2026年9月14~18日(教養講座:田中王堂のプラグマティズム)
~~~ 長谷川塾メルマガ 2026年9月14日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウォッチ(11~13日/コメントも参考にしながら自分の考えをまとめましょう)
◎中部電力きょう会見へ 林社長 勝野会長が辞意固める | NHKニュース 中部電力 浜岡原発再稼働に向けた審査 申請取り下げで最終調整 | NHKニュース →中部電力の原発体制が総崩れ状態だ。14日に外部の調査委員会による報告書が発表されるが、会長・社長が辞任し、再稼働申請を取り下げる見通し。風通しを良くして内向き目線を改める抜本的な風土改革が不可欠だが、できるだろうか。原発は安全・建設コストが上昇し、1民間企業では担えない代物になっている。原発推進派は謙虚な目で現実を見る必要があるが、「止め役不在」の状態だ。
◎沖縄県知事選挙 古謝玄太氏が当選確実 現職の玉城デニー氏を破る | NHKニュース →沖縄県知事選挙で、自民・維新などが推す古謝玄太氏(42)が、現職の玉城デニー氏(66)を破って初当選した。古謝氏は2008年に総務省に入り、長崎県出向、大手コンサルティング会社など経て、2022年の参議院選挙に自民党から立候補して落選。その後、那覇市の副市長を務めた。玉城氏は国策の辺野古移設に反対してきたが事態は変わらず、県民は政権与党派の知事を選んだ。
◎日銀、9月政策金利1.25%へ 利上げ加速で物価上振れリスク回避 – 日本経済新聞 →日銀が17~18日に開く会合で、政策金利を1.0%から1.25%に引き上げる見通しになった。高市政権は利上げに批判的だったが、アメリカのベッセント財務長官が引き上げを求めている。利上げを模索してきた日銀には頼もしい追い風で、俄然元気になった。金融正常化で望ましい方向とはいえ、米国の了解がないと何もできない日本は独立国なのだろうか。
◎陸自「現地情報隊」が民間人の思想信条など情報収集 元隊員が証言:朝日新聞 →熊本日日新聞が7月下旬に報じた特ダネを朝日新聞が1か月以上かけて後追い記事を出した。小泉防衛相は「不適切な行動は確認されていない」というが、憲法学者は「個人情報保護法に違反している可能性が高い」という。治安当局などが法律のグレーゾーンで活動しているのは半ば常識。継続的な社会的監視圧力が不可欠だ。
◎ドジャース大谷翔平 右上腕二頭筋の炎症で15日間のIL入り | NHKニュース →大谷の状態がどうも心配だ。治す時にはしっかり治した方がいいと思うが、試合に出たり入ったりし、結局、けが人リストに入った。ポストシーズンに備えた措置のようだが、今シーズンの登板はないという。年齢はもう32歳。二刀流は将来も見られるのだろうか。去年あたりがピークだったような気もする。
*** 「今日の名言」(気に入った言葉を探してみましょう)
◎白川秀樹(ノーベル科学賞受賞者。2026年8月24日死去、90歳)
「(ノーベル賞受賞の連絡を受けたとき)これは面倒なことになった」 「僕は幼稚園から小学校、中学校、高校と、大学も含めて1番になったこともないし、秀才だって言われたこともない。目立たない生徒だった」 「学問では回り道も大切」 「実験に失敗したからといって捨ててしまわず、なぜ失敗したかを追究したことがきっかけで、新しい物質やプラスチックに電気を通す方法を、自分自身の手で作り出すことができました」 「日本はノーベル賞で騒ぎすぎです。科学者にとって最高の栄誉だとは思いますが、日本独自の日本国際賞や京都賞、日本学士院賞も朝日賞もあります。どれも同じくらい素晴らしい賞なのに小さな記事にしかなりませんね。落差が大き過ぎます」 「人材の流動性重の重視より、落ち着いて研究できる環境が大事」 「私の場合は『出る杭は打たれる』というより放任されていた、無視されていたという感じです」 「日本は発想がない民族ではないが、潰す風土がある」 「ノーベル賞を受ける前も、海外のいくつかの大学や研究機関からポストの申し入れがありました。しかし、ノーベル賞をもらってからは話が別です。日本の大学や研究機関からいっぱい話が来ています。『なんで今頃』と言いたいです」 「自然に親しもう。本物に出会おう」 「『ないそでは振れない』と言いますが、夢を持たない人は夢を実現しようがない」
*** 今週の教養講座(田中王堂のプラグマティズム①生涯)
「石橋湛山の師 田中王堂のプラグマティズム」をアマゾンのペーパーバック(紙の本)と電子書籍で出版しました。王堂はどんな人で、どんな思想を持っていたのでしょうか。本の要約を5回に分けて紹介します。王堂は100年以上前にアメリカ発祥のプラグマティズム哲学を日本に紹介した人ですが、国家主導に時代にあって、生活や個人、個性の重要性を指摘しました。分断の時代といわれる今、「正しさ」ではなく、個人の生活を基礎に考えるプラグマティズムは1つの課題解決の道筋を示しているように見えます。 Amazon.co.jp: 石橋湛山を育てた 田中王堂のプラグマティズム : 長谷川智: Kindleストア
【1】田中王堂の生涯
田中王堂は1867(慶応3)年、現在の埼玉県所沢市中富に生まれた。本名は喜一。故郷は江戸時代に開拓された三富新田で、原野を切り開き、生活を築いてきた農民の土地だった。この生活の現場が、後に王堂が「生活」「個人」「個性」を重視する思想を形成する一つの原点になったとみられる。思想は書斎だけで生まれるのではなく、人々が働き、暮らす現実から生まれるというのが王堂の姿勢でもある。
王堂は東京や京都の私立学校で学んだ後、1889(明治22)年に渡米した。留学は約8年間に及び、シカゴ大学などに在籍し、当時アメリカで台頭していたプラグマティズムをデューイから学んだ。帰国後は東京専門学校、後の早稲田大学哲学科で教えた。明治末から大正期には評論家として活発に活動し、多数の著書や雑誌論文を発表する。西洋哲学の紹介にとどまらず、日本社会の政治、道徳、教育、文化を現実に即して批評する文明批評家となった。
しかし、学者としての経歴は必ずしも順調ではなかった。早稲田では長く講師にとどまり、教授になったのは1929(昭和4)年である。立教大学では1921(大正10)年ごろ教授に就任した。華々しい学界の主流を歩んだ人物ではない。むしろ東京帝国大学を中心としたドイツ哲学に対し、英米思想、とりわけプラグマティズムを掲げた傍流の思想家だった。1932(昭和7)年、前立腺肥大などの手術後、全身衰弱によって死去した。
王堂は体系的な哲学書や自伝を残さなかったため、後世には忘れられていった。しかし、その思想は学生たちの中に残った。象徴的存在が石橋湛山である。地位や名声ではなく、少数の弟子の「人生を見る目」を変えたところに王堂の存在意義がある。米国で学びながら西洋崇拝に陥らず、日本の現実を見つめ、権威や時流にも迎合しなかった。二宮尊徳と福沢諭吉を高く評価した。不遇ともいえる生涯そのものが、独立した個人であろうとした王堂の思想を体現していたのである。
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~~~ 長谷川塾メルマガ 2026年9月15日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウォッチ(14日/コメントも参考にしながら自分の考えをまとめましょう)
◎アメリカ長期金利5%台 原油先物上昇で 2023年10月以来高水準 | NHKニュース →アメリカの長期金利が5%台になった。2023年10月以来。原油価格の上昇によるインフレ懸念、米国財政の先行き不安が背景にある。サウジアラビアでパイプラインが攻撃され、イエメンの反政府勢力がバーブルマンデブ海峡の周辺で攻勢を強めていることで原油の供給への懸念が強まっている。FRBは15日から金融政策会合を開くが、利上げ観測が強まっている。
◎沖縄県知事選 初当選の古謝氏が一夜明け抱負 | NHKニュース | 沖縄県、選挙 →当選した古謝沖縄県知事が「暮らしや経済、子育て支援を前に進めたい。国には普天間基地返還の期日明確化を求める」と抱負を語った。イケイケどんどんの人柄のようで、選挙中は「県民所得を2倍にする」と訴えたが、常識的に無理。期待が大きいだけに反動も心配。辺野古滑走路は短すぎるので、米国は普天間を返還しないという観測も出ている。誰がなってもいばらの県政だ。
◎中部電力、社長・会長が引責辞任 30日付、浜岡原発不正で―再稼働申請は取り下げ:時事ドットコム →「南海トラフ地震が起きる前の再稼働は無理」が良識的な地元推進派の見立て。原子力規制委も地震前に再稼働を認めたくない。中電の経営層が不都合な真実を見ないで高圧的に現場を叱責するから、心理的安全性を得られない担当者はおかしくなる。再稼働の断念が不可欠だ。安全性が高いといわれる新型原子炉が登場するまで静かに待つのが、賢明な経営判断だろう。
◎高市内閣支持率53% 不支持31% NHK世論調査 | NHKニュース →高市内閣の9月の支持率は53%で、8月と同じだった。皇室典範などで下落傾向にあったが、横ばいになった。国会を開いていると、首相の露出が多くなり、批判的な報道も増えて支持率は低くなる傾向にある。次の焦点は消費税論議の影響か。
◎東京女子医大の建設工事巡る背任事件、元次長らに懲役2年6月・執行猶予5年の判決…東京地裁 : 読売新聞 →東京女子医大をめぐる背任事件で、同大経営統括部次長と建築士に執行猶予付きの有罪判決が出た。首謀者は岩本・元理事長で、無罪を主張して公判中。2人に執行猶予がついたのは従属的立場で、利益を得ていないから。理事長の悪質さが浮き彫りになっている。
◎元英首相ら、間一髪難逃れる ロシアが無人機攻撃―ウクライナ西部:時事ドットコム →英国のジョンソン元首相と米国のペトレアス元CIA長官が、ポーランド国境に近いウクライナで列車に乗車中、ロシアの無人機攻撃を受けた。2人とも別の列車に乗っていたので無事だったが、なぜこの2人がそこにいるのか。不思議といえば不思議。
*** 「今日の名言」(気に入った言葉を探してみましょう)
◎山田洋次(映画監督。9月13日は95歳の誕生日)
「かつてのような貧しい暮らしがいいというのではありません。身の丈に合わない生活には、きっと大きな落とし穴がある。そんな気がするのです」 「喜劇とは、泣きながら作るもの」 「青春時代にいくつほめられたかで、人間の人生は決定するような気がする」 「一生懸命さとか、誠実さは、単なるコトバではなく、真剣な表情で、情熱をあらわにした行動です」 「不寛容な映画は撮りたくない」 「淡々とした静かな人生を否定してはいけない」 「効率的で便利な世の中にはなったけど、本当にそれが幸せでしょうか。何か失くしたものはありませんか」 「ビジネスマンが余暇を話題にするのは、それだけ仕事に追われて生活に余裕がない証拠。寅さんこと、車寅次郎は、余暇を探し回ったりしない。彼の人生は全部余暇だから」 「人を信頼できるということは、人間性の問題云々ではなく、才能に関わることだと思う」 「大事なことは、下手だからといって下手なりに演技するのではなく、高い目標を目指して、そこに近づけるように演技をすることです」 「心に残る映画を見たい。そんな映画をつくりたい」 「本当にそうだなあと共感する時、人は心が開き、笑い、新しく生きる力を得る」
*** 今週の教養講座(田中王堂のプラグマティズム②思想)
【2】田中王堂の思想
王堂思想を貫く中心語は「生活」「個人」「個性」である。その思想的基盤には、アメリカで学んだプラグマティズムがある。抽象的な真理を求めるのではなく、思想や知識を現実の生活の中で検証し、その結果によって価値を判断する。哲学は世界を説明するだけでは足りない。人間がよりよく生き、社会を改善するために役立たなければならない。この現実重視の姿勢が、王堂の文明批評を支えた。
その到達点が1918(大正7)年の『徹底個人主義』である。王堂が個人主義を主張した時代、日本は富国強兵を進め、国家が個人に優越することが当然視されていた。これに対して王堂は、社会や国家の出発点を個人に置いた。国家のために個人が存在するのではなく、個人の生活を豊かにするために国家や制度が存在する。しかも個人主義とは「自分さえよければよい」という利己主義ではない。人格的に独立し、自分の頭で判断し、主権者として責任を負う人間になることである。王堂は「聡明なる個人主義」がなければ実質ある民主主義は育たないと考えた。
さらに重要なのが「個性」である。社会を発展させる原動力は、一人ひとりが異なる能力や考え方を持つことにある。個人が集団に埋没せず、自らの個性を充実させることが社会全体を豊かにする。この思想は、現代の多様性尊重にもつながる。
王堂は一方で、日本の伝統を否定しなかった。長い米国生活を経験しながら、福沢諭吉や二宮尊徳を高く評価した。西洋思想をそのまま輸入するのではなく、日本の生活や文化の中から実践的思想を発見しようとしたのである。湛山が墓碑に「正しき意味に於いて日本主義を高唱」と刻んだのは、この側面を指している。
王堂思想は、プラグマティズム、徹底個人主義、日本主義という3つの要素が重なっている。その底に共通するのは、権威や抽象的理念からではなく、「現実に生きる1人の人間」から世界を見る姿勢であった。
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~~~ 長谷川塾メルマガ 2026年9月16日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウォッチ(15日/コメントも参考にしながら自分の考えをまとめましょう)
◎食料品消費税減税の大綱 閣議決定 来年4月から2年間 税率を1%に引き下げ | NHKニュース →来年4月からの消費減税の税制大綱が決まった。肝心の年5兆円の財源はいまだにはっきりしない。この段階で定まっていなければ、自然増収を含めてかき集めても難しそうだ。減税の経済効果は疑わしく、かき集めたカネは本来なら別の用途に使われるので、そちらの効果はなくなる。最終的に赤字国債に追い込まれないか。
◎自民、石井参院幹事長交代へ 総務会長に梶山氏―高市首相、16日に役員人事:時事ドットコム →自民党人事がきょう決まるが、石井参院幹事長の交代が波紋を呼んでいる。国会運営をめぐって高市首相との確執が伝えられていた。参院人事は参院側が決める聖域だったが、首相の意向が通った形。高市首相の強権が目立っているが、異論排除は逆に党勢を弱めることになりかねない。
◎27年中に無人タクシー提供へ 国内初、東京で100台―GO・ウェイモ:時事ドットコム →海外で普及している無人タクシーが来年、東京に登場する。タクシー配車アプリGO、米アルファベット傘下のウェイモ、日本交通(東京)が発表した。特定の条件下で全ての操作を行う「レベル4」で、100台運行する方針。政府は、30年度にバス・タクシー・トラックの自動運転の車両数を1万台とする目標を掲げている。事故があった場合、どんな反応が出るか。
◎アメリカ軍が宇宙に兵器配備“政府高官が初めて認める”米報道 | NHKニュース →アメリカが宇宙への兵器配備を初めて認めた。兵器の種類や性能は明らかにしていない。中国やロシアによる衛星への妨害行為を受けており、対抗策という。トランプ政権は、宇宙空間のミサイル防衛構想「ゴールデンドーム」を2029年1月までの任期中に運用開始したい方針。戦場が宇宙に拡大する。
◎基準地価5年連続プラス 全国平均1.5%上昇―名古屋圏で上げ幅縮小・国交省:時事ドットコム →全国平均の基準地価は、全用途で1.5%、住宅地が1.0%、商業地が2.9%のプラスとなった。いずれも5年連続の上昇。東京と大阪圏は上昇幅が拡大したが、名古屋や札幌、仙台、広島、福岡は上げ幅が縮小している。最も上昇率が高いのは、住宅地、商業地ともに東京で、住宅地では12年ぶりにトップとなった。東京突出が続いている。
◎“ジャッキー吉川とブルー・コメッツ”三原綱木さん死去 | NHKニュース →芸能人の訃報が多いが、三原綱木さんが亡くなった。80歳だった。グループサウンズのブルー・コメッツに所属し、「ブルー・シャトウ」がヒット。脱退後はソロで人気を集めた。腎臓がんだった。
*** 「今日の名言」(気に入った言葉を探してみましょう)
◎ロバート・レッドフォード(米の俳優。2025年9月16日死去、89歳)
「子どもの頃、誰も僕をイケメンと言ってくれなかった。言ってくれていたら、もっと楽しい時間を過ごせたのに」 「私の家にはあまりお金がありませんでした。両親に連れられて図書館に行き、自分の本を手に入れることは、大きな出来事でした」 「監督として、俳優としての自分は好きになれないでしょう」 「(ポール・ニューマンについて)『明日に向かって撃て!』 (1969)などの撮影では、素晴らしい信頼関係を築くことができました。人生で最も幸せな経験の1つでした。友情の中には、あまりにも素晴らしく、強すぎて、語ることのできないものがある」 「ストーリーテリングは重要です。人類の継続性の一部です。自分が見ている世界よりも大きな世界を見る方法であり、大きな魅力でした」 「活動家が本当に真剣に活動しているかどうかは、スポットライトが当たっていない時にどれだけ長くその活動を続けられるかでわかる」
*** 今週の教養講座(田中王堂のプラグマティズム③石橋湛山への影響)
【3】石橋湛山への影響
王堂の歴史的意味を最も鮮明に示すのが、石橋湛山への影響である。湛山は早稲田大学哲学科で王堂に学び、後年『湛山回想』で「私は、先生によって、初めて人生を見る目を開かれた」と記した。単に哲学の知識を授かったという意味ではない。何を基準に社会を見て、どう判断するかという思考の土台を王堂から与えられたのである。
王堂から湛山に継承された第1は、プラグマティックな思考である。理念を絶対視せず、現実にどのような結果をもたらすかで政策を判断する。湛山の「まず功利主義者たれ」という主張は、その姿勢を端的に表す。植民地を持つことについて、国家の威信ではなく、日本国民の生活を本当に豊かにするのかを問う。この発想が「小日本主義」へ発展した。
1921年の「一切を棄つるの覚悟」や「大日本主義の幻想」で、湛山は朝鮮、台湾、樺太などの植民地を放棄すべきだと論じた。領土を拡大して軍事力を強める大日本主義より、貿易を通じて国民生活を豊かにする小日本主義の方が合理的だと考えたからである。国家の威信より生活を優先する発想には、王堂の「生活」「個人」「個性」の思想との強い連続性がある。
ただし、2人は同一ではない。王堂は主として文明批評家・哲学者であり、個人の精神的自立や優れた人材の形成を重視した。湛山は言論人として政治・経済の現場に立ち、議会や民衆の力をより強く信頼した。王堂の理念を湛山が現実の政策論へ展開した、と見ることができる。
2人の関係は大学時代だけでは終わらなかった。湛山は王堂の死後も顕彰に関わり、墓銘碑を書いた。そこには王堂を「徹底せる個人主義、自由思想家」と評価する言葉が刻まれている。師弟を超えた思想的同志に近い関係だった。王堂の思想は湛山という実践者を得ることによって、哲学から言論、そして政治へと歩み出したのである。
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~~~ 長谷川塾メルマガ 2026年9月17日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウォッチ(16日/コメントも参考にしながら自分の考えをまとめましょう)
◎米 FRB 0.25%の利上げ決定 利上げは約3年ぶり | NHKニュース →米FRBが0.25%の利上げを決めた。利上げは3年2か月ぶりで、12人の委員が全員賛成した。イラン情勢を背景にインフレが再加速するリスクを抑え込むねらいがあるとみられる。トランプ大統領は「高い金利はアメリカを極めて不公平で不利な立場にさせる」と圧力をかけていたが、ウォーシュ議長は「インフレ率が高すぎる」と述べた。日銀も17~18日の政策決定会合で利上げを決める見通し。
◎高市首相 あす内閣改造 木原官房長官ら留任の方向 初入閣も | NHKニュース →16日の自民党人事に続いて、17日は新しい内閣が決まる。骨格は維持され、維新から中司前幹事長が入閣して本格的な連立政権になるが、それ以外の名前がなかなか出てこない。林総務相、赤沢経産相、鈴木農水相らはどうなるか。女性の入閣は何人か。世界経済フォーラム(WEF)が16日に発表した2026年版のジェンダーギャップ報告書で、日本の政治分野の順位は女性首相が誕生しても121位(前年は125位)と、わずかな改善にとどまっている。
◎米エヌビディアCEO、新しい規制「必要ない」 AI開発減速論巡り:時事ドットコム →米国でAIの安全性をめぐる論争が高まっているが、エヌビディアのファン会長は「規制は必要ない。AI企業は安全性に自信の持てないモデルを公表すべきではない。自分のペースで進めばいい」と述べた。民間企業の責任はその通りだが、技術は自律的にどんどん発展してきた歴史もある。邪悪な経営者がいれば、どうなるか。
◎中道 小川代表 立民出身者の新党は「民主改革の会」 | NHKニュース →立憲民主党出身者の新党名は「民主改革の会」に決まった。政党交付金を受けるために中道に1人だけ残るが、「財源は税金で不適切」という批判も出ている。交付される年末まで新党を待てば批難されなかった。新党名もありきたりで印象に残らない。しばらくは逆風が続きそうだ。
◎三菱UFJ銀行が防衛産業に融資 慎重姿勢を転換、安保政策を軸に判断 – 日本経済新聞 →三菱UFJ銀行が防衛産業への融資にかじを切る。防衛産業強化を推進する政府に足並みをそろえる。これまでも三菱重工などに融資してきたが、運転資金だった。三菱財閥は明治時代の台湾出兵や西南戦争以降、創業者の岩崎弥太郎が政府を支援して拡大してきた。伝統は健在のようだ。
◎プロ野球オーナー会議 新コミッショナーに飯島彰己氏が内定 | NHKニュース →プロ野球コミッショナーに三井物産会長などを務めた飯島氏が内定した。75歳。国際化や事業拡大が課題という。最近は年棒の日米格差が目立っている。日本球界も賃上げが必要だが、どこまで手腕を発揮するか。
*** 「今日の名言」(気に入った言葉を探してみましょう)
◎ルース・ベネディクト(米国の文化人類学者。1948年9月17日死去、61歳)
「キリスト教的な欧米文化は『罪の文化』であり、日本の文化は『恥の文化』である」 「人生でもっとも幸せな興奮状態とは、大切に思う人のため、そして非常に軽蔑する悪に対して皆のために戦う価値があることだと確信することである」 「美徳とは、人に感謝することを積極的に行いだしたときに生まれる」 「人種差別とは、ある民族集団が先天的劣等を本質的に非難され、別の集団は先天性な優越に運命づけられているという教義である」 「人種差別は、今日、世界中の誰もがさらされている思想である。それに賛成するのか、反対するのか、私たちは選ばなければならない。そして、未来の歴史は、私たちが下す決定によって異なってくる」 「誰も、フィルターをかけずに世界を見ることはない。私たちが世の中を見ているフィルターは、見ることができない」
*** 今週の教養講座(田中王堂のプラグマティズム④オールタナティブとしての早稲田)
【4】オールタナティブとしての早稲田という存在
王堂と湛山の思想を考えるうえで、2人が早稲田で出会ったことは偶然ではない。明治以来の日本社会において早稲田は「主流に対するオールタナティブ」として存在してきた。早稲田大学の前身・東京専門学校を創設した大隈重信自身、明治政府から追放された政治家だった。そのため早稲田は当初から政府の外側に位置した。官学の東京帝国大学に対する私学、官権に対する民権という性格を帯びて出発したのである。
思想面でも対照的だった。東京帝国大学を中心とする日本の哲学界ではドイツ哲学が強い影響力を持った。それに対し、早稲田には英米思想を受け入れる余地があった。アメリカ生まれのプラグマティズム自体が当時の哲学界では傍流だった。早稲田とプラグマティズムの組み合わせは象徴的である。主流から離れていたからこそ、既存の権威に縛られず、異なる思想を育てる空間が生まれた。
早稲田の学風は校歌をよく歌うことと言われている。その精神は「都の西北」で始まる校歌にも表れ、「現世を忘れない久遠の理想」が1つの核だ。現実に迎合するだけでなく、現実を批判し、あるべき姿を考える姿勢である。早稲田は当時、「理想は不要」という自然主義文学の牙城だったが、王堂は没理想の自然主義を強く批判していた。校歌には王堂の思想も反映しているといえる。
この系譜に王堂と湛山を置くと、早稲田の歴史的役割が見えてくるが、戦争の時代に一層明確になる。小日本主義を掲げた湛山に加え、軍部に対して議会で批判を続けた斎藤隆夫、日米開戦回避を訴えた歴史学者・朝河貫一、ユダヤ人に「命のビザ」を発給した杉原千畝は「非戦勢力としての早稲田」と位置づけることができる。
しかし、早稲田が常に正しかったわけではない。大隈重信は首相時代、「対華21か条」で大陸侵略の一歩を踏み出した。人間も組織も無謬ではない。重要なことは、1つの価値観が主流を占める社会にも、異なる考え方を育てる場所が必要だということである。王堂―湛山の系譜は、「傍流」が主流を批判し、社会に別の可能性を提示した価値を示している。
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~~~ 長谷川塾メルマガ 2026年9月18日号(転送禁止)~~~
***デイ・ウォッチ(17日/コメントも参考にしながら自分の考えをまとめましょう)
◎第2次高市改造内閣が発足 主要閣僚留任、林氏は退任―初入閣に「裏金」議員起用:時事ドットコム →新しい閣僚が決まった。党人事も含めて麻生副総裁の意向をかなり踏まえ、骨格を維持した。来年秋の自民党総裁選での再選を狙ったという見方がもっぱら。全員にアンケートを出させ、高市首相が読み込んで熱意や能力を重視したというが、忠誠心の踏み絵を踏ませた形。結束力が高まるか、不満分子が増えてくるか。
◎細野豪志氏が復興相、小野田紀美氏は続投…林芳正氏は閣外 : 読売新聞 →骨格維持で目玉の乏しい改造だが、裏金関与議員2人が入閣した。1人は関文科相。前任の文科省は不倫大臣だったが、子どもたちに示しがつくだろうか。民主党出身の細野氏が復興相になった。原発事故当時の政権党だった。女性は首相を含めて留任の3人のみ。高市首相はジェンダー平等に関心がないようだ。総裁選に出馬した林芳正総務相が閣外に出る。留任を強く希望しなかったからのようだ。野に放たれて反高市結集の軸になるか。そこまでの度胸や野心はないか。
◎プロ野球 ソフトバンクがパ・リーグ優勝 3年連続22回目 | NHKニュース →ソフトバンクがパ・リーグ3連覇。いまや常勝軍団。選手層も資金力も圧倒的で、本拠が九州・福岡とあって全国的な盛り上がりが今一つと思うのは私だけか。
◎EU、15歳未満のSNS利用制限へ 「子供法案」発表、依存招く機能禁止:時事ドットコム →EUは子どものオンライン上の安全を強化する「EU子供法案」を発表した。13歳未満のSNS利用を禁止し、自分のアカウントを開設できる最低年齢を15歳とする。今後法案を審議するが、世界各国で利用制限の動きが起きている。日本でも本格的な議論になるだろう。
◎米オープンAI 人間の意図に沿わないAI動作を早期公表へ | NHKニュース →にわかに高まっているAI安全性論争。オープンAIは開発中のAIで生じた人間の意図に沿わない動作について、完全に説明できない場合でも早期に公表し、社内で誰でも通報できる仕組みを取り入れると発表した。自主的な安全対策で規制強化をかわす狙いとみられるが、論争は続きそうだ。
◎裁けない裁判官が判決言い渡し 識者「聞いたことがないミス」:朝日新聞 →こんなことがあるのだろうか。神戸地裁豊岡支部で、温泉で盗撮をした被告に同じ裁判官が2回裁判を担当し、略式命令と罰金の判決を出していた。刑事訴訟法では認められていない。誰も気づかなかったのだろうか。裁判所がそんなことでいいのだろうか。過ちは誰でもあると考えればいいのか。
*** 「今日の名言」(気に入った言葉を探してみましょう)
◎豊臣秀吉(戦国時代の武将。1598年9月18日死去、61歳)
「主従や友達の間が不和になるのは、わがままが原因だ」 「いつも前に出ることがよい。そして戦のときでも先駆けるのだ」 「財産を貯め込むのは、良い人材を牢に押し込むようなものだ」 「人と物を争うべからず、人に心を許すべからず」 「何事も、つくづくと思い出すべきではない」 「人の意見を聞いてから出る知恵は、本当の知恵ではない」 「やるべき事が明確であるからこそ、日夜、寝食忘れて没頭できる」 「一歩一歩、着実に積み重ねていけば、予想以上の結果が得られる」 「負けると思えば負ける、勝つと思えば勝つ。逆になろうと、人には勝つと言い聞かすべし」 「戦わずして勝ちを得るのは、良将の成すところである」 「戦は6、7分の勝ちを十分とする」 「敵の逃げ道を作っておいてから攻めよ」 「降参した者を殺してはいけない」
*** 今週の教養講座(田中王堂のプラグマティズム⑤現代社会への示唆)
【5】現代社会への示唆
王堂の思想が現代に問いかける第1のテーマは、「正しさ」とどう付き合うかである。世界では政治的、宗教的、民族的な分断が深まり、SNSでも互いに自分の正しさを主張して相手を攻撃する光景が日常化している。しかしプラグマティズムの核心にある可謬主義は、「人間は誤りうる」と考える。自分が正しいと考えて行動することは必要だが、その判断も間違っている可能性を残しておく。その余白が対話を可能にする。
第2は「生活者の視点」である。王堂は国家や制度を否定したのではない。国家も制度も人間のための手段であり、国家自体を目的にしてはならないと考えた。国家の威信、経済成長、軍事力といった巨大な言葉の陰で、一人ひとりの暮らしが犠牲になっていないか。政策や企業経営を評価するときにも、「それによって人間の生活はどうなるのか」という問いに戻る必要がある。
第3は個性と多様性である。王堂の徹底個人主義は、孤立した個人をつくる思想ではない。それぞれ異なる個性を持った人間が、違いを認めながら協力する社会を目指す。全員が同じ考えを持つ社会では、新しい文化も技術も価値も生まれにくい。AIが知識や定型的作業を急速に代替する時代には、人間固有の経験、感性、創造力という「個性」の価値はむしろ高まる。
第4は、社会を「完成品」と考えないことである。プラグマティズムは現実を重視するが、現状追認の思想ではない。仮説を立て、行動し、結果を検証し、誤っていれば修正する。その積み重ねによって社会を少しずつ改善していく思想である。
AI、気候変動、少子高齢化、地政学的対立など、現代の難問に絶対的な正解はない。だから必要なのは、強い言葉で正解を断言することではなく、自分も誤りうると認め、異なる意見を聞き、現実から学び続ける態度である。王堂が残したのは壮大な完成理論ではない。「人間は不完全だから成長でき、社会は未完成だから改善できる」という希望である。考え、議論し、行動し、そして修正する。その終わりのない営みこそ、王堂の思想が100年後の私たちに残した最も重要な示唆である。
