総辞職します。国際情勢、軍事情勢について、十分な情報を収集できていたのか、得られた情報を正しく分析できていたのか、適切に共有できていたのかという問題がありました。

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~~~ 長谷川塾メルマガ 2025年10月16日号(転送禁止)~~~

***デイ・ウォッチ(15日)

自民 連立も視野にきょうから維新と政策協議へ 国民にも連携呼びかけ | NHKニュース  →混沌の馬群から維新が頭1つ抜け出し、高市氏の逃げ切りが固まったか。自公連立時代は、大阪で公明と激しく対立する維新が後退し、国民が一歩リード。しかし、公明の連立離脱で、維新が浮上。党首会談を経て、連立協議に入るという。維新は「野党はダメや。自民と大阪副首都やろや」と考えたか。首相指名は22日以降になった。今は第3コーナーあたり。

立憲民主党 日本維新の会 国民民主党 党首会談 首相指名で協議継続 | NHKニュース  →注目された野党3党首の会談。「まさか」はなく、継続協議になった。立憲は人気も腕力も弱い。玉木氏は自民党がいいようだ。年収の壁などを掲げて突き上げているのが性に合っているのだろう。2年限定で、政治改革・物価高対策の野党統一政権を作れば、日本の改革が進むと思うが、どの党も自己愛が強い。

ハマス、新たに4遺体引き渡し 1人は「別人」、イスラエル反発も:時事ドットコム →ハマスは生存している人質全員を解放したが、亡くなった遺体の引き渡しも進めている。戦闘で荒廃して遺体収容は難航。引き渡した4遺体も1人は別人だとイスラエルが反発している。戦争はどこまでいっても悲惨だ。

国立競技場の新しい呼び名「MUFGスタジアム」に | NHKニュース  →国立競技場の名称が「MUFGスタジアム」に決まった。三菱UFJフィナンシャルグループが命名権を取得したためだが、「MUFG」はあまり定着していない。東京スタジアム(調布市)の呼び名は「味の素スタジアム」。味の素はなじみ深い。「三菱スタジアム」ならスッキリするが、旧UFJ銀行系が反発するか。

入居女性2人血まみれ、死亡 高齢者施設、元職員の男逮捕―埼玉県警:時事ドットコム →埼玉県鶴ヶ島市の高齢者施設で2人の女性が殺された。昨年7月まで勤めていた22歳の男性を逮捕した。防犯カメラに映っており、施設の近くで見つかった。複数の刺し傷があった。殺したことは認めているが、背景や動機はまだわからない。

*** 「今日の名言」

◎やなせたかし(漫画家。2013年10月13日死去、94歳)

「アンパンマンのテーマソングは僕の作詞だが、幼児アニメーションのテーマソングとしては重い問いかけになっている。僕はお子様ランチや、子どもだましの甘さを嫌った」 「正義って、普通の人が行うものです。政治家や偉い人や強い人だけが行うものではない。普通の人が目の前で溺れる子どもを見て思わず助けるために川に飛び込んでしまうような行為をいうのです」 「なんのために生まれて、何をして生きるのか。アンパンマンのテーマソングであり、僕の人生のテーマソングである」 「なんのために生まれ、何をして生きるか。分からない人が結構いる。僕もそうだった」 「危難と地獄、辛酸のなかに重要な何かがある。長い人生では、1回や2回は地獄を通過したほうがかえっていいのかもしれません」 「正しいことをする場合、必ず報いられるかというと、そんなことはなくて、逆に傷ついてしまうこともあるんです。傷つくかもしれないけれど、それでもやらなければいけないときがある」

*** 今週の教養講座(石破首相の所感④)

(今日への教訓)  戦後の日本において、文民統制は、制度としては整備されています。日本国憲法上、内閣総理大臣その他の国務大臣は文民でなければならないと定められています。また、自衛隊は、自衛隊法上、内閣総理大臣の指揮の下に置かれています。内閣総理大臣が内閣の首長であること、内閣は国会に対して連帯して責任を負うことが日本国憲法に明記され、内閣の統一性が制度上確保されました。

さらに、国家安全保障会議が設置され、外交と安全保障の総合調整が強化されています。情報収集・分析に係る政府の体制も改善されています。これらは時代に応じて、更なる進展が求められます。政治と軍事を適切に統合する仕組みがなく、統帥権の独立の名の下に軍部が独走したという過去の苦い経験を踏まえて、制度的な手当ては行われました。他方、これらはあくまで制度であり、適切に運用することがなければ、その意味を成しません。

政治の側は自衛隊を使いこなす能力と見識を十分に有する必要があります。現在の文民統制の制度を正しく理解し、適切に運用していく不断の努力が必要です。無責任なポピュリズムに屈しない、大勢に流されない政治家としての矜持と責任感を持たなければなりません。自衛隊には、我が国を取り巻く国際軍事情勢や装備、部隊の運用について、専門家集団としての立場から政治に対し、積極的に説明し、意見を述べることが求められます。

政治には、組織の縦割りを乗り越え、統合する責務があります。組織が割拠、対立し、日本の国益を見失うようなことがあってはなりません。陸軍と海軍とが互いの組織の論理を最優先として対立し、それぞれの内部においてすら、軍令と軍政とが連携を欠き、国家としての意思を一元化できないままに、国全体が戦争に導かれていった歴史を教訓としなければなりません。 政治は常に国民全体の利益と福祉を考え、長期的な視点に立った合理的判断を心がけねばなりません。責任の所在が明確ではなく、状況が行き詰まる場合には、成功の可能性が低く、高リスクであっても、勇ましい声、大胆な解決策が受け入れられがちです。

海軍の永野修身軍令部総長は、開戦を手術にたとえ、「相当の心配はありますが、この大病を癒すには、大決心をもって、国難排除に決意するほかありません」、「戦わざれば亡国と政府は判断されたが、戦うもまた亡国につながるやもしれぬ。しかし、戦わずして国亡びた場合は魂まで失った真の亡国である」と述べ、東條英機陸軍大臣も、近衛文麿首相に対し、「人間、たまには清水の舞台から目をつぶって飛び降りることも必要だ」と迫ったとされています。このように、冷静で合理的な判断よりも精神的・情緒的な判断が重視されてしまうことにより、国の進むべき針路を誤った歴史を繰り返してはなりません。

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~~~ 長谷川塾メルマガ 2025年10月17日号(転送禁止)~~~

***デイ・ウォッチ(16日)

自民 維新 消費税の扱いなど残る論点で引き続き協議 | NHKニュース | 首相指名選挙、国会 →自民との連立に前向きな維新が、12項目の政策要求を自民党に提出した。企業団体献金の禁止や食料にかかる消費税の時限的廃止など自民が飲みにくい要求もあるが、どう決着するか。自民は入閣を打診した。維新執行部の本音は連立だが、支持者を納得させる「建前」を作る必要がある。17日も協議する。

立民 公明 献金の規制強化などで連携確認 17日に党首会談へ | NHKニュース →ここに来て立憲と公明が急接近し、「改革中道」の旗を立てようとしている。日本の政治が中長期的に最もスッキリするのは、中道(自民中道派、立憲、公明など)、右派(自民保守派、参政など)、左派(立憲左派、共産、れいわなど)の3潮流に分かれることではないか。維新と国民民主は、個人レベルで中道か右派に合流する。中道を核に、状況に応じて左右どちらかを取り込めばいいと思うが、どうだろうか。

柏崎刈羽6号機再稼働に向け1000億円拠出―東電HD社長:時事ドットコム →東京電力が柏崎刈羽原発の稼働に向けて、新潟県に1000億円規模の拠出を表明した。知事が再稼働に対する判断を近く示す見通しで、地元貢献をアピールして同意を得たい考え。原発の発電コストにこうした資金は含まれない。こうした原発の周辺コストはバカにならない。

大相撲 ロンドンで公演始まる 海外公演は20年ぶり | NHKニュース | 大相撲、イギリス →大相撲のロンドン公演が始まった。チケットは売り切れ、大人気。ちょんまげをした大男が体をぶつけ合うだけで、おもしろいようだ。着物姿の関取とビッグベンの光景も似合っている。海外公演は20年ぶり、ロンドンでは34年ぶり、来年はパリに行く。日本はスポーツ・文化大国だ。

生成AIで女性芸能人の性的偽画像 ネット陳列容疑、男逮捕―120万円売り上げか・警視庁:時事ドットコム →生成AIを悪用する者がこれから増えそうだ。画像や動画を本物そっくりに偽造できるから、ニーズさえあれば、何でもビジネスになってしまう。こまめな摘発と息の長い啓蒙が必要だろう。

*** 「今日の名言」

◎新渡戸稲造(教育者、思想家。1933年10月15日死去、71歳)

「あの黒雲の後ろには、太陽が輝いている」 「急がば回れだ。休むなかれ、急ぐなかれ」 「正しくあれ、恐れるなかれ」 「世の中には、譲っても差し支えないことが多い」 「勇気がある人というのは、心の落着きが姿にあらわれているものだ」 「武士道精神は、損得勘定をとらない。足りないことを誇りとする」 「武士道の究極の理想は平和である」 「人を泥棒と呼べば、彼は盗むであろう」 「とにかく物事には明暗の両方面がある。私は光明の方面から見たい。そうすれば、おのずから愉快な念が湧いてくる」 「武士の教育において守るべき第一の点は、品性の確立である」 「バックボーンたる精神を捨てれば、それに代わるものとして登場するのは、目に見える物質主義となるのは必然である」 「大学の教育となって来ると、単純なる良民を造るということだけでなく、良民のリーダーを造るべきである」 「自分が生まれてきたときより死に至るまで、周囲の人が少しなりともよくなれば、それで生まれた甲斐があるというものだ」

*** 今週の教養講座(石破首相の所感⑤)

政府が誤った判断をせぬよう、歯止めの役割を果たすのが議会とメディアです。国会には、憲法によって与えられた権能を行使することを通じて、政府の活動を適切にチェックする役割を果たすことが求められます。政治は一時的な世論に迎合し、人気取り政策に動いて国益を損なうような党利党略と己の保身に走っては決してなりません。使命感を持ったジャーナリズムを含む健全な言論空間が必要です。先の大戦でも、メディアが世論を煽り、国民を無謀な戦争に誘導する結果となりました。過度な商業主義に陥ってはならず、偏狭なナショナリズム、差別や排外主義を許してはなりません。安倍元総理が尊い命を落とされた事件を含め、暴力による政治の蹂躙、自由な言論を脅かす差別的言辞は決して容認できません。

これら全ての基盤となるのは、歴史に学ぶ姿勢です。過去を直視する勇気と誠実さ、他者の主張にも謙虚に耳を傾ける寛容さを持った本来のリベラリズム、健全で強靭な民主主義が何よりも大切です。ウィンストン・チャーチルが喝破したとおり、民主主義は決して完璧な政治形態ではありません。民主主義はコストと時間を必要とし、ときに過ちを犯すものです。だからこそ、我々は常に歴史の前に謙虚であるべきであり、教訓を深く胸に刻まなければなりません。

自衛と抑止において実力組織を保持することは極めて重要です。私は抑止論を否定する立場には立ち得ません。現下の安全保障環境の下、それが責任ある安全保障政策を遂行する上での現実です。同時に、その国において比類ない力を有する実力組織が民主的統制を超えて暴走することがあれば、民主主義は一瞬にして崩壊し得る脆弱なものです。一方、文民たる政治家が判断を誤り、戦争に突き進んでいくことがないわけでもありません。文民統制、適切な政軍関係の必要性と重要性はいくら強調してもし過ぎることはありません。政府、議会、実力組織、メディアすべてがこれを常に認識しなければならないのです。

斎藤隆夫議員は反軍演説において、世界の歴史は戦争の歴史である、正義が勝つのではなく強者が弱者を征服するのが戦争であると論じ、これを無視して聖戦の美名に隠れて国家百年の大計を誤ることがあってはならないとして、リアリズムに基づく政策の重要性を主張し、衆議院から除名されました。翌年の衆議院防空法委員会において、陸軍省は、空襲の際に市民が避難することは、戦争継続意思の破綻になると述べ、これを否定しました。

どちらも遠い過去の出来事ではありますが、議会の責務の放棄、精神主義の横行や人命・人権軽視の恐ろしさを伝えて余りあるものがあります。歴史に正面から向き合うことなくして、明るい未来は拓けません。歴史に学ぶ重要性は、我が国が戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に置かれている今こそ、再認識されなければなりません。戦争の記憶を持っている人々の数が年々少なくなり、記憶の風化が危ぶまれている今だからこそ、若い世代も含め、国民一人一人が先の大戦や平和のありようについて能動的に考え、将来に生かしていくことで、平和国家としての礎が一層強化されていくものと信じます。私は、国民の皆様とともに、先の大戦の様々な教訓を踏まえ、二度とあのような惨禍を繰り返すことのないよう、能う限りの努力をしてまいります。

令和7年10月10日  内閣総理大臣  石破 茂