6月26~30日(教養講座:中古典のすすめ)
~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年6月26日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウオッチ(23~25日)
◎流血回避、プリゴジン氏亡命へ 反乱のワグネルは撤退―ロシア・ベラルーシ大統領が仲裁:時事ドットコム (jiji.com) ロシアでワグネルが反乱 「裏切り」と大統領警告―プリゴジン氏捜査、拘束可能性も:時事ドットコム (jiji.com) →ワグネルの反乱は1日で終わった。プーチン体制とロシア軍の弱体化も予想される。プーチン崩壊の始まりか、軽微な影響か。慎重に見極める必要がある。
◎JR東、Suicaアプリなどで障害 チャージや予約できず、復旧に半日:時事ドットコム (jiji.com) 山手線で「刃物」、一時避難 料理人?男性「職場から持ち帰る」:時事ドットコム (jiji.com) →JR東日本で今を象徴するような二つの出来事があった。アプリ障害では便利さともろさが裏腹のデジタル社会を痛感。刃物騒ぎはわずかな誤解がパニックに発展する恐さを突き付ける。
◎6歳男児遺体、自宅で暴行か 祖母監禁容疑きょうだい4人―兵庫県警:時事ドットコム (jiji.com) →痛ましい事件がまた起きた。祖母を監禁・暴行し、孫の遺体を遺棄したが、詳細の供述が食い違うという。一家に何があったのか。異様な事件だ。
◎志位氏 任期批判は共産党への攻撃 – Yahoo!ニュース →「長い任期の指摘は共産党への攻撃」という受け止め方が、一般社会とかけ離れている。どんな立派な人でも20年トップにいれば、プーチンのようにならないとは限らない。外部の意見に対してハリネズミのように防衛する姿勢を改めなければ、党勢拡大は難しいだろう。
*** 「今日の名言」 (これから「今日の名言」を連載します。元読売新聞記者で元外務省国際報道官室勤務だった高橋眞人さんがFBに投稿しており、本人の了解を得て掲載します。直近に誕生日だったり、死去したりした方の言葉を取り上げています)
◎牛尾 治朗(ウシオ電機創業者、元経済同友会代表幹事。6月13日、誤嚥性肺炎により92歳で逝去)
「人には誠意を尽くせば五~六割は返ってきます。人生…信じるに足りますよ。過ぎ去ったことは、くよくよ悔んだりしない。先のことをあれこれ考えて、取り越し苦労をしない。最後の最後まで、1分の可能性を決して捨てない楽観性、強い信念が苦難を切り拓く」 「自分は運に恵まれないという人はたくさんいるけれども、本当は運というのは誰にも平等に巡ってきているんですよ。その運を掴むか、逃すかという差があるだけですね」 「大切なのは、質素な生活をしながら、贅沢な心を失わないことだと思います。日本にはそれができる精神風土がありますし、今日の日本には、それを実現していく環境もあります」 「レイモンド・チャンドラーのハードボイルド・ミステリーの古典的作品『PLAYBACK』の中に『たくましくなければ生き残れない。優しくなければ生き残る値打ちがない』という有名なセリフがあります。企業もまた『ハード&ジェントル(たくましく、そして穏やかな人)』である必要があります」
*** きょうの教養 (中古典のすすめ①)
文芸評論家の斎藤美奈子さんは2020年、「中古典のすすめ」を出版した。主に日本人が1960年から1990年代に書いた50冊を取り上げ、評論している。丸山眞男の「日本の思想」から林真理子「ルンルンを買っておうちに帰ろう」やロバート・J・ウォラー「マディソン郡の橋」まで多彩だ。名作度(本としての価値)と使える度(おもしろい、響く)を各3点満点で採点した。計6点だった本は10冊あるが、そのうち5冊の斎藤さんの評論を紹介する。
◎「窓ぎわのトットちゃん」(黒柳徹子著、1981年)
戦後最大のベストセラーで35か国語に翻訳された。トットちゃんは黒柳のニックネーム。黒柳が戦時中、東京・自由が丘にあった小学校・トモエ学園に通った時の話だ。小1のトットちゃんは変わった女の子で、公立の尋常小学校は奇行が目立って退学になった。お母さんが探して通ったトモエ学園は型破りだった。
校長先生は「話したいことを全部話してごらん」といい、トットちゃんは何時間も話し続け、「初めて本当に好きな人に会った」と感じた。毎日は驚きの連続。午後は散歩、夏は裸でプール遊び、夏休みは講堂で野宿、12月は赤穂浪士の泉岳寺まで歩く。小児まひの子に出会い、友達になった男の子が死に、小使いさんが出征し、B29から投下された爆弾が学園に落ちた。最後は、「また会おう」という先生の言葉を胸に、トットちゃんが東北に疎開する満員電車で眠る場面で終わる。
本書の類まれなる特徴は誰でも熱中できることだ。子どもも熱狂した。「赤毛のアン」や「長くつ下のピッピ」を連想する。理想的な教育実践であり、皇国史観教育の時代の七不思議のような存在だ。
今なら学習障害と診断されたかもしれないが、校長先生は「君は、本当は、いい子なんだよ!」と言い続けた。大人になった著者が、子どもの頃の自分と自分を肯定してくれた環境を、最大限の愛情をもって描き出した。すべてを肯定する物語は、すべての人を勇気づける。だから世界中で受け入れられたのだ。
~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年6月27日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウオッチ(26日)
◎市川猿之助容疑者を逮捕へ 母親の自殺ほう助容疑―睡眠薬準備、一家心中か・警視庁:時事ドットコム (jiji.com) →猿之助の一件は、刑事事件に発展する。全容が解明されそうだが、復帰は当面なくなる見通しだ。
◎内閣支持率の下落鮮明に マイナンバーや少子化対策など政策が不評 – 日本経済新聞 (nikkei.com) →内閣支持率は26日発表の日経新聞調査で前回比8ポイント、読売調査で15ポイント下がった。マイナンバーカードのトラブルや少子化対策への低い評価が響いたという。マイナトラブルの衝撃は大きい。今の政権は支持率を気にし過ぎるほどなので、何か動きが出るか。
◎プリゴジン氏の居場所分からず ベラルーシには短期滞在か:時事ドットコム (jiji.com) →プリコジン氏は生きていられるのだろうか。こう思ってしまうほど、プーチン政権に対する恐怖は大きい。反乱の影響はまだ見通せないが、恐怖政治がさらに強化される懸念が強い。プーチン氏は一応、「安全を保証する」と言っているが。
◎JSR、革新機構の買収受け入れ 12月TOB、半導体素材を強化―社長「業界再編を先導」:時事ドットコム (jiji.com) →政府系ファンドの出資がほぼ確定した。政府は半導体産業への支援を強化しているが、これまで失敗例が多かった。今度はどうだろうか。
◎村上春樹さん、神宮外苑の再開発に「強く反対」「このまま残して」:朝日新聞デジタル (asahi.com) →村上さんは神宮球場を拠点とするヤクルトファンで、住まいも近い地元民。坂本龍一さんに続く大物文化人の反対で、さらに話題を呼びそうだ。
*** 「今日の名言」
◎住井すゑ(小説家。1997年6月16日死去)
「勲章を受ける人は信用できない。それをありがたがる人とは付き合いたくない」 「大名とやくざは同類である」 「飲食の接待は受けない」 「文化とは、平和を守ることである」 「なくてはならぬ職業は百姓である」 「誰がやろうと、不条理なことは不条理です」 「子どもという名の新しい生命は、生命体の必然として自ら育つのであって、決して周囲(はた)の思わくや計算や努力で育てられるたちのものではない」 「(教育の要諦は)嘘を教えない、嘘をつかせないこと」 「ものを書くのは40歳からだ。人間は一年増しに賢くなる。知恵は自分から生まれ出るものだ」 「定年制は資本主義の落とし子であり、それを認めるから老後になってしまう」 「人間の天職は人間であることであり、人間ひとすじに生きている場合は、人間という思想を持っているから生涯、現役なのだ」 「自分の一生は一番よかったと自分で思えるように、毎日を人間らしく精一杯生きていきたい」 「芸能の中で最高のものが落語。能や歌舞伎は権力の側についている太鼓持ち的な芸だ」
*** きょうの教養 (中古典のすすめ②)
◎ 「橋のない川」 (住井すゑ、1961~97年)
1部から7部、文庫本で7冊の大著。すゑが着手したのが56歳で、夫を看取った後。完成させたのは90歳だった。大部だが読む価値はある。大変なら少年時代を描いた2部まででいい。
舞台は奈良盆地の「小森」という被差別部落。物語は1908年から始まる。主人公は11歳、弟は7歳、父は日露戦争で戦死し、母と祖母の4人暮らし。主人公は学校で「エッタ」と呼ばれるが、理由がわからない。お寺の子どもで、優秀な中学生がいろいろ教えてくれる。主人公は小学校の先生に「わしは、エッタやいわれるのが一番つらいネ。先生、どねんしたらエッタがなおるか、教えとくなはれ」と聞く。大阪の米屋に奉公に出るが、理不尽な差別との闘いはなお続く。2部までの物語は、集落の火事、出火の原因をつくった人の自殺、トンネル事故など多様な事件を織り込んで展開する。
3部以降は米騒動、水平社結成など部落解放運動を中心に進む。同じく被差別部落出身者を描いた島崎藤村の「破戒」、大逆事件で処刑された幸徳秋水のことが書かれ、強い印象を残している。「世の中から金持ちをなくす」という秋水の主張に主人公は興奮する。
2部までは少年の成長譚として優れており、差別される側の気持ちが感覚的に伝わる。小森の人々はみな勤勉で実直だし、祖母は差別の根源が天皇制にあることも見抜いている。中盤以降は差別の理不尽さがひたすら強調され、文学としての深みに欠けるきらいがあるが、それでも中高生はみんな読んだほうがいいと思う。今日も差別は解消されていない。差別への感受性が鈍っている時代にこそ効くストレートパンチ。「橋のない川」はそういう小説だ。
~~~ 長谷川塾メルマガ 2023年6月28日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウオッチ(27日)
◎生成AIでエントリーシート 就活支援サービス増加:時事ドットコム (jiji.com) →チャットGPTに代表される生成AIが、就活の場面で利用され始めた。就活生には便利だが、企業にとっては見極めしにくいので難物だ。学校教育の現場も使用にあたって悩んでいる。こうした場面が増えそうだ。
◎「順調だったのになぜ」 ファンら複雑、復帰望む声も―猿之助容疑者逮捕:時事ドットコム (jiji.com) 「苦しまず死ぬため薬飲んだ」 家族会議で心中に合意か―猿之助容疑者を逮捕・警視庁:時事ドットコム (jiji.com) →猿之助逮捕は、27日のワイドショーをジャックした。ハラスメントの週刊誌報道は死ぬほどだろうか。週刊誌報道をNHKが伝えたのはこの日が初では。内容は伝えず、何より遅くないか。
◎プリゴジン氏、ベラルーシ到着 ロシア当局、反乱の捜査終結―ワグネル拠点、移転の可能性:時事ドットコム (jiji.com) →プリコジン氏は健在だった。ロシアは表向き平静に向かっているようだが、底流はどうだろうか。
*** 「今日の名言」
◎太宰 治 (小説家。誕生日は1909年6月19日)
「笑われて、笑われて、つよくなる」 「自身のしらじらしさや虚無を堪えて優しい挨拶を送るところに、誤りない愛情がある」 「私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ。走れ!メロス。走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題ではないのだ。人の命も問題ではないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいもののために走っているのだ」 「おまえの寂しさはわかっている。けれども、そんなにいつも不機嫌な顔をしていてはいけない」 「本当の気品というものは、真黒いどっしりした大きい岩に、白菊一輪だ」 「人間は、恋と革命のために生まれてきたのだ」「怒るときに怒らなければ、人間の甲斐がありません」 「愛することは命がけだよ。甘いとは思わない」 「夫と妻は、その生涯において、幾度も結婚をし直さなければならぬ。お互いが、相手の真価を発見して行くためにも、次々の危機に打ち勝って、別離せずに結婚をし直し、進まなければならぬ」 「十歳の民主派、二十才の共産派、三十歳の純粋派、四十歳の保守派」
*** きょうの教養 (中古典のすすめ③)
◎「どくとるマンボウ青春記」(北杜夫、1968年刊)
戦後日本の読書界において、ユーモアエッセイというジャンルを開発したのは、北杜夫と遠藤周作といっていい。北は1960年、水産庁の船に船医として乗り込んだ旅のエッセイ「どくとるマンボウ航海記」で人気作家となり、動物エッセイの「昆虫記」を書いた。10代でこうした本に出会った人は幸せである。シニカルな見方とスノッブな表現を学ぶから。
「青春期」の舞台は1945~52年まで。旧制松本高校に入学して文学に親しむが、父の命で東北大学医学部に進むころが描かれている。終戦直後、悩まされたのが空腹だった。食糧難の時代だが、旧制高校性は憧れの的。「弊衣破帽」ってやつになっていく。華は寮生活で、酒、たばこ、議論、ストーム(夜の寮内での蛮行)に興じる。先輩はカントやヘーゲルと友達のような口ぶりだが、「カントを読んでびっくら仰天した。書いてあることが神明にかけて理解できなかった」と書く。
描かれたバンカラ青春は旧制高校特有の文化だった。全国に39校しかなく、帝国大学への進学がほぼ約束された学歴社会の超エリートだった。同年代の男性に占める比率は1%。悪口をいわせてもらえば、ま、優越感にまみれたホモソーシャルな鼻持ちならない集団である。執筆時の北は40歳で、旧制高校OBが社会の中枢にいたので、ニーズはあった。失われた文化へのノスタルジーである。本の後半は旧制高校を卒業してやる気のない医学生になった20代の青春期だ。
どくとるマンボウシリーズは、私小説に近い。北は、著名な歌人で医師でもある斎藤茂吉の呪縛が大きかった。憂いを含んだ文章で父との葛藤込みの青春を描けば文学作品になっただろう。北はしかし、そうはしなかった。私小説と自伝的エッセイのちがいは、対象に対する向き合い方のちがいである。うっかり思弁的、文学的表現をしてしまった後は、「なーんちゃって」というようにバカ話をし、笑いに逃げ込まずにはいられない。こういうのを韜晦(とうかい=自分の才能を隠す)、諧謔(かいぎゃく=気の利いた冗談)というのだね。
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***デイ・ウオッチ(28日)
◎大谷が27、28号 自ら援護で7勝目―米大リーグ:時事ドットコム (jiji.com) →大谷が7勝目を挙げ、2本のホームランを放った。勝ち投手で、複数本塁打は初めて。三冠王でサイヤング賞という二度とないだろう偉業も夢ではない。大谷の活躍は昼ニュースの目玉だ。
◎養豚「横になれる広さ」を 動物福祉で初の指針―農水省:時事ドットコム (jiji.com) →農水省が「アニマルウェルフェア(動物福祉)」の方針を初めて示すという。ブタやトリを飼う時の広さなどが中心だが、世の中の変化を感じさせる。
◎運転手、事故前に体調不良申告 バス衝突との関連捜査―北海道警:時事ドットコム (jiji.com) →当初は「健康に問題ない」と言っていたが、食い違いがあるようだ。体調不良を申告していたなら、会社の責任も生まれてくる。この情報が、いま、なぜ、どこから出てきたかも重要だ。
◎首位アイスランド、日本9位 ウクライナは157位―世界平和度指数:時事ドットコム (jiji.com) →あまりなじみのないランキング。平和度なら日本はまだ高い。台湾有事が語られ始め、戦争に対する国民の意識は変化していると思われるが。
*** 「今日の名言」
◎アリアナ・グランデ(米の歌手。6月26日は30歳の誕生日)
「決して、深刻に考えすぎちゃだめよ」 「愛を植えて、平和を育てるの」 「あなたが最高の気分になれば、他のみんなだって最高の気分になれるわ」 「誰にでも、自分のことを嫌っている人かいるものよ」 「あなたのことをまだまだ一人前ではないと言う人はたくさんいるけれど、あなたはもう十分一人前よ」 「人生は美しいわ、一瞬一瞬を大事にしなきゃ」 「少しでもいい。私たちが愛を与えれば、多分世界を変えられる」 「あなたが何かに情熱を持っているのなら、それは間違いなく上手くいくわ」「ネガティブは全部遮断して、ただ愛するのよ」 「私は今までした人生の選択のどれにおいても後悔はしてないわ。だってどんな選択からも何か新しいことを学んできたんだもの」 「いつだって明日はあるし、明日は常によくなっていくの」 「私は女の子っぽくて、レトロで、フェミニンで、お花の付いたものが好き。そんなに流行の最先端ではないの」 「日本大好き。わたしはべんきょうします!」
*** きょうの教養 (中古典のすすめ④)
◎「自動車絶望工場」(鎌田慧、1973年)
今や伝説の書、鎌田の出世作である。1972年8月、地方紙に載った季節工の広告を見て、青森県弘前市から愛知県のトヨタ自動車本社工場に来た。当時34歳、働いた5か月間の記録である。
日記は臨場感と徒労感に満ち満ちている。多くの言葉が割かれるのが、ベルトコンベア労働の過酷さだ。「コンベアはゆっくり回っているように見えたが、錯覚だった。たちまちのうちに汗まみれ。喉はカラカラ。煙草どころか、水も飲めない。トイレなどとてもじゃない」。過労で倒れた同僚は何の保障もなくクビになる。労災死亡事故が起きても「重大災害が発生して遺憾に思う」という社長声明と、「ごめい福を祈ります」という労組メッセージのみ。単純反復労働と人間性をはく奪された日々が続く。浮かび上がるのは社内外から見たトヨタのギャップだった。
評論家の草柳大蔵氏は「企業王国論」で日本企業を称賛した。草柳氏は大宅壮一ノンフィクション賞の選考委員だったが、候補作になった「自動車絶望工場」は「取材方法がフェアではない」という理由で落選した。鎌田は草柳氏の論考を批判する文章も書いていたが、落選はむしろ鎌田の武勇伝であろう。
書かれた当時は田中角栄内閣が誕生し、列島改造論に沸いていたが、本書は経済大国への道を歩みつつある産業界に冷や水を浴びせた。労働者をめぐる状況は2000年代に悪化した。2004年に製造業への派遣が原則自由化され、絶望工場化はさらに進んだ。2008年の秋葉原無差別殺傷事件の容疑者はトヨタの関連工場に派遣されて働いていた。2020年から非正規との格差を是正する「同一労働同一賃金」の原則が一応掲げられているが、経済が悪化すれば、真っ先に切られるのが最下位の非正規労働者である。本書の告発はだから色あせない。いまも、おそらく将来も。
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***デイ・ウオッチ(29日)
◎日韓、通貨スワップ再開合意 融通枠100億ドル、投資連携も―7年ぶり財務対話:時事ドットコム (jiji.com) →日韓経済連携のシンボル的協定が復活した。財務相の対話が2016年8月以来というのは驚き。政治的対立が経済に響く関係は異常で、両国とも得をしない。関係改善を東アジア安定につなげる構想と行動が重要だ。
◎中国気球、内部に米国製機器 「スパイ用」と結論―WSJ報道:時事ドットコム (jiji.com) →そういえば気球騒動もあった。気球でどの程度のスパイ活動ができるのかという気もするが。
◎日本の防衛費巡る発言撤回 「岸田氏は既に決断」―バイデン米大統領:時事ドットコム (jiji.com) 「次は台湾じゃないのか」 岸田首相の発言紹介―バイデン米大統領:時事ドットコム (jiji.com) →日本はアメリカのポチかミーか。それにしてもバイデン大統領はいろいろしゃべる。高齢のせいか、キャラクターか。日本もポチだけではなめられる。ネコのように言うことを聞かない態度も必要だろう。
◎18歳女子大生刺され死亡 20代男逮捕、過去4回通報も―神奈川県警:時事ドットコム (jiji.com) →過去に4回通報していたというから痛ましい。こうした事態はなくならないのだろうか。メンタルカウンセリングのようなソフトな対応も必要な気がする。
*** 「今日の名言」
◎ハンソン・ボールドウィン(米のジャーナリスト、ピューリッア賞受賞者。沖縄戦を取材。6月23日は沖縄「慰霊の日)
「太平洋戦争中、日本軍で最もよく戦ったのは、沖縄防衛部隊であった。沖縄戦はその規模、広がり、苛烈さにおいて、バトル・オブ・ブリテンすら、影の薄いものとした。これほど凄惨な、独特の死闘が行われたことは、後にも先にもない。これほど短期間の内に米海軍がかくも多くの艦艇を失ったことはなかったし、これほど狭い地域でかくも短期間内に、これほど米軍の将兵の血が流されたこともない。おそらく3か月の間に日本軍がこれほど大きな損害を被ったこともかつてなかったであろう。陸戦としてはもっと大きい会戦もあったし、もっと長期に渡る航空戦もあったが、沖縄戦は最大規模の統合作戦であり、海上、海中、陸上において、仮借のない戦闘が継続された」 「沖縄は、人間の忍耐力と勇気の叙事詩であった。日本軍の攻撃は創意に満ち、決死的であった。これに対し、米軍が防衛に成功し、沖縄攻略に成功したのは、卓越した補給、作戦計画、およびその断固たる実施によるものであった」
*** きょうの教養 (中古典のすすめ⑤)
◎「桃尻娘」(橋本治、1978年刊)
困ったことに感染するのよね「桃尻語」って。この文体で書きはじめたら、もう止まんないのよ。1年C組榊原玲奈。これが主人公で、書き出しはこんな感じ。「大きな声じゃ言えないけど、あたし、この頃お酒っておいしいなって思うの。黙っててよ、一応ヤバイんだから」。玲奈は15歳、都立高校1年。べつに不良じゃないのよ。「今日、アレが来た。アー、ホントにやっと来たって感じでサ、よかったよかった」。この人、妊娠の心配してたのよ。でも恋愛もしてないのよ、玲奈はっ。いろいろ出てくるけど、この瞬間に日本文学は変わったの。日本の女の子が変わったんじゃなくて、文学が変わったの。日本文学はヤリたいのにヤレない男が悶々とする話ばかりだったけど、んなこといちいちガタガタいうんじゃねーよ、ってね。
おかしな高校生があと3人いるの。磯村薫。トラウマは年上の女にレイプされたこと。木川田源一、通称「オカマの源ちゃん」。オカマは現在NGワード、ゲイなの。醒井(さめがい)涼子。天然美人お嬢様でウザイとこがあんのよ。以上4人が卒業するところで一応終わるんだけど、驚くべきは、このシリーズが完結編の「雨の温州蜜柑姫」(1990年)まで続き、全6冊の青春大河小説になっちゃったことだよね。
「桃尻娘」は、それまでモノクロだった青春小説を総天然色に変えたのよ。もしも「桃尻娘」がなかったら、山田詠美「ぼくは勉強ができない」も、綿矢りさ「インストール」も、生まれてなかったと私は思うわ。そんで日本文学は頭のかた~いオヤジに独占されててさ、いまごろ死んでたと思うわ。
高校を出た後の玲奈たちは、別の道に進み、完結編では30代になる。大人になるにしたがって、彼らはちょっとずつ過激さを失っていく。そこが青春小説の残酷なとこなのよ。でもまあ、できれば6冊とも読むといいと思うわよ。ハマるわよ。