5月26~30日(教養講座:言志四録)

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***デイ・ウォッチ(23~25日)

大相撲 大の里 横綱昇進確実 初土俵から13場所での昇進は最速 | NHK | #大相撲 →大の里が横綱に昇進する。過去最速のスピード横綱で、久々に日本人ヒーロー誕生の予感だ。今場所の調子なら、全勝優勝は確実と思われたが、横綱豊昇龍が立ちはだかった。大の里24歳、豊昇龍26歳で、ともに若い。「大豊(たいほう)時代」とも言えそうだ。

小泉進次郎農林水産大臣  “備蓄米の店頭価格5キロ2000円に” | NHK →小泉農水相が焦点のコメ価格について「5キロ2000円」とぶち上げた。大きな目標になる。楽天の三木谷会長とも会談をしており、通販による直接販売も視野に入れる。活発に動いており、週明け以降の動きが注目される。自民党にとっては参院選の行方、本人には政治家としての真価に直結する。

留学受け入れ禁止を差し止め ハーバード大の提訴受け―米連邦地裁:時事 人材呼ぶ「絶好の機会」―香港:時事 →トランプ大統領が、ハーバード大学への留学生資格の剥奪を打ち出したが、連邦地裁は差し止めを決定した。米国の文化戦争は激しくなっている。最大の強みであるソフトパワーを減退させるトランプ氏の自殺行為だが、目先のディールしか関心がないので価値がわからないのだろう。他国にとってはチャンスとも言える。香港政府教育局長がさっそく意欲を示した。人材争奪戦も米中対立だ。

USスチールへの投資承認 「日鉄とパートナーシップ」:時事 →日本製鉄のUSスチール買収問題で、トランプ大統領は承認を表明した。日鉄は100%子会社を狙っているが、出資比率など細かい条件は未定。おそらく50%未満だろう。日鉄の投資額は当初の14億ドルが10倍に膨らむといわれる。米国はディールで成功したようだが、日鉄の損得勘定はまだわからない。

米関税措置 日米閣僚交渉 G7にあわせ首脳間合意も視野に協議へ | NHK | 関税 →赤澤再生相が訪米し、関税をめぐる日米交渉が開かれたが、ベッセント財務長官は出席せず、大きな進展はなかったようだ。6月のG7サミットが次の焦点になっている。米国が妥協する雰囲気はこのところない。

*** 「今日の名言」

◎吉野源三郎(編集者、児童文学者。1981年5月23日死去、82歳

「尊敬せずにはいられない美しい心根や、やさしい気持ちのあることを知ったのは、君にとって、本当によい経験だった」 「もしも君が、学校でこう教えられ、世間でもそれが立派なこととして通っているからといって、いわれたとおりに行動し、教えられたとおりに生きてゆこうとするならば、君はいつまでたっても、1人前の人間にはなれないんだ」 「僕たちは、自分で自分を決定する力をもっている」 「自分ばかりを中心にして物事を判断してゆくと、世の中の本当のことも、ついに知ることができないでしまう」 「ひとつのわかりきったことを、どこまでも追いかけて考えてゆくと、ものごとの大事な根っこにぶつかることがあるんだ」 「人間として、自尊心を傷つけられるほど厭な思いのすることはない」 「世間には、悪い人ではないが、弱いばかりに、自分にも他人にも余計な不幸を招いている人が決して少なくない」 「肝心なことは、自分が本当に感じたことや、真実心を動かされたことから出発して、その意味を考えてゆくことだ。何かしみじみと感じたり、心の底から思ったりしたことを、ゴマ化してはいけない」

*** 今週の教養講座(言志四録①)

「言志四録」(げんししろく)という江戸時代の本がある。美濃国岩村藩出身の儒学者・佐藤一斎の書として著名で、「言志録」「言志後録」「言志晩録」「言志耋録(てつろく)」の四書から成る。西郷隆盛は大きな影響を受け、全1133条のうち、心に残った101条を選んで繰り返し読んだ。今週は「超訳『言志四録』西郷隆盛を支えた101の言葉」(2017、すばる舎)から紹介する。

【成功する人のマインド】何かを成し遂げたいと思うなら、「天」に仕える心を持つことが大切である。人に自慢したいなどと考えてはならない。◎原文=凡そ事を作すには、須らく天に事うるの心有るを要すべし。人に示すの念有るを要せず(言志録第3条)

「南洲翁遺訓」という書物があります、西郷さんがこの世を去った後の明治23年(1890)、彼に恩義のあった旧庄内藩の藩士たちが、旧恩に報いるべく刊行した、西郷さんのいわば「名言集」です。この中にも「人を相手にしないで、天を相手にするようにせよ。天を相手にして自分の誠を尽くし、人の非を咎めるようなことをせず、自分の真心の足らないことを反省せよ」との言葉があります。これは佐藤一斎先生の影響を強く受けて発せられたものでしょう。

では一斎先生の言う「天」とは何でしょうか。素直に解釈すれば、「神や仏」、ひいては「大自然」と読むことができます。しかし、一斎先生は「心はすなわち天である。身体がつくられて天が肉体に宿るのである」と述べています。人の心はそのまま「天」であるというのです。つまり、他人の評価などの雑音に惑わされるのではなく、自分の心に宿っている、自然な、正直な心と向き合ってこそ、人は成長し何かを成し遂げられるということです。

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***デイ・ウォッチ(26日)

小泉農相 備蓄米の随意契約の詳細を発表 イオンや楽天など申請検討 | NHK →小泉農水相がスタートダッシュをしている。随意契約の詳細を発表し、5キロ2160円を目指すという。イオンやアイリスオオヤマなど7社が名乗りを上げ、価格低下のムードは高まっている。高値で抱えている流通業者も多く、最終的にどうなるか。過剰に面白がるのは不謹慎だが、「政府対市場」の仁義なき戦いが始まる。

年金法案 基礎年金の底上げ措置盛り込む 自公 立民 修正協議 大筋で合意 | NHK | 年金 →自民党が選挙を意識して引っ込めた基礎年金の底上げについて、自公と立憲が大筋で合意した。国民民主が目立ち気味だった通常国会だが、立憲も存在感を示した。年金のように長期的視点を求められる社会保障のテーマについて、国会は目先の選挙に左右されずに議論できる仕組みを作るべきではないか。意志と知恵の問題だ。

戸籍の氏名に読みがな記載 きょう運用開始  | NHK →氏名の読み方を確認する通知書が来る。読み方を変えることもできるようだ。NHKの記事によると、東京都千代田区を本籍地とする人は住民の3倍以上いて、皇居の住所を本籍とする人は約3000人もいる。地番があれば自由に選べるので、違法ではないという。本筋とそれた関心も呼びそうだ。

住所入力を7桁の英数字で簡略化、日本郵便が「デジタルアドレス」開始 : 読売新聞 →いつの間にか新しい郵便番号ならぬ、「デジタルアドレス」が完成し、新サービスが始まった。7けたの英数字で住所を表現できるという。「住所はどうなるんだろう」と心配してしまうが、まずはゆうパックの送り状作成というから、普及はまだ先だ。苦境の日本郵政にはどの程度の利点があるのだろうか。

米大統領、対ロ追加制裁を検討 「プーチン氏は分別失う」と非難:時事ドットコム →プーチン大統領との電話会談は「うまくいった」とコメントしたトランプ大統領。今度は「完全に分別を失っている。不必要に多くの命を奪っている」と非難し、追加制裁を検討するという。自分本位で、わがままな大国の指導者たち。この間も大勢の命が奪われている。

日本重視「実用外交」目指す 野党・李在明氏が公約―韓国大統領選:時事ドットコム →韓国大統領選挙で当選が有力視されている野党の李氏が、日本重視の「実用外交」を目指す公約を発表した。このご時世で日韓が対立している余裕はないが、過去の激しい対日批判を考えれば、どこまで信用していいか考えてしまう。隣国政府の対立は、両国の市民に迷惑だ。民の交流を重視したい。

*** 「今日の名言」

◎マルティン・ハイデッガー(独の哲学者。1976年5月26日死去、86歳

「人は死から目を背けているうちは自己の存在に気を遣えない。死というものを自覚できるかどうかが、自分の可能性を見つめて生きる生き方につながる」 「人はいつか必ず死が訪れるということを思い知らなければ、生きているということを実感することもできない」 「良心はただただ常に沈黙という形で語る」 「経験を積んだ人は、物事がこうであるという事を知っているが、なぜそうであるかということを知らない」 「単純なものこそ変わらないもの、偉大なるものの謎を宿している」 「偉大に思索する者は、偉大に迷うに違いない」 「人間は時間的な存在である」 「アメリカ的なものが初めて今日の我々を脅かしているのではない。技術の未だ経験されない本質がすでに我々の父祖や彼らの事物を脅かしていたのである」

*** 今週の教養講座(言志四録②)

【偉人に憧れてはいけない】

自分を高めるために必要なのは、発憤の「憤」の一字に尽きる。孔子の弟子顔淵が「あの舜王も私も、同じ人間ではないか」と言ったのも、まさに「憤」である。◎原文=憤の一字は、これ進学の機関なり。舜何人ぞや、予、何人ぞやとは、まさにこれ憤なる。(言志録第5条)

繰り返されている「憤」の説明の前に人物紹介をさせてください。まず孔子は「世界三大賢人」にも数えられる儒教の祖で、顔淵はその弟子です。舜王は、古代中国の伝説に登場する皇帝で、自分を殺そうとした父親にも孝行を尽くしたことで、堯(ぎょう)という君主に認められ、その位を譲られます。君主として平和な黄金時代を築いたことから、聖人として儒学者から崇拝されているのです。

その舜王について顔淵は、「あの瞬王も私も、同じ人間ではないか。ひたすら努力して肩をならべて見せる」と言い放ったのです。私たちは、しばしば偉大な人を指して「才能がある人はいいなあ」「あの人は特別だから」とうそぶき、目をそむけてしまいます。しかし、何かを成し遂げられる人というのは、「よし、俺もあの人と肩を並べるくらい、すごい人物になってやろう!」と「発憤」し、その意気込みで最後まで突っ走ります。

この意気込み、つまり「憤」こそ、目標を達成するためのエネルギーになると、佐藤一斎先生は言っているのです。ちなみに、孔子の弟子の顔淵は学問に励み、師匠から「顔淵ほど学問を好むものは聞いたことがない」とまで評され、後継者と目されるまでになりました。

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~~~ 長谷川塾メルマガ 2025年5月28日号(転送禁止)~~~

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***デイ・ウォッチ(27日)

備蓄米の購入申請受け付け70社殺到 一時休止 来週前半に販売へ準備加速 | NHK →備蓄米の随意契約に約70社が殺到し、一時休止した。予想以上の人気。各社はコメ販売の利益もさることながら、話題作りによるPR効果も織り込んでいるはずだ。かなり早い展開になっているので、現場では細かなトラブルも発生しそうだ。小泉農水相は、世論を背景に前進あるのみとみられる。

東京 江戸川区東葛西で爆発 工事中にガスボンベ損傷し引火か 10人けが 約40棟が被害 | NHK | 事故 →東京・江戸川区で行われていたマンションの杭打ち作業中に、大規模な爆発が起きた。映像を見ると、死者が出なかったのが不思議なくらいだ。都市ガスの関係かと思われたが、地下にアセチレンガスのボンベがあった。ボンベがあった理由は不明。現場に知られざる歴史があるのだろうか。

巨額赤字で2万人リストラの日産、退任の社長と3副社長に計6億4600万円の報酬 : 読売新聞 →退任に伴う日産のトップ4人に6.4億円の報酬が払われた。平均で1人1.5億円を超し、内田前社長は2億円だろうか。リストラを迫られる社員にしてみれば、納得がいかないはずだ。自主返納をする根性のある人物はいないのだろうか。いれば今のような窮状になっていないか。

東京電力福島第一原発事故の除染土再生利用“政府が率先”基本方針 理解醸成には課題 | NHK | 環境省 →原発への賛否を超えて、除染土や核燃料廃棄物は、処理しなければならない。首相官邸での再利用は、遅すぎる表明だ。痛みは福島だけに押し付けず、全国で負担し合うべきだろう。

漏えい「斎藤知事指示の可能性」 元局長情報を県議に―兵庫県第三者委・前部長は停職3カ月の処分:時事ドットコム →兵庫県の第三者委員会が、元局長の私的情報漏えいは、斎藤知事の指示の可能性を認定した。知事は「認識はない」と否定しているが、常識的に考えれば、何らかの形で後押ししたことは間違いないだろう。知事はいつも都合の悪い指摘を認めない。

*** 「今日の名言」

◎東郷平八郎(元帥海軍大将。1905年5月27日、日本海海戦でロシアのバルチック艦隊に勝利

「皇国の興廃この一戦にあり、各員一層奮励努力せよ」 「(日本海海戦に際して)敵艦見ゆとの警報に接し、連合艦隊はただちに出動これを撃滅せんとす。本日天気晴朗なれども波高し」 「至誠にもとるなかりしか、言行に恥ずるなかりしか、気力に欠くるなかりしか、努力に憾みなかりしか、不精にわたるなかりしか」 「(ワシントン軍縮条約で戦艦、空母の保有が制限され、激怒する将官達を諭して)軍備に制限は加えられても訓練には制限はありますまい」 「海から来る敵は海にて防ぐべし」 「遇直と笑わるるとも、終局の勝利は必ず誠実な者に帰すべし」 「神明は、ただ平素の鍛錬に努め、戦わずしてすでに勝てる者に勝利の栄冠を授けると同時に、一勝に満足して治平に安ずる者よりすぐにこれを奪う。古人曰く、勝って兜の緒を締めよと」 「東郷は運の良い男でございます。しかるに、必ずや勝利致しましょう」 「咲くもよし散るもよし野の山桜、花のこころは知る人ぞ知る」

*** 今週の教養講座(言志四録③)

【決断に迷わないために】  高いところから物事を見れば、道理が見えてきて、迷うことなく決断できる。◎原文=着眼高ければ、即ち理をみて岐せず(言志録第88条)

メディアで報道される有名人の不祥事や、政治家の不正についてのニュースを見ていて、「どうしてもっと冷静になれなかったのだろう?自分なら絶対にこんなことはしないのに・・・」と感じたことはないでしょうか。それこそまさに佐藤一斎先生が言いたいことです。

人間というものは、事件や騒動のただ中にいると、どうしても目の前の懸案の処理に追われ、視野が狭くなり、冷静な判断ができなくなるものなのです。しかし、こんな時こそ一歩引いて「高いところから物事を見る」、つまり状況を客観視することによって、道理が見えてくるというわけです。

さらに深掘りすると、「志を大きく持て」という意味にも読めます。自分の利益だけを追い求めるのではなく、世のため、人のために、という大きな志を持って生活していれば、物事の本質が見えてきて、いざ決断が必要となった時に、ささいな邪念に惑わされることがなくなるということです。

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***デイ・ウォッチ(28日)

トランプ政権 ハーバード大学と政府機関との契約 見直しや打ち切り指示 | NHK 留学生ビザの面接 新規受け付け一時停止を指示 | NHK →トランプ政権がハーバードを中心に大学への締め付けを強化している。ディールかもしれないが、何を狙っているかわからない。多様な意見や人間は、社会の視野を広げ、進歩させる。自由だったはずの米国が、ロシアや中国と変わらない「窒息社会」になってしまう。恐ろしいことだ。日経新聞が背景を分析している→ トランプ大統領、ハーバード大学を攻撃する4つの理由:日経新聞

大川原化工機えん罪事件 民事裁判 2審も都と国に賠償命じる | NHK | 事件 →警視庁公安部のでっち上げが明白な大川原化工機事件。えん罪の証言はすでに多くある。検察側は控訴を見送り、さっさと審理を打ち切るべきだ。袴田事件もそうだが、捜査当局がメンツにこだわっても国民は幸せにならない。無駄な争いは、税金と時間の無駄だ。

カンボジア 日本人とみられる約30人拘束 特殊詐欺拠点の情報も | NHK | カンボジア →タイ国境に近いカンボジアで、数十人の外国人が拘束され、日本人が約30人いるという。特殊詐欺集団の模様で、確認を急いでいる。どんな日本人だろうか。暴力団関係者か、事情をよく知らない若い人が含まれているのか。「トクリュウ」と呼ばれる匿名・流動型犯罪グループの跋扈は想像以上だ。

AI開発促進へ新法成立 政府に司令塔、悪用対応明記:時事ドットコム →人工知能(AI)の開発促進とリスク対応を掲げた新法が成立した。AIに絞った法律は初めて。人工知能戦略本部を設置し、遅れがちな研究開発を促進し、人権侵害など悪質事案を調査し、事業者を公表する。民間の頑張りが第一だが、日本は巻き返しに成功するか。

日銀保有国債、含み損28兆円 金利上昇で過去最大、残高は減少―25年3月期決算:時事ドットコム →アベノミクスで大量に購入した国債が、日銀の含み損を拡大させている。今年3月現在、1年前と比べて19兆円あまり増えて過去最大の28.6兆円。満期保有を前提とした会計方式を採用しているので、決算には反映されないが、異例の事態になっている。

*** 「今日の名言」

◎ヴォルテール(仏の哲学者。1778年5月30日死去、83歳

「私はあなたの意見には反対だ。だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」 「汝の幸せは、他人を幸せにすることによってつくれ」 「真実を愛せ。ただし過ちは許せ」 「迫害されるのは英雄の運命である」 「医術は患者を慰めることにあり、自然が病気を治すのだ」 「人間は言うことがなくなると、必ず悪口を言う」 「歴史は、自由な国においてのみ真実に書かれうる」 「何はともあれ、我々は我々の畑を耕さなければならない」 「独創力とは、思慮深い模倣以外の何ものでもない」 「大衆とは、モノを書かない批評家である」 「悪い政府の元で、正しくあることは危険だ」 「慎重な人は自分のために良いことをなし、徳のある人は人のために良いことをなす」 「人を判断するには、どのように答えるかより、どのような問いをするかを見よ」 「男がありとあらゆる理屈を並べても、女の一滴の涙にはかなわない」 「教育は、さまざまな能力を伸ばしはするが、創り出すことはない」

*** 今週の教養講座(言志四録④)

【人にはなぜ教育が必要か】

すべての人間はもともと善人だが、気質がそれぞれ違う。気質が異なることが、教育が必要な理由である。そして、もともと善人だからこそ、教育の効果があるのだ。◎原文=本性は同じゅうして質は異なり。質の異なるは教の由って設くる所なり。性の同じきは、教の由って立つ所なり(言志録第99条)

佐藤一斎先生は「すべての人間はもともと善人」と言い切っていますが、これは儒教の根本にある「人間の本性は善である」という考え方、いわゆる「性善説」にもとづいています。しかし、もともとは善人だとしても、人間は生きていると、様々な体験をします。騙されたり、裏切られたりして、傷ついてしまうこともあるでしょう。それによって、本性である善の心が曇ってしまう人も出てきます。気質の違いが生じるというわけです。そして心が曇った人は再び善の心へ、本性を失っていない人はさらなる高みへと導くのが教育というものだと言っているのです。

さてここからは西郷さんの生涯も見ていきましょう。西郷さんは薩摩藩の勘定方小頭を務める吉兵衛と、その妻マサの間に長男として生を受けました。四男三女と兄弟が多く、生活は楽ではありませんでしたが、西郷さんが人間の本性を失わずに成長できたのは、薩摩藩にあった「郷中教育」のおかげでしょう。これは地域ごとに6歳から15歳までの少年が集まり、それを15歳以上の先輩が指導する教育システムです。郷中教育はとりわけ「詮議」(評議)を重視していました。

計算式のように簡単に答えが出る問題ではなく、「船が難破し、助けの船が来たが、そこには親の仇が乗っていた。さあどうする」といった哲学的な問いについて、みんなでディスカッションしていたといいます。西郷さんはこうした教育によって、どんな事態にも対処できる胆力を身につけていったのです。

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***デイ・ウォッチ(29日)

トランプ政権の関税 一部差し止め命令 米裁判所 政権側は上訴 | NHK | 関税 →「トランプ政権の関税引き上げは法律の権限を超えている」と米国の国際貿易裁判所が差し止めを命じた。常識的な判断だ。政権はIEEPA(国際緊急経済権限法)を根拠にしているが、国家安全保障や経済面などで「異例かつ重大な脅威」が条件。大幅な貿易赤字でだけはとても理由にならない。道理で無理を押し返せるか。

石破首相 トランプ氏と電話会談 赤澤大臣が30日夜にも閣僚交渉 | NHK | 関税 →最近は日本にいい顔を見せないトランプ政権。石破首相は電話会談で、訪米した赤澤経済再生相による閣僚交渉の後押しを狙い、「関税よりも投資だ。ウィンウィンの関係を作っていくという日本の主張に変更はない」と述べた。米側も「よい議論ができた」とコメントしたが、今日夜にも開かれる交渉の行方は?

米、中国人留学生のビザ取り消しへ 「共産党つながり」、審査強化:時事ドットコム →留学生のビザ管理を強化するトランプ政権だが、中国共産党とのつながりを主要ターゲットにすると発表した。ハーバード大と中国共産党が嫌悪の対象ということだろう。異論排除は衰退の道だ。日本としては、優秀な中国人学生が日本へ留学する可能性が高まったと考えたい。

将来世代への責任果たす 筒井経団連新会長が就任:時事ドットコム →経団連会長に日本生命前会長の筒井義信氏(71)が就任した。経団連会長は製造業からの就任が慣例だが、金融機関からは初めての会長。イノベーションや社会保障改革に力を入れるという。財界の存在意義は長く問われているが、経済界の狭い利害を超え、社会全体をにらんだ発信力が課題だろう。

選択的夫婦別姓 立民・維新・国民の各党提出法案 あす審議入り | NHK | 国会 →28年越しの懸案である選択的夫婦別姓問題が、やっと国会で審議される。野党はまとまっておらず、3案を提出したため、今国会での成立は見通せない。与党が法案を出さず審議に加わるので、いずれかの法案に乗って決着する可能性がないではない。

*** 「今日の名言」

◎ヘレン・ケラー(米の作家、障害者権利運動家。1968年6月1日死去、87歳

「盲目であることは、悲しいこと。けれど、目が見えるのに見ようとしないのは、もっと悲しいことです」 「元気を出しなさい。今日の失敗ではなく、明日訪れるかもしれない成功について考えるのです」 「世の中はつらいことでいっぱいですが、それに打ち勝つことも満ちあふれています」 「うつむいてはいけない。いつも頭を高くあげていなさい。世の中を真っ正面から見つめなさい」 「あきらめずにいれば、あなたが望む、どんなことだってできる」 「物事を成し遂げさせるのは希望と自信です」 「自分でこんな人間だと思ってしまえば、それだけの人間にしかなれない」 「世界で最も素晴らしく、最も美しいものは、目で見たり手で触れたりすることはできません。それは、心で感じなければならない」 「初めはとてもむずかしいことも、続けていけば簡単になる」 「大きな目標があるのに小さなことにこだわるのは、愚かです」 

*** 今週の教養講座(言志四録⑤)

【決して失くしてはいけないもの】

自信をなくしてしまうと、周りから人が去っていく。人が去れば、やがて何もかも失うことになる。◎原文=己を喪えば斯に人を喪う。人を喪えば斯に物を喪う(言志録第120条)

自信を失くすことは「自分を見失う」とも言い換えられるでしょう。何かの原因で自分を見失ってしまうと、その様子に失望した人たちが離れていき、やがて仕事もうまくいかなくなってすべてを失ってしまうと佐藤一斎先生はいっています。では、そうならないためには、どうすればよいのでしょうか。

儒学の大家である荀子は著書の中でこう説きます。「学問は栄達や出世のためにあるのではない。行き詰った時も苦しまず、心配事があっても意気が衰えることなく、幸福な時も傲慢にならず、始めがあれば終わりのあることを知って、どんなときでも静かな心で対処できるようになるためにある」と。

息詰まった時のために、あらかじめ準備をしておくべきだということです。ここでいう「学問」とは、学校で勉強するという意味ではなく、人間の本質を考え、学ぶ時間を持つことを指していると筆者は考えます。そのための一番の近道は、ありきたりですが、様々な経験を積むことでしょう。経験を通じて自分の心の動きを自覚することによって、揺るぎない自分が見えてくるのではないでしょうか。