10月20~24日(教養講座:小和田恆氏の戦後80年を問う)

~~~ 長谷川塾メルマガ 2025年10月20日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウォッチ(17~19日)
◎ドジャース ワールドシリーズへ 大谷翔平 3本塁打 勝利投手 | NHKニュース →大谷の勝利投手と3本塁打で、ドジャースがワールドシリーズ進出を決めた。空前絶後の二刀流の活躍で、シリーズMVPを獲得。100年後も語られる大谷物語だ。今回のような異次元を超える活躍を「オータニック」と呼ぼうとアメリカでは提唱されている。
◎自維連立、20日合意見通し 「閣外協力」で調整:時事ドットコム →自民党との連立について、維新は2人の代表に一任した。閣外協力の見通しだ。焦点の政治資金改革や国会議員の定数削減について、きょう協議をし、最終的な文言を決める。自民党の寝技に組み伏せられそうだ。
◎トランプ大統領がウクライナ ゼレンスキー大統領と会談 トマホーク供与せずの報道 | NHKニュース →焦点になっていたトマホークのウクライナ配備。トランプ大統領は当面、供与しない方針という。プーチン大統領と直前に電話会談したので、情が移ったか。トランプ大統領は中露に脅しをかけるが、トップ会談をするといつも軟化する癖がある。
◎静岡 伊東市 田久保市長 失職の公算大に 市議選の結果で | NHKニュース | 静岡県、選挙 →注目の2市長で動きがあった。伊東市議選(定数20)は、市長支持派の当選はわずか1。田久保市長の不信任・失職が決定的になった。前橋 小川市長 “公約実現が私の責任” 給与は50%減額の意向 | NHKニュース →前橋市長が続投を表明した。任期中の給与を50%減額する。組織のトップが誤解を招く行為をした場合、続投する限り、組織のイメージは毀損する。本来なら辞職すべきだ。今後は前橋市民の判断となる。
◎パ・リーグ CSファイナル第5戦 日本ハムが勝ち 両チーム3勝に | NHKニュース →日本のポストシーズンもヤマ場。パ・リーグは土壇場の日本ハムが3連勝し、きょうの最終戦で決まる。新庄・日ハムが悲願を達成するか。セ・リーグ 阪神がDeNAに勝利 2年ぶり日本S進出 | NHKニュース →セ・リーグは阪神の圧勝。「ダメ虎」はもはや昔話だ。
◎村山富市元首相 死去 101歳 社会党で委員長など務める | NHKニュース | 訃報 →村山元首相は戦後の転換点を象徴する人物となった。社会党委員長だったが、長く対決してきた自民党に担がれて「まさか」の首相就任。社会党左派で厳しいイメージがあったが、信頼できる人柄で親しまれた。自衛隊合憲、日米安保堅持を打ち出し、戦後革新の基本路線を変更し、社会党消滅につながった。一方で、村山談話を発表し、アジア各国への侵略を謝罪。在任中に阪神大震災、地下鉄サリン事件が起きた。記憶と歴史に残る政治家といえる。連立協議の渦中に亡くなったのも因縁か。
*** 「今日の名言」
◎西田敏行(俳優。2024年10月17日死去、76歳)
「演劇にふさわしい才能があるのかと、いつも自問自答していた」 「自分を欺いた芝居をしないというのは、僕が心がけているいちばんのこと」 「少年の頃から持っていた好奇心。楽しい事を考える好奇心だけは旺盛にあって。それが役者人生を支えてくれていると思います」 「釣りバカ日誌のハマちゃんとは22年間一緒に暮らしていて本当に楽しかったです。ハマちゃんを演じている間は、倒れたり病気になったりすることがなかったということを、僕の中で一つの誇りにしています」 「役者という仕事を生業としている以上、自分のいろいろな表現をみんなに見てもらい、感じてもらいたい。それが僕の唯一できる大震災被災者への最大限の応援、支援だと思っている」 「何事でも最初に持っていた熱い思いを忘れずに、きちんと自分の中で実現していくことが大事」 「お金は後からついてくると言ってあげたい。何を言われても夢を捨てないことだ」
*** 今週の教養講座(戦後80年を問う・小和田氏講演①)
今週は高市首相が誕生の見通しです。首相の重要な役割の1つに「外交・安全保障」があります。元外務事務次官で、国際司法裁判所長を務めた小和田恆氏が9月、日本記者クラブの「戦後80年を問う」企画で、日本外交の歴史や日本の進むべき道について、講演をしました。雅子皇后の父として知られ、現在93歳。終戦時は中学1年生で、外務省入省後は10年近く、日韓国交正常化交渉に携わりました。やや長くなりますが、要約を5回にわたって紹介します。戦後処理は今も続いていると言っています。
1.敗戦の歴史的評価と「戦後処理」の意味 毎年8月になると、テレビや新聞で沖縄戦、広島・長崎の原爆、東京大空襲など、国民の「受難(Victim)」を中心とした報道が多く見られる。国民がひどい目にあったことを記憶に残すことは大事だが、それだけでは全体像が見えない。被害があれば必ず加害がある。自らの犠牲を語るだけでなく、他者への加害をどう認識するか。それこそが成熟した戦後日本の課題だ。
近代日本は明治以来、西欧列強に伍するべく国家を近代化し、法制度や産業構造を整えた。日清・日露戦争に勝利したことで国際社会における地位を確立したが、その過程で「力による秩序」への傾斜が強まり、アジア諸国への侵出と支配を正当化していった。夏目漱石は「開化は借り物である」といったが、近代化が「模倣の成功」と「内省の欠如」を伴っていた。歴史学者・朝河貫一は、日本が列強に肩を並べたこと自体が、同時に危うい誘惑でもあったと振り返る。こうした「自己省察の芽」は戦前にも確かに存在したが、国家の声として定着する前に、戦争への加速がそれを押し潰した。
敗戦後、日本がまず直面したのは「戦後処理」という現実的かつ長期的な課題である。戦争で失われた生命と領土、そして国際的信用をどう取り戻すか。私も1950年代後半、外務省条約局に所属し、日韓国交正常化交渉に携わった。当時の交渉は、基本条約、請求権協定、地位協定、漁業協定、文化財返還、経済協力の6本柱で構成され、いずれも国と国の関係を法的に再構築する重い作業だった。文言の1つをめぐって数年単位の交渉が続き、最終的に1965年の国交正常化に至った。しかし、半世紀を経た今日に至っても、慰安婦問題や徴用工問題、歴史教科書問題などが再燃している。つまり、戦後処理は過去の一章として閉じられたわけではなく、世代を超えて更新され続ける「未完の課題」なのである。
この構造は韓国だけでなく、中国、東南アジア、ヨーロッパ、アフリカとの関係にも共通する。戦後日本が「被害の記憶」だけでなく「加害の記憶」を共有しようと努めるなら、相互理解の可能性は拡がる。1977年の福田ドクトリンが「心と心の触れ合いによる友好」を唱え、アジア諸国に非軍事・経済協力を約束したことは、その象徴であった。欧州との関係では、冷戦末期の1991年に「日・EC共同宣言」を締結し、アジアと欧州の価値を橋渡しする道を拓いた。また、アフリカでは1993年にTICAD(アフリカ開発会議)を立ち上げ、援助からパートナーシップへという理念転換を進めた。こうした外交の積み重ねは、「過去と向き合う努力」が「未来への協働」へと変わるプロセスであったといえる。
戦後処理は「終わった仕事」ではなく、「続いている仕事」だ。その本質は、条約や協定の署名ではなく、「過去をどう記憶し、未来へどう引き継ぐか」という社会的合意形成の過程にある。国家は条約で区切りをつけられても、人々の感情や記憶は線を引けない。だからこそ、被害と加害の双方を受け止め、世代を超えて伝える「記憶外交(diplomacy of remembrance)」が重要になる。ドイツのヴァイツゼッカー大統領が1985年に述べた「過去に目を閉ざす者は現在にも盲目である」という言葉を想起させる。戦争の記憶をただ痛みとして抱えるのではなく、他者の痛みを理解する倫理へと昇華させること。そこに日本外交の成熟が問われている。
この意味で、戦後処理とは「外交の終章」ではなく、「国家の成熟過程」である。条約・賠償・援助といった制度的な区切りの先に、人間的な和解の構築がある。日本の戦後外交は、まさにその長い坂道を上り続けている途上にあるのだ。
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~~~ 長谷川塾メルマガ 2025年10月21日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウォッチ(20日)
◎自民・維新 連立政権樹立で正式合意 高市総裁と吉村代表が文書に署名 | NHKニュース →自民と維新が連立政権に合意した。維新は「副首都構想が実現すれば、最悪解党してもいい」と考えているのだろう。定数削減などその他の合意文はあいまいで、実現は困難とみられる。両党とも「国家観が同じ」としきりに強調するが、国家より先に国民・社会があるはずだし、「人類益」という発想も必要だ。「国家」を過剰に強調する最近の一部風潮は視野が狭すぎないか。これまでにないタカ派政権だ。
◎石破内閣、21日総辞職 在職日数386日で幕:時事ドットコム →石破首相はきょう退任するが、在職は386日で、戦後36人中24位。菅首相の364日を上回った。高市首相は就任直後から組閣作業に入る。重要政策の大臣に誰を起用するか、自民有力者をどう処遇するか、女性は何人入閣するかなどが焦点。就任直後の支持率は常に高いが、その後、どうなるか。今後最大の関心事だ。
◎株価終値 初の4万9000円台 最高値更新 | NHKニュース →高市トレードが復活した。株価は5万円も視野に入ってきた。米国市場が堅調で、海外勢は「日本株は割安」と見て、買っている。連立政権の巧拙が出てくるのはこれから。ご祝儀相場の後には波乱がありそうだ。
◎ロシア側要求の受け入れ迫る トランプ氏、ゼレンスキー氏に―報道:時事ドットコム →トランプ大統領は、プーチン大統領から聞いた停戦条件を、ゼレンスキー大統領に受け入れを迫った。その際、終始罵倒していたという。条件は東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)の領土放棄。人権も尊厳も考慮せず、単なるディールとしかとらえていない。「王様」と独裁者の結託は恐ろしい。
◎アスクル、サイバー攻撃で出荷停止 無印良品、ロフトにも影響拡大:時事ドットコム →今度はアスクルが、身代金要求型ウイルス「ランサムウエア」のサイバー攻撃を受け、出荷停止となった。無印良品やロフトも請け負っており、影響は広がっている。便利な社会は、トラブルがあるともろい。アサヒビールHDもまだ正常化していない。身代金を払っているのだろうか。
*** 「今日の名言」
◎魯迅(中国の小説家。1936年10月19日死去、55歳)
「後ろをふり向く必要はない。あなたの前にはいくらでも道があるのだから」 「目的はただ1つしかない。前進することだ」 「自己満足しない人間の多くは、永遠に前進し、永遠に希望を持つ」 「天才なんかあるものか。僕は他人がコーヒーを飲んでいる時間に仕事をしただけだ」 「青年時代に悲観していてはいけない。徹底的に戦うのだ」 「君たちは生命の力にみちあふれている。深林に出会えば開いて平地にすることができる。荒野に出会えば樹木を植えることができる。砂漠に出会えば井戸を掘ることができる」 「思うに、希望とはもともとあるものとも言えぬし、ないものとも言えない。それは地上の道のようなものだ。もともと、地上には道はない。歩く人が多くなれば、それが道になる」 「生活がまず一番だ。人は生活しなければならない」 「私は沈黙している時、充実を覚える。口を開こうとすると、たちまち空虚を感じる」
*** 今週の教養講座(戦後80年を問う・小和田氏講演②)
2.国際秩序への復帰と日本の立ち位置の変化 敗戦によって国際社会から孤立した日本が再び世界に戻るまでには、長い道のりがあった。1933年の国際連盟脱退以降、日本は自ら国際秩序の外に身を置き、軍事的対抗と排外的ナショナリズムに傾斜した。敗戦後、占領期を経て国家主権を回復するまでの7年間は、いわば「国際社会に戻るための準備期間」であった。1956年の国際連合加盟は、その象徴的な瞬間である。ソ連の拒否権を回避するため、日ソ共同宣言が政治的条件として整えられ、日本は初めて「戦勝国の承認」を得て国際社会に正式復帰した。これは単なる外交的儀式ではなく、「日本がもはや世界秩序を壊す側ではなく、支える側に立つ」という明確な意思表明でもあった。
戦後の日本外交は、当初は安全保障上の制約の中で、経済成長を通じた「平和国家」としての信頼回復を目指した。アメリカの庇護の下で発展した戦後日本は、当初は受動的な存在にとどまっていたが、1960年代に入りOECD加盟、1964年の東京オリンピック開催を経て、経済的・技術的な影響力を国際社会に示すようになる。1970年代には、第一次石油危機やベトナム戦争後の国際不安定化のなかで、エネルギー・通商・金融政策の連携を目的とする先進国首脳会議(G7)に招かれた。1975年の第1回ランブイエ・サミットへの参加は、戦後日本が「世界の議論の場」に座るようになった象徴的な出来事である。
これは単なる「席への復帰」ではなく、「秩序を支える責任の自覚」である。すなわち、国際社会における地位とは、発言権ではなく、行動責任によって裏づけられるものだ。G7での議論は、もはやアメリカの同調者としてではなく、エネルギー・貿易・開発といった地球的課題に対して自らの見解を提示する機会であった。三木武夫・福田赳夫政権期には、国際会議での発言内容に「日本が世界公共財の一部を担う」という意識が芽生えた。これは“from participation to commitment”(参加から関与へ)の転換である。つまり、「国際社会の一員である」という受動的な立場から、「国際秩序を形づくる主体として責任を果たす」という能動的な立場への転換である。
1980年代以降、日本は経済大国として世界第2位のGDPを維持し、経済力による発言力を高めていく。しかし、経済的成功と外交的成熟は別の次元である。経済力が強まるほど、国際的責任は重くなる。湾岸戦争(1990-91)において日本は130億ドルの資金援助を行いながら、「血を流していない」という批判を浴びた。この経験は、日本の国際貢献の在り方を根本から問い直す契機となった。結果として1992年のPKO協力法制定につながり、自衛隊が国連平和維持活動に初めて参加する道が開かれた。これは憲法上の制約を維持しつつ、国際社会の一員として現実的に責任を果たす新しいモデルを模索した転機である。
経済成長率や人口規模で日本の衰退を語るのは表層的だ。むしろ、成熟した社会として非軍事的分野でどれだけの国際公共財を供給できるかが問われている。たとえば環境問題、エネルギー転換、感染症、教育、法制度支援など、日本が得意とする分野で世界の合意形成をリードすることこそが、21世紀の「秩序を支える外交」である。
戦後の日本外交を貫く軸は、①アメリカとの同盟関係、②アジアとの和解と協力、③国際機関との制度的連携の3本柱に整理できる。これらは単なる「政策」ではなく、「国際秩序の中での位置づけ」を定義する座標軸である。冷戦構造が崩れた今日、日本は「どの陣営に属するか」ではなく、「どのような原理を支えるか」という価値判断を迫られている。軍事的抑止の外側で、制度と信頼を積み重ねることが日本の持ち味であり、それは「静かな国際貢献」である。
戦後の日本外交は単なる「復帰」ではなく、自己更新の連続である。国際社会に戻るとは、単に席に着くことではなく、「その席に何を持ち込むか」を問われる行為である。世界が分断と不信の時代に再び入りつつある今こそ、日本はその問いに新たな答えを提示する責任がある。
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~~~ 長谷川塾メルマガ 2025年10月22日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウォッチ(21日)
◎第104代首相に自民 高市早苗総裁 衆参両院で首相指名 | NHKニュース →高市首相が誕生した。衆議院では1回目の投票で過半数を獲得した。閣僚は総裁選立候補者3人を起用。女性は2人にとどまった。これまではハト派の公明が一定のブレーキ役となったが、高市内閣のリベラル系は林総務相らわずかで、かつてなくタカ派色が強い。安倍首相時代の社会政策はリベラル色も強かった。高市カラーの強いタカ派内閣がどんな働きぶりをするか。大きな注目点だ。
◎高市内閣 新たに策定する経済対策のスピード感や実効性が課題 | NHKニュース →高市首相は記者会見で、まず経済対策に力を入れる方針を示した。物価高対策は緊急の課題で、イデオロギー色も薄い。ガソリン税の暫定税率の廃止、電気・ガス料金の補助、赤字経営の病院や介護施設への補助、中小企業支援の自治体向けの交付金拡充などが検討される見通し。手際が問われる。
◎日本初「首相の夫」に山本拓氏 「目立たず支える」―新政権:時事ドットコム →初の女性首相なので、夫である元衆院議員・山本択さんは初の「ファースト・ジェントルマン」となる。2004年、落選中の高市氏に「調理師免許を持っているので、一生おいしいものを食べさせる」と電話でプロポーズした。離婚、再婚を繰り返した。山本さんは脳梗塞を患い、高市首相がリハビリ生活を支える。
◎BS朝日の政治番組で「死んでしまえ、と言えば」発言 田原総一朗氏:朝日新聞 →田原総一朗氏が「あんなやつは死んでしまえ、と言えばいい」と発言した。高市氏に向けた発言に聞こえたが、本人は「野党に言った。申し訳なかった」と説明する。田原氏は91歳。生涯現役と言えば聞こえはいいが、何事も潮時がある。潔く引退することも人間の大切な生き方だ。
◎桑原志織さん4位入賞 日本人ピアニスト、2大会連続―ショパン・コンクール:時事ドットコム →ショパン・コンクールは5年に1回。前回は2位と4位だった。桑原さんは東京都出身の30歳。東京芸大を首席で卒業し、ベルリン芸術大大学院修了。2016年マリア・カナルス(スペイン)など計4つの国際コンクールでいずれも2位に輝いている。
◎「月曜から夜ふかし」に放送倫理違反 BPOが意見書公表:時事ドットコム →中国出身の女性が街頭インタビューで「中国ではカラスを食べる」と発言したが、実際は別の文脈で話した音声を日本テレビの番組ディレクターが恣意的に編集していた。これはアウトだ。発言を適切に編集することはメディアの基本中の基本でもある。外国人は最近、排斥の対象にもなりかねない。
*** 「今日の名言」
◎神風特攻隊に関する海外要人のことば(初出撃は19443年10月21日)
★ヘンリー・スティムソン(米陸軍長官)「(トルーマン大統領に対して)日本上陸計画を準備していますが、特攻が激しくなっており、この調子ではアメリカに数百万人の被害が出ます。天皇制くらい認めて、降伏勧告をすべきです」 ★ダグラス・マッカーサー(連合国軍最高司令官)「カミカゼは連合軍の海軍指揮官たちをかなりの不安に陥れ、艦艇が至るところで撃破された。空母群は搭載機を守るために使わなければならなくなったので、レイテの地上部隊を援護することに手が回らなくなってしまった」 ★アンドレ・マルロー(仏の作家、政治家)「日本は敗れはしたが、何ものにも代え難いものを得た。世界のどんな国でも真似できない神風特別攻撃隊である。彼らには権勢欲とか名誉欲などはかけらもなかった。祖国を憂える貴い熱情があるだけだった。代償を求めない純粋な行為、そこにこそ真の偉大さがある。人間はいつでも、偉大さへの志向を失ってはならないのだ」 ★ベルナール・ミロー(仏のジャーナリスト)「西洋文明では熟慮された計画的な死は、思いもつかない。我々の生活信条、道徳、思想といったものとまったく正反対で、西欧人にとって受け入れがたいものである」
*** 今週の教養講座(戦後80年を問う・小和田氏講演③)
3.冷戦の開幕と終焉が歴史的に示したもの 第二次世界大戦が終結した直後、国際社会は新しい秩序を構築しようとした。その中心に据えられたのが国際連合である。その理念は「多層的秩序(layered order)」である。1943年のテヘラン会談で、ルーズベルト、チャーチル、スターリンの3首脳が合意したのは、5大国(米・英・仏・ソ・中)が安全保障理事会常任理事国として世界の「警察官」となる構想であった。主権平等と内政不干渉というウェストファリア体制の原理を残しつつ、必要に応じて超える「調整的主権」の試みである。しかし、理想は早々に現実の壁に直面する。ソ連が東欧諸国に影響圏を拡げ、米国がマーシャル・プランで西側陣営を固めたことで、世界は再び対立軸へと分断された。これが冷戦の幕開けである。
冷戦下の国際秩序は、表面的には核抑止による「恐怖の均衡」で安定を保ったが、実質的には代理戦争とイデオロギー競争が世界各地に拡散した。国連安保理は米ソの拒否権行使によってしばしば機能不全に陥り、「世界政府」としての理想は遠のいた。この時代は、制度の形は整っても、正統性と実効性が乖離した時代だった。つまり、法の体系は整備されたが、現実の政治がそれを支えきれなかったのである。
それでも国際社会は、完全な破局を避ける知恵を働かせた。たとえばキューバ危機(1962)は、偶発的な核戦争寸前まで行きながら、最後の段階で「通信と交渉のルート」を維持したことで最悪を免れた。これは「理性による抑止の勝利」である。同時に、それは「軍事力では秩序をつくれない」という逆説を突きつけた事件でもあった。以後、米ソは直接衝突を避け、核兵器の制限やデタント政策を通じて「管理された対立」を模索する。国際法的にも、1968年の核拡散防止条約(NPT)や1975年のヘルシンキ最終文書が成立し、「共存のルールづくり」が進んだ。
しかし、この「安定した不安定」は永遠ではなかった。1989年のベルリンの壁崩壊とソ連邦の解体により、冷戦は静かに終わる。アメリカでは「自由主義の勝利」「歴史の終わり」(フランシス・フクヤマ)といった楽観論が広がった。だが、その見方は正しくない。ソ連の崩壊は「戦いの勝利」ではなく「システムの自壊」であり、自由主義が万能になったわけではない。むしろ、「正義の名を掲げる体制ほど危うい」という歴史の皮肉を再認識すべきだ。資本主義もまた絶対ではない。市場万能主義が格差や環境破壊を拡大させ、民主主義そのものの信頼を揺るがしているからである。
冷戦の終焉が示した最大の教訓は、「敵の消滅が平和を意味しない」ということだ。対立の構造が崩れた後に残ったのは、民族紛争、宗教対立、国家崩壊、難民問題など、多層的な不安定であった。世界は「国家間の戦争」から「国家内の戦争」へと重心を移し、国際法が想定していた秩序の枠組みそのものが揺らいだ。冷戦の終わりは、法と政治の再接続を迫る新しい出発点であった。つまり、国際法を理念の体系として保つだけでなく、現実の政治の中でどう運用し、いかに実効性を持たせるかという課題が改めて突きつけられたのだ。
この点で、日本には独自の使命がある。敗戦国として国際法の重要性を身にしみて理解し、かつ軍事的手段に頼らず平和を築いてきた経験をもつ日本は、法と現実の橋渡しを行う「制度の設計者」として貢献できる。たとえば、PKO、軍縮、環境条約、人権外交など、非軍事分野での制度構築において日本の果たしてきた役割は小さくない。冷戦後の多極化世界においては、軍事力や経済力だけでなく、「ルールづくり」の力が国家の影響力を決定づける。
冷戦の終焉とは、国家中心の秩序から人間中心の秩序への転換である。安全保障の焦点は、領土や主権よりも、人権、環境、貧困、教育、医療といった「人間の安全保障」へと移った。こうした価値の変化は、冷戦の勝者による単一の秩序ではなく、多元的な価値観の共存を前提とする「柔らかい国際秩序(soft order)」の始まりである。
つまり冷戦は、「力の均衡が秩序を生む」という古典的リアリズムの限界を露呈させ、国際社会が「共存の技術」と「制度の知恵」を磨く契機となった。日本はこの新しい時代において、現実主義の冷徹さと理想主義の倫理を両立させる知恵の仲介者たれと言いたい。冷戦の終焉は終わりではなく、国際秩序の成熟へ向かう長い助走の始まりだったのである。
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~~~ 長谷川塾メルマガ 2025年10月23日号(転送禁止)~~~
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***デイ・ウォッチ(22日)
◎退職代行「モームリ」運営会社を捜索 弁護士法違反疑い 警視庁 | NHKニュース | 東京都 →若手の転職時代を迎えて伸びている退職代行会社の「モームリ」が弁護士法違反の疑いで摘発された。報酬を得る目的で弁護士に対して業務をあっせんしたとされるが、転職者や弁護士ら関係者はだれも損をしない行為とも言える。摘発には転職抑制など別の意図があるのだろうか。
◎副大臣・政務官に「裏金」7人 高市首相が有言実行:時事ドットコム 裏金事件、今国会でも火種に 野党が「高市人事」問題視:時事ドットコム →副大臣・政務官が決まり、「裏金議員」が7人いた。高市首相は「適材適所」といい、適格の議員数が少ないという声も党内にあるようだが、石破内閣ではゼロだった。野党は、「自民党は政治とカネ問題に後ろ向きだ」と追及する方針。
◎トランプ大統領27~29日に来日…国賓に次ぐ「公式実務訪問賓客」として : 読売新聞 →政府はトランプ大統領の来日日程を発表した。27~29日の3日間で、国賓に次ぐ待遇。高市首相との会談は28日の見通し。高市首相は来年末までに「国家安全保障戦略」など安全保障関連の3文書の改定を目指し、防衛力の強化に取り組む考えを伝える方針という。
◎トランプ氏「無駄な会談望まず」 プーチン氏と対面先送りか:時事ドットコム →ウクライナ和平はプーチン大統領のペースで進んでいる。ハンガリーで米ロ首脳会談が予定されていたが、先送りのようだ。トランプ大統領はウクライナへのトマホーク供与で譲歩を迫る姿勢を見せたが、すぐに引っ込めてしまった。ディールでは、したたかなプーチンを崩せない。
◎「福井知事からセクハラ」県職員が通報 知事はメッセージ送信認める [福井県]:朝日新聞 →福井県・杉本知事(63)のセクハラメールが発覚した。詳細はプライバシーを理由に公表されていないが、今年4月に外部の相談窓口に通報があった。知事も不適切だったと認めている。旧自治省に入り、福井県の総務部長、副知事を務めた。なじみの職員だったのだろうか。
*** 「今日の名言」
◎アーノルド・トインビー(英の歴史家。1975年10月22日死去、86歳)
「熱意がない人間が、立派な仕事などできるわけがない」 「できるだけ遠い未来を考えて、人生を生きなさい」 「偉大なる才能は、試練によっていっそう鋭く育まれる」 「人間の運命は次に起こす行動によって、良くも悪くも変えることができる」 「現代人は何でも知っている。ただ、自分のことがよくわからないだけだ」 「ベストを尽くせばいい。それ以上のことなんて、誰にもできはしないのだから」 「人間はどうして有限のものばかりを追いかけてしまうのだろうか。もっと無限のものを追求する喜びを知るべきだ」 「人間の魂は、善と悪とが支配権を争って絶えず戦っている戦場である」 「日本人が歴史上残した最大の業績は、世界を支配していた西洋人が『不敗の神』ではない事を示した点である」 「第二次世界大戦において、日本人は日本のためよりも、むしろ戦争によって利益を得た国々のために、偉大な歴史を残した。それらの国々とは日本の掲げた短命な理想、大東亜共栄圏に含まれた国々である」
*** 今週の教養講座(戦後80年を問う・小和田氏講演④)
4.グローバル化の本質と日本の役割 「グローバル化」という言葉は、単なる経済現象としてではなく、人類史の転換点として捉えるべきだ。その核心は、地球という1つの生態系の中で、国家や民族がもはや切り離されて存在しえないという現実の自覚である。これまでのグローバル化論は、しばしば貿易自由化、物流・金融の統合、情報通信の高速化といった「利便の側面」に焦点を当ててきた。しかし、それはグローバル化の表層にすぎない。本質は「相互依存の深化」と「リスクの共有化」であり、それは人類が初めて「運命共同体としての地球社会」を意識せざるを得なくなった段階に入ったことを意味する。
その典型例が気候変動と感染症である。地球温暖化は特定の地域の問題ではなく、北極の氷の融解、海面上昇、極端気象を通じて、国境を越えて人間社会の存立を脅かしている。新型コロナウイルスのパンデミックも同様で、国家の境界を軽々と超えて拡散し、経済と医療の両面で世界を同時に揺さぶった。これらの現象が示すのは、国家中心の安全保障や経済競争の発想では対処できない課題が急増しているということである。すなわち、地球規模の公共財(global public goods)をどう管理し、各国の利害をどう調整するかが、21世紀の国際秩序を左右する。
だが現実には、グローバル課題に対する国際的合意はきわめて脆弱だ。京都議定書(1997)やパリ協定(2015)は一定の枠組みを整えたが、努力目標にとどまり、強制力を欠いている。先進国と途上国の間には、歴史的排出量をめぐる「気候正義(climate justice)」の対立がある。先進国は脱炭素を唱えつつ、過去の温室効果ガス排出の責任を十分に果たしていない。途上国は「成長の機会を奪うな」と訴える。公平性と実効性をどう両立させるか。この難題を解く鍵は、科学技術の力と、合意形成の知恵を併せ持つ国がどれだけ存在するかにかかっている。
ここに日本の独自の使命がある。日本は、軍事的強国ではなく、技術・制度・信頼で世界に貢献してきた国である。原子力と再生可能エネルギー、蓄電技術、水素・アンモニア燃料、そして核融合など、異なるエネルギー源を現実的に組み合わせ、移行期の社会構造をどう設計するか。日本はこれを「データと実績」に基づいて世界に示すことができる数少ない国の一つだ。環境・防災・医療・教育・食料といった分野で、制度と科学を統合する政策設計力こそが日本の強みであり、これを国際社会に還元することが「非軍事のリーダーシップ」である。
グローバル化を支えるのは信頼の技術である。経済活動が国境を越え、情報が瞬時に共有される時代において、国際秩序の安定を左右するのは最終的に「信頼の質」だ。日本は戦後長く、軍事ではなく経済・文化・技術協力を通じて信頼を積み上げてきた。この「信頼資本(trust capital)」を外交にどう転用するかが次の課題である。具体的には、科学的データに基づく合意形成、法制度の透明性、技術移転の公平性など、「説得による影響力」を確立することが求められている。
グローバル化は「価値観の多様化」とは矛盾しない。多様な文化や宗教、発展段階が並存する中で、普遍的な原則を共有するには「共通の語彙」と「調整の制度」が必要になる。国連やG20のような多国間枠組みだけでなく、地域連携、企業連携、市民社会の動きも含めた「ネットワーク型外交」が重要になる。日本はアジアと欧州、米国をつなぐ中間的位置にあり、異なる価値観を調停する「媒介国家」としての潜在力を持つ。これは「合意を紡ぐ文化的力」だ。日本社会が持つ協調性や慎重な議論の積み重ねは、グローバル時代の新しい外交資源になりうる。
総じて、グローバル化の時代における日本の役割は、「右肩下がりの国」ではなく、「成熟社会としての知恵の供給国」である。経済規模の縮小を悲観するよりも、知識・制度・倫理・技術を統合し、地球規模の問題解決を設計できる国こそが、真の意味での「先進国」である。軍事的競争の時代を超えて、科学技術と説得を武器に、国際社会の共通課題を解く仲介役——その道を日本が歩むとき、戦後80年の成熟は初めて実を結ぶだろう。
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~~~ 長谷川塾メルマガ 2025年10月24日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウォッチ(23日)
◎高市早苗首相の18閣僚への指示書、全文明らかに – 日本経済新聞 →高市首相が閣僚に出した指示書が明らかになった。全員向けと各閣僚向けに分かれており、個別の指示書は極めて異例。勉強好きな首相の一面を示しているが、盛りだくさんですべて実行するにはハードルが高い。全員向けの筆頭項目は「強い経済の実現」で、「物価高対策、経済安全保障の強化、食料安全保障、エネルギー・資源安全保障の確立、国土強靱化、サイバーセキュリティー対策の強化、健康医療安全保障の構築、人材総活躍の環境づくりに取り組む」となっている。民間の活力を引き出すソフトな政策ではなく、安全保障のオンパレード。要塞国家のようなハードメニューだ。今日午後、所信表明演説をする。
◎企業献金、受け皿限定の法案提出へ 国・公合意、国会審議の焦点に:時事ドットコム →企業献金の受け皿を限定する法案を野党が提出する。自民党は強く反対しており、今後の焦点だ。維新は衆議院の定数削減にかじを切って最優先事項にしているが、影響の大きい公明党をはじめ立憲民主党などは反発している。臨時国会では、政治改革が与野党政局の軸になりそうだ。
◎トランプ大統領“米ロ首脳会談は中止” 米財務省はロシア2大石油会社に制裁 | NHKニュース →米国政府はロシアの2大石油会社に経済制裁を科したと発表した。米国の資産凍結や取引の原則禁止が盛り込まれている。同盟国だけでなく、中国にも同調を呼びかける。和平交渉に消極的なプーチン大統領への圧力だが、今回の効果はどうか。
◎国分太一氏 “日本テレビの対応が不適切” 日弁連に人権救済を申し立て | NHKニュース →元TOKIOの国分氏が、6月に日本テレビの番組を降板させられた理由の説明が不十分として、日弁連に人権救済を申し立てた。日テレはコンプライアンス上の問題行為があったとしたが、プライバシーを理由に詳細を一切明らかにせず、違和感が残った。日テレは国分氏の今回の行動に抗議するコメントを出した。かつて貢献した出演者でもあり、もっと誠意を持って対応した方がいいだろう。
◎プロ野球 ドラフト会議2025【全名簿】佐々木麟太郎はソフトバンク 立石正広(創価大)は阪神が交渉権 | NHKニュース →恒例のプロ野球ドラフト会議。1位指名で競合したのは3人。注目は花巻東高からスタンフォード大に進んだ佐々木で、ソフトバンクが交渉権を獲得した。来年7月にある米大リーグのドラフト対象になっており、日米で交渉が競合する可能性がある。「世界の王貞治」が説得する。
◎天皇ご一家 東京都慰霊堂を訪れ 東京大空襲などの犠牲者を慰霊 | NHKニュース →天皇一家が関東大震災や東京大空襲の犠牲者を慰霊する東京都慰霊堂(墨田区)を訪れた。戦後80年の今年、天皇は沖縄や広島など戦争の記憶が深い各地を訪れている。戦地や被災地を訪れる天皇一家の行動は、日本の分断を和らげている。
*** 「今日の名言」
◎ジョン・マッカーシー(米の科学者。人工知能の父。2011年10月24日死去、84歳)
「失敗する意志さえあれば、障害を見つけることができる」 「AIが機能するようになれば、もう誰もそれをAIとは呼ばないだろう」 「独善は、喫煙よりも多くの人々を殺してきた。独善の原因は、知性の欠如や情報の欠如の問題であることは滅多にない」 「衰退する組織は、しばしば不適格者を生き永らえさせる」 「人間はパンだけでは生きられないと言われている。パンだけで生きられない人は、喧嘩の結果として他の人を殺してしまうことが多いため、不幸なことになる」 「数学を拒否する人は、無意味なことを語る運命にある」 「北半球では人々が飲み物を反時計回りにかき混ぜるのに対して、同じ人々が南半球を訪れると、飲み物を時計回りにかき混ぜることに気付く人は、ほとんどいない」 「平和運動は平和のための大きな力だ。だが、世界で最も戦闘的な人々の中には、平和運動を通じて攻撃を実行する人もいる」 「リサイクルに関する会議に出席しないという私の方針は、リサイクルを実行するよりも多くのエネルギーを節約できる」
*** 今週の教養講座(戦後80年を問う・小和田氏講演⑤)
5.国際法と国際政治の接点――法の正義と現実の力をどう調和させるか 質疑応答のテーマは、「法と政治の関係」「戦争と抑止」「民主主義の行方」「隣国との関係」「日本の憲法と国際法」など多岐にわたった。共通する根底の問題は、国際法の正義と現実政治の力をどう調和させるかである。
質問「ロシアのウクライナ侵攻に関してだが、法の支配はもはや機能していないのではないか」 ▼小和田氏「国際法が敗れたわけではない。侵略の行為が国際法違反であることを、国際社会がこれほど明確に認識したこと自体が、法の生きている証拠である。法は常に破られる可能性を前提に存在する。重要なのは、破った者に対し、国際社会がどのように反応し、どのような規範を再確認するかである。国際法は完全な秩序ではなく、人類の最低限の合意を保つ防波堤である」
質問「ロシアのように常任理事国が違反した場合、国連は無力ではないか」 ▼小和田氏「国連は万能ではないが、不可欠である。アメリカ抜きの国連も、ロシア抜きの国連も成立しない。したがって、国連を機能させるには、制度の外側から各国を説得し、再び公共性の枠に引き戻す努力が必要だと述べた。その意味で、日本や欧州は米国とロシアの間に立ち、バランスをとる触媒国家(catalyst state)の役割を果たすべきだ。力による一方的変更を拒みつつも、完全な断絶ではなく、対話と交渉のルートを残す。それが外交の技術であり、法と政治の交差点に立つ日本の責務である」
質問「第三次世界大戦の可能性はあるのか」 ▼小和田氏「最大の鍵は核抑止の管理にある。プーチン大統領を暴走させないためには、核を使えばロシア自身が滅びるという現実を彼に理解させることだ。すなわち『理性的抑止(rational deterrence)』の維持が必要である。ここで重要なのは、宥和政策ではなく『越えてはならない一線』を明確にした上で、誤算を防ぐ危機管理を構築することだ。外交とは、相手の思考の範囲を読み取り、破滅を避ける可能性を最大化する「知恵の技術」である」
質問「民主主義と権威主義の対立についてどう考えるか」 ▼小和田氏「まだ決着はついていない。人間の尊厳を重んじる方向に、人類の歴史は緩やかに進んでいる。対人地雷禁止条約がその例だ。この条約は、軍事的には米・ロ・中などが署名していないにもかかわらず、市民社会の声が各国政府を動かし、国際規範を前進させた画期的な出来事である。国家ではなく市民が国際法を動かした。そこに希望がある。核兵器禁止条約も同じ潮流の延長線上にあり、理想と現実をどう橋渡しするかは今後の課題である」
質問「日韓関係をどうすればいいか」 ▼小和田氏「感情を法で縛ることはできないが、法的枠組みを維持することが感情の暴走を防ぐ。たとえば徴用工や慰安婦の問題においては、条約に基づく原則(最終的かつ不可逆的な解決)を堅持しつつ、同時に人間的配慮を伴う政治的柔軟性を持たねばならない。法の原則を譲ることは秩序の崩壊につながるが、法の適用に温度を与えることは可能である。法の冷たさと人間の温かさ、その両方を使いこなすことが成熟した国家の外交だ」
質問「日本の憲法と国際法の関係についてどう考えるか」 ▼小和田氏「日本を縛っているのは国際法ではなく、国内での憲法解釈の運用である。国際法上、日本が国際貢献や安全保障に積極的に関与することに制約はない。制約を作っているのは、むしろ国内政治の意思決定の遅さであり、国民の理解と支持を得ながら柔軟に解釈と制度を整える努力が必要だ。つまり、法は枠ではなく、可能性を開くルールであり、それをどう生かすかが政治の責任である」
▼小和田氏まとめ「国際法は理念を与え、外交は現実を近づける努力である。理想だけでは動かないが、理想を失えば方向を見失う。だからこそ日本は、軍事力ではなく、法と制度、科学とデータ、対話と説得によって現実を少しずつ理想に近づける『制度の建築家』であり続けるべきだ。法と政治の緊張の中でこそ、外交の知恵が磨かれる。それが戦後80年の教訓であり、これからの日本が世界に果たすべき使命である」
