G7サミットを知る(2025年6月9~13日)

第1回:G7サミットとは何か——その成り立ちと目的    G7サミットは、正式には「先進国首脳会議」と呼ばれる世界の主要な先進国の首脳が一堂に会し、経済・政治・社会の諸課題について協議する場だ。発足は1975年、オイルショック後の世界経済が混乱する中、フランスのジスカール・デスタン大統領と西ドイツのシュミット首相の呼びかけで始まった。初回はG6(仏・独・伊・日・英・米)でスタートし、翌年カナダが加わりG7となった

当初のテーマは、経済だった。「自由経済を共通基盤とする先進諸国が、経済政策の協調と通貨の安定を図る」ことだった。国際通貨制度が混乱していた時代、各国が足並みを揃えることが求められていた。その後、1980年代に入ると冷戦の影響で安全保障問題が取り上げられるようになり、経済協議の枠を超えて政治的意味合いを帯びるようになった。

1997年にはロシアが加わりG8となったが、2014年のクリミア併合を受けてロシアは除外され、再びG7体制に戻った。現在は7カ国に加え、欧州連合(EU)が参加している。民主主義・自由経済・法の支配といった共通の価値を持つ国家群であり、世界経済の約40%を占める経済圏でもある。

G7の特徴は、法的拘束力のない「非公式会合」であることだ。本音の意見交換を通じて、首脳間の信頼関係を築き、方向性を示すことに重きが置かれている。そのため、緊急課題への機動的な対応が可能であり、合意形成のスピード感も特徴だ。

一方、非公式ゆえの限界もある。決定した内容を実行に移す権限はなく、各国の内政や外交方針に左右されることも多い。最近ではウクライナとロシアの戦闘、イスラエルによるガザ攻撃で有効な手を打てていない。トランプ大統領の登場で、今回は存在そのものが問われる状況になっている。

    ◆

*** 今週の教養講座(サミットを知る②)

第2回:G7の歩み——サミットの歴史を俯瞰する  G7サミットは1975年の第1回会合以降、世界情勢の変化に応じてその役割を拡張し続けてきた。冷戦期には東西対立の中で西側先進国の結束を示す場として、冷戦後は経済グローバリゼーションのなかで世界秩序の方向性を提示する場として存在感を保ってきた。

1980年代は、レーガン、サッチャー、中曽根といった「政治主導型」リーダーたちが登場し、経済問題に加え、冷戦構造への対応が議論の中心だった。1983年のウィリアムズバーグ・サミットでは、ソ連との軍拡競争に関して、自由陣営の結束を明確に示す合意がなされ、政治的意義の強いサミットとして記憶されている。1990年代には冷戦終結を背景に、ロシアがオブザーバー参加を経てG8へと拡大し、政治・経済両面での協議体制が整った。この時期、開発・環境・感染症など新しい国際課題が取り上げられ始め、「地球規模課題への対応」という機能が加わった。

2000年代に入り、アフガニスタン戦争、イラク戦争、世界金融危機など、サミットでの議論は多様化した。特に2008年のリーマンショック以降、経済危機対応の場としてのG20が台頭し、G7の相対的な存在感は一時的に後退する。しかし、2014年にロシアがクリミアを併合し、G8から除外されたことで、G7は再び「価値を共有する国々による連携」の象徴として再定義される。日本もこれまでに1979年(東京)、1986年(同)、1993年(同)、2000年(沖縄)、2008年(洞爺湖)、2016年(伊勢志摩)、2023年(広島)と7度の議長国を務め、地政学的な橋渡し役を果たしてきた。

こうしてG7は、国際的な合意形成の場として、その性質を柔軟に変化させながら存続してきた。歴史を振り返れば、経済から政治へ、そして価値の連帯へと進化してきたことが明らかだ。しかし今年は、「アメリカ・ファースト」で西側各国との関係を根本的に見直そうというトランプ大統領の登場で、まったく違った段階に入った。

    ◆

*** 今週の教養講座(サミットを知る③)

第3回:現在のG7——リーダーシップの現状と主な議題  G7は、経済大国の首脳会議という枠を超え、地球規模の課題に対する意思表明の場として進化してきた。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本、イタリア、カナダにEUを加えたこの枠組みは、自由主義・民主主義・法の支配を共通の価値として掲げつつ、対話と連携を図ってきた。

昨年までは、ウクライナ侵攻に対する対応、AI・半導体といった先端技術の国際ルール作り、気候変動への対応などで注目された。経済安全保障の重要性が増すなか、G7は「信頼できる経済パートナー」の枠組みとしても注目されてきた。2023年の広島サミットでは、ゼレンスキー大統領の電撃参加に象徴されるように、G7が民主的価値を軸に世界に対してメッセージを発信する場であることが再確認された。日本は議長国として、核廃絶・AI規制・インド太平洋の安定などを議題に掲げ、米欧との連携に加えてグローバルサウスとの関係構築を試みた。

各国首脳の個性も議論のトーンに影響した。バイデン大統領の国際協調志向、マクロン大統領の欧州主導への野心、岸田首相の「価値主導型外交」などがあった。政策の方向性は共通していても、細部では温度差がある。この多様性がG7の強みであった一方、意思統一を難しくする要因でもある。世界が多極化し、不確実性が高まるなか、G7は「すべてを決める場」ではなく、「方向性を示す場」としての意義が高まってきた。今年の焦点は、これらの機能をトランプ大統領がどう評価するかだ。方向は認めるのか、根底から覆すのか。世界が目を凝らしている。

    ◆

*** 今週の教養講座(サミットを知る④)

第4回:G7の課題——グローバルな正統性と限界  G7が直面する最大の課題の一つは、グローバルな「正統性」の希薄化である。世界経済に占めるG7諸国の割合は、1990年代には70%を超えていたが、現在では40%前後にまで低下している。新興国、特に中国、インド、ブラジルといった国々の台頭により、「先進国だけで世界を動かす」時代は終わりつつある。そのため、G7の決定や声明が「世界の総意」を代表しているとは限らず、「西側先進国のクラブ」として見なされるリスクも抱えている。特にアフリカ諸国やASEAN諸国など、いわゆるグローバルサウスの国々にとっては、G7の姿勢が上から目線に映ることも少なくない。

また、G20との機能重複も課題だ。G20には中国やロシア、インド、ブラジルといった大国も含まれており、経済協議の実効性はむしろG20の方が高いとする見方もある。一方で、G20は構成国が多様すぎるため、政治的合意形成が難しいというジレンマも抱えている。G7内部にも課題がある。アメリカの大統領交代に伴う外交路線の変化、フランスのEU主導志向、イギリスのブレグジット後の立ち位置、日本の中立外交路線など、各国の利害や国民感情が合意形成を阻む場面も増えている。国内政治の不安定さが国際的合意に影を落とす例は少なくない。

G7の議題設定には、西側価値観の偏りが指摘されることもある。例えば、環境問題や人権問題に対する取り組みは、途上国の実情と乖離していることもあり、一方的な価値観の押し付けと批判されるリスクもある。G7は「発信力」と「実効力」のバランスに悩んできたが、トランプ大統領はこれまでの西側価値観に真正面から挑戦する姿勢さえ見せている。今後のサミット外交では、G7の共通的価値観とは何か、それを国際的な共感と納得にどう結びつけるかなどが鋭く問われている。

    ◆

*** 今週の教養講座(サミットを知る⑤)

第5回:G7のこれから——多極化時代の合意形成とは  G7サミットは今後、どのように変化し、どのような価値を持ち続けるべきなのだろうか。世界が米中対立、地域紛争、気候変動、技術競争といった多重構造の課題に直面する中、G7の果たすべき役割も再定義の段階にある。

一つの方向性は、「すべてを決める場」から「方向性を示す場」への進化である。実務的な決定はG20や国連、多国間協定などに委ねつつ、G7は価値・原則・指針を世界に発信する役割に特化するという考え方だ。特に「自由・民主主義・法の支配」という軸をもとに、共通の立場を打ち出すことは、世界に安心感と秩序を提供する力になる。しかし、トランプ大統領は大国重視の姿勢を見せている。中国やロシアと対決姿勢を見せる一方で、電話会談を通じて首脳間の親密さを強調している。大きな不確定要素だ。

グローバルサウスとの接点強化が不可欠になっている。日本は2023年サミットでインド、韓国、ブラジル、ベトナム、インドネシア、オーストラリアなどを招待し、対話の輪を広げた。今後も、非G7諸国との対話を続け、「G7の発信=世界の発信」となるような説得力を持つことが求められる。日本にとっては、「米欧とアジア・グローバルサウスをつなぐ仲介役」としての立場が強みになる。歴史的にも地理的にも中間点に位置する日本だからこそ、多極化時代の調整役として独自の貢献が期待できる。AIや気候変動、経済安全保障といった分野では、現場感覚と長期ビジョンを兼ね備えた提案力が求められる。

将来のG7が目指すべきは、「対立の激化」ではなく「違いの中の共通項を見出す力」といえる。合意が困難な時代だからこそ、対話を通じた部分的な一致、価値の共鳴、小さな合意の積み重ねが重要になる。G7は、そのような国際的信頼のインフラとして、これからも機能し続ける必要があるだろう。トランプ大統領にその気があるかどうか。会議での発言、他国の働きかけが注目される。