11月10~14日(教養講座:新しい階級社会)

~~~ 長谷川塾メルマガ 2025年11月10日号(転送禁止)~~~

***デイ・ウォッチ(7~9日)

NHK党の立花孝志党首を逮捕 自殺の元県議への名誉毀損容疑 兵庫県警 | NHKニュース  →フェイク情報という現代の病理にメスが入った。NHK党の立花党首は「違法でなければ何でもいい」と言わんばかりの選挙を繰り広げてきた。民主主義を空洞化させる悪質な行為で、逮捕を歓迎する人が多いだろう。NHK党の参院議員は10月から自民党会派に加わっている。政治的影響もあるか。

前副知事の横田美香氏が初当選 広島県知事選、中国地方初の女性知事 [広島県]:朝日新聞 →広島県に初の女性知事が誕生した。中国地方でも初めてで、過去8人目、現職では山形、東京に続いて3人目。農林水産省に入省し、富山県と広島県の副知事を務めた。4期務めた湯崎知事の後継者に指名され、圧勝した。尊敬する人は元国連難民高等弁務官の緒方貞子さん。

PB 基礎的財政収支の黒字化目標 高市首相 単年度ごと達成状況を数年単位に見直す考え  | NHKニュース  →「責任ある積極財政」の内実が問われる発言だ。高市首相が単年度ごとのプライマリーバランスを数年単位の中期目標に見直す方針を示した。財政の柔軟性は必要だが、タガをはずせば、なし崩しになりがちだ。首相が長く在籍する可能性も高くないだろう。監視が必要だ。

午前3時過ぎに勉強会の高市首相、宿舎のファクスは詰まりやすい : 読売新聞  高市首相、関節リウマチの持病明かす 予算委:時事ドットコム 高市首相、週末の外出控えるとXに投稿…美容院に行けず自ら髪を切って失敗 : 読売新聞 高市首相 “すぐに海岸から離れて” Xで注意呼びかけ | NHKニュース →真実は細部に宿る。高市首相を語るエピソードが週末から相次いだ。予算委員会初日は午前3時から勉強会を開き、驚かれた。予算委員会では関節リウマチの持病を明かし、病名を告げられた時の心境を「絶望した」と吐露した。週末は外出を避け、議員宿舎にこもったが、9日夕の三陸沖地震でツイッターに注意を呼びかける投稿をした。「首相の仕事か」という議論も起きそうで、ワーク・ライフ・バランスが引き続き話題だ。

“生成AI「ChatGPT」とのやりとり自殺に” 4人の遺族ら提訴 米 | NHKニュース  →生成AIのリスクにどう対応するかという問題。若い人の依存癖や生成AIの高い共感能力をどう管理すべきか。料理にも人殺しにも使える包丁と似たテーマ。大人や国家が関わる高次元のリスクになれば、人類の将来を左右する可能性もあるという認識は必要だ。

*** 「今日の名言」

◎松岡修造(元プロテニス選手、タレント。11月6日は58歳の誕生日)

「言い訳してるんじゃないですか?できないこと、無理だって、諦めてるんじゃないですか?駄目だ駄目だ!あきらめちゃだめだ!できる!できる!絶対にできるんだから!」 「何を言われてもイライラしない」 「勝ち負けなんか、ちっぽけなこと。大事なことは、本気だったかどうかだ!」 「これは終わりではなく、新しい修造の始まり」 「僕の場合、悪い状況から抜け出す方法は、『嫌なことはすぐに忘れる』『悔しいときは一人になって思いっきり叫ぶ』といった単純なものが多いです」 「真剣に考えても、深刻になるな!」 「過去のことを思っちゃダメだよ。何であんなことしたんだろ… って怒りに変わってくるから。未来のことも思っちゃダメ。大丈夫かな、あはぁ~ん。不安になってくるでしょ?ならば、一所懸命、一つの所に命を懸ける!そうだ!今ここを生きていけば、みんなイキイキするぞ!!」 「自分を好きになれ!」 「緊張してきた。よっしゃあ!!」 「褒め言葉よりも苦言に感謝」 「反省はしろ!後悔はするな!」

*** 今週の教養講座(新しい階級社会①)

格差社会が改めて注目を集めている。今週は「新しい階級社会」(橋本健二著、講談社現代新書、2025)の前書きを中心に取り上げる。各種の調査で格差の現状を明らかにしている。わかりやすくするため、細かな数字は省いて紹介するので、より深く知りたい人は本書を読んで欲しい。最近の政治意識の変化も、階級をめぐる状況を根拠にして明快に説明している。

◎「階級構造、それは人生の舞台装置――序にかえて」 1億総中流?

日本で経済的格差の拡大が広く注目を集め、流行語となったのは2006年のことである。この年、「格差社会」は新語・流行語大賞でトップ10入りしたが、その後は現代日本を象徴する言葉としてすっかり定着したと言っていい。2013年で同賞が30周年を迎えたのを機に発表された「30年のトップ10」にも選ばれた。同時に選ばれたのは「セクシャル・ハラスメント」「サポーター」「安全神話」などだ。格差社会はこれらと並んで現代日本を語る上で不可欠な言葉となったのである。

しかし、各種の数値を分析すると、格差社会が始まったのはこれよりかなり以前のことである。ジニ係数は、格差の大きさを表す指標で、格差が全くないときはゼロ、格差が極端に大きくなった時は1になる。1950年代前半の段階では、男女間賃金格差は大きかったが、その他の格差はおおむね小さかった。日本全体が貧しく分かち合う時代だったからである。農地改革によって、農民内部の格差は小さくなった。労働改革によって、ホワイトカラーとブルーカラーの格差も大幅に縮まった。

1950年代後半に入ると、格差は拡大する。本格化した戦後復興が大企業と都市部で早く進行し、中小企業と地方が取り残されたからである。高度経済成長が始まると、格差は縮小に転じる。賃金格差は、企業の規模別、産業別、男女間で大幅に縮小している。経済成長の成果が中小企業と地方にまで波及するようになった。人手不足が深刻になると、失業者は減少し、日雇いや臨時雇用などで働いた人々が企業に吸収されるようになった。

条件の良くない仕事に就くしかなかった中卒者や女性も、それなりの賃金を得るようになった。1970年代半ばに高度経済成長が終わるが、格差が小さい状態はしばらく続く。多くの指標は1975年から80年頃、底に達する。日本は国民のほとんどが豊かな暮らしを送り、格差の小さい社会だとして「1億総中流」が言われ始めた。

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***デイ・ウォッチ(10日)

高市首相、台湾有事発言撤回せず 定数削減で解散、否定的―予算委:時事ドットコム  高市首相答弁に中国総領事「汚い首斬ってやる」 日本政府が抗議 :朝日新聞  中国外務省、高市首相「存立危機事態」答弁に「中日関係を破壊する」: 読売新聞 →高市首相の「台湾有事は存立危機事態」発言が波紋を呼んでいる。タカ派の地金が出て、中国総領事が「汚い首斬ってやる」と投稿し、日本政府が抗議。中国政府は高市発言を批判した。首相答弁として適切か、台湾有事は日本の存立危機事態か、といった問題がある。首相は「撤回はしないが、今後は明言を慎む」と事態収拾を図る。日中の建前と本音が激しく交差するテーマで、内外で尾を引きそうだ。

COP30開幕 危機に立つ気候変動対策 ここに注目!  | NHKニュース  →すっかり忘れられたが、地球の将来がかかるCOP30がブラジルで始まった。国連の気候変動対策会議で、各国が2035年の温室効果ガス削減目標を提出し、対策を話し合う。しかし、締め切りの9月までに目標を提出した国はたった3割。トランプ大統領が背中を向けて求心力を失っているが、重要性は増している。

北方領土は外国? 黄川田氏発言、高市首相「誤解招く」:時事ドットコム →高市内閣で不適切発言が出始めた。黄川田沖縄・北方担当相が、日本固有の領土である北方領土を視察し、「一番近い外国」と発言した。黄川田氏は自民党総裁選で高市氏の推薦人になった側近。高市首相もさすがにかばいきれず、注意した。高市内閣の問題発言はまだ出そうだ。

名誉毀損疑いで逮捕の立花党首“発言した事実争わず”と供述 | NHKニュース →名誉毀損で逮捕されたNHK党の立花党首は、事実を争わないという。その場合、公共性・公益性、目的の正当性、損害などが争点になるが、県議が自殺している以上、有罪は免れないだろう。11日のテレビ番組では、立花党首の悪質さや余罪、SNS規制などが取り上げられた。しばらく大きな話題だ。

茨城 神栖市長選 得票同数 くじで木内氏当選 現職が異議申し出 | NHKニュース →茨城県の神栖市長選挙は、くじで当選者を決める異例の事態になった。2人の候補がまったく同じ16724票を獲得。公選法の規定でくじ引きとなり、64歳の新顔が現職を破って当選した。現職は219票の無効票の再点検を求めて異議を申し立てた。違う結果が出たらどうするのだろうか。

*** 「今日の名言」

◎アーサー・ネヴィル・チェンバレン(英国の首相。ヒトラーに対して宥和外交と批判された。1940年11月10日死去、71歳)

「(独によるチェコスロバキア併合をめぐり)私はドイツ首相に会いに行きます。私たち2人の会談によって、有益な結果が生まれると思われるからです。私の政策は常に平和の確保が第一です」 「私の目的は、欧州の平和です。この旅でそれを達成できることでしょう」 「チェコスロバキアの問題は無事に解決しましたが、それは大きな問題の解決に至る序曲にすぎません。全欧州の平和への序曲です」 「ヒトラーは、私が出会った中でもっとも凡庸な子犬だ」 「(第二次世界大戦開戦の全国民に向けたラジオ演説で)今朝ベルリンで、英国大使がドイツに最後通牒を渡しました。11時までにポーランドからドイツ軍を撤退させない場合、交戦状態に入ると通告しました。ドイツの要求は受け入れがたいものです。わが国はドイツと戦うことになりました。長年の平和への尽力が水泡に帰し、痛恨の極みであります」

*** 今週の教養講座(新しい階級社会②)

バブル経済が崩壊し、1990年代末の不良債権問題を機に日本経済が大混乱を迎えた。この頃まで1億総中流はほとんど日本人の常識といってよかった。1億総中流について語るときの日本人は、どこか誇らしげだった。他国に対する優位性を示す言葉だったからである。

ヨーロッパは不平等な階級社会だが、日本は階級のない平等な社会だ。米国には人種・民族による不平等があるが、日本にはそんな問題がない。社会主義国は平等だというが、日本の方が平等で豊かだ。1億総中流論はこんな形で日本人にナショナリスティックな優越感を与えてきた。後に日本社会の格差拡大が指摘されるようになった時、懸命にこれを否定しようとする人々が多数登場した。理由の1つは、日本人としての誇りを傷つけられたような気がしたからだろう。

しかし、格差は1980年前後から急速に拡大を始めていた。ジニ係数の上昇はすさまじく、2013年には0.57に達し、2020年も同じ水準だ。規模別と産業別の賃金格差も、2000年代半ばまで急速に拡大を続けた。男女平等の流れを表現していたはずの男女間賃金格差さえも1970年代後半から拡大に転じた。

ジニ係数が上昇を続けたのは、一部の富裕層がますます豊かになったこと、低賃金の非正規労働者が激増したこと、貧しい高齢者が増加したことが主な理由である。以上から明らかなように、現代日本で格差拡大が始まったのは1980年前後のことである。それからすでに45年もの時が流れている。

長く続く続いた経済格差は、日本の社会を質的に変化させてしまった。1億総中流はもともと誇張だが、若者たちは希望しさえすれば、ほぼ間違いなく正社員として就職することができた。雇用も安定し、将来は今より豊かになるという希望を持つことができた。大部分の人々には、その人なりの安定した普通の暮らしがあった。このため多くの人が格差の存在をあまり強く意識せずに済んでいたのは事実だろう。

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***デイ・ウォッチ(11日)

仲代達矢さん死去 俳優「影武者」や「人間の條件」で主演 92歳 | NHKニュース | 訃報 →戦後日本を代表する俳優だけでなく、「無名塾」で後輩を育成した功績も光る。俳優座養成所に入り、黒澤明監督の「七人の侍」でデビュー。「影武者」や「人間の條件」などで主役を演じた。舞台でも活躍し、国際的な知名度も高かった。2015年に文化勲章。92歳だった。

インド 首都ニューデリーで車爆発 8人死亡  | NHKニュース パキスタン 首都イスラマバードで爆発 12人死亡 20人けが  | NHKニュース →インドとパキスタンの首都で爆発があった。いずれも中心部で、車両が爆発した。パキスタンは自爆という。インドもテロの可能性がある。2つの爆発の関係は不明。世界各地できな臭さが増している。

高市首相の大相撲杯授与見送りも 「伝統重視」、官房長官が示唆:時事ドットコム →高市首相は「伝統重視」で大相撲の土俵には上がらない見通しだ。かつて大阪府の女性知事が府知事賞を土俵で手渡したいと問題提起をしたが、女人禁制の伝統を理由に断られた。ジェンダー平等の風潮が後退している。

第一生命、「同意なき転居」廃止 27年度から適用、大手生保初:時事ドットコム →転居を伴う転勤は過去の話になるのだろうか。第一生命が「同意なき転居」を2027年度から廃止する。大手生保初というが、一定規模の日本企業では極めて珍しいのではないか。転勤者には月最大16万円を支給する。運用にもよるが、選択の幅が広がるのは悪くない。

イギリス BBC理事長「誤った判断」認め謝罪 トランプ大統領が提訴する可能性” | NHKニュース  →BBCにとっては大きな痛手だ。トランプ報道の恣意的な編集で会長が辞任したが、理事長も謝罪した。トランプ氏から14日までに番組の撤回や謝罪などを行わなければ、1500億円以上の損害賠償を提訴すると警告を受けていた。トランプ報道は脇をしっかり締める必要がある。

*** 「今日の名言」

◎仲代達矢(俳優。2025年11月8日、92歳で死去)

「終戦時、僕は中学2年生。日本全体が貧しかったが、僕の家は特に貧乏だったので、用務員をしながら夜学の高校に通っていました。夜学の学生は毎日居眠りしていたんですが、先生は、一度も起こさなかった。事情を察してくれていたんでしょう」 「僕が将来を考えたのは高校生の頃。学歴重視が強い時代だったので、実力で稼げる世界へ行きたかった」 「黒澤(明)さんに『君の一番いいところは目だよ。どんなところにライトを置いても君は目に光が入る。非常に撮りやすい』って言われて、ガックリしました」 「俳優座の同期には、宇津井健や佐藤慶などがいますが、努力家です。第一線でずっと頑張っている役者はみんな努力家です」 「おかげさまで妻とともに立ち上げた無名塾も30年。教え子は150人を数えます。僕たち夫婦には子どもがいなかったけれど、150人もの子どもに恵まれ、こんな幸せなことはないですね」 「生徒たちには口をすっぱくして、礼儀作法と健康管理をしっかりしろと言っています。技術があっても健康管理ができない人はだめ」 「今の年長者は自分の地位に固執して、次の世代へ譲ろうとしない。若い人の芽を摘もうとする。よほど無名になることが怖いのでしょう」

*** 今週の教養講座(新しい階級社会③)

◎新しい階級社会の到来  時代は変った。今や人々は否応なしに日本社会の格差の構造を直視せざるを得なくなっている。人々を生まれた家の豊かさや環境、さまざまな資産や資源の所有、時には運と不運などに基づいて相互に分け隔て、社会のあちこちに亀裂を生み、人々を互いに反目させ、対立するように仕向けている。本書では互いにわけ隔てられたこれらの人々のことを「階級」と呼ぶ。社会科学的に言えば、階級とは、同じような経済的位置を示し、同じような労働のあり方、同じような生活水準、同じようなライフスタイルのもとにある人々の集群である。人々を格差と利害の対立をはらんだいくつかの階級へと分け隔てる社会の構造を、「階級構造」といい、このような社会を「階級社会」という。

階級構造は、いつの時代にも、どの社会にも存在している。目には見えないが、人々の行動を制約し、人々の生活を枠づけている。階級構造は、人生の不可視の舞台装置だといっていい。進学、就職、転職、出会いや結婚などという人生の節目で、人はしばしば壁にぶち当り、思うように先へ進むことができなくなる。この壁とは多くの場合、階級の壁である。人々の行動を制約し、自由を奪う壁である。いま所属している階級から抜け出すことを妨げ、他の階級への移動を妨害する日々の生活の中で起こる些細な出来事の数々さえ、すべて階級構造の中で起こる。階級構造こそは、この社会で生きるすべての人々の生が展開される舞台装置なのである。

しかし、1980年前後に始まった格差拡大は、階級構造を、つまり私たちの人生の舞台装置を変えてしまった。本書ではこの新しい舞台装置を「新しい階級社会」と呼ぶ。どの階級に所属するかが、今まで以上に人生に重大な結果をもたらすようになった。

格差拡大は階級内部の格差を拡大した。特に深刻なのは労働者階級である。雇用の安定した正規労働者階級と、非正規労働者階級からなる最下層階級へと分裂している。結果的に多くの女性が最下層階級への転落を余儀なくされるようになった。本書では現代の最下層階級を「アンダークラス」と呼ぶ。それはパート主婦以外の非正規雇用の労働者階級を指し、その数は890万人で、就業人口の13.9%を占める。平均年収はわずか216万円で、貧困率は37.2%に達する。

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